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カタクリズム:中編  作者: ウナ
クガネ外伝
62/72

第7話 人を超えし者

20代編に入れる予定だった短いお話ですが、

忘れてしまったのでここに載せておきます。








クガネ達が貴族の暗殺という2つの大きな事件を起こしてから数年後……


規模の大きくなった盗賊団は数々の罪を犯したが、

統率の取れた"爆殺"は通常の盗賊団とは一線を画していた


数十人ごとに部隊を分け、マウデスの名を持つ者たちが指揮を取り、

それぞれの役割をこなす事で、まるで軍隊のような力を持っている


しかし、彼らは盗賊団だ、軍隊のような型に嵌った者たちではない、

卑怯な戦法だろうと倫理に反する事だろうと平然とするのだ

これではルールに縛られている軍では対処のしようが無かった


軍のように数千数万という部隊でもないため、

いざとなったら数十の盗賊たちは街に溶け込むように消えてしまう


まるで部屋に出た害虫と同じだ、

一度物陰に入ってしまったら見つけられはしない、

次に出てくるまでじっと待つことしか出来ないのだ


各国は困り果てたが、不幸中の幸いか、

例の貴族暗殺事件以降は要人暗殺の類は起こっていない

そのため、本腰を入れての盗賊団討伐には動き出してはいなかった


そんなある日……宗教国家カナランでの出来事である


人々は寝静まり、フクロウの鳴き声でも聴こえてきそうな夜だ

首都コムラーヴェの一角に顔の下半分を隠した一団がいた

クガネ率いる爆殺のメンバーたちだ


マウデスの名を持つ者たちの部隊が主力であり、

クガネが率いるのはたった5人だけである

これはクガネが単独行動の方が得意なためだ


部下5名のうち4名は連絡係であり、

実質クガネが引き連れているのは1名と言える

彼の名はジム・ベール、先月20歳になったばかりの青年だ


彼は元々はクガネ暗殺のために他の盗賊団が送った暗殺者だった

しかし、クガネに一瞬で敗北し殺されそうになったが、

その類まれなる能力を買われ、今はクガネの元で働いている


彼の類まれなる能力とは……変装だ


ジムは仕事のためならば2~3ヶ月で肉体を作り変え、

完全なる別人になってしまう事ができる人物である

その肉体改造は常人のそれではなく、常軌を逸しているものだ


クガネ暗殺を狙ったジムは、最初に接触してきた頃は肥満体型の男だった

2ヶ月後、クガネを殺しに来た彼は鍛え上げられた鋼の肉体を持っていた

これで彼がどれだけ異常か分かるだろうか?


