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カタクリズム:中編  作者: ウナ
烏合の讃歌
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5章 第22話 信仰のヤミ

【信仰のヤミ】





ミラが引き連れる軍が主戦場であるリーン砦に着き、

終戦を告げ、逃げ惑う兵達をまとめ、その数が膨れ上がった時、

彼女に付き従う2匹の狼……赤狼に命じる


ラングリットとオズワイドは早馬に乗り、

神の勇者候補であるエインの元へと向かっていた


軍が大きくなった事により、彼等の護衛が必要なくなり、

南へと向かう悪魔の大軍を目にしたミラは、

少しでも彼等の力になればと赤狼を送り込んだのだ


ドラスリア軍の宮廷魔術師による魔力感知により、

膨大な魔力を持つ死の巫女リリムの位置は特定でき、

一直線に道なき道を進む


その結果、すぐに合流することが叶い、

彼等に終戦を伝え、共に南……「カナラン」へと向かう事となった


神に選ばれし者達は悪魔を追い、カナランへと向かう

その先に待つであろう熾烈(しれつ)な戦いを想像し、

不安を胸に歩を進めるが、その足に迷いはない


一方、ひと足先にカナランへと逃げた2等級冒険者ミョルニルは、

傷を癒やすためにコムラーヴェの外れにある宿に部屋を取っていた


「モう国にハ帰れねェかもな」


窓の外を眺めていたニールがそう呟く

彼女は胸辺りから広がる殺意や破壊衝動を抑え込み、

今は穏やかな表情すら浮かべている

だが、その顔は少し淋しげでもあった


街に入るだけで面倒な手続きがいるコムラーヴェは、

正直好きではなかったが、今は贅沢は言っていられない

更に、コムラーヴェでなければ冒険者として活動するのは難しいのだ


各国の首都に冒険者組合本部は存在している

それなりの街であれば出張所もあるが、

仕事量は圧倒的に本部の方が多い


王太后の命令を放棄し、逃げてしまった自分達は、

おそらくドラスリアでの活動はもう無理だろう

夢の1等級も水の泡だ


更に国の違う組合に登録する場合、厳しい審査を受け、

等級が割り振られる事となる……が、

2等級に選ばれる事はまず無いと言っていい


一度3等級に落とされ、そこから地道に実績を重ね、

余程運が良くなければ2等級までは長い年月がかかってしまうだろう

しかし、それは仕方のないことだ


「命あッテの物種だヨナ」


チラリと寝ているエイグットを見ると、

姉のリグレットが心配そうに彼の顔を覗き込み、

タオルを水に濡らし、絞ってから身体中を拭いている


肉体の変異は戻せそうになかったが、

エイグットの意識は僅かに戻りつつある、

それだけが彼女らの救いだった


・・・・・


・・・



その頃、出口を探すサラの耳に大勢の足音が届き、

山積みにされた木箱の物陰に身を隠していた


物陰からそっと顔を出し、何かの儀式場らしき部屋を見渡す

中央の祭壇には棺のような形の台座がある

人が1人寝れる程度の大きさのものだが、

幾つか窪みがあり、そこから細い溝が彫られている


よく見ると地面にも細い溝が彫られており、

何かの円形の魔法陣のようにも見えた

その円を囲むように12本の柱が並んでおり、

その1つ1つに呪術的な文字と紋様が彫られている


薄暗く、どういった魔法のものなのかは分からない

仮に見えたとしても、サラの知る魔法は少ないのだが、

危険なものだという事だけは分かっていた


それは、臭いのせいだ


この部屋はあまりにも濃厚な血の臭いがする

石で出来た祭壇のあちこちにあるシミが、

彼女に嫌な想像をさせていた


先ほどの足音が徐々に近づき、フードを目深にかぶった集団が現れ、

儀式の準備なのか、無数のロウソクを灯し始めた

すぐに室内がオレンジ色の暖かい光で照らされ、

この部屋の全貌が明らかになり、彼女は目にする、

以前にも見た事のある魔法陣を……


…………悪魔


サラの全身から冷たい汗が吹き出す

ゴクリと喉を鳴らし、喉が乾いている事に気がついた


彼女が見たのはジーンが作り出した魔法陣に似たものだった

あれほどの恐怖によって焼き付けられた記憶は簡単に消えるものではない

そんな彼女が見間違うはずがない


フードの集団は徐々に増え、今は30人はいるだろうか

それぞれ腰に短剣を差しており、

そのローブには六神の紋章である六芒星が刺繍されている


だが、地面にある魔法陣は違う

あれはジーンが描いたものと同じ五芒星だ


更に、見た事がある四種類の紋章の柱が四方にある

それは火・水、地、風を司るもので、

サタナキアを召喚した時のジーンも使っていた紋章だ


他の柱の紋章までは分からなかったが、

それだけで確信に近いものを感じている

これは間違いなく悪魔に関するものだ、と


そうこうしていると、フードの集団が子供たちを連れてくる

嫌な予感がしたサラは飛び出すか悩んでいた


儀式場の構造上、剣を振り回すには向かない

そして、相手は成人男性が30人以上はいる

この狭さにこの人数では俊足も活かせないだろう


突き主体で戦った場合、囲まれたら一巻の終わりだ

かと言って剣を振り回す事も叶わないため、

今のサラにはこの状況を打破できるビジョンが見えなかった


どうしよう……何か……


焦りから落ち着きなく尻尾が動き、目をキョロキョロと動かす

辺りを念入りに見渡すが打開策は見出せなかった


その頃、連れられた子供たちは一列に並ばされ、

先頭の少年は儀式場の中央、祭壇へと引きずられて行く

少年の抵抗など無意味で、呆気なく彼は祭壇へと寝かされる


「捧げる」


1人の男がそう呟くと、

それに続くように全員が声を合わせて同じ言葉を呟く


そして……悲鳴が響き渡った


少年の手足はフードの男たちの四本の短剣で貫かれ、

棺のような祭壇に打ち付けられる形となった


短剣は祭壇にある窪みに合わせて刺されたようで、

幼い少年の悲鳴が上がる度に、汚れを知らない真紅の血が流れ、

窪みに血が溜まり、溝へと流れてゆく……


少年の絶叫は次第に弱くなり、ぐったりとすると、

剣が引き抜かれ、少年は再び叫ぶ

激痛で意識を失ったのか、すぐに静かになり、

彼はフードの男に担がれ、別の部屋へと運ばれて行った


サラは怒りで手が震えるほどだったが、

無闇に突っ込めばどうなるか理解しているため、

歯を食いしばって耐えていた


そして、2人目の少年が祭壇へと引きずられて行く……


それを見ている事しか出来ないサラは、

悔しくて、苦しくて、唇を噛み締める


ダメ、私が捕まったら終わり……何か手を考えなきゃ


深呼吸をし、少しでも冷静さを取り戻そうとした時、

少年の叫び声が室内に響き渡る


「……ッ!」


サラの目はこの光景を余すことなく見ている

耐え難いこの光景を、彼女は見ずにはいられなかった

そして、彼女は気づいてしまう、短剣を刺す男の口角が上がった事を……


『人間ッ!!』


無意識で叫び、無意識で飛び出していた

双角獣(バイコーン)のブーツの力を使い地面を蹴った彼女は、

鋭い矢のように一直線に短剣を刺す男へと向かう


空中でミスリルロングソードを抜剣し、

同時にフードの男の1人を蹴飛ばし更に加速する

身体を捻りながら柱の間をすり抜け、

目標の男、口角を上げた男の短剣を持つ手の指を四本斬り落とした


そのままの勢いで正面にいた別の男を蹴飛ばして止まった彼女は、

一瞬たりとも迷うことなく次の行動へと移ってゆく

少年の手足を刺している男たちの手を次々と斬り、

男たちが叫び声を上げると同時に、フードの集団は一斉に動いた


全員が短剣を抜き、彼女を囲むように陣取る

こうなる事は分かっていた、分かっていたけど自分には無理だった

あのまま子供たちが傷つくのを見ている事は出来なかった


……ここで死ぬのかな


サラは一瞬そんな事を考えてしまうが、

すぐにハーフブリードの皆を思い出し、剣を持つ手に力を込める


死ねない……死ねない!


だが、サラには人殺しが出来ないのだ

この危機的状況でも彼女は急所は狙わず、必死に剣を振るい続けた


フードの男を11人倒した時、

息が切れ始め、一瞬だが隙が出来てしまう

その時を待っていたかのように男たちは一斉に飛びかかった


成人男性の腕力で抑え込まれ、身動きが取れなくなったサラは、

必死に暴れて2人ほど蹴飛ばすが、その足も2人掛かりで掴まれる

男に触れられる嫌悪感と、迫る死の恐怖から吐き気がするが、

それでも彼女は必死に抵抗を続けた


しかし、その抵抗は無駄だった


両手足をそれぞれ2人ずつで抑え込まれ、

大の字に寝かされた彼女に1人の男が跨がり短剣を振りかざす……


挿絵(By みてみん)


やだ……助けて………助けて……ッ


「シ……ルトさん……」


涙が溢れていた

幼い頃から助けてくれた"私だけの英雄"はもういない

名前を呼んでも手を伸ばしても、彼はいない


やだ……会いたい……


『シルトさんッ!!』


彼女の悲痛の叫びは彼には届かない

代わりに、ある老人がその声に応えた


「待ちなさい」


男の名はエレアザル・オシニス

六神教の大司教であり、カナランの事実上のトップである

彼の登場にローブの男たちから歓声が上がり、

数人の男達がサラに倒された者を引きずって道をあけた


ローブの裾を持ち、ゆっくりと歩くエレアザルは、

サラの頭上で立ち止まり、彼女を見下ろす


「……亜人風情が」


どこまでも冷たい目で見下ろす彼の口から洩れた言葉は、

今までの彼からは想像もつかない言葉だった


「上等な道具になるやもしれません、

 念のためミスリルの枷をつけて牢に入れておきなさい」


命令をされた信徒がサラの手足にミスリル製の枷をはめ、

彼女は牢屋へと連行される……すると、

そこに待っていたのは意外な面々だった


「あ、サラー!」


「え、シャルル!?」


シャルル、ジーン、ラピは見たことの無い金属の枷をつけ、

1つの牢に押し込められていた

だが、サラだけは向かい側の牢に入れられる


「なんでサラだけそっちなんだよー!」


シャルルが文句を言うが、信徒は聞く耳を持たない

ラピもブーブーと文句を言っていたが、

男は無視をしてその場を去って行った


「どうしてみんなが?」


サラの問いにはジーンが答える

彼女達が魔法の使えない部屋に案内され、

複数のローブの男達に枷をつけられ、ここまで幽閉された事を


「そうなんだ……困ったね」


「うん、どうしよう」


ラピは不安そうに手枷をいじっている

3人の枷は見たところ同じ金属で出来ており、

牢屋の鉄格子もまた同じ金属のようだった


「魔法で何とかならないの?」


サラは思い出したかのように聞くが、

シャルルもラピも首を横に振る


「魔法使えないの」


ラピががっくりと肩を落としながら言う


「え……あ、魔封石なの?」


数年前に聞いた知識を掘り起こし、

サラが聞くが、ジーンが首を振って否定する


「少し違うかな」


彼女は枷をサラに見えるように持ち上げ、

鉄格子にぶつけて音を鳴らす

その音は金属同士がぶつかった時になる高い音だった


「魔封石はこんな音しないの、

 もっと軽くて、中に空洞があるような音なのよ

 それに、魔封石なら淡く黄緑色に光るはずだから」


さすがジーンさん、なんでも詳しいなぁ

と、サラが感心していると、ジーンは続きを話し始める


「この音と手触りからすると、おそらく魔断鉱(まだんこう)かな?

 効果は魔封石と似てるけど、数が少なすぎてあまり知られてないかも」


「へぇ……全然魔法使えないの?」


そんな金属くらいで使えなくなってしまうものなのだろうか?

サラは魔法が使えないため、その感覚がよく分からなかった


「実は使えるの、でも使うと暴走して多分怪我するかな」


「そうなんだ……」


「ぬあああ! めんどくさいっ!」


シャルルがジタバタと暴れ、鎖を引き千切ろうとしているが、

女の子の力で引き千切れるほど鎖は脆くはない


「サラのは……ミスリル?

 すごいね、そんな枷も用意してあるんだ……ふふ」


ジーンは関心するように頷いてから目の笑っていない笑顔になる

この表情をする時のジーンは何か悪い事を考えている時だ

サラは長年一緒にやってきて覚えたのである


「ジーン! 笑ってないで脱出方法考えてよ!」


「あるけど?」


「は?」


「あるよ?」


「……早く言えッ!!」


シャルルがジーンの肩にパンチを入れるが、

手枷が邪魔をして思うように殴れなかった

それが悔しかったのか、シャルルが「むぅ~」と唸っている


「それじゃ、そろそろ行こうか」


牢の外を確認したジーンがそう言うと、

彼女の手枷がパキンッと音を立てて簡単に壊れる


『えええええっ?!』


あまりの出来事にラピが驚き、大声を出してしまうが、

シャルルに即座に口を手で塞がれて黙り込む


「はい、皆のも」


ジーンが手を動かし、何かを操作すると、

サラ以外の3人の枷は簡単に破壊された

ジーンは魔法障壁を操作し、枷を破壊したのだ


「なんで魔法使えるの?」


ラピの疑問にジーンは手首をさすりながら答える


「障壁の操作は魔法じゃないのよ

 なんて言うのかな……手足の延長、みたいな?」


「なるほどー」


分かったフリをしているがラピには理解出来ていなかった

彼女はまだ障壁を作り出せるほど魔法使いとして成熟していない

ラピが魔法を学び始めたのはここ20年くらいなのだ


更に、ラピが学んだのは高難易度である召喚魔法の類である

20年という時間のほぼ全てを召喚魔法に費やしたのだ

そのため、特異な魔力操作を必要とする魔法障壁はやった事すらない

根本的に魔力の使い方が違う別物なのだ


シャルルが短期間で弱いなりにも障壁を作り出せるようになったのは、

ジーンの教え方が上手かったのもあるが、

シャルルの日々の鍛錬の賜物でもあった


彼女は神への祈りと瞑想を毎日欠かさずやっている

そして、瞑想という鍛錬こそ、障壁を作り出す近道なのだ

ラピも瞑想はよくしていたが、すぐに飽きてしまい、

長時間の瞑想はあまりした事がなかった


瞑想とは、体内で魔力を操作して身体中を巡らせる事と、

神から授かったイメージを即座に思い描く修行だ

思い描いた通りに魔力を操作する事で、

素早く魔力を練り、無駄な魔力を使わないための鍛錬でもある


この時、魔力を外へ放出しないようにするのは困難であり、

それが出来るようになるのは一般的には高齢になる頃だろう

魔法を使えない部屋でシャルルとラピが違和感を覚えたのはこのせいだ


そして、魔法障壁とはこの動作に近い原理で作り出している

簡単に言ってしまえば、体内に留めた魔力を循環させるだけなのだ


だが、障壁は体外に存在している


自分の身体の外に自分を肉体の延長をイメージとして作り出し、

自身の体内として魔力を循環させ、壁を形成するのだ

これがジーンが「手足の延長」と言った理由である


普通の魔法は魔力を放出して発動するものなため、

障壁は真逆の性質を持っているとも言えるのだ


「やっと外れたー!」


シャルルが手足をぶんぶんと振り回し、自由を満喫していると、

ジーンは鉄格子を障壁でこじ開け、向かいのサラの牢へと行く

鉄格子は同じようにこじ開けたが、問題はサラのミスリル製の枷だ


「無理に壊そうとするとサラを傷つけそう」


それを聞いたサラがしょんぼりとしていると、

ジーンは一瞬考え込み、怪しい笑みで言う


「鍵を取りに行きましょ」


「うん」


シャルルがサラを立ち上がらせる

すると、ジーンがシャルルを指さして言った


「シャルル、サラをおぶってね」


「はぁ?! なんで?」


「だって、その足枷じゃ……ね?」


チラりとサラの足枷を見ると、両足の枷は鎖で繋がっており、

そのままでは歩きにくいのもあるが、鎖を引きずって音が鳴ってしまう

鎖もまたミスリル製のようで簡単には壊れないだろう


「あ、待て! ジーン!」


「何?」


「障壁で鎖だけ切ればいいじゃん!」


「あら、気づいたの?」


と、ジーンは大げさなジェスチャーで驚いてみせる

そう、彼女はそんな単純な事は分かっていたのだ

だが、なぜ彼女がそれをしなかったのか……


「もしかして……ジーン、これ売る気だったでしょ」


"これ"とはミスリル製の枷の事である


「そうだけど?」


当然のことのように言う彼女は、ほんの僅かの悪気もない


「だってミスリルの枷だよ? かなり珍しいよ、それ」


「そうだけど……今それどころじゃなくない?」


シャルルが呆れたように言うが、

ジーンは何故自分が呆れられているのか理解出来なかった

大金が目の前にあるのに、何故価値を下げるような事するの?

彼女は本心でそんな事を考えていたのだ


「仕方ないわね……サラ、足開いて立ってくれる?」


「うん」


「そう、鎖をピンっと伸ばしてて」


鎖の付け根を障壁で断ち切り、逆側の鎖の付け根も断ち切った

千切られた鎖を自身の手首に巻き付け、鎖に紐を通して硬く結ぶ


「持って帰るんだ……」


サラが苦笑していると、ジーンは不思議そうに首を傾げる

この鎖だけでも大人1人が3ヶ月は優に暮らせる額にはなる

そんな物を捨て置く理由がジーンには無いのだ

たとえ、今が捕まっている状況だとしても……


彼女には心の余裕がある

それは、内に秘める悪魔王の存在によるところが大きいが、

今の自分を止められる人間など、

この世界にいるはずがないという自信からもあった


「そういえばジーン、分かってて捕まっただろッ!」


シャルルが味方に騙された事に腹を立てている

だが、ジーンはいつも通りの態度で答えた


「もちろんそうよ? だってシャルル達にバラせばバレちゃうじゃない」


「ぐぬぬ……そうかもだけど、一言欲しかったの!」


シャルルは拳を震わせ、悔しそうに地団駄踏む


「ジーンさんはいつ気づいたのー?」


ラピの問いにジーンは少し考えてから答えた


挿絵(By みてみん)


「あの光ってる赤い石、ループクンド鉱石だけど、

 あれってね、死の魔力が満ちてないとすぐに消えちゃうの」


「死の魔力?」


「ようは、ここには死体が山のようにあるってこと」


「うへぇ……おばけ出ないかな」


ラピが途端に怯えだし、辺りをキョロキョロと見渡す

シャルルもおばけが苦手なため、ラピと手を取り合って震えていた


「おばけなんて非現実的よ」


ジーンが2人を笑うが、2人は食い下がっていた

そんなやり取りがしばらく続いた後、

いい加減行こうという事になり、4人は牢から出る


「ね、みんな」


これから脱出しようというところで、サラが皆を呼び止める


「ここに子供たちが捕まってるの、

 何かの儀式に使われてて……助けたい」


サラの表情は悲しみと不安の混じったものだった

その顔を見た彼女達に断るという選択肢はない


「もちっ! 助けに行こー!」


「おー!」


「構わないわよ、元々そのつもりでカナランまで来たわけだしね?」


そう言えばそうだった、と思い出して頬が緩むが、

気を引き締めなくてはいけない……相手は国なのだから


サラ達が牢屋が並ぶ部屋を慎重に進んで行くと、

30メートルほど先から人の気配がし、

先頭のサラが後ろにいる皆を手で止め、聞き耳を立てた


「あれって1等級だろう?」


「らしいな、にしても可愛かったな」


「あぁ、あんな上玉もったいねぇなぁ」


男2人が話している……おそらくこの部屋の警備兵だろう

音を立てぬよう慎重に進み、残り15メートル辺りでサラは動く


何かが弾けるような音がし、警備の男達が振り向くと、

暗闇の中から赤い影が一瞬だけ見え、1人の男は白目を向いて倒れ込む


「なっ、なんだっ!?」


仲間が突然倒れた事に驚いた男は、気を失った仲間に釘付けになる

刹那、後頭部から激しい痛みが襲いかかり、男は気を失った


「ふぅ」


サラは足首を回して調子を確かめる

今の彼女は剣を持ってないため、蹴りで2人の男を倒したのだ


「もういいよ」


ぼそっと呟くように言うと、

その声が聞こえたシャルルが2人に合図を出して移動する

合流した彼女達は男達から鍵を奪い、サラの枷を外していた


「念のためこうしとこう」


ジーンが部屋の隅にあった枷を男達に取り付け、

互いの口枷を手錠で繋げる


「うわぁ……絵面が汚い」


シャルルがその光景を見て引いていた


「これなら目を覚ましても動くの難しいでしょ?」


ジーンは笑顔でそんな事を言うが、

やっている事はなかなかにえげつない


「ジーンさん容赦ないよね」


サラが苦笑してると、ラピが男達に近寄り、何やら頷いている


「ふむふむ、これも面白いかも」


ラピの趣味は執筆だ

エルフの里にある本を読み尽くした彼女は、

自分で様々な本を書き始めたのである

ラピが何でも知りたがるのは好奇心と創作意欲のせいなのだ


何かを閃いたラピは1人でぶつぶつと言っているが、

ジーンが襟首を引っ張り、先を急がせた


再び細い通路を進み、次の部屋を通り過ぎようとした時、

ジーンが先頭のサラを呼び止める


「サラ、この部屋に剣あるよ」


「ホント?」


部屋は倉庫のようになっており、

皆の武具や荷物がそこに置かれていた


「おー、たすかったー」


ラピが貴重なエルフの本を取り戻し、ホッとため息をもらす

それぞれが装備を整え、丁度良いのでここで作戦会議を始めた


「ジーンがいれば問題なくない?」


色々な案を出し合っていると、シャルルがそんな身も蓋もない事を言う

確かにその通りなのだが、仮にも相手は国だ

そんないい加減な作戦でいいのだろうか


「うーん……ジーンさんどう思う?」


サラが心配そうに聞くと、ジーンはメガネをクイッと上げて考え込む

しばらく沈黙が続き、彼女は再びメガネを正して言った


「多分いけると思うよ……ただ」


ジーンは人差し指を立たせ、1つだけと付け加える


「子供たち全員を無事に、というのは難しいと思う」


それを聞いたサラの耳が力なく垂れる

そんな彼女の肩をシャルルが抱いていた


「先に全部倒しちゃったら?」


ラピがそう言うが、相手は国だ

何万いるか分からない兵を全てというのは難しい

更に、サラやシャルルは人殺しが出来ないのだ


「それは現実的じゃないわね

 やるならエレアザルを捕まえるのが1番だと思う」


「それって犯罪者にならない?」


シャルルが聞くとジーンは頷く

だが、ジーンには策があるようだった


「私達はカナランの秘密を知った

 エレアザルにこの事を口外しない事を約束して、

 私達と子供達の安全を確保するっていうのはどうかな?」


「いいかも」


サラの耳がぴんっと立ち、元気が戻ってくる


「よーし、それでいこー!」


シャルルは皆が救える道が見えたため、目を細めて喜んでいる


「おー!」


ラピは犯罪者にならない事にホッと胸を撫で下ろしていた


進むべき道は決まった、後は行動あるのみである

4人はすぐに動き出し、先ほどの祭壇を目指す


道中で何人かの信徒を倒すが、騒ぎになる事もなく、

無事に祭壇のある部屋まで辿り着く事に成功した

先ほどサラが隠れていた木箱の影に身を隠し、

今は様子をうかがっているところだ


信徒は30人ほど集まっているが、肝心のエレアザルの姿が見えない

だが、話し声でエレアザルがもうすぐ来る事が分かり、

サラ達は息を潜めてその時を待っていた


そして、ついに現れたエレアザルは、

普段とは違うローブを身に纏っていた


背には大きく五芒星が描かれており、

胸には独特な紋章が刻まれている

その紋章はエレアザルの長い帽子にも刻まれていたものだ


曲がりくねった木製の杖を持っており、

その杖が放つ魔力にシャルルの眉間にシワがよる


「あれ、嫌な感じする」


シャルルは本能的な直感が人より優れている

そんな彼女が感じ取った嫌悪感は正しい

あの杖は、ある木から作られたものだ

その木とは……人の死体から生えた木である


通称"妖樹ペナンガン"


ある妊婦の死体から生えたと言われている、

樹齢600年前後の大木であり、

彼女の恨みつらみが宿っていると噂されている


その木の枝を折ると血が流れ、

折った者は数日の内に死ぬと言われている

だが、その枝には高純度の魔力が宿っており、

魔法使いの杖としては最高級品の類のものでもあるのだ


「少年と少女を8人ずつ連れてきなさい」


「ハッ!」


エレアザルの指示で子供たちが連れて来られる

子供たちはこれから自分たちが殺されると分かっているのか、

一切抵抗せず、虚ろな目でただ受け入れていた


「これより上位召喚の儀を始める

 まずこの子供たちを贄に捧げ、場を清めましょう」


おお、と歓声が上がり、辺りは異様な熱気に包まれる


「最後の贄は……元素のジーンを使いましょう

 奴は悪魔をその身に宿しているそうな

 なんと嘆かわしい……あのような小娘には過ぎたもの」


エレアザルは大げさな身振り手振りで嘆き悲しむ

それにつられて信徒たちも涙していた


「奴を贄に捧げ、我らが神に許しを乞うのです」


エレアザルはそのペナンガンの杖を高く掲げ、

祭壇に無理矢理寝かされた少年へと目を向ける




「それでは、神聖な儀式を始めましょう」



信仰により人は病み、闇はどこまでも深く、

地の底より這い出る悪意に気づかぬまま、人は間違い続ける……



おまけ……練習で描いた絵です。

「ハーフキャット・ナラティブ」

挿絵(By みてみん)

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