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カタクリズム:中編  作者: ウナ
烏合の讃歌
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5章 第27話 Fall Out

【Fall Out】







その日は、世界の歴史に残るかもしれなかった日だった



ラルアース地方の宗教国家カナラン、

その首都たる聖なる都コムラーヴェに存在する六神教の総本山、

業火に包まれるコムラーヴェで唯一安全であるエリア、教会


もはや外へ続く門へと向かう道は閉ざされ、炎は街を喰らいつくしている

逃げ惑う人々の大半は煙や炎にまかれ、今は悲鳴すら聞こえてこない


教会はラピとディナ・シーの結界により守られ、

煙や熱はここまでは届かない


教会が周りの建物から少し離れているのもあり、

火災から逃げてきた避難民で教会内部はごった返していた

火傷をおった者も少なくないが、

ディナ・シーの結界に入る事で癒やされてゆく


それと同時に、この結界内では悪魔の動きは鈍くなり、

炎ですら火傷1つしないその肌は焼けただれる

そのため、下位悪魔はこの場に近寄ろうともしなかった


街は静まり返り、時折聞こえてくるのは木が弾ける音

建物が倒壊する音、すすり泣く人の声


何かが終わった……そう感じる者が多かった


しかし、聖都にはまだ悪魔が数百はいる

そして、その首領であるフルーレティもまだ健在だ


まだ何も終わってなどいない……まだこれからなのだ


幾人かの生存者を連れてサラとシャルルが教会へと戻り、

上空に待機するフルーレティの姿を確認する

かの悪魔はジーンと睨み合ったままだ


だが、既に時は動いている

真っ先に察知したのはディナ・シーだった


「どうしたの?」


ラピが心配そうに小柄な妖精であるディナ・シーを見上げると、

ディナ・シーはくるくると回ったり、

上空にいるフルーレティを何度も指差すだけだ


ディナ・シーは言葉を持たない

そのため、ジェスチャーで説明しようと必死だが、

ラピには何のことかさっぱり分からなかった


マルロとベリンダ、ジョージと子供たちが到着し、

子供たちを教会へと避難させ、マルロは空を見上げる


「あれが……なんて魔力なの……」


遠くからでも分かるほどの魔力だったが、

いざ目の前に来てみるとその威圧感、圧力は段違いだった


「ベリンダさん」


「なぁに~?」


気の抜けた声で彼女は振り向く


「ここを守ってくれますか?」


こことは教会のことだ

ベリンダは顎に指をあててしばらく悩むが、

空にいる存在を一瞥してから頷く


ベリンダがふわふわと教会の入り口に移動し、

そこへ陣取っているラピと目が合う


ラピの視線はベリンダの耳と胸を行き来し、

そして自分の胸を見て止まる


ベリンダの視線はラピの耳と髪に行き、

ニコッと微笑んでから中空でくるりと回る


「お仲間かしらぁ~?」


気の抜ける眠そうな声がラピへと向けられると、

ラピは本能的にこの人は苦手だと察した


「えっと……エルフですよね?」


「ハーフだけどねぇ~」


「へぇ……じゃあジーンさんと同じかー」


そこで会話は途切れる

何とも言えない気まずさと、沈黙の重さがラピの胃をキリキリと蝕む


しかし、彼女はこの場から動かないようだ

どうやっているのか分からないが常時浮いている彼女は、

エルフとしてはあり得ない胸の大きさだ


ハーフだとそういう事もあるのかー、ハーフもいいなー、

と考えていると、ある事に気づいたラピの視線は1点に集中する


思いっ切りパンツ見えてるんやけど!!


ベリンダはブラウスにジャンパースカートという格好だ

その格好のままふわふわと浮いているため、

背の低いラピにとっては丸見えなのである


え、あれって紐……?