肉体改造をし、必要とあらば顔まで変える……それがジムという男である

何かと役に立つジムをクガネは気に入り、側に置いたというわけだ


ジムは命を助けてもらった代わりに、

クガネの手足となった事は後悔はしていない

自分の能力を最大限活用してくれる(あるじ)にやっと出会えた、

そんな風にすら思っているほどだ


変装のため、鼻を削ぎ落としている彼の素顔は不気味がられ、

これまでの主は自分を人間扱いしてはくれなかった


そんな彼にクガネは「お前ほど有能な奴はそうはいない」と言い、

通常の団員以上の高待遇を用意し、個室や女も与えてくれた

そして「俺のため、誰でもない誰かになれ」と命じてくれたのだ


これほど嬉しいことはなかった

彼はクガネを心酔し、無理難題であろうと喜んで引き受ける

まさにクガネのための誰でもない誰かになったのだ


そんなジムを引き連れてコムラーヴェのある屋敷へと向かっている

屋敷の主は水の神を崇める司祭の家だ

彼の家には古の時代に水の巫女が魔法を付与した武具が残されている

今回のクガネ達のターゲットはそれというわけだ


彼らが司祭の屋敷へと音も立てずに屋根の上を進んでいると、

先頭のクガネが背後にいるジムたちを手で止める

何事かと前方を伺うが、特に変わった様子はない


「どうしましたか?」


ジムの問いにクガネは普段から刻まれている眉間のシワを深くする

何かを探すように辺りを見渡し、彼の様子から尋常ではないと察した


伏兵か? そんな事を考えるが、人の気配すらない

しかし、クガネは違っていた……彼は何かを警戒している

いや、探している感じに近い


その時、彼らの頭上を眩い光が照らした


全員が空を見上げ、光の正体を探ると同時に身を隠す

フードを深く被り直し、自分たちが発見されていないか確認しながら、

上空に現れた光の正体を探るが、強烈な光源により目が眩む


光はゆっくりとだが下降しているようで、

徐々に辺りの影の輪郭は明確になり、背を伸ばし、

まるで昼間のような光と影の世界を作り出した


光はなおも下降を続ける、

それはクガネ達がいた家の3軒隣りの家へと入って行く……


「なんだ……あれは……」


クガネ達は光の正体が分からず完全に動けずにいると、

連絡係の1人が口を開いた


「もしや……」


彼がそう呟くとほぼ同時に光は消え、

しばらくすると家の中からは赤子の声が響いた


「巫女の世代交代……やもしれません」


「ほぅ、あの光が巫女の力というわけか」


クガネは巫女の事など興味はない、

奴らの作る魔法が付与された武具には興味があるが……


数千の兵を1人で相手できる化け物など、

たかが盗賊が管理できるはずもなく、

金にならないのなら興味もないというわけだ


しかし、この奇跡とも言える現象を目の当たりにし、

クガネは少しだけ……ほんの少しだけ巫女に興味が湧いた

そして、彼らは予定通り司祭の屋敷へと向かうのだった


後日、カナランに"神の子"が誕生したという話題でラルアース中が沸いた


神の子……生まれる前に神の巫女として選ばれし存在

彼女の名は、地の巫女マルロ・ノル・ドルラード

この地に生まれ、この地を破壊する者



これは、運命の邂逅だった






では、本編をどうぞー。

【人を超えし者】







悪行の数々を行い、ラルアース地方全土に名を轟かせ、

大盗賊団となった爆殺に敵などいない、そう感じる日々が続いている

ここまで組織として大きくなってしまうと緊張感というものは薄れ、

徐々にだが怠慢が顔を見せ始めてしまう


それは、クガネ自身にも確かなものとしてあった


自分が忌み嫌い、蔑んできた両親や団長……

気がつけば彼らと同じ道に迷い込み、ゆっくりと歩んでいる

その事実に気づけないほどクガネは愚かではない


そして……彼は胸の奥、心の一番深いところで2つの答えを出してしまった


答えはもう胸にある……だが、それは可能なのだろうか?

