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カタクリズム:中編  作者: ウナ
聖剣と魔剣
69/72

6章 第3話 勇者候補

【勇者候補】







6000年前の人と魔の大戦……神話戦争の10年前の時点では、

アヴァロンという男の名を知る者は少なかった


サマセットという小国の名家に生まれた彼は、

幼い頃から騎士になるための英才教育を受けるが、

彼が12歳になる頃、スンニャターという大国に侵略され、

サマセットは地図から姿を消す事となる


その後、傭兵を生業としていた彼は数多の戦場で戦果をあげるが、

所詮は傭兵でしかなく、彼の求める地位や名声、

金や女といったものは手に入れていなかった

これが神話戦争の10年前の事である


圧倒的な剣技により無類の強さを持ってはいたが、

人の目に触れない事には得られるものも得られはしない


彼の仕事は完璧すぎたのだ


誰よりも早く敵将まで辿り着き、一瞬でその首を取る

そして、敵に囲まれる前に風のように去り、

報奨金を受け取っては次の国……戦場へと向かう


名も知らぬ男の事など大した噂にもならず、

彼の存在は風の便り程度にしか流れていなかった


そんな彼に転機が訪れる……神の使徒に選ばれたのだ


神託を授かり使命を与えられ、彼はそれを完璧にこなした

その結果、彼は使徒としての力に覚醒し、世界のあり方を知る事となる

これが神話戦争の8年前の出来事だ


当時、勇者候補に選ばれた者は2人いた


1人はオルフェーという竜人(ドラゴニュート)の青年だ

オルフェーは生まれながらにして6属性を使いこなし、

恵まれた体躯を最大限に使い、圧倒的な力の剣技で敵を屠る


彼はまさに勇者と呼ぶべき存在だった


弱者を救い、種族の隔たりなく人々を守り、

国を、世界を守るために己の身を差し出したのだ


一方、もう1人の勇者候補であったアヴァロンは、

オルフェーとは正反対と言えただろう


挿絵(By みてみん)


アヴァロンは使徒になり、力を己のためだけに使った

富、名声、女……彼は欲するもの全てを手に入れたのだ


神の使徒の力を人類へと向け、数多の国を滅ぼし、取り込んでゆく

いつしか彼の国……メンフィスは世界で最も巨大な国家となり、

人の王と呼ばれるようになる……それが神話戦争5年前である


たった3年でアヴァロンはラルアース大陸の4分の1を手に入れていた

使徒の力とはそれほど強大であり、人類に抗う事など不可能である

だが、アヴァロンの快進撃は長くは続かない


彼の前に立ち塞がった者こそ、神の勇者オルフェーであった


アヴァロンが国盗りに精を出している間、

オルフェーは粛々と世界を守っており、魔と戦い続けていた

その功績を当時の水の巫女マグ・メルに認められ、彼は1本の剣を授かる


神器……フラガラッハ


後に光の聖剣とも呼ばれる神器である

フラガラッハを手にしたオルフェーは無敵だった

竜人の人類最高峰の身体能力に6属性を操る天賦の才、

そして、最高の神器が揃い、彼に敵と呼べるような存在はいなくなっていく


絶対的な力は神にも匹敵すると言われ、

彼ら竜人が崇める龍神にも迫ると言われるほどだった


そんなオルフェーの元に知らせが届き、

暴虐の限りを尽くしているアヴァロン討伐が言い渡されたのだ


オルフェーはアヴァロンという男を知らなかったが、

同じ神の使徒であると聞かされ激怒した

オルフェーにとって、その力を人類に振るうなど許されざる行為だからだ


そして、彼等は対峙する


当時のアヴァロンは世界の宝という宝を手に入れており、

魔剣ダーインスレイヴと呼ばれる血を吸う剣や、

再生の祝福が付与されている聖盾ヒルドル、

射抜けるものは存在しないと言われる鎧カヴァーチャ、

死の隣人となるヘルスコールという靴など、伝説級の武具を有していた


その全てが、現代で言うところのアーティファクト装備である


古の時代の伝説級の鉱石や宝石を使い、

当時の神官や巫女、ドワーフたちが作り上げた最高級の武具、

限界まで鍛え上げたそれらは人類では破壊不可能とも言えるものだった


伝説級の武具を身に着けた彼はそれだけで人類に敵などいなかったが、

使徒としての力にも覚醒している……それは特異なものだった

彼が覚醒した能力は大きく分けて3つある


1つ、反射の能力

1つ、転移の能力

1つ、変動の能力


使徒としても異例とも言える力が彼を変えた

彼は気づいてしまったのだ……自分の力が国家に匹敵する、と


そして、彼は野心を抱いた


そして、その野心は宿敵を招いた


オルフェーという絶対的強者は、

アヴァロンにとって初めての恐怖の対象となる


挿絵(By みてみん)


オルフェーの振るうフラガラッハは、

破壊不能とされていた魔剣ダーインスレイヴをいともたやすく両断し、

その拳は聖盾ヒルドルを砕き、その鱗は刃すら通さない


人間のなんとちっぽけな事か


竜人という人類最強種族の前では、人間の能力など赤子も同然であり、

真の勇者の力は、欲に溺れた使徒など寄せつけはしない


相手にすらならなかったアヴァロンは、

影から影への転移を繰り返し、魔力尽きるまで逃げ続けた

魔力欠乏症により意識が朦朧とするが、

荒い息を整えようと大きく深呼吸を繰り返す


何とか落ち着いてきた頃、風を切るような音がし、アヴァロンは絶望した

オルフェーがそこに立っていたからだ


「バ、バカな……どうやって……」


小国1つ、山を8つは越えてきたはずだ

なぜこの短時間で俺の元へと正確に辿り着ける


「オ前カラハ臭ウンダ、死ノ臭イガ」


オルフェーの人間を超越した感覚は、

アヴァロンの濃密な死の魔力を嗅ぎ分ける

逃れられないと判断したアヴァロンはあっさりと投降した


「殺さないでくれ、俺だって勇者候補なんだろ?」


認めたくはないがそれも事実だ

神が選んだ以上、何かしらの意図があっての事だろう

ここで命を奪うのは簡単だが、神に仕えし勇者である彼には、

アヴァロンを殺す事はできなかった


その後、オルフェーに捕らわれたアヴァロンは、

神の使徒としての役目を手伝わされる


それから2年の月日が流れた


アヴァロンの治めていた国メンフィスは内乱により崩壊し、

彼の忠臣たちは姿をくらまし、事実上メンフィスは滅んでいた

それを知ったアヴァロンの溜まっていたストレスが爆発し、

彼はついにオルフェーたち神の使徒から逃げ出す


逃げるついでに盗み出した1本の剣がある

それはマグ・メルがオルフェーのために作り上げた剣の影打ち


真打ちであるフラガラッハをオルフェーに渡した彼女は、

同等の力はあるが不安定な影打ち……カレドヴールッハを、

簡単な封印を施して隠していた


元々この剣は神に選ばれし勇者にしか使えず、

誰の手に渡ったとしてもそれほど問題にはならない

しかし、強大な力を秘めた神器である事には変わりないため、

念の為の封印を施していたというわけだ


マグ・メルは気づいていなかった……いや、忘れていたのかもしれない、

アヴァロンもまた勇者候補であった事実を


勇者に選ばれたのはオルフェーだが、

候補だったアヴァロンもまた勇者の素質は持っている

つまり、彼にはカレドヴールッハを持つ資格があるという事だ


神話戦争まで残り4年……


神器カレドヴールッハを手にしたアヴァロンは、

その力を引き出そうと試みるが上手くいかず、

オルフェーのような絶対的な力を手に入れる事は叶わなかった


力を求め、死地へ趣き、殺戮を繰り返す

そんな日々が3年ほど続いた


彼の頭の中にはオルフェーへの復讐しかなく、

狂人とも言える精神状態になっていた


以前使っていた魔剣ダーインスレイヴの核を取り出し、

それをカレドヴールッハに食わせ、自分の使いやすい物へと変えてく

ダーインスレイヴが長年喰らい続けた血の力を得たカレドヴールッハは、

美しかった白銀の刀身を黒く染め、死の魔力に満ちた神器へとなっていく


飢えから魔物の血肉を喰らい生死を彷徨うが、

彼の持つ勇者としての資質や、尋常ならざる死の魔力により、

魔物の持つ因子……魔素を取り込む事に成功する


魔素を取り込んだアヴァロンの精神は更に凶暴性を増し、

破壊の化身となるまでに時間はかからなかった


魔物の血を吸い続けたアヴァロンとカレドヴールッハは、

少しずつ変異していき、いつしか人ならざる者と魔剣へと変貌してゆく


だが、まだ完成ではない


アヴァロンの中には確信のようなものがあった

この剣はこれで終わりではない、まだまだ上に行ける

何か引っかかるような違和感すらある

そう、まるで鞘に収まったままのような……


狂気に飲まれたアヴァロンは、カレドヴールッハの刀身を素手で掴み、

指が落ちようとも引き抜こうと足掻く……そして、

その刀身が抜けたカレドヴールッハは……真の姿を現した


現れた漆黒の刀身は光を飲み込み、暗黒の空のようであり、

その中に星々の煌めきのような光が幾つか見える


「これが……お前の本当の姿か」


アヴァロンは狂気に満ちた笑みを浮かべ、その剣を一振りする

すると、暗黒の斬撃が放たれ、大木が次々と倒されてゆく


「これだ………俺が求めていたものはこれだ!!」


試し斬りに伝承に出てくるような魔獣を屠り、

あの時感じたオルフェーという絶対強者すら凌駕しそうな力に震える


だが、まだ足りない……


人間種であるアヴァロンがどれだけ強い力を持とうと、

竜人種であるオルフェーには届きはしない


人間などやめてしまえばいい


この時、アヴァロンは既に人間ではない事に気づいていなかった

彼の欲望は渇望は底がなく、高みへと突き進んでいく

たとえそれが許されぬ事だとしても……


修羅となった彼を止める者はいなく、

強大な力を振るい、破壊の限りを尽くしていた


・・・・・


・・・



アヴァロンの話がおぞましいものへとなっていく頃、

枝の折れるような音を聞いたシルトの意識は現実に戻される


魔物か? 獣か? 辺りを探るように耳をすまし、

洞穴の中から外の様子を伺うと、見覚えのある少年が走ってくるのが見える

その様子がただ事ではないのが明らかであり、

表情を引き締めたシルトは洞穴から外へと出た


『ソルドさんっ!』


僕の姿を見るなり叫ぶリッシは、よろけながらも懸命に走っていた

こちらからも彼に駆け寄り、肩で息をする少年の背中をさする


「そんなに焦って、どうしたの」


子供をあやすような優しい口調で聞くと、

背中をさする手を跳ね除けるようにリッシが言う


「助けてくんろっ! 村が、父ちゃんが……」


息も絶え絶えにリッシが言う

一瞬、バジリスクの生き残りが? と思ったが、そんなはずはない

あれは確実にアヴァロンがとどめを刺していた


「何があったのか教えて」


「村に……はぁはぁ……村に、盗賊が」


盗賊……野盗の類か……

野盗に襲われた村が滅びる、この世界ではよくある話だ

本来なら助けてやりたいところだが……


「リッシはさ、ここまでどのくらいかかったの」


「え……半日くらい」


「だよね……うーん」


半日……野盗が村を襲い終わるまでに十分すぎる時間だ

おそらくもう……そこまで考えたところで、

こちらの考えを読んでかリッシの拳に力が込められる


『生きてるっ!!』


ただそれだけ叫んで彼は黙って涙を流していた

言いたいことは分かるが、現実的ではない


でも……嫌いじゃない


シルトは少年の頭を優しく撫で、彼の涙を指ですくう


「わかった、それじゃ急いで行こうか、歩ける?」


「あぁ!」


リッシの顔に笑顔が戻り、瞳には希望の光が宿る

だが、おそらくもう村は……その考えを振り払い、

シルトは心の中に居座る男に声をかける


・・なぁ、あんたの力を貸してくれないか


・・貴様、何のつもりだ?

・・まさか、俺が昔の事を語ったことで友情が芽生えたとでも?


・・そんなつもりはないよ


・・ならば、何故俺を頼る


・・一刻を争うからだ


しばしアヴァロンは考え込み、シルトとリッシは歩き出す

歩きながらもアヴァロンの言葉を待っていると、

やっと答えが決まったのか、彼は言う


・・少しだけだぞ


・・あんがと


・・ふんっ、貴様に礼を言われる筋合いはない


照れ臭そうというわけではないが、

アヴァロンはツンツンした態度でそう言うと、

シルトの中に熱いような満たされるような感覚が広がる

まるで、本来そこにあるのが当然のようなそれは"魔力"だった


「うわっ」


思わず声が出てしまい、隣りにいるリッシも驚く

同時に、リッシの視線はシルトの背後……外套へと注がれていた

常闇の外套は闇の霧へと姿を変え、ゆらゆらと揺らめいている


「ソルドさん、なんだ、それ」


「え、あ、いやぁ……まぁ気にするな」


気にするなというのは無理な話だが、

この変化が異常だと言うのはリッシも何となく分かった


・・で、これってどう飛べばいいのよ


・・影を感じろ、そこへ意識を移動させるだけだ


・・影を感じろ……? わけわからん


・・いいからやってみろ


シルトは瞳を閉じて感覚を研ぎ澄ます……それは五感をだ

しかし、影は五感で感じられるものではなく、

魔力を持つ者特有の第六感を使わなくてはならない


今まで魔力が完全になかった彼が即座にそんな事が出来るはずもなく、

頭を抱えたり捻ったりしていると、隣りのリッシが不安そうに聞いてくる


「なぁ、行かねぇのか? ソルドさん」


「あぁ、ごめん、行こう」


シルトは早足で進みながら魔力というものの扱いを試みる

胸の中に満ちるこの感覚と似た感覚を身体の外で探し、

一瞬だがそれに触れたような気がして立ち止まる


「あ……これか」


シルトがそう口走ると同時にリッシの肩に手を置く

そして、彼は少年と共に転移した


視界が一瞬で入れ替わり、僅かに浮き上がった身体が着地すると同時に、

リッシは慌てて転んでしまい、シルトもまたよろつく


「っとと、危なっ」


『なななな、なん、なんしたー!』


それが正常な反応だろう

人が転移するなど、現代の魔法学には存在していない

もちろんリッシは魔法の知識などないが、

それでもこの現象が異常なのくらいは理解している


「あ~、まぁ、あれだ、一瞬で移動する技みたいな?」


「技……」


納得なんて出来るはずがないが、

リッシは田舎の小さな村からほとんど出た事はない

知っている世界などたかが知れているため、

世の中にはそんな凄い技もあるのかと理解しようとしていた


この技を体感してリッシの希望の光は強まる


ソルドさん……この人はとんでもねぇ人だ

オレが知る誰よりも凄い人かもしんねぇ、

詩に聞く1等級よりも凄いかもしんねぇ


そこでリッシは思い出す……詩に出てくる1等級、

ハーフブリードのリーダー、漆黒の剣士シルトの存在を


転んだ自分に手を差し伸べるこの男……名はソルドと名乗っていた

ソルド……シルト……似ている

そして、彼の身に纏う光を反射しない漆黒の鎧と大盾と外套……


「もしかして、あんた……不動のシルトなんか」


「え……? 違うけど?」


苦笑しながら頭をかくシルトは自身の格好を見て納得した

今はローブを着ておらず、常闇の装備が丸見えだ

それに加えてあの転移だ、現実離れした力を見せてしまった

これでは1等級とバレてもおかしくはない


しかし、今は正体を知られたくはなかった

自分の名が判明した状態でアヴァロンに乗っ取られてしまった場合、

ハーフブリードが築き上げてきたものが呆気なく壊れてしまう

それだけは避けたい、避けなくてはいけない


「そっか、そだな、あの1等級がこんなとこさいるわけねぇな」


少年の落胆が伝わってくるが、それでも隠さなくてはいけない

ならば、せめてこれくらいは……


「安心して、野盗くらいなら僕1人で十分だから」


リッシの頭を撫でて落ち着かせる

そして、彼の手を取り、再び転移を始めた


1度に転移できる距離はおおよそ300メートルが限度のようだ

アヴァロンならもっと出来るのかもしれないが、

今のシルトにはそれが限界だった


しかし、一瞬で影から影への転移は馬など比較にならないほど早い

もやは何度転移したか分からなくなってきた頃、ついに村を視界に捉える

所要時間は1時間にも満たない、尋常ならざる速度だった


村から少し離れた木陰に転移したシルトとリッシは、

村の様子を伺うが……争うような物音はしてこない

煙こそ上がってはいるが、火事が起きている様子もない


慎重に村の様子を伺っていると、

リッシが我慢出来なくなり飛び出してしまう

慌てて追いかけたシルトは、視界の隅に動く人影を発見する

それが村人ではないと気づき、リッシの外套を掴んで木陰へと引き込んだ


「あにすんだっ!」


「シッ……黙って」


シルトが彼の口を手で塞ぎ、木陰から村を覗き込む

村の中央に男たちが集まってくるところで、

男たちの腰には武器がチラついている……例の野盗だろう


しかし、その数がマズい……

リッシから大勢とは聞いていたが、これはただの野盗じゃない

それなりに大きい盗賊団が丸ごと来ていると言っていい


家の中も合わせると……目算150は見た方がいいか


150人の武装集団、それは小さな軍隊とも言えるものだ

それを折れた剣1本で挑もうなど自殺行為としか言えない


くそっ、ジーンさんさえいればな……


フィッツィ伯爵邸襲撃はジーンのサラマンダーがいたからこそだ

いくらシルトが強かろうと、単独では不可能に近いだろう


しばらく考え込んでいたシルトは大きなため息を吐き出してから、

ゆっくりと目を開き、リッシの肩を掴む


「君は少し離れていて、流石にあの数は君を守りながらじゃ無理だ」


「……わかった」


下唇を噛み締め、親指を強く握るようにリッシは耐える、

今にも父親を助けに飛び出して行きたいくらいなのだろう

だが、それでは駄目だ、見つからず数を減らさなくては勝機はない


先程から胸を満たしていたものは既に消え失せ、

アヴァロンがこれ以上力を貸すつもりがないのは分かっている

つまり、自力で何とかしなくてはいけないという事だ


念入りに準備をしてから挑むなら勝てない相手ではない、

今まで何個もこういった集団を葬ってきたのも事実だ


……出たとこ勝負ってやつか


嫌な汗を拭いながら、シルトは腰の剣を抜く

刀身は半分も残っておらず、先日のバジリスク戦で更に欠けている

折れていてもミスリルなため、別で持っているナイフよりかはマシだが、

最悪の場合も想定しておかなくてはならない


斬れて10人ってとこか……武器は奪うしかないかな


現状で折れていない武器を持つことに抵抗はあるが、

今目の前の生命を見捨てる事は出来はしない、シルトとはそういう男なのだ


リッシが離れていくのを確認してからシルトは動き出す

まだ日は高いため、彼の漆黒の鎧は目立ってしまうが、

上手く影に潜み、村を囲む柵を乗り越えて侵入していく


常闇の鎧の音が静かなのが彼を助けている

通常であればフルプレートで動き回ればガチャガチャとうるさいだろう、

しかし、この鎧は革鎧程度の音しかしないため、

隠密行動に向いているとも言えた


巡回する野盗を物陰でやり過ごし、一番近い家の中を覗き込む

中から女性の声が聴こえていたため嫌な予感はしたが、

予想通りの光景がそこにあり、シルトは心の中で舌打ちをする


20歳前後の村娘が犯されている、当然と言えば当然の結果だろう

野盗の類に襲われた村はそういう運命が待っているものだ

もはや力なく泣く事しか出来なくなっている女性は、

この行為が長時間続いている事の証でもあった


パッと見では室内に男が3人、見えない位置にいる事も考えられるが、

声や物音からもその可能性は低いと言えるだろう


シルトは台所へと通じる裏手から侵入し、

犯される村娘を見ながら、自分の番はまだかと待ちわびている男の喉を割く

口を押さえるのも忘れていないため、ほとんど声は漏れていない

音がしないように体重を支え、ゆっくりと寝かせる


まだ残り2人は気づいていない

1人は行為に夢中になっており、もう1人は酒を片手に居眠りしている


だが、問題が1つあった


犯されている女性がこちらを凝視している

今彼女が悲鳴を上げたり、助けを呼んだら1発でバレてしまう

それだけは勘弁してほしいため、シルトは人差し指を口に当てて片目を閉じる

すると、彼女も片目をパチパチと閉じ、理解してくれたようだった


音もなく近寄ったシルトは犯している男の喉を深く斬り裂く

声などあげる暇もなく絶命した男は女性に倒れ込み、

女性は小さな悲鳴を上げて男を跳ね飛ばしていた


再びシルトが人差し指を口に当てて女性に頷くと、

彼女は必死に声を我慢して頷く


そして、眠っている男の首を落とし、落下する頭をキャッチした

静かにそれを地面に置き、女性の方へと視線を向けると、

彼女は涙を流して頭を下げており、

近寄ったシルトは近くにあった彼女の服をかける


「そのまま静かにしていてくださいね、

 どこか隠れられる場所があるならそちらに」


「はい、はい、ありがとうございます、ありがとうございます」


よたつく足で台所の横に置いてあった籠に入っていき、

器用に自分で蓋を閉めている、

おそらくこういう機会を想定した事があるのだろう

家を出て行こうとしたシルトは聞き忘れた事を思い出して立ち止まる


「この村に生存者は?」


「分かりません、私はずっとここで……」


「じゃあ、若い女性は何人いますか」


「私を含めて7人です」


7人か……思ったより多いな

この規模の村にしては若い娘が多い、

それは助け出さなくてはいけない人数が多いという事にもなる

この時、シルトの中に男性の生存者の可能性はほとんど無かった


「ありがと、しばらく我慢しててね」


「はい、ありがとうございます……剣士様、お気をつけて」


外の様子を伺い、巡回兵の隙をついて向かい側の家へと張り付く

案の定、中から若い女性の声がし、同じ事が行われていると察した


ったく、なんでこうコイツらの思考ってどこでも同じかな……


シルトはそういった行為の経験が無い

若い頃は生きるのに必死で、スラウトのリーダーとして忙しく、

彼等を失ってからは死場を求めてただ生きていた


そして、運命の出会いであったサラやシャルルを育てるのに忙しく、

彼女たちが幸せを見つけるまで自分にそういうものは必要ないと誓ったのだ


そのため、野盗の類が必ずと言っていいほど繰り返すこの行為を、

嫌悪感すら持っていると言ってもいい

しかし、彼も男であるため、興味がないと言えば嘘になるが……


彼の地位や名声や力に言い寄ってくる女性は数多くいたが、

普段からサラとシャルル、そしてジーンを見ているせいか、

寄ってくる女性を魅力的と感じた事がなかったのもあるだろう


早く助けてやらないと……


シルトは室内の20代前半の女性の状態が危険であると判断した

女性は白目を向いており、大きく開かれた口の端には泡が見える

それでもなお行為は続いており、このままでは危ないのは明らかだった


室内を確認すると、この家には6人の男たちがいるようだ

3人の男たちで女性を犯し、残り3人は酒を飲みながら談笑している

全員衣類は身につけておらず武器の類も持ってはいない

殺すのは簡単だが、騒がれては厄介だ……どうするか


まずは行為中の3人を……いや、談笑中の奴らの真正面だ、

すぐに見つかり、仲間に合図を出されてしまうだろう


では、談笑中の3人から? 確かにその方が安全な気はするが、

この家の構造上、行為中の奴らの横を通り抜けなくては辿り着けない


どうする……急がなくてはあの女性が……


その時、女性の無意味な抵抗とも言える空中を彷徨っていた手が、

力なくガクンと垂れ下がり、音を立てて地面に激突する


くそっ!


一刻を争うと判断したシルトは、考えもなしに踏み込む

勢いのまま女性の口を犯していた男の首を跳ね、

そのまま正面にいる談笑していた3人へと突っ込み、

1人の喉を深く刺したまま剣を離し、

腰のナイフを抜きながら、右手の盾で1人の喉を突く


ナイフを3人目の眼に深く突き刺し、

折れたミスリルブロードソードを引き抜いてから振り向くと、

残り2人は、口を犯していた男の死体に手間取っているようだった


一瞬の隙きを、チャンスを逃しはしない


シルトは常闇の盾を振りかぶり、女性の上に乗っていた男の首を折る

それと同時に、女性の下に寝そべっていた男の首筋に剣を突き立てた

シルトが室内に踏み込んでから6秒の出来事だ


驚きのあまり声すら上げられなかった男たちは、

一撃ずつで仕留められており、その全ては急所への一撃だった

これまで4桁近い悪党を殺してきたシルトだからこそ出来た芸当である


大急ぎで男たちの死体をどかして女性を見る

見るも無残な姿だが、なんとか息はあるようだった


シルトは腰に下げている荷物袋から1本の小さな瓶を取り出す

女性をゆっくりと起こしてから口で瓶の蓋を外し、

中身の液体を口に含み、それを口移しで無理矢理流し込む


頼む、間に合ってくれ


小指ほどの小瓶に半分ほどしか入っていない液体だが、

中級2章程度の生の魔法の効果を得られる秘薬だ

この小瓶1つで金貨2枚もする高級品である


シルトが息を吹き込むように流し込むと、

彼女の喉はコクと動き、秘薬を飲み込んでゆく

数秒様子を見ると、女性の意識は戻ったようだった


「落ち着いて、助けに来ました

 声は小さく、見つかると厄介ですから」


優しいシルトの声と表情に緊張が緩んだ女性は、

黙って2度頷き、辺りの惨状を見て身体がビクッと強ばる

6人の男が大量の血を流して絶命しているのだ、恐怖でしかないだろう


しかし、女性は何を思ったのかニタリと邪悪な笑みを浮かべ、

ふらつく足で立ち上がって死体へと近寄る

そして、男の逸物を踏みつけた


「ひっ、ひひっ」


形が無くなるまで踏みつけるその姿を見て、

シルトは何とも言えない気持ちになりながら、

全裸のままの女性に毛布をかけて声をかける


「楽しいかもだけど今は我慢して」


その声に我に返った女性はシュンっと小さくなり、黙ってシルトの指示に従う

再び女性を隠れさせ、次の場所へと向かおうと外の様子を伺うと、

中央の広場に男たちが集まっているのが見える……

その中心には村人らしき男たちが転がっていた


生きているのかは分からないが、動いている者はいない

その横には木箱や袋に詰められた食料や貴金属類が集められており、

略奪は既に終わっているのが見て取れる


半日もの間、奴らが何をしていたのか、

それは先程見たので分かっているが、男たちを集めて何をしようというのか……

シルトは息を殺してその様子を伺っていると、野盗たちが騒がしくなる


ここからでは騒ぎの中心が見えないため、別の窓から様子を伺うと、

1人の少年が襟首を捕まれて引きずられてくる……リッシだ


あのバカ、なんで出て来ちゃうかなぁ……


どうするか、今飛び出しても返り討ちに遭うのが関の山だ

しかし、ここで見捨てれば確実に彼は殺されるだろう


くそっ、まだ10人も殺してないってのに


シルトは折れたミスリルブロードソードに目をやる

もはや限界はとうに過ぎ、いつ根本から折れてもおかしくはない

切れ味も落ちているため、一撃確殺は厳しくなっていくだろう


室内を見渡し、野盗の持ち物であろう斧と鉈……そして長剣が見える

シルトは静かにそれに近寄り、長剣を手に取った

何度か握りを確かめ、軽い素振りをして具合を確かめる

上等とは程遠い粗悪品だが、使えなくはない


材質はアイアンか、上手く使っても5人斬れたらいいとこか


シルトは手斧を2本腰に下げ、再び窓から外を伺う

リッシは中央広場まで連れて行かれたようで、

村人たちが倒れている場所に投げ捨てられていた

そこで父親を見つけたのか、リッシの泣き声が聞こえてくる


……ダメだったか、くそっ


当たってほしくない予想通り、男性の村人は殺されているようだ

となると、残りはリッシを含めて6人だが、

その問題のリッシをどう救うか、だ


中央広場に集まっている野盗は100近い、

全員武装しており、戦闘になれば間違いなく家の中の奴らも出てくるだろう


リッシまで真っ直ぐ数人を斬り伏せながら突き進み、

彼を救出したとして、その後をどうするか、だ

少年の足では大の大人たちからは逃げられるわけもなく、

その場合、自分が囮になるしかないわけだが……


100人と真っ向勝負は無理あるだろ……


弓を持った奴も数人だが確認出来る

1対1……いや、1対3までなら正面切っても負ける気はしないが、

100はどう考えても無理だ、死ににいくようなものだ


僕はまだ死ぬわけにはいかない


仕方のないこと、諦めるしかない、

言いつけを守らなかった彼が悪い、僕はちゃんと警告をした

そんな風に言い訳を並べるが、納得など出来るはずがなかった


なんでこうなっちゃうかなー!


シルトは剣を抜いて家を飛び出す

無謀とも言える行動に出た今の彼は理屈では動いていない

普段の計算高い彼からは想像も出来ないようなこの行動は、

彼らしいとも言える行動だった



城壁防御を解除し、颯爽と駆けつける彼の姿は……まさに勇者だった



その姿を、暗黒の世界から覗いている男は何を思うのか……

年内最後の更新です。

来年もカタクリズムをよろしくお願いします。



挿絵(By みてみん)

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