ラピがくだらない事を考えていると、

黒い甲冑の2人が教会に到着する


上げられたバイザーから覗く2人の顔は整っており、

独特な空気が2人の間には流れている、その空気にラピは一瞬で気づく

自然と腰からメモ帳を取り出し、すらすらとメモを取る


だいぶ息が上がっている2人は寄り添うように座り、

ディナ・シーの結界内で回復しているようだ


これは……うん、いいね


ラピが何かに納得してメモを終える

すると、遠くからイエル達が見えてくる


「わー、みんないるんだー」


ラピはこの場からずっと動いていないため、

現在の状況がどうなっているのかイマイチ把握出来ていない

だが、続々と現れる顔見知りや気になる人物に、

ラピの胸は興奮と好奇心で高鳴っていた


イエルとミョルニルの面々が教会に辿り着き、

荒い息を整えていると、今度はエインやリリム達が見えてくる


入れ替わるように、休憩を終えた赤狼が立ち上がり、

再び出て行こうとした時に事は起きる


バイザーを上げたまま空にいる悪魔を見ていたオズワイドが、

胸に手をあて苦しみだしたのだ


「う、うぐっああぁ」


「どうした! オズワイドッ!」


心配するラングリットの手を振りほどき、

オズワイドは喉を掻きむしるように暴れまわり、

口の端から泡をふいて白目をむいていた


「何が、何が起こってる……」


ラングリットが拒絶された手を差し伸べられずにいると、

ラピが大慌てでシャルルを呼んだ


『シャルルー! こっちー!』


ものすごいスピードで駆けつけたシャルルが、

オズワイドの様子を見て尋常ではないと察するが、

彼女の目を持ってしても、何の症状なのか分からなかった


そして、オズワイドの右眼の白目部分が変色する……黒へと


「なにこれ、アタシもわかんない」


症状が分からない以上、下手に生の魔法をかける訳にもいかない

下手をすれば生の魔法により原因が活性化されてしまうからだ

その混乱する状況をジーンがチラリと見る


フルーレティはその時をずっと待っていた


ほんの一瞬、一瞬でも意識が逸れるその瞬間を待っていた

ジーンの集中力は並外れたものであり、一瞬の隙すらなかったのだ


これは、フルーレティの頭部に咲く花、

悪魔王ベルゼビュートの伏魔殿(パンデモニゥム)にて栽培した花の毒だ

彼女はその花を頭部に寄生させていたのである

そして、この花の毒には特別な効果があった……


感染したオズワイドはもがき苦しんでいたが、

今は落ち着きを取り戻し、四つん這いで息を整えている

駆け寄ったラングリットが何度も声をかけるが反応はない


突如、オズワイドは凄まじい量の血を吐き出し、

地面に血溜まりを作ってゆく


『オズワイドッ!!』


ラングリットが叫び、彼の両肩を掴むと


『触るな! いいから、俺から離れろ!!』


『いいわけないだろ!?』


そんなやり取りが行われている時、

ジーンへと一気に間合いを詰めたフルーレティの細い右腕に、

頭部の植物のツタが絡まり、まるで槍のように鋭くなる


ジーンが赤狼の方を見たのは0.1秒程度だっただろう

だが、その一瞬でフルーレティは間合いを詰めて来たのだ

彼女の植物の槍のような腕がジーンへと迫る……が


ギ、ギギギギ……


ジーンの持つ12枚の障壁により阻まれる

後ろに2枚の障壁を展開し、

衝撃に耐えなければ吹き飛ばされていたかもしれない


後部に展開した2枚の障壁が地面にぶつかり、

その部分だけ50センチ近くくぼんでいる……それほどの威力だった


フルーレティの連撃は止まらず、ジーンは防戦一方になる

このままでは押し切られると判断したジーンは、

障壁を操作し、後ろに大きく飛び退いた


「あれを防ぎますか……流石は元悪魔王ということですか」


フルーレティの声は高いのか低いのか分からない、

何とも言い難い耳触りの悪い声だった


その頃、オズワイドはふらふらと立ち上がり、

ラングリットの止める手を振り払う

ただそれだけの行動で、ラングリットの身体は吹き飛ばされ、

4メートル以上離れていた教会の壁へと激突した


「ぐ、はっ」