自問自答しているところで彼は気づく


「…………潮時か」


今や爆殺と言えば国すらも手を出せない大組織であり、

幹部であるマウデスファミリーですら誰もが知っている


関わるな、関われば死が待っている

報復を恐れた者たちにそう噂されるほど、彼らの実力は誰もが知っていた


爆殺のクガネを筆頭に、蛇舌のカイリ・マウデス、

四つ足のリッキー・マウデス、狂女ハクテ・マウデス、

夜の影ナード・マウデス、避役(カメレオン)のジム・ベール……


爆殺のメンバーには二つ名持ちがこれだけいる

冒険者でも二つ名が広まるのは一握りだと言うのに、

たかが1つの盗賊団に6人もいるというのは異常だった


名持ちは一人一人が2等級冒険者でも上位の実力を持ち、

その中でもクガネは別格であり、1等級とも言われる力を有している


更に、彼らが鍛え上げた200を超える猛者たちが集まっているのだ

ルールや常識が通じず、貴族たちのようなプライドの類もない彼らは、

正規軍のような輩では相手にすらならず、

2等級冒険者では束になっても勝ち目はないだろう


国という大きな括りを除けば爆殺より上の組織はないと言える

それほどの勢力になった彼らだったが、

頭領であるクガネが言った潮時という言葉は、

彼らの活躍とは正反対のように思えるものだった


クガネは2つの答えを出している


1つは、盗賊をやめることだ

彼はこの血なまぐさい生活に疲れ切っていた

仕事に張り合いはなく、もはや達成感もない

やる気というものが徐々に削がれている事に気づいてしまったのだ


このまま惨めな盗賊稼業を続けるくらいなら、

いっそのこと辞めてしまった方がいいと思っている


火花のように強く輝きたい……その思いは変わっていない

だが、火花とは一瞬の輝きだからこそ美しいのだ

辞め時を見誤ってはいけない、ああはなりたくはないから


そして、もう1つの答えは…………


ポロトの砦に存在する団長の部屋で彼は酒を片手に考え込んでいた

これまでの事、これからの事を……


大きくなりすぎた組織は彼の肩には重く、

身動きがとれなくなっていく感覚は確かにあった


部下の奴らの面倒を見なくてはならない、

今後のプランを考えねばならない、

そんな生活に疲れてしまっており、深いため息をもらす


しかし、考える事を辞めてはならない

考えるのを辞めた時、人は老いるのだ

まぁこれは俺の持論だがな


再び深いため息をもらすと、扉の向こう側から人の気配が近寄ってくる

布が擦れる程度しかしない足音からしてジム・ベールだろう

奴は俺の側近だ、その程度の技術は持ち合わせている


入り口で足音は止まり、3回ほどノックが聴こえてくる

俺は「入れ」と一言だけ返し、奴が入ってくるのを待った


普段ならば扉の音を立てぬよう静かに開くジムだが、

今は勢いよく扉を開き、頬骨と鼻と顎が削ぎ落とされた顔を見せる

奴は変装の達人であり、この顔はそのためのものだ

彼が避役(カメレオン)と呼ばれるのはこのためである


奴の素顔は見慣れたものだが暗闇で見るとゾッとする時もある

そんな事を一瞬考えるが、奴の様子がそれを許さなかった


「何があった」


「はっ、見張りからの報告によりますと、

 イオマンテより1000にもなる兵が出立したと」


イオマンテ……ネネモリの首都である都市だ

そこの兵となると正規軍か


「戦争か? にしては数が少ないようだが」


「はっ、それが……おそらく奴らの目的地はここかと」


「根拠はあるのか」


クガネは鋭い目つきでジムを睨む

別に疑っているわけではない、これは彼の癖みたいなものだ

それを知っているジムは再び頭を下げてから自身の考えを口にした


「はっ、斥候(せっこう)によると運んでいる食料から見て近場なのは確か、

 近隣での小競り合いもなく、あの規模と考えますとここ以外には……」


すでに斥候を放っていたか、いい仕事だ

クガネは関心すると同時にネネモリ軍の動向が気になった

たかが1000足らずの兵で俺達を殺れるとでも思ったのか?

いや、それはないな……俺の知る奴はそんなへまはしない


奴とは、ネネモリの族長オグマ・ケヒトの事である

まだ族長になったばかりの若造だが、実力は確かだ

個人としての戦闘力もそれなりに高く、

他の組織が暗殺に失敗したという話も何度か聞いている


奴ならば1000程度の兵で片付けられない事は気づいているはずだ

ならば、何故今になってたった1000の兵でここを狙う、目的はなんだ?


