5章 第24話 運命
【運命】
この世界は定められた運命に沿って時を刻んでいる
それは無数にある未来の中から、様々な要因で選ばれた1つの世界
人の意思を越え、禍福を強制的に与えてくる力……
それは人々から"運命"と呼ばれている力……
世界には無数の可能性があるが、選ばれたものを人は運命と呼ぶのだ
何が運命に作用するかなど誰にも分からず、
どんな未来があるのかも分からず、
人では到底干渉出来ない選択肢が無数にある事など誰も知らない
そして、今カナランという国に一人の女性が降り立った事により、
無数にある未来の中から1つの未来が選択された
この国、カナランが滅ぶ未来が確定したのだ
運命が決まった瞬間である
この時は誰もその事に気づけはしない
後から「もしあの時……」と考える事は出来るが、
今この段階で気づける人間など存在しないのだ
だが、気づけないのは"人間"であり、
人を超えし存在……"神"は別だ
ラルアースに存在する六神は選択された未来を感知し、
即座に最善と思われる行動に移っていた
その結果、彼女がカナラン聖都コムラーヴェに足をつけるとほぼ同時に、
コムラーヴェを囲むように遥か上空に六神が現出した
神々の圧倒的な魔力が国を包み込み、
その場にいた誰もが空を見上げ、恐れ戦いた
獣、魔物、人、悪魔、種族も性別も問わず、戦いた
生・水・地・死・風・火……六柱の神は円陣を組むように並び、
何をする訳でもなく、何を言う訳でもなく、じっと地上を見据えている
神々の登場に誰もが動きを止め、何が起こるのかと身構えるが、
一向に何か起きる気配もなく、しばらく静寂が支配した
そして、しびれを切らした者から動き始める
最初に動いたのはシャルル・フォレストだ
彼女は火災や下級悪魔から逃げる人々を助けている
シャルルが動き出した事により、サラも動き始め、
二人の懸命な救助は続いていた
彼女たちを皮切りに世界は動き出す
下級悪魔たちは殺戮を再開し、人々は逃げ惑う
しかし、神々が現れる前から膠着状態だったジーンとフルーレティは、
未だに一歩も動こうとはしていなかった
だが、ジーンやフルーレティは何もしていない訳ではない
魔力感知と魔法障壁操作は行っているのだ
神々の動向も気にはなるが、今は眼前の敵に集中しなくてはいけない
ジーンは一瞬でも隙を見せたら終わりだと確信していた
それほどの相手なのだ、第2位階フルーレティという悪魔は
アスタロトが何やら騒がしく言っているが、
その言葉に耳を傾ける余裕すらない
ほんの僅かでも気を緩めたら殺される……そう断言出来る
魔力だけなら自分の方が上なのは間違いないだろう
しかし、魔力は強さとイコールではない
魔法が使えない今のジーンでは、この悪魔に勝てるか怪しいのである
何を考えているのか分からない神々は当てにならないため、
神々に期待するなどという事は愚策であり、
今自分に出来る最善を導き出す、ジーンにはその選択肢しかないのだ
神に期待しない自分が本当に悪魔のようで少し可笑しくなるが、
おかげで張り詰めていた心は良い感じに緩み、頭は冴えてきていた
『ラピ! 私にエペタムを!』
ジーンが叫び、その声はラピに届く
少女は一瞬焦るが、一度頷いてから詠唱を始めた
「カントより、おいでませっ!」
ラピの詠唱が完了し、黒い穴からエペタムが顔を出す
それと同時にラピの鼻から血が流れた……
ディナ・シーと同時召喚は彼女への負担が凄まじいのだ
「エペタム、ジーンさんを!」
ラピが指差すと、雷をまとった狼であるエペタムは中空を駆ける
ジーンの背後で停止したエペタムから雷が放たれ、
彼女の背に落ち、全身から力がみなぎってくる
『助かったわ、ラピ!』
目線こそ向けないが、珍しいジーンの感謝の言葉にラピは微笑んだ
鼻を袖でこすり、ラピは気合を入れ直す
教会には大勢の人々が集っており、その全てが回復対象者だ
ディナ・シーはそこら中を飛び回り、鱗粉を撒き散らす
ラピから生の魔力を受け取ったディナ・シーは高く舞い上がった
『活性ッ!!』
ラピが叫ぶと鼻から再び血が流れる
それほどの魔力をディナ・シーに譲渡したのだ