衝撃で意識が遠退いていく

視界は白くかすみ、オズワイドの瞳に涙が流れる横顔が見えて、

そこへ手を伸ばそうとして世界は白くなった


シャルルが駆け寄り、ラングリットの治療を始めると、

オズワイドはその様子をしわくちゃになった顔で見ていた


「ごめん……愛してる」


オズワイドは歩き出す、愛する者に背を向け、

今すぐにこの場を離れなくてはいけない


「ダメだ、ダメだ、持ってくれ、もう少しだけ」


何とか足を前へ前へと動かすが、

彼の意識は徐々に黒く染まってゆく……


「痛い……苦しい……殺してくれ……殺したい……」


オズワイドは必死に燃え盛る街へと向かうが、

遠くから走ってくる人物が視界に入る……エインだ


「ダメだ、来てはダメだ」


彼は届かない声を漏らしながら、ふらふらと炎へと向かう

しかし、足は思うように動かず、その場で転んでしまった

口に砂利が入り、不快に思うかと思ったが、どういう訳が感覚が無い


「オズワイド殿!」


エインが駆け寄り、膝をついて声をかける

すると、オズワイドは顔だけをエインへと向けて、

いまだ吐き続けている血まみれの口で彼に言った


「すまない……俺を殺してくれないか」


「何を……」


エインが目を丸くするが、彼のその表情と、

すがるように伸びた手に、エインは目を瞑る


「もうダメなんだ、このままじゃ愛する者を殺してしまう」


その声は震えていて、自身の死よりも愛する者の生を願っている


「頼むよ……たの……ごぼっ」


再び大量に血を吐き出し、オズワイドの両目は黒く染まった


「時間がないんだ……頼む、助けてくれ、俺は奴らになりたくない」


そう、この毒は……人を悪魔へと変える

オズワイドは自身の肉体の変化を正確に把握しているのだ


「頼む……ぐ、ごぉ」


オズワイドの肉体は限界だった

鎧の内部では変異が始まっており、その激痛に耐えている

エインは眼を開き、彼の手を取った


「引き受けます」


オズワイドの上体を起こし、

風切りの長剣を抜き、鎧の隙間、首元へと当てる

体重をかけ、ゆっくりと首元から心臓へと突き刺した


「ありが……とう………彼に……愛し……」


そこで言葉途切れる


銀の右腕は優しい炎を宿し、その炎は剣へと伝わる

神炎と呼ばれるものだ


神炎はオズワイドの中にあった悪魔の素……魔素を焼き尽くす


そのままの姿勢でエインは止まり、

救えぬ悔しさから歯を噛み締めていた


・・・・・


・・・



白くなった世界が徐々に彩りを取り戻してゆく

ほのかに暖かな光が全身を包み込み、

自分が水の巫女により癒やされているのだと気づく


ラングリットは自身の状況を理解し、

ハッ! と先ほどの事を思い出す


『オズワイドッ!!』


叫ぶ……が、先の位置に彼はいない

視線がゆっくりと辺りを見渡すと、

エインに抱かれるように倒れている彼が見える


彼の首には剣が刺さっていた


『貴様ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』


即座にバイザーを閉じ、黒い鎧に赤い光が宿る

弾丸のように飛び出したラングリットは、

そのまま抜剣し、エインへと斬りかかった


咄嗟のことにエインの反応は遅れたが、

距離があったため、オズワイドから剣を抜き、その一撃を受ける


アーティファクトの剣と剣がぶつかり合い、オレンジ色の火花が散る

エインの剣についた彼の血がラングリットの心をどす黒く塗り潰した


『お前を、殺すッ!』


ヘルムで見えないその瞳が憎しみに染まっているのが分かる

エインはそれを受けねばならない

自分は彼を殺したのだから……だが……


「俺にはやることがある、ここで死んでやるわけにはいかない」


エインはラングリットの剣を弾き、体制を立て直した

ラングリットの肩はわなわなと震え、

倒れているオズワイドが視界に入り、涙が溢れる


「どうして……こんなことに……」


両膝から崩れ、愛する者を抱き締めた

鎧で隔たれ彼の体温は感じられないが、

何よりも大事な存在が腕の中で冷たくなってゆくのが分かる