クガネが思案している間、ジムは黙って膝をついて待っている

彼にとってクガネとは絶対であり、神に等しい存在だからだ


「他に情報はあるか?」


「はっ……えっと……ぁ、はい、巫女がいるようです」


その瞬間、クガネはグラスをテーブルへと叩きつけ、

鬼のような形相で立ち上がった


「何故それを先に言わなかった」


「も、申し訳ありませんっ」


地面にこすりつけるようにジムが頭を下げる

苛立ちから心の中で舌打ちをするが、今ジムに怒っても無意味だ

考えろ、頭を使え、今出来る最善を手繰り寄せろ


死姫(しき)か」


「はっ」


「……チッ」


分かり切っていた事を再確認しただけなのだが、

舌打ちは口からも漏れてしまう


死姫……死の巫女リリム・ケルトの二つ名だ

彼女の美しさから付けられた名だが、

実は恐ろしさからも付けられたものである


彼女は巫女の中でも最強と謳われる死を司っている

まだ16~17の小娘だという話だが、

その実力は万の兵にも匹敵すると言われるほどだ


死へ誘う者、可憐な死の使い……リリムを謳う物語は数多くある

その全てに共通するのが、美しさと同時に恐怖を描いている点だ

同胞からも恐れられるその力、誇張だとしても侮れるものではない


「マウデスファミリーを招集しろ」


「はっ」


クガネの一言でジムは瞬時に退出し、

ほとんど足音をさせずに去って行く


静寂が訪れた室内で、クガネはグラスを手にする……が、

先ほどテーブルに叩きつけた時にほとんどこぼれてしまい、

中身は残っていなかった


「チッ……くそっ」


誰もいないのをいい事にクガネは弱音を吐く

たかが1000程度の兵ならば問題なく勝てただろう

被害は出て50といったところだ、それほどの猛者が揃っている


だが、巫女……死姫がいるとなれば別だ


相手は1万を超える兵と同等、いやそれ以上に厄介だと言えるだろう

その理由は、クガネたち爆殺は軍に対して絶対的な強さを持つが、

圧倒的な個に対する対策がほぼ皆無だからだ


普通の相手であればクガネやマウデスがいれば問題はないが、

相手は死の巫女だ……直接見た事はないが、

情報によるとその力は人間の域ではない、まさに化け物だ


これまで魔物の類と戦った事は何度もある

だが、そいつらは頭はなく、少し強い獣と同じようなものだった

頭を使えば簡単に勝てるものだったのだ


考えろ、考え続けろ……死の巫女の情報を思い出せ


年齢は16~17歳、イオマンテに住む死の巫女、

13歳で死の魔法の上級を使いこなし、

今では数多の究極魔法を使いこなしているという


巫女の中でも抜群の攻撃力を有し、

単体から数千人規模を巻き込む広範囲攻撃までの全てをカバーしている

そして、厄介なのが奴の魔法はくらえばほぼ即死という点だ


更に、本人の身体能力も高く、

高位魔法使いでも数えられる程度しか使えない魔法障壁も使えるという

魔法使いの弱点である接近戦に持ち込むのは難しいというわけだ


「……ふざけた小娘だ」


なんだ、このふざけた能力は、冗談かと思えるほど完璧じゃないか

これでは人間と言っていいのかすら怪しいぞ


「いや、待てよ……」


確かに化け物じみた力は持っているが相手は人間だ

人間ならば殺せるはず……それは絶対だ

弱点はないか考えろ、考えろ、考えろ……っ!


