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第25話 魔王の妹

 兵士たちの朝食として大量の煮物を作り終えた俺は、グレンと共に城の大食堂に来ていた。

 此処は、兵士たちが食事をするための部屋だ。俺たち料理人は、配膳係として毎回作った食事を此処に運びに来ているのだ。

 因みに配膳係は持ち回りの当番制である。今回はたまたま俺とグレンが当番だったのだ。

 ワゴンに積んだ大量の皿に、次々と煮物を盛り付けて兵士に渡していく。

 煮物は兵士たちに好評で、おかわりはないのかと訊きに来る奴までいた。

 おかわりを受け付けていたら全員に食事が行き渡らなくなるから、そこは我慢してもらったけどな。

「お前が料理を作るようになってから、兵たちが料理を残さず食べてくれるようになったと料理長が言っていた」

 口々に美味いと言いながら煮物を頬張る兵士たちの様子を見つめ、グレンが言う。

「全く、凄い奴だよお前は」

「そいつはどうも」

 控え目に礼を述べる俺。

 俺は褒められるために料理をしてるわけじゃないけど、誰かに認められるというのはやっぱり嬉しいものだ。

 思わず口元が綻びそうになるのを堪えながら、俺は皿に次々と料理を盛り付けていった。

 と。

 くいくいっと背後から制服の裾が引っ張られる感覚を感じ、俺は手を止めて後ろに振り返った。

 見ると、そこには一人の幼女が立っていた。

 銀髪に、赤い瞳。黒地に金糸で薔薇の刺繍を施したドレスを纏った、見た目五歳くらいの少女だ。

 どう見ても兵士には思えない人物だが……

「フランシスカ様、こちらにいらっしゃったのですか」

 ばたばたと駆けて来る二人の兵士。おそらくこの少女の護衛だろう。

「此処は兵が食事をする場所です。王女様が立ち入るような場所では」

「貴方」

 兵士が話しかけてくるのを気にも留めず、フランシスカは俺の目をじっと見つめて言った。

「兄様が言ってた人でしょ。元人間の勇者で、物凄く美味しい料理を作る人」

 元勇者って。俺は勇者をやめたつもりはないのだが……

 まあ、魔族からしたらそういう認識になるのか。隷属になった俺は、とても勇者とは思えない有様だからな。

「兄様が食べたっていう異世界の甘味を作ってちょうだい」

 何かと思えば、いきなり料理を作れときたか。

 流石魔族の王族だ。遠慮というものを全然知らない。

「作ってくれなきゃ貴方を食べる」

 その上脅迫ときたか。

 見た目が幼女なので怖さとか迫力は全然ないが、彼女が本気だということくらいはニュアンスで何となくだが分かる。

 今の俺は普通の人間とさほど変わらないし、彼女が襲いかかってきたらあっという間に殺されてしまうだろう。

 流石に殺されて食われるのは勘弁だ。

 俺は盛り付けの手を止めて、彼女の方に身体の向きを変えた。

「作ってもいいけど時間がかかるし、俺にも仕事があるからな。昼過ぎるまで待ってくれ。そうしたら作るから」

「分かった。待ってる」

 フランシスカは俺の制服から手を離して、こくりと頷いた。

 さあ、もういいでしょうとお付きの兵士が彼女を連れて俺の前から去っていく。

 菓子作りか。仕事がひとつ増えちゃったな。

「王女様は相変わらずだな」

 兵士に料理を盛り付けた皿を渡しながら、グレンが微笑ましげに口の端から牙を覗かせた。

 ひょっとして、笑ってるのか。その顔。

 狼の笑顔って角度によっては相手を威嚇しているようにも見えるな。

「直々の御指名だ、変なものは作るなよ。まあ、お前なら大丈夫だろうと思うが」

「分かってるよ」

 俺は肩を竦めて、やって来た兵士に皿を渡した。

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