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カタクリズム:中編  作者: ウナ
烏合の讃歌
40/72

5章 第16話 1つ

【1つ】







オエングスが悪魔との戦闘を始める1時間ほど前……


ミラ達はドラスリア城の中庭に出ていた

そこでエレナ・ベル・ドラスリアの首を掲げ、

彼女はその場にいる全兵士にこう宣言する


『逆賊エレナは討たれました!

 これより反乱軍の掃討を開始します!』


その宣言にドラスリア兵はどよめくが、

彼女の言葉はまだ終わりではない


『逆賊エレナに利用されていた者は投降なさい!

 これより王直属の軍として再編成致しますわ』


ミラの言葉で戦闘は止まり、

ほぼ全ての者がその場に武器を置き投降した


息を切らしたラングリットが城門から姿を見せ、

出迎えたオズワイドに肩を借りている

怪我こそしていないが、魔力の消耗が激しく、

これ以上の戦闘は難しそうだ


「よくやりました、ラングリット」


「ハッ!」


ミラの言葉に片膝をついて頭を下げる

その横に座るオズワイドが彼に聞く


「剣を使わなかったのですか?」


「あぁ、ミラ様の命がなければ使わんさ」


呆れたと言わんばかりのジェスチャーをして、

オズワイドは一瞬だがミラを睨む

その視線に気づいたミラは、彼等を見下ろしながら言う


「ラングリットならあの程度、

 剣に頼らなくともやれるでしょう?

 (わたくし)は貴方達の力を信じてましてよ」


「勿体なき御言葉……」


オズワイドは頭こそ下げるが、内心は穏やかではない


何よりも大事な彼に何かあったらどうするつもりなのだ

主の娘だから従っているが、コイツは主ではない


それがオズワイドの本心だった

だが、それは口にできる訳もなく、

感情は押し殺して頭を下げる


「ミラ様、オズワイドが失礼を……申し訳ありません」


隣にいるラングリットが代わって謝る

そんな彼の行動に驚いたが、

自分のせいで彼に謝らせてしまった事を後悔した


「構いませんわ

 ちゃんと貴方達には言わないといけませんわね……

 剣を使わせなかったのには理由がありますの

 ラングリットが剣を使えば死体の山を築くでしょう?

 それではこれから反乱軍を倒す兵が減ってしまいますわ

 後は……おわかり?」


「ハッ」「ハッ」


オズワイドは自身を恥じた

この主の娘は自分より遥か先を考えていたのだ


ラングリットは彼女に心の中で改めて忠義を誓う

将来、この娘なら剣を捧げるに値する、と


そんなやり取りが行われている後ろで、

マルロが皆に状況を説明をしていた


少女が言うには南下する人外の魔力があり、

それは主戦場へと向かっている……と


敵の総大将、王太后エレナの首はとった

この首さえ持って行けば戦争は止まるだろう

だが、その人外の魔力というのが気掛かりだった


「1つ、途方もない魔力がいます

 ……邪神の類だと…たぶん、思います」


マルロは自信無さ気にそう言うが、

彼女の魔力感知能力を知る者なら疑いはしない


「森で会ったスカーってのよりもかい?」


イエルが聞く

彼女の知る中で化物と言えばスカー以上はいない

先の戦争で現れた嵐神スパルナよりもスカーの方が恐ろしい

そうイエルは判断していたのだ


「スカー様と同等か、それ以上です」


マルロは正直に答える

その答えにイエルとミラに表情は曇った


これから"あれ"と同等の存在を相手にする可能性がある

その事実が彼女達の心に恐怖を植え付ける


「あっちにはオエングスがいるんだろ?