そして、ディナ・シーにより増幅・拡散された生の魔力は、
辺り一帯にいる火傷などの負傷者を急速に癒していく
光の輪が教会を取り囲むように広がり、七色の光が降り注ぐ
その範囲内にいる全ての者はこの美しく不思議な光景に目を奪われた
先程、神々が突如現れた事と合わさり、
まるで神話の類が目の前で起こっているのでは? と錯覚するほどだった
・・・・・
・・・
・
一方、コムラーヴェの中央通りに降り立った巫女3人は、
聖都の惨たらしい状況に胸が痛くなっていた
ベリンダだけは楽しそうに辺りを見渡していたが……
彼女にとっては全てが新鮮であり、
燃え盛る都もまたワクワクする事でしかないのだ
そこに悪意など一切なく、純粋な好奇心だけである
怒りに震えるイエルは、ギリッと歯を噛み締め、
溶焔の宝玉を持つ手は震えていた
彼女のたくましい筋肉はいつもより膨らみ、
宝玉にかなりの力が加わっている事が伺える
マルロは目に涙を浮かべ、ぐるりと辺りを見渡し、
現在地を把握した彼女は目的の場所、六神広場へと駆け出した……
「ベリンダ、ついて行ってやんな!」
「はぁ~い」
ふわふわと浮きながらマルロの後を追う風の巫女の後ろ姿を見送り、
イエルは上空にいる神々と、強大な力を持つ悪魔を見据える
「あれが親玉さね……この距離でも分かる、あれはとんでもないね」
正面から走ってくる悪魔を目視し、
イエルは宝玉を構えて詠唱を始める
「炎の乱流よ、仇なす者を灰と化せ」
辺りの民家を包む炎が集まり、渦を作ってゆく
その渦は真っ直ぐに悪魔へと向かい、飲み込み、
竜巻のようにねじれた火柱が上がる
ごぉぉぉぉ…という低い音と熱風が渦巻き、
イエルが宝玉を下げると同時に火柱は消え失せた
そこに残っているのは灰と化した悪魔の死体……
と思ったが、そうはいかなかった
イエルは初めて悪魔という存在と対峙している
そのため、彼女は知らなかったのだ
悪魔と呼ばれる存在の全てが、火に強い耐性を持っている事を……
「なっ」
これは予想していなかったイエルはたじろぐ
だが、耐性を持っていると言っても完全に効かない訳ではない
向かってきていた下級悪魔の皮膚は溶け、
筋などが剥き出しになってはいた
溶けた皮膚がくっついたのか、悪魔は動きにくそうにしており、
その隙がイエルの追撃のチャンスとなった
「溶焔の下僕よ、来なっ!」
溶焔の宝玉が紅く輝き、大地が迫り上がり、
その大地に辺りの炎が集まって形を成してゆく……
燃え盛る岩……溶岩で形成された魔法人形が誕生した
イエルは火や熱から身を護る魔法が付与されている法衣を着ている
そのため、この魔法人形が近くにいても平気だが、
この魔法人形から放たれる熱量は、普通の人なら即座に発火するものだ
この熱が問題で、仲間がいる普段は使いにくい魔法なのである
「こいつはオマケさね、受けとんな」
イエルが宝玉を構えると、
魔法人形の片腕に溶岩で出来た棍棒のようなものが作り出される
そして、彼女は顎をクイッと動かし、命令を下す
2メートル近くある魔法人形は見た目こそ不格好だが、
成人男性が全速力で走るよりも早く動いていた
その勢いのまま棍棒を振り、悪魔の脇腹にめり込む
骨の折れる音、肉の千切れる音が鳴り、
3メートル近くある悪魔の巨体は吹き飛んでゆく
悪魔の身体は民家の壁を突き破って姿は見えなくなり、
起き上がってくる気配はなかった
イエルは辺りの炎を集めながら魔法人形と共に進み、
彼女の頭上には巨大な火球がついて回っていた
火の巫女は火を自在に操る事が出来る
彼女はその力を使って火災を消して回ったのだ
そして、集めた炎は攻撃手段として頭上に確保している
そのイエルの前に再び悪魔が2体現れた
先程と同型の悪魔で、ワニのような頭を持つ悪魔だ
イエルは魔法人形に命令を下し、2体の悪魔と戦わせる
呪文を詠唱する時間を稼がなくてはいけないため、
彼女たち魔法使いには前衛は大事なのである
だが、下級悪魔程度なら魔法人形だけでも問題無いようで、
イエルは悪魔が息絶えるのをじっと待つだけでいい
悪魔の攻撃で傷ついたとしても、魔力を供給して直せばいいからだ
しかし、その油断が隙となり、
彼女は家を挟んだ横から突進してくる悪魔に気づかなかった
悪魔は家を破壊しながら進み、目的の女に狙いを定める
咄嗟の事で後ろに飛び退く事しか出来なかったイエルは、
悪魔の巨体をかわし切れず、このままでは直撃する……そう思った瞬間、
悪魔の頭部はぐしゃりと潰れ、その場に叩き伏せられる
「な……んだい、あんた」
大きな槌を持った筋肉質の女は、それを軽々と振り回し、
爬虫類のような瞳でイエルを見て歯を見せた
「よゥ、巫女サま」
女の名はニール・グレイヴという
死蝶のニールの名で知られる元2等級冒険者だ
彼女の背後には華奢な少女と、
異様なまでに筋肉が発達した男が立っている
少女の名はリグレット・ロワ、男の名はエイグット・ロワという
彼女達はコムラーヴェの外れにある宿に泊まっていたが、
この騒ぎにチャンスを見出し駆けつけたという訳だ
カナランで冒険者を始める気だった彼女達ミョルニルは、
3等級冒険者からのスタートとなるだろう
2等級までの道のりは険しいものとなるのは確実であり、
こういった千載一遇の好機を探していたのだ
この騒乱で活躍すれば、それは大きな実績となり、
冒険者としての評価に直結する……それが狙いである
身体的には色々ガタが来ているが「今は動く時」そう判断したのだ
「あタし等は"ミョルニル"ってんダ」
この異様な姿の3人組を見てイエルは言葉に詰まる
少女と男には黒い紋様が体中に描かれており、
筋肉質の女の皮膚にはウロコ状のものすら生えている
どう見ても真っ当な人間ではないのは明らかだ
だが、先程の一撃……戦力としては申し分ない
後ろの2人の魔力も常人のそれではない
そして、この常軌を逸した状況では猫の手も借りたい状態だ
「手伝ってくんな」
イエルは彼女たちに着いてくるよう言い、彼女たちはそれに従った
巫女の手伝いともなれば本来であれば1等級クラスの仕事だ
これはまたとないチャンス……思わず笑みがこぼれる
「"あれ"には近づくんじゃないよ、火傷じゃ済まないさね」
"あれ"とはイエルの作り出した魔法人形だ
この火の海と化しているコムラーヴェでも、
魔法人形周辺の景色が歪むほどの熱量を放っている
「了解ダ」
「えぇ」
返事をしたのは2人だけだった
筋肉が膨張したような見た目の男は黙っており、
見えているのか分からない白目で辺りを見渡していた
そんな彼女たち4人に狙いを定めている者がいる……悪魔だ
名を「レウコシアー」という第5位階の悪魔である
魔力量こそそれほどでもないが、とても厄介な力を有している
肘から先の両腕が翼になっており、
頭部からも2枚の大きな翼が生えている
夕日に沈む太陽のような大きな瞳をした女性のような悪魔だ
足は鋭い鉤爪のある鳥のようであり、
美しさすら感じる身体には不釣り合いにも思えた
レウコシアーが建物の上から隙を伺っていると、
イエル率いる彼女たちが走り始める
先頭をニール、続いてイエル、エイグット、リグレットといった並びだ
好機……レウコシアーにとって獲物を狩りやすい形となった
元々最後尾のリグレットを狙っていたのだ
彼女は一番華奢であり、狙うなら弱い者から、そう決めていたのである
頭の翼を静かに羽ばたかせ、ふわりと浮き上がる
そして、両翼を大きく動かして勢いをつけ、
即座に身体につけるように閉じて滑空する
その速度はかなりのもので、音もほぼしないものだった
狙いは寸分違わず、リグレットの背中目掛けて滑空してゆく
残りの距離が5メートルほどになった時、
レウコシアーはくるりと身体を反転させ、その鋭い鉤爪を向けた
人形のような綺麗な少女の背に鉤爪が迫る……が、
その醜い鳥の足は少女の背には届かなかった
ベキュッ! と鈍い音を立てて足が折れ曲がり血が吹き出す
レウコシアーが叫び声を上げるが、足を掴む者は離しはしない
エイグット・ロワ
リグレットの弟であり、元は美しい少年だった
だが、今の彼は筋肉隆々の男であり、その力は人の域ではない
彼はそのままレウコシアーを地面へと叩きつける
何度も、何度も……動かなくなっても叩きつけていた
美しかったレウコシアーの肉体はもはや肉の塊と化し、
身体のあちこちが千切れ、辺りに散乱していた
「エイグット……もういいよ」
リグレットの声で動きを止めたエイグットは、
パッと手を離し、引きつった笑みを向けてくる
イエルから見ればその笑顔は恐ろしいものだったが、
ニールとリグレットはその笑みに微笑み返していた
そんな彼女たちの上空に2体の悪魔が舞い降りる
先程と同種族の悪魔のようで、2体とも同じ見た目をしていた
悪魔の名は「テルクシエペイアー」「リゲイアー」といい、
種族名は「シーレーネス」という三姉妹である
姉妹を殺された事に怒りをあらわにしている様子だ
この三姉妹には役割があった
先程エイグットに殺されたレウコシアーは"白"とも呼ばれ、
姉妹の使う特殊能力を解除する役割があったのだ
そして、リゲイアーが上空から彼女たちに向けて声を上げる
イエルたちの耳には何も聞こえなかったが、
瞬時にその声の本質を理解する事となる
聞こえない音が届いた瞬間、全身にものすごい圧力を感じ、
地面はひび割れ、体内から内蔵がこぼれそうな感覚に襲われる
マズいと思ったニールが声を出そうとするが、
この領域で音は発生させられない
リゲイアーの別名は"金切り"という
この悪魔の声は超音波に似たものとなり、
リゲイアー特有の能力により音そのものを封じる効果もある
魔法使いにとってそれは致命的な攻撃と言えるだろう
この音の範囲では詠唱が出来ないのだ
そして、テルクシエペイアーもまた口を開き、歌を奏でた……
悪魔の歌声は音の無いこの領域にも響き渡り、
エイグットが苦しみ、両手で頭を抱えて暴れまわる
歌はスローテンポな低い音で、お世辞にも上手いとは言えないものだ
女性陣にはそうとしか感じられないものだったが、
エイグットだけは違う……もがき苦しみ続けている
地面を叩き、自身の顔面を殴り、
叫び声を上げようと必死に口を大きく開いてる……が、音は出ない
曲調が変わるとエイグットの様子も変わり、大人しくなる
その後、歌が止むと同時にエイグットは拳を振り上げた
リグレットへと向けて……
嘘でしょ?
そう言いたかったが音が出ない
リグレットは涙目で弟を見るが、弟の瞳には彼女は写っていなかった
血の涙を流し、上空のテルクシエペイアーを睨んでいたのだ
振り下ろされた拳はニールが大槌で受け、
彼女の身体は吹き飛び、建物の壁を突き破った
テルクシエペイアーの別名は"魅惑"
彼女の歌声は男性のみに効果があり、
その歌声に抗う事など叶わず、意のままに操られてしまう
しかし、シーレーネスの歌にも弱点はある……
エイグットは二撃目をリグレットへと振り下ろそうとすると、
先程ニールが壁を突き破った建物が炸裂し、
蝙蝠のような翼の生えたニールが現れた
彼女はその勢いのままエイグットへと突撃し、
彼の巨体がふわりと浮き上がる
「男なラお姉チャんは守ルもんダろ」
ニールのその言葉は届いてるのか分からないが、
エイグットはテルクシエペイアーを睨んだままだった
そして、ニールの一撃でエイグットは吹き飛び、
燃え盛る家屋へと消えてゆく
その隙にニールは上空にいる2体の悪魔を睨みつける
翼を大きく羽ばたかせ、一気に上昇した彼女は、
音を封じているリゲイアーへと一直線に向かい、
大槌を振り回すが……予想より動きが早く、捉える事は難しかった
だが、ニールの攻撃で意識が逸れたのか、
リゲイアーの金切り声は止み、一瞬だが音が戻ってくる
その一瞬をイエルは逃さなかった
「山茶花舞う劫火の調べ」
イエルの左手から淡い赤色の炎が鞭のように伸び、
螺旋を描きながら上空いるテルクシエペイアーへと向かってゆく
再び音が消えるが、もう魔法は発動した後のため効果はない
炎の鞭はうねりながらテルクシエペイアーへと迫り、
4枚の翼で逃げ回るが、鞭の速さには及ばなかった
足を掴まれたテルクシエペイアーは苦痛の叫び声を上げる
掴まれた部分が一瞬で焦げ、強烈な痛みが走ったのだ
だが、それだけでは終わらない……
イエルが全力で鞭を振り下ろし、
テルクシエペイアーの身体がクンッと地面へと引き寄せられる
いくら翼を動かそうが、その勢いは殺せはしない
地面へと叩きつけられたテルクシエペイアーは、
慌てて体勢を立て直そうとするが、気がつけば視界が歪んでいた
大火災とは言え、いくらなんでもこの熱量はおかしい
そう思ったテルクシエペイアーは辺りを見渡すが、
自分の背後にいる存在に気づき、小さく悲鳴を上げた
尋常ではない熱量の魔法人形、
それが自分の背後で棍棒のようなものを天高く掲げていたからだ
そして、それがテルクシエペイアーが見た最後の光景だった……
一方、ニールは……ついにリゲイアーを捕まえ、
頭の右の翼を引き千切り、顔が苦痛に歪んだところへ、
強烈なミョルニルによる一撃を顔に叩き込み、
リゲイアーは頭部の原型を保っていない状態で墜落した
ゆっくりと降りてきたニールがため息をもらしていると、
リグレットがエイグットが消えた燃え盛る家屋に向かって叫んでいる
『エイグットー! 返事なさい!』
いくら呼んでも反応はなく、半ば諦めかけた時、
家屋が倒壊して粉塵が舞った
リグレットは膝をつき、涙を流して俯いている
その横にニールは立ち、俯いた彼女の小さい頭を撫でていた
しかし、イエルの一言で彼女たちは顔を上げる
「あの子なら平気さね、この先の三叉路で合流出来るはずさ」
「ホントか!?」
「あぁ……良かった……良かった……」
リグレットが大粒の涙をポロポロと流し、
ニールは笑顔で彼女の頭を撫でる
「さぁ、行くよっ」
イエルが歩き出すと、彼女たちもそれに続く
この燃え盛る聖都に行き場などあるのか分からないが、
今は一歩でも進むために彼女たちは足を動かす
前へ、前へ
・・・・・
・・・
・
エイン達一行は馬車を借り受け、大急ぎで走らせている
そして、ようやく聖都コムラーヴェを目視出来る距離まで来ていた
しかし、上空に座する6柱の神々の存在感が、
この先に待ち受ける激戦を予感させていた……
「なぜ神々が……」
エインの呟きに、隣に座るリリムは自分の考えを口にした
「この地に災いが迫っているのかもしれません」
巫女の一言はそれだけで重みがある
アシュとプララーは目線を合わせ、黙って頷いた
その様子を見ていた赤狼の2人は手を取り合い、静かに肩を寄せ合う
「あらぁ~? お二人は"そういう"関係なのかしらん?」
プララーが赤狼の2人に尋ねると、彼らはバツが悪そうにハニカム
それが答えと受け取り、プララーは満面の笑みで言う
「羨ましいわぁ♪ あやかりたいわねぇ、アシュちゃん☆」
プララーがアシュの肩に手を置いてウインクすると……
「は? ぶっ飛ばずぞ、カマ野郎」
アシュは「うげぇ……」と吐く真似をする
「誰がカマ野郎だ!ゴラァ!」
いつも通りプララーがキレ、2人の取っ組み合いが始まる
エインはやれやれと後ろの様子を伺ってため息をもらす
正直に言うと馬車で暴れるのは危ないのだが、
彼らのこれはコミュニケーションの一環のようで、
本気の喧嘩という訳では無さそうなので止めない事にしていた
バテン隊長はよくこの2人をまとめておられたな……
隊長という大役を任され、エインは自分に出来るのだろうかと悩んでいた
自分はまだ若く、視野が広いわけでもない
そんな若輩者の言葉を聞いてくれるだろうか?
実際、アシュとプララーはあまり乗り気ではないようだ
やはり実力不足なのだろう……
エインの思考がネガティブになりかけていると、
隣のリリムがエインの銀の腕に触れ、微笑んでくる
その微笑みはとても可愛く、美しいもので、
胸が高鳴るのが分かるほどだった
その高鳴りを気づかれたくなく、エインは姿勢を正す
「行こう」
ただそう言って馬を走らせる
・・・・・
・・・
・
運命は動き出した
無数にある未来の中から1つが選ばれ、
選ばれた未来へと真っ直ぐ事は進んでゆく
6神、5人の巫女、神の勇者・使徒、悪魔……
必要な駒は無意識にここへと引き寄せられてゆく
まるで何かの意思が働いているかのように……
"運命"と呼ばれる力によって、歴史は紡がれる
運命は定められている、誰がそう決めたのだろうか?
人は抗う事など出来ず、ただ受け入れるしかないのだろうか?
そして、彼らは知る事となる
運命すら断ち切る力の存在を……