「エイン・トール・ヴァンレン……」


名を呼び、彼はバイザーを上げると、

その憎しみに満ちた眼差しをエインへと向け、彼は宣言した


「俺は、お前をこの手で、この手で必ず殺す」


ヘルムを閉じ、再び漆黒の鎧に赤い光が宿る

愛する者をゆっくりと横たわらせ、彼のヘルムも閉じる

血で汚れた彼の顔を見ているのが辛かった


オズワイドの鎧に赤い光は宿らず、

彼が死んだという事実が実感として胸をえぐる


「それが彼の望みだった」


エインがそう言うが、ラングリットは首を振り、

オズワイドの剣……三の剣を左手に持ち、

切っ先をエインへと向けた


「それがどうした」


声が変わった

憎しみを超え、彼の感情は波のない湖のように静かだ


「お前を殺すことに変わりはしない

 ………命乞いなど無意味だと知れ」


魔力は残り少ないが知ったことか、

この命を燃やせばどうとでもなる

あいつのいない世界になんの意味がある


ラングリットは一の剣と三の剣を手にし、

アーティファクト武器に残り少ない魔力を流す


「いくぞ、相棒」


・・・・・


・・・



外が騒がしくなり、ジョージ・マッケンジーは様子を伺っていた


子供たちはここにいれば安全だ、ならばと彼は腰を上げ、

少しでも神の姿をこの目にしたく、教会を抜け出し、

柱の影に息を潜めた彼は天を仰いだ


「あぁ……神々よ、なんと強大な御力」


両膝をついて祈りを捧げると、

彼は神々と同じ空気を吸っている喜びに震える

その空気を胸いっぱいに吸い込むと……


「ぐっ……ごほごほっ」


大量の血が口から溢れ出し、全身に激痛が走った

声にもならない声を上げ、陸に上げられた魚のように暴れまわる


次第に彼の鼻やまぶたはどろりと溶け落ち、

年齢によりシワだらけだった顔はつるつるの卵のような肌に変わる


「の、ぁ、んぁ……おぅ」


全身の痛みが徐々に消え、

妙な爽快感が脳から下半身へと突き抜けた


「なんですかこれは……まさか……」


神の奇跡……そう彼は確信した

それと同時に彼の脳内にイメージが浮かび上がる


「なるほど、それが神のご意思ですか」


明確な恩返しの機会を与えてもらい笑顔になったジョージは、

その不気味な顔のまま教会内へと戻る

教会内のほとんどの人は俯き、下を向いている

そのため、彼の異様な姿に気づいた者はほとんど居なかった


ディナ・シーの結界が肌を焼くが、その痛みがどういう訳が心地よい


「これは神の与えたもうた試練! よいですね!!」


その声に振り向いたのはマルロの保護していた子供たちだった


「なにあれ」


「ひっ」


おぞましい化物が教会内にいるではないか

だが、その化物が着ている服には見覚えがあった……ジョージの物だ


「え……」


最年長の少年がそれに気づき、

下から上へとジョージを見上げると、

おぞましい顔のジョージは気持ちの悪い笑みでしゃがむ


「おやおや、君は確か……あぁ、そうだ

 君等は神に感謝しなくてはなりません

 もちろん? 報いねばなりませんよねぇ……うふ」


シュッという風を切るような音がした

少年は、何だろう? と音の在り処を探るが、首が動かない

そして、視界は真横になり、自分の足が見えた


『神々に捧げましょ~~~~う!』


シュッ、シュッ、シュッと何度も風を切る音が響く

数秒遅れて子供たちの首が地面へと落ちた

やっと周りの人たちが事態に気づき、一斉に悲鳴が上がる


逃げ惑う人々の波に巻き込まれ、

ラピが悲鳴を上げるが、サラが救出し、2人は"それ"を視認する


「悪魔……いつの間に」


サラが抜剣し、ラピはその背に隠れる

騒ぎを聞きつけたベリンダが、ゆっくりと現れると、

う~~~ん、と唸ってこめかみを指で押す


「あれは~、殺して~、いいの~?」


ふわふわと浮く女性が突然そんな事を言い、

ギョッとしたサラだったが、言葉にせず頷く


「そうなんだぁ~♪」


ベリンダは中空で寝そべるような体制から真っ直ぐになり、

両手の人差し指を立てる


「う~ん……どれにしようかしらぁ~」


指をくるくると回しながら何かを悩んでいる