 あの優男なら大丈夫なんじゃないのかい」


イエルは不安をかき消そうと口にするが、

マルロは首を横に振り、黒曜石の杖を強く握り締めていた


「どうしたもんさね……」


イエルが頭を掻きながら考え込んでいると、

その後ろからひょこっと顔を出して、

目を輝かせている女性がいた……ベリンダだ


「なんのぉ~、お話ぃ~?」


頬に人差し指を当て、小首を傾げながら言う彼女は、

見た目に似合わず少女のようであり、

その違和感がイエルを苛つかせる


「何でもないさね、アンタには関係ないよ」


「えぇ~、仲間はずれはぁ~、いやぁ~」


両腕で大きな胸を挟み込み、

ぶるんぶるんと左右に振りながら駄々をこねる

その行動が狙ってやってるんじゃないかと思うが、

これまでの言動を見る限り、これは素なのだ


「急いで向かわないと……」


マルロが困っていると、

それを見たベリンダがぴょんとジャンプしてマルロに抱きつく


「わたしに~、任せてぇ~」


「え?」


突然、胸の谷間に捕らわれたマルロは慌てるが、

その瞬間彼女とベリンダの身体はふわりと浮き上がる


「わっ」


「ふふふ~♪」


風でなびくローブを必死に両手で抑えながら、

マルロは空中でバランスを取ろうと必死に足掻く


「詠唱もなしに……」


ミラが驚いていると、今度はミラの身体も浮き上がる

そして、イエル、ラングリット、オズワイドと続き、

全員がふわふわと浮いていた


「このくらいならぁ~、詠唱は~、必要ないよ~?」


普段から浮いているのが当たり前になっている彼女は、

無詠唱で浮遊魔法を発動することが可能になっていた


当たり前……それこそベリンダの強みだ

彼女は特異な人生を送り、特異な魔法を編み出した

歩いて移動するのが面倒な彼女は、

浮遊魔法を常時発動するのが普通になったのだ


この魔法が発動していて当たり前の感覚……

それこそが無詠唱呪文(クイックスペル)の秘密なのだ

だが、その秘密はベリンダ自身も気づいてはいなかった

彼女が無詠唱で発動できるのはこの浮遊魔法だけなのである


「お、降ろしてくださいまし」


ミラが手足をじたばたをさせながら言うと、

身体を包み込む浮遊感は突如消え、

1メートルほど落下し、ミラは鼻を打つ


「ッ……あ、有難うございますわ」


赤くなった鼻をさすりながら土を払い、

ラングリットとオズワイドも降ろすよう言う

彼等は綺麗に着地し、ミラの左右に跪いた


「彼等はもう魔力がありませんから、

 (わたくし)と共に戦闘は終わりだと伝えながら向かいます」


「まりょく?」


ベリンダはふわふわと漂いながら二人の元へと行き、

彼等の頭に手を置いて目を瞑る……


「なっ!」


「ッ!」


オズワイドとラングリットの目は大きく開かれ、

全身に清々しい風が通り抜けたような感覚に襲われる

それと同時に、全身からみなぎるような魔力を感じ、

味わった事のない快楽にも似た感覚に驚いた


「これでいいのぉ~?」


ベリンダは当たり前のように魔力を譲渡した

魔力の譲渡、それは本来不可能とされている

同属性の魔力なら可能性はあるとされていたが、

ベリンダは風の魔力を一旦純粋な無属性の魔力にし、

それを対象と同じ波長で流し込んだのだ


何故こんな事が出来たのか……

それは魔封石の塔に長く住んでいたせいだった


彼女は魔力が乱れる世界で暮らしていた

嵐のような魔力の乱流の中でも自在に操れる技術を手に入れ、

その過程で1つの予期せぬ結果が生まれた


人から人への魔力の移動である


譲渡、それは1つの動作でしかない

魔力の移動とは、相手から奪う事も可能なのだ


「ミラ様、どういう訳か分かりかねますが、

 風の巫女様より魔力を分けて頂けたようです」


ラングリットがありのまま起こった事を言うと、

一同は驚きを隠せない様子でベリンダを見ていた


「なぁに~?」


そう、これも彼女にとって"当たり前"の事なのだ

ラルアースで長年築き上げられてきた魔法学は、

目の前にいるベリンダ・ポープには通じない


「た、助かりましたわ

 ですが、二人はこのまま(わたくし)と共に行きます」


もう何が起こっても受け入れよう

ミラはベリンダに対して驚くのが馬鹿らしくなってきていた


「ベリンダさん、少し急いでもらっていいですか?」


マルロが彼女に聞くと、ベリンダは嬉しそうにくるりと回る


「はぁい♪」


マルロ、イエル、ベリンダは勢いよく空高く上がってゆき、

悪魔の軍団が向かう南へと飛んで行った

その常軌を逸した光景を眺めながらミラは思う……