クガネはニヤリとしてからマウデスファミリーが集まるまで考えをまとめる

1つのミスも許されない綱渡りの戦いになるのは必至だが、

わずかでも勝利の二文字に手が届きそうならば手繰り寄せればいい


戦いとは運ではない

その強運とも言える事象を引き寄せられる力が強さなのだ

そのための準備をしろ、考える事をやめるな、立ち止まるな


そして、ジムに連れられてカイリたちマウデスファミリーが到着し、

久々に爆殺の幹部全員が顔を合わせ、頭領クガネの言葉を待っていた


「戦だ」


「へへっ、待ってました」


クガネの一言に真っ先に反応したのはリッキーだった

彼はクガネの弟子だったが卒業し、今や誰もが恐れる四つ足のリッキーである


彼の靴は親指が別で動くように分かれており、

その隙間にナイフを挟み、四つの腕のように使う

これだけならば四つ腕と呼ばれる方がしっくりくるが、

彼の異様に長い腕により四つ足と呼ばれるようになったのだ


「ある程度は聞いたけど、どうすんの?」


カイリが心配そうに聞いてくる

彼女は蛇舌という二つ名で呼ばれている

その由来は、蛇のように狙った獲物は逃さず、男を簡単に落とすからだ

もちろん男を落とすだけではない、彼女のナイフは狙った命を刈り取る


「巫女なんでしょ?」


カイリに続くようにハクテが口を開く

彼女は相変わらずハクテにべったりだが、

度々やらかす狂人じみた殺害方法から狂女ハクテの二つ名が生まれた


幼さの残る外見に似合っているのか似合っていないのか、

殺人という快楽に酔ってしまう彼女をカイリはもう諦めていた


「なに、団長ならば策があるのでしょう?」


クガネへの信頼からくる言葉を放ったのはナードだ

彼は暗殺者として有名になり、夜の影とも呼ばれている

闇夜の中では影は見えにくい、人知れず近寄り、人知れず命を奪う


そんな彼に何故二つ名があるかと言うと、

一般的にはナードの名は知られていないのだ

夜の影……そう呼ばれる謎の暗殺者が有名なだけなのである


ナードの言葉にクガネはなかなか反応しなかった

僅かな時間ではあったが、沈黙が場の空気を重くし、

今回の事態がそれだけ切迫しているのだと実感させられた

しばしの沈黙の後、口を開いたクガネは作戦を伝える


「消耗戦だな、それ以外に勝ち目は無いだろう」


「消耗戦?」


カイリは理解していないようで首を傾げながら聞く


「相手は死姫だ、まともにやれば間違いなく負けるだろう

 それと奴は範囲魔法を得意とする、それを使われたら終わりだ」


範囲魔法……数年前の戦で死姫が使ったと言われる魔法は有名だ

幼い少女の新たに授かった究極魔法を聞いた族長オグマが、

ドラスリアとの小競り合いでそれを使うよう命令したのだ


結果は想像を絶するものだったという


オグマが聞いた話では死の霧を操る魔法という話だったが、

確かに効果は合っていた、まさに死の霧を操る魔法だと言えるだろう


この魔法の霧という形状を利用して、

効果を最大限発揮させるため、風向きを計算してから発動させると、

彼女を中心に大規模な死の霧が発生し、

風に乗って敵陣へと向かい、四桁の兵の命を一瞬で奪う結果となった


だが、この魔法には大きな欠陥がある


彼女を中心に発動する大規模な死の霧……

魔法の範囲の者は敵味方関係なくその効果を受ける事となるため、

自軍の兵はある程度下がらせてから発動させたのだが、

それでも大量の犠牲者が出る結果となった


リリム・ケルトという少女を過小評価していたとも言える結果だ

誰も予想出来ないほど魔法の範囲が広かったのである

それは、発動したリリム自身にも予想出来なかった