こんな変な女に付き合ってる必要はないのだが、

サラとラピは分かっているのだ、この女が巫女であると……


「おぉ、巫女様ではありませんかーーーっかっかっか!」


妙なテンションでジョージが高笑いをし、

何故かベリンダも笑い出す


「あっはっは~♪

 3・3・1・8・7、レー・レー・リー・ララ・レレ♪」


両手の人差し指をくるくると回し、

謎の数字と謎の言葉を並べると、

彼女の前方で何かが動くような気配がする

見えはしないが、確実に何かが動いている


サラの長い髪がそちらへと引き寄せられ、

本能的に1歩後ずさると、ベリンダは笑いながらジョージを指差した


「あっはっは~♪ 死んじゃえ♪」


刹那、ジョージの上半身は木っ端微塵に吹き飛び、

教会の壁には紫の血がが飛び散る


「うわ……」


サラとラピが風の巫女の力に恐れると同時に、

笑いながらそれをするこの女に引いていた


まさに瞬殺だった

浮いている時点で相当腕が立つとは思っていたが、

無邪気に遊ぶように殺すとは思わなかったのだ


教会から溢れた人々に気づいたマルロは、

中で何かあったのかと心配になって戻ると、

そこには木っ端微塵になった悪魔の死体と、

子供たちの頭部の無い死体が転がっていた


「は、え……?」


理解が追いつかない

"それ"が誰だったのか分かるはずなのに分かりたくない

だが、現実はありありとその場にあり続けている


「ヨシュア、メリル、ナイルズ、ラキア、リジー、サナルス……?」


子供たちの名を呼ぶ……すると、したくもない実感が内から溢れてくる


「あれ……あれぇ……」


マルロの目は泳ぎ、全身から汗が吹き出す

膝は笑い、寒くもないのに寒気がし、

何か暖かいものをと手を伸ばす……が、そんなものはありはしない


その時、ふとクガネの顔が頭の中をよぎり、

ミスリルゴーレムとの戦いの中、彼が受けた致命傷や、

死の神復活により、糸が切れたように崩れた彼を思い出し、

マルロの中に溜まりに溜まっていたものが溢れ出す


ぽろぽろ、ぽろぽろと溢れ出す


「世界は……悲しすぎます」


マルロが大粒の涙をぽろぽろと流しながらつぶやく

その声は誰へ向けたものでもない




「こんな世界………………………なくなってしまえばいいのに」




マルロの両目から血の涙が流れ、

彼女の着る法衣がバサバサと揺れ始める


「何、この魔力……っ!」


ラピがしかめ面で言うと、サラは全身の毛が逆立ち、

何か起こると察知してか、ラピを抱えて教会の外へと飛び出した


外にはリリム、シャルル、アシュ、プララーがいるが、

サラは叫びながら通り抜ける


『逃げてっ!』


ベリンダは教会内に残っており、

マルロの変わっていく魔力に見惚れていた


《……時は来た》


神の声が脳内に響く

誰もがその声に恐れ慄いた




運命は、軋みを上げて動き出す




マルロの黒目は十字へと変わり、緑色だった瞳は黄金に染まる

更に、彼女の頭上に光が集まる

ピシッピシッと氷が割れるような音がし、"それ"が現れた


少女の背から黄金に輝く光の翼が生える


彼女の頭上に集まる光は徐々に形を成し、

欠片だったそれは徐々に半月状になり、

それは少しずつ円へとなろうとしていた


挿絵(By みてみん)




「なにもかも……なくなってしまえばいい」




大変動(カタクリズム)の始まりだ


カナラン編、楽しんでもらえてるでしょうか?

いやぁ……すごいことになりましたね?


ここで1つ小ネタを、ジョージ・マッケンジーですが、

元ネタは「グレイフライアーズ・カークヤード」のジョージ・マッケンジーです。

1000人以上を拷問で殺した狂人ですね。


またの名をブラッティ・ジョージ(マッケンジー)。

彼が悪魔の血を全身に浴びた事でブラッティになったとも言えるのです。


ちなみにグレイフライアーズ・カークヤードとは、

世界で一番心霊現象が起こる場所(墓地)としても有名です。


ではでは、次回もお楽しみに!

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