エイン……貴方なら大丈夫ですわよね……


その後、ミラはラングリットとオズワイドと共に、

王太后エレナの首を掲げながら馬を走らせ、

終戦を呼びかけ、投降した兵を自軍に加えていく


その規模が5000人を超える頃、

主戦場となっていたリーン砦に到達するのだった


・・・・・


・・・



オエングスとグゼフォンの戦闘が始まった

先制はオエングスのモラルタによる上段からの振り下ろしだ

それはグゼフォンの吹子(ふいご)で防がれるが、

彼の猛攻は止まらない


ベガルタによる地面すれすれからの斬り上げ、

モラルタによる水平斬り、ベガルタによる突き、

ありとあらゆる角度から斬撃を放ち、

グゼフォンが魔器を使う暇を与えない


剣と吹子がぶつかり合う度にズゥンと腹に響く衝撃が広がり、

その度にオエングスの真紅のマントがなびく

1撃1撃が敵を仕留められるだけの威力が込められているのだ


その重い斬撃を流れるように、止まる事なく放ち続ける

だが、グゼフォンは天使のような翼を上手く使い、

自身のバランスをあえて崩しながら吹子で防ぎ切っていた


オエングスの使う剣、ベガルタとモラルタは神器である

その刃は欠ける事はなく、ミスリルであろうと両断する

しかし、この天使のような悪魔の持つ吹子は傷一つ付かない


挿絵(By みてみん)


脆そうな部位を狙ってみたが結果は同じで、

破壊不可能なのだろうと認識し、戦術を変える


オエングスはモラルタを空へと投げ、

代わりに黄短槍ゲイ・ボーを掴む

それによる突きと同時に、ベガルタによる突きを放つ


2方向からの同時攻撃……

吹子という形状からして防ぐのには無理がある

だが、それは相手が人間だった場合の話だ


グゼフォンは翼を大きくはばたかせ、

空中でくるりと回転しながら吹子で防ぎ切る


しかし、ここまではオエングスの狙い通りだった


彼はゲイ・ボーを大地に突き刺し、

それを踏み台にして高く飛び上がる

そして、空中に投げたモラルタをキャッチし、

2本の剣をグゼフォンへ向けて投げつけた

ベガルタは翼をかすり、モラルタは吹子で防がれてしまう


グゼフォンが武器を無くした彼を見てニヤリとするが、

彼は左手を真横に突き出して手を開く

すると、彼の背後に控えていた赤槍ゲイ・ジャルグが収まった


両手でゲイ・ジャルグを構え、

落下を利用した鋭い突きを放つ

グゼフォンは吹子でそれをガードするが、

勢いは衰えず、そのまま大地へと叩きつけられた


その衝撃は凄まじく、軽い地震が起こった

だが、吹子は傷一つ付かず、完全に防いでいる


……強い


オエングスは攻めあぐねていた

持ちうる限りの剣技を使ったが突破出来ない


……使うしかないか……いや、まだだ


大地に刺さる2本の剣を引き抜き、再び構え直す

そして、敵の魔器を使う暇を与えぬように、

目にも留まらぬ猛攻を続けるのだった


オエングスとグゼフォンの戦いが繰り広げられている頃、

メジードとアミマッドの群れは、

ドラスリア軍へと侵攻を再開しようとしていた


悪魔の群れは土煙を上げながら迫ってくる

ドラスリア兵達は撤退を始めてはいるが、

奴等の足は人より遥かに早く、

追いつかれるのも時間の問題だった


希望の光であるオエングスは、

第3位階の悪魔グゼフォンを相手しており、

助けに行けるはずもなく、

兵達は死に物狂いで足を前へと動かし、走った


足は鉛のように重くなり、呼吸は乱れ、

水の中にでもいるような感覚に襲われるが、

悪魔の足音は徐々に徐々に近づいていた


もうダメだ


誰もがそう思った時、1人の女性が舞い降りる

ノル・スク・ラシュフォードである


彼女は顔を半分隠す真っ黒の仮面を装着し、

暗い紫の煙と共に現れた


その煙はドラスリア兵と悪魔の間に広がり、

まるで煙で出来た壁のようだった


悪魔は動揺し、一瞬ひるむが、

再び侵攻を開始し、煙へと突っ込んで行く

20近い悪魔の群れが煙の中へと消えて行った


………しばらく経つが悪魔が煙から出てくる気配はない


もう走る事の出来ない兵達が、

後方で起こっている現象に目を奪われていると、

風が煙を押しのけ、悪魔たちが姿を現す


その全ては倒れており、

通常の武器を通さなかった皮膚はただれている

目や口や耳からは血が流れ、ぴくぴくと痙攣していた

その光景を見て扇子で口元を隠しながらノルは笑う


「あっは、無様ですわね」


岩陰に隠れていたケイが歓声を上げており、

そちらに向かって小さく手を振り、

ノルは悪魔の群れへと目を向ける


残るは……70といったところかしら?


神器解放状態を維持するには魔力を大幅に消耗してゆく

残り70体を倒すにはノルの魔力は少々心許なかった


一箇所に固まってくれたらいいのだけれど……


チラッ、チラッと戦場を見渡し、

敵を誘い込む策を練っていると、

彼女の視界に妙なものが入ってくる


あれは……巫女?


3人の女が空を飛んでいるが、

その3人全てから巫女クラスの魔力を感じる


ちょうど良いですわ、利用しましょう


ノルは扇子をパチンッと閉じ、

ちょいちょいとケイに手招きをし、

呼ばれた妹は犬のようにはしゃいで駆け寄ってくる


これだからこの子は可愛いの


「姉さま、なんだ?」


目を輝かせながら聞いてくる愛妹の頬に手を添え、

微笑みながら彼女に言う


「移動しますわよ、(わたくし)から離れないよう」


「わかった! 離れないよ!」


腰にガッチリとしがみついてくる妹にクスッと笑みを浮かべ、

彼女は魔力を操作し、煙を撒き散らす

そして、ふわりと浮き上がり、二人は移動を開始した


・・・・・


・・・



マルロ、イエル、ベリンダは空を駆け、

あっという間に主戦場であるリーン砦へと到着した


「ベリンダさん、あの辺りに降ろしてください」


マルロが指差す方を一瞥し、ベリンダは頷く

ふわりと着地した3人はリーン砦の正面に降りていた


無数の悪魔が砦から溢れており、

その手には両軍の兵の一部が握られていた

口元を血で染め、醜い笑みを浮かべて近寄ってくる


「ひどい……」


マルロが口元を手で抑え、涙目になっていると、

イエルが彼女の頭を撫でながら険しい顔をする


「あれはぁ~、なぁに~?」


ベリンダは見たこともない悪魔という存在に興味津々だ

イエルもマルロもアレが何なのかは分からないが、

一つだけ言える事は……


「あれは……敵です」


3人が臨戦態勢になると、

少し離れた位置に美しい双子がふわりと舞い降りる


彼女達は他の悪魔を引き連れており、

砦から出てくる悪魔と合わせて70近くになる


「巫女様、ごきげんよう」


礼儀正しく優雅にお辞儀する双子は、

まるで何事も無かったかのように笑顔を浮かべている


「ミラさんのお姉さん、状況を教えてください」


「あら、単純ですわよ?

 あちらは悪魔、こちらは人間、後は倒すだけですわ」


あはは、と笑うノルを不気味に思いながらも、

目の前にいる悪魔という存在に目をやる

確かに伝承などで聞く悪魔のそれだ


神が言った災厄とは悪魔のことなのだろうか

だが、向かってくる悪魔達からはそれほどの力は感じない


どちらかというと……


マルロは遥か遠くの南の空を見つめる

その先にいる存在……邪神と思われるそれを……


「ねぇ~、あれはぁ~、殺していいのぉ~?」


ベリンダが待ちきれないと言わんばかりに、

空中でくるくると回りながら言うと、

それにはマルロは黙って頷いた


あれは邪悪な存在……神の敵


マルロには感覚としてそれが分かった

それが神の子だからなのかは分からないが、

感覚としてハッキリとそうだと確信できた


「やったぁ~♪」


能天気な声を上げるベリンダを、

ノルは引きつった顔で見ていた


このふざけた女が例の風の巫女ですわね


ふざけた口調と態度に不快感を覚えながらも、

彼女の持つ魔力と、独特な空気に背中に冷たいものを感じる


流石は巫女……侮ってはいけませんわね


「7・7・2・3・1・6・6・2・3……

 レレ・レレ・ルー・レー・リー・ロロ・ロロ・ルー・レー……」


指をくるくると回しながらリズムに乗るように、

子供が鼻歌でも歌うかのようにベリンダは詠唱する


見たこともない術式、見たこともない魔法陣、

聞いた事もない呪文、だが魔力の流れは理にかなっている

この独特な創作魔法をノルは関心して見ていた


……数字と言葉は連動してそうですわね

7がレレ、2がルー、3がレー……


ノルが分析している事など知らないベリンダは、

楽しそうに魔法を作り上げてゆく


「レー・ルラル・レレ」


彼女の発動した魔法は巨大な竜巻だ

しかし、この竜巻は普通の竜巻と異なる点がある

ラルアースでは本来竜巻は左回りしか存在しないのだが、

彼女の作り出した竜巻は右回りなのだ


「へぇ……面白い」


ノルはこの奇妙な竜巻をよく観察する

どう見ても右回りに回転する竜巻だ

音が激しい訳でもなく、風が異常に強い訳でもない

いたって普通の竜巻だ


だが、何かがおかしい……


土や砂を巻き上げ、茶色く変色した竜巻は、

中を見通す事は出来ず、その実態を把握するのは困難だった

その時、イエルの発言でノルは気付かされる


「なんだい、このやかましい音は」


両耳を押さえる彼女はドワーフだ

人間には聴こえない音域を聞き取る事ができる

ノルはそれで答えを導き出せた


「ふふっ……予想以上に意地の悪い魔法ですわね」


るんるんと身体を揺らしながら"異常な竜巻"を操る女、

ベリンダ・ポープの背中を見ながら、

巫女という存在の恐ろしさを再認識したノルだった


竜巻は雲から垂らされる糸のようにフラフラと移動し、

勢力を拡大させながら悪魔へと向かう


鼻歌交じりに指をくるくると回すベリンダは、

おもちゃを与えられた子供のようであり、

純粋に楽しんでいるようだった


そして、メジードが4体ほど竜巻に飲み込まれる


人より遥かに大きい巨体は簡単に浮き上がり、

高く高く上って行くかに思えたが、

竜巻の中へとメジードの身体は消え、

刹那……紫の血の雨が降り注ぐ


20個近くの肉片が辺りに飛び散り、

切断部分はねじ切られたような痕だった


「わぁ~♪ すご~い」


ベリンダは嬉しそうに身体を揺らす


「そぉ~れ、そぉ~れ~♪」


踊るように指をくるくると回し、

4体のメジードはバラバラになり、

大地には絨毯にワインでもこぼしたかのような跡だけが残る


彼女はこの規模の魔法を使った事が無かった

200年近く魔封石の塔から出る事はなく、

ひっそりとのんびりと生きてきた

そのため、彼女は大規模魔法を使用した事がないのだ


だが、今はそれを発動している

それは彼女にとって新たな快楽であり、

新鮮さに満ちた遊びなのだ


火の巫女イエルは両耳を塞ぎながらその光景を見ていた

普通の竜巻であれば一瞬であんな風にバラバラになる事はない

この竜巻は何かが違う……だが何が違うのかは分からなかった


彼女の横いる少女、地の巫女マルロは違っていた

マルロは魔力の流れを知覚する能力に長けている

彼女の目にはこう見えていた……


肉眼で見える竜巻はこの魔法の表面部分でしかない

その中に別の竜巻が2つ存在しているのだ

一番大きな竜巻の中に中規模の竜巻があり、

その中に更にもう1つの小規模の竜巻が存在している


大竜巻は右回り、中竜巻は左回り、少竜巻は右回り……


異なる回転の竜巻をギリギリ触れないように維持し、

その中に吸い込まれた者をズタズタに引きちぎる

これがメジードが一瞬で肉片になった原因だった


それを笑顔で、楽しそうに、遊ぶように使う


これだけ複雑な魔法であれば、

かなりの集中力を必要とするはずだが、

彼女は浮遊魔法を同時に発動したままであり、

どう見てもベリンダは余裕そうに見えた


「ベリンダさん、それは究極魔法ですの?」


こんな魔法を見た事がないノルは彼女に聞くが……


「きゅーきょく? なぁに~、それぇ~?」


巫女であるはずの彼女から信じられない言葉がもれる


究極魔法……巫女であれば必ず知っている魔法である

それぞれの巫女には複数の究極魔法があり、

現代の魔法学で覚えられる上級10章の上を行く魔法だ


巫女以外には使えないとされているが、

言うなれば、巫女であれば絶対使えると言う事である

それをこの女、風の巫女ベリンダ・ポープは知らないと言う


だが、ノルはその程度では焦る事はない


彼女には知識がある

ベリンダの置かれていた環境、

独特な創作魔法、年齢や見た目の割に幼稚な態度……

それらが導き出す答えは、彼女が知らなくても当然、である


しかし、ここで1つの疑問が浮上してくる


今発動している魔法はどう見ても上級10章を優に超えている

彼女が無自覚に究極魔法を使っていたとして、

巫女は究極魔法の発動に決められた手順が必須であり、

それ以外では発動する事がない、という事だ


そして、究極魔法の副作用とも言える出血……

ベリンダの様子を見る限り出血した気配はない

では、これは究極魔法ではないという事になる


それでは、この魔法は何なのだ? という疑問


ノルは1つの可能性を閃くが、まだ仮説でしかない

それを確かめるため、未来の自分のため、

余すことなくこの状況を目に焼き付けようと決めた


(わたくし)はまだまだ無知ですわね……ふふふ


その頃、ベリンダの作り出した竜巻は、

悪魔を次々と飲み込み、肉片へと変えてゆく


「ベリンダさん、そのくらいで」


何故かマルロが彼女を止めた

悪魔はまだ残り40体ほどいる

「なんで~?」と不満そう頬を膨らます彼女に、

少女は険しい表情でこう言うのだ


「魔力を残しておいてください

 私たちの本当の戦いはここじゃありません」


そう言う少女の目線は南の空へと向けられている

ベリンダもそちらを眺めるが、彼女には分からなかった

だが、マルロが言うのだ、やめた方がいいだろう

そう判断したベリンダは魔法を解除する


「ところで……"あれ"はいいのかい」


イエルが顎をクイッと動かし、

オエングスが激戦を繰り広げている方を見る


「オエングスさんなら大丈夫だと思います」


マルロの表情は少しだけ緩み、僅かに笑顔を見せた


「そうかい、マルロが言うならあたしは構わないさね」


まだ頬を膨らませているベリンダの背中を一叩きし、

イエルはマルロの頭に手を置く


「えっと……ノル・スク・ラシュフォードさん」


少女は真剣な表情で彼女を見上げながら言う


「何かしら、マルロ・ノル・ドルラード様」


少女を見下ろしながら彼女は言葉を待つ


「ここは任せます……貴女なら分かりますよね?」


少女はチラリと南の空を見る

それに気づいた彼女も南へと目を向けた


「えぇ、もちろん分かっていますわ

 こちらは風の巫女様のおかげで何とかなりそうです」


彼女は嘘をついた、だが少女は気づいていた

それでも大丈夫だという確信があったからだ


「ケイ・ヴェル・ラシュフォードさん」


「ん? なんだ?」


突然呼ばれたケイは驚く

力の無い自分に声などかけてこないと思っていたからである

この戦場で自分に役割など無いと分かっているからだ


「そろそろいいと思いますよ」


「え……」


マルロの言葉の意味が……彼女には分かっていた


「勘、です」


「そっか……すごいね、君は」


鼻の下をこすりながらケイは微笑む

目尻には少し光るものが見えていた

そのやり取りをノルは不思議そうに見つめている


いつから地の巫女と妹は知り合いになったのだろう?

私の知らないところで会う機会があったのかしら?

ケイは私に何か隠しているの? "あの"ケイが?


複雑な感情が交差する戦場で、

一人の女性の心に光が射し込んだ瞬間だった


「ベリンダさん、お願いします」


マルロの合図でベリンダは巫女達に浮遊魔法をかける

3人はふわふわと浮き上がり、空へと消えた

残された双子は、迫り来る驚異……悪魔を見つめる


「ケイ、隠れてなさい」


「うん……姉さまも気をつけて」


「えぇ、ありがとう……起きなさい、アザエル」


ノルは神器を発動する……

未完成の半分の仮面を付け、彼女は胸に手を当てる


この戦いで必ずアシエルをモノにしてみせる


神との約束を果たすため、

ノルはリスクの