たった1つの魔法でドラスリア軍1800、

ネネモリ軍600の屍の山が築かれることとなったそうだ


こんなものを使われたら流石のクガネでもどうしようもない

アジトにしているポロトなどその1つの魔法で全滅は確定だ、

それだけは使わせてはいけない


「究極魔法を詠唱する暇を与えず攻め続ける……

 だが、それをするには犠牲は避けられないだろうな」


「だから消耗戦……か」


カイリは納得は出来ないけど理解は出来たといった感じだ

その話を聞いていたナードが片手を軽く挙げる、

クガネが顎で話せと言うと彼は一礼してから口を開く


「巫女も人間、いずれは魔力も尽きましょう

 無理に突撃せずに、詠唱の暇を与えないように、

 一定の距離を保って弓で牽制してはどうでしょうか?」


「悪くない案だが、奴は魔法障壁を使う」


ナードの提案にクガネが即答する

すると、ナードは自分の浅はかさを恥じた


「すみません」


頭を下げるナードだが、クガネは手であしらう

この男は少し真面目すぎるところがある、それがあまり好きではなかった


「障壁ってのがあると弓じゃまずいの?」


ハクテが分からないようで質問してくる

だが、クガネはそれには答えず、作戦の続きを話す

代わりにカイリが彼女に耳打ちするように小声で言った


「障壁は壊さないと魔力を殆ど消費しないの

 弓の威力じゃ壊せないでしょ? それじゃ詠唱が通っちゃうのよ」


「なるほどなー!」


大声のハクテをクガネが一瞬睨み、彼女はシュンっと小さくなる


「弓による牽制も入れるが、

 近接による挟み撃ちで障壁だけでは防げぬようにする」


「そうなるとかなりの数が……やむなしか」


リッキーが下唇を噛む、彼も部下を失うのは痛いのだ

盗賊団とは友情みたいなものは薄く、

仕事のパートナーとしての付き合いが多いと言っていい

それでも、長い年月一緒に死線を越えて来た戦友は、

普通の友よりも深い絆が生まれるものだ


「で、誰がやるのさ」


カイリの一言で再び場の空気は重くなった

先陣を切るという事は逃れられない死を意味する、

誰もがその意味を理解しているため言葉に詰まった


「俺が行くよ」


そう言ったのはリッキーだった

今回は消耗戦、死姫の魔力が尽きるまで攻め続ける

どの程度の魔力を有しているかは不明だが、

少なく見積もっても100人以上は殺されるだろう


「あんた、意味分かってるのよね?」


カイリの問いにリッキーは黙って頷く


「可能性があるなら俺かクガネさんだろ?」


可能性……万が一にでも先制攻撃で勝つ可能性……

それには遠距離からではなく近接戦でのスピードが要求される

死姫のガードが間に合わないほどの速度で攻撃を入れるしかない

この中でそれが出来るのはクガネとリッキーなのは間違いないだろう


カイリとハクテでは力も速さもリーチも足りない

ナードは暗殺は得意だが、正面からは器用貧乏といったところだ

ジムも同じ理由から除外される


「それじゃ、俺が二番手だな」


ナードが名乗り出る


「精々いい囮になってくれよ?」


などとリッキーに冗談っぽく言いながら背中を叩く

しかし、彼の戦闘スタイルを考えればそれはあながち冗談ではない

敵の死角から一撃で仕留める……それこそ彼の十八番だ


「ねね、囲んでボッコボコにじゃダメなの?」


ハクテの疑問はもっともだ、

確かに数の暴力で全方位からやってしまえば楽に思える

しかし、それはクガネが首を横に振る


「集団で行けば奴は間違いなくそれに合わせた魔法に変えてくる、

 結果は分かるだろう? 今回は魔力切れを狙うしか勝ち目はない」


クガネの言葉はリッキーたちへの死の宣告でもあった、

彼らが僅かでも抱いた可能性を否定する言葉だったからだ

付け足すようにクガネは酷な事を言う


「1発でも多く魔法を撃たせろ」


「ちょっと……」


カイリが止めようとするがクガネが手で制す


「いいかお前ら、全員死ぬか僅かでも生き残るか、

 これはそういう戦いだと認識しろ、自分は生き残ろうなんて考えるな」


全員が沈黙する……現実は嫌でも目の前に迫ってくる

刻一刻と這いずるように近寄り、足や腰や喉を締め付けてくる


「ネネモリ軍の牽制は俺に任せろ、

 お前らは巫女を削ることだけを考えろ」


クガネは何も自分だけ助かろうとしている訳ではない、

彼はたった数名で1000は居るであろう兵を抑えると言っているのだ

忘れてはいけない、今回の敵は巫女だけではないのだから……


()(きみ)と共に」


ジムが膝をつき、クガネへと頭を垂れる

彼は元々クガネの部隊なため、彼の側から離れる理由がない


「ハクテとカイリの部隊は弓で巫女を牽制しつつ他を援護しろ」


2人が頷く、それを見てからクガネは続けた


「あぁ、言い忘れていたが、巫女の首を取った奴に団長の座をくれてやる」


クガネが珍しく冗談のような事を言うので皆が固まるが、

これは彼の本心でもあった


「そいつはいい、そろそろあんたの顔も見飽きたしね」


カイリが綺麗な白い歯を見せながら笑顔で言う

それに釣られるように皆が笑みになり、そして静寂が訪れた


長い長い沈黙が続く中、ジジッと蝋燭(ろうそく)が鳴る、

何か不純物でも混じっていたのだろう

まるでその音が合図かのように全員が頷き、そして動き出す……


・・・・・


・・・



夜の帳が下りる頃、ポロトの砦は厳戒態勢で時を待っていた

虫の鳴き声が徐々に静かになり、ザッザッと無数の足音が聞こえてくる


時は来た


夜の森が(おびただ)しい数の松明で照らされ、

夕刻のような明るさになり、徐々にその全容が明らかになった


ネネモリ正規軍・第一部隊


ネネモリ軍の中でも歴戦の猛者と呼ばれる部隊である

その第一部隊がフル装備での登場だ、

これには嫌な汗が流れた者は少なくない


隊列はポロトの正門から200メートルほど離れた位置で停止し、

中央が左右に割れる、息の合った規則正しい動きだった


そして、開かれた軍隊の中央を一人の少女が歩いてくる……死姫だ

長い黒髪を頭の左右で結う、世に言うツインテールを揺らしながら、

死の白い法衣をなびかせ、威風堂々と現れた


先頭右側の兵が1人だけ動き、

彼女の横へと着く、兜からしておそらく第一部隊の隊長だろう

まだ幼さの残る少女に何やら耳打ちし、敬礼をしてから列に戻る


少女は部隊の方へと向き、軽いお辞儀をしてからポロトの正門を見上げ、

ゆっくりと、だがしっかりとした足取りで正門へと近づいてくる

この少女のどこにその勇気が詰まっているのかと思ってしまうほど、

幼さの残る少女は堂々としたものだ


正門まで残り100メートルを切った時、ネネモリ軍が騒がしくなる

何事かと振り向く少女が見たのは……炎の壁だった


自分と部隊とを隔てるように炎の壁は轟々と燃えており、

これが敵の攻撃だとすぐに察し、彼女は大声をあげた


『待ってくださいっ! どうか、話しをっ』


少女の透き通るような美しい声が響き渡るが、

燃え盛る炎が邪魔をし、砦までは届きはしない

それでも彼女は必死に声をあげる


『お願いしますっ! 聞いてくださいっ!』


少女……リリムの悲痛な叫びは無慈悲な形で遮られる、

彼女へ向け矢の雨が降ったのだ


挿絵(By みてみん)


即座に障壁を展開し、短い詠唱を立て続けに2つ唱える


「柔らかな眠りよ……破壊の理よ」


彼女の両手に光を飲み込むような黒い珠が出現し、

一瞬遅れてから彼女を中心に薄い紫の煙が広がる


瞳を閉じた少女は精神を集中し、周囲の魔力を探る

森の中から自分を囲むように40近い人間の反応、

更に正門の上部には弓兵であろう20名、

門の向こう側には無数の人の反応……背後の正規軍の左に2人、右に3人


周囲を探っている間に矢は降り注ぎ、

見えない壁に阻まれ、勢いを失った矢は地面に落ちた


続いて正門から無数の矢が上空へと飛んで行くのが見える

同時に囲んでいる人達が動き出し、彼らの狙いがある程度分かってしまった

究極魔法封じ、それと休む暇を与えないのだろう


これでは話どころではない、声を出せば呼吸は乱れる

それは全て詠唱に回さなくてはいけない、

残念だがここまでだ、戦わなくてはならない


リリムは左右の人差し指と中指を揃えて立たせ、

両腕を広げ、くるりと半回転しながらしゃがみ込む……

次の瞬間、彼女を包囲していたリッキーの部隊は停止させられる


正確に言うと、全滅させられたのだ


リリムは破壊魔法を長さ10メートルほどの細い棒状のものにし、

それを左右に構え、螺旋を描くように半回転したのだ

彼女の破壊魔法は触れるモノ全てを両断する


ある者は足を、ある者は胴体を、ある者は首を落とされ、

少女が構えてから僅か0.4秒で40人の盗賊は両断された

大半の者は自分が死んだ事すら気づけず、

突撃をしようとして身体がバラバラになってから気づかされる


足をクロスさせるようにしゃがんだ彼女は、

「んしょっ」という可愛らしい掛け声とともに立ち上がる

さらに、立ち上がった瞬間に詠唱を完成させた


「滅びの理よ」


黒い珠が追加で2つ増える

そこで左後方から猛烈な勢いの槍が飛んできたが、

ゴォォォンという鈍い音を鳴らし障壁に阻まれた槍は地面に落下する


リリムは左後方の魔力探り、振り向きもしないで黒い珠を操る

珠は棒状になり、槍を投げた者……ナードに真っ直ぐ向かって行った

これは破壊の槍と言ってもいい代物だ、当たれば終わる


ナードは身体をひねる事で回避する、

この程度であれば避けれない早さではなかったのだ


しかし、彼の選択は間違いだった


槍状になった破壊魔法からは枝のように無数の棘が生え、

さらに棘から枝のように棘が生える

3段階の変則的な刺突(しとつ)……これを避けれる人間は居るのだろうか?

ナードの身体には無数の穴があき、彼はほぼ即死だった


防具など関係ない、リリムの破壊魔法は問答無用に貫通している

彼女の破壊魔法を防ぐには最低でもミスリルが必要なのだ

ミスリルであったとしても完全に防ぐ事は困難だろうが……


リリムが少しずつ前進を始めると、

正門が開き、盗賊が20人向かってくるのが見える

大の大人たちが様々な武器を手に1人の少女を殺しに行く


正面の20人に向けて破壊魔法を横一文字に払う

何人かは避ける事に成功したが、

半数以上は上半身と下半身が別れを告げた


矢の雨は降り続いているが、

全て障壁に阻まれ効果はないと言っていい


油断しているリリムの頭上に1本の矢が迫る……

彼女は障壁は破られないと安心し切っているため見もしない

だが、今回の一矢(いっし)は別だった


彼女の頭上にある障壁へとぶつかった矢は爆音をあげて爆発する

ラルアース地方では非常に希少な"火薬"だ

爆音に驚いたリリムは足を止め、頭を庇うようにしゃがみ込む

しかし、彼女の心配をよそに障壁が破られる事はなかった


目をぱちくりと何度も見開き、

何が起こったのか分からない様子で辺りを見渡していた


この隙きに盗賊達は駆け寄り、一斉に攻撃を叩き込もうとしてくる

それは素早く下がった事と障壁により防ぐが、

リリムが反撃しようとして気づく……破壊魔法が無い


「えっ!?」


思わず声をあげるほど驚くが、

先ほどの爆発で驚いた時に精神が乱れ、魔法が解除されたのだ


「ひぃぃぃ~」


リリムが大慌てで後方へと走って行く

脱兎のごとくとはよく言ったもので、

彼女はまさに逃げるウサギのごとく物凄い早さで逃げて行く


盗賊たちが必死にそれを追うが、

彼女は最初の位置まで戻ると振り返った、そこで再び詠唱を始める


『させるかぁぁぁぁっ!!』


盗賊の叫び声が森に響く……が、彼がリリムへと到達する事はなかった

突如目の前の男が倒れ、続こうとしていた者たちの足が止まる


これは正しい判断だ


目を凝らしてよく見ると、彼女の周りには薄い紫の煙がある

これは最初にリリムが発動した"柔らかな眠り"という魔法だ

眠りと言っているが、彼女が使えるのは死の魔法であるため、

効果は柔らかな死を与えるものであるのは理解できよう


「破壊の理よ」


再び黒い珠が2つ出現し、今度は足を止めた盗賊たちが慌てて逃げ始める

しかし、リリムは追撃はせず、追いもしなかった

代わりに、す~っと息を大きく吸い込み大声をあげる


『話を聞いてくださ~~いっ!』


轟々と燃える炎を背に、少女の叫びは虚しくこだまする

ただ1人の少女へと向けられた殺意は聞く耳を持たず、

この無意味な戦いは続く……








今回でクガネ外伝は終えるつもりでしたが、

予定より長くなってしまったのでもう1話で完結です!


更新が遅くてごめんなさい、体調があまり良くないので気長にお待ちくださいまし。




おまけ




シルト

挿絵(By みてみん)




サラ・ヘレネス

挿絵(By みてみん)




シャルル・フォレスト

挿絵(By みてみん)




リリィ・○○○・○○○○○

挿絵(By みてみん)

多分みなさんが忘れた頃に出てくるキャラですw

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