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第17話 エメラルドスープ

 俺とグレンが厨房に戻ると、そこは戦場になっていた。

 竈にずらりと並べられた鍋が、ぐつぐつと煮えたぎっている。

 調理台の上に置かれているのは、巨大なイグアナのような生き物だった。捌いている途中らしく、腹の中身が見えている。

 トカゲ……食うんだな。まぁ魔族だし、そういう食文化があっても不思議じゃないけどさ。

「テムライ、ロッゾ、鍋が吹き零れそうになってるぞ! 火加減に気を付けろ!」

 包丁を握ったシーグレットが怒鳴っている。

 シーグレットが料理をしてるとこ初めて見たよ。いつもは腕を組んで俺たちに指示を飛ばしてるだけだもんな。

「戻りました」

 チーズ入りの麻袋を調理台の空いている場所に置いて、グレンがシーグレットに声を掛けた。

 それでようやく俺たちに気付いたシーグレットが、こちらを見た。

「グレン、マオ、やっと戻ったか! お前らも手伝え! 手が足りねぇ!」

 言いながら、腹の中身を取り出したトカゲを器用に捌いていく。

 骨を取り出して肉をぶつ切りにし、煮えたぎっている鍋の中へ。

 うわ……鍋の中身、緑色だよ。何をどうしたらあんな色になるんだ?

「エメラルドスープですか?」

「ある材料で手早く作れるのがこれくらいしかなかったんだよ。オーソドックスなメニューだし、いいかと思ってな!」

 俺は麻袋から取り出したバターを冷蔵庫に入れて、リベロが作業をしている調理台に向かった。

 リベロはジャガイモの皮を剥きながら、笑顔で迎えてくれた。

「お帰りー。買い出しは楽しかった?」

「まあ、いい気分転換にはなったな」

 俺は手を洗って、流し台の中に置かれている玉葱を手に取った。

「エメラルドスープって何だ?」

「ひょっとしてマオには馴染みのない料理だった? エメラルドスープって、アラグレアの郷土料理なんだよ」

 アラグレアというのは魔族の国の名前だ。

 リベロが言うには、エメラルドスープとはフレッシュリザードというトカゲの魔物の肉をジャガイモ、玉葱、人参、グリーンピースなんかの野菜と一緒に煮込んで作るスープらしい。フレッシュリザードから出る出汁の色がエメラルドみたいに透き通った緑色をしていることからその名前が付いたのだそうだ。

 あれか……トマトスープみたいなものか? 使う野菜は結構共通してるみたいだしな。

「そこのオニオン、切ってくれる?」

 頼まれた通りに玉葱の皮を剥いてざく切りにし、鍋に入れる。

 スープ自体は既に殆ど完成しているので、俺が手を加える必要はなさそうだった。

 切ったジャガイモを鍋に投入して、お玉で鍋を掻き混ぜるリベロ。

 塩と胡椒を振り入れて、用意してある小皿に、スープを少しだけ取り分けた。

「味見してみる? お肉の旨味がよく出てるからマオも気に入ると思うよ」

 小皿を受け取って、俺は微妙に眉を顰めた。

 この緑色……色としては綺麗だと思うのだが、料理の色としてはどうなんだろうって感じだ。

 トカゲの出汁がよく出てる、って言うけど、日本人にはトカゲを食べる習慣なんてないしなぁ……

 いや、これがトカゲだと思うからいけないんだ。蛇の肉だって鶏肉みたいな味がするって言うくらいだし、食えば案外美味いのかもしれない。

 大丈夫、これはただの肉のスープだ。ただの肉。

 恐る恐る、俺はスープに口を付けた。

 舌の上でスープを転がし、味わう。

 味は、鶏肉を煮込んだスープに似ている気がする。脂身がなくあっさりとしていて、野菜の旨味を感じる癖のない味わいだ。

 ちょっと薄味なのは、この世界で飲めるスープには皆共通して言えることだけど、コンソメみたいな調味料がないからだ。

 美味いか? って言われると、まぁ美味い……とは思う。

 でも、トカゲ……

「どう、美味しい?」

「……まあまあ、かな」

 せっかくの料理にケチを付けるのは料理人としてはどうかと思うので、俺は控え目に回答しておいた。

 そもそもこれはまかないじゃなくて城の兵士が食う昼飯だしな。

 やっぱり、自分で食うなら自分で作った馴染みある料理の方がいいな。精神衛生面も考えたら。

 夕飯作りは腕を振るってやろうと心密かに思う俺なのだった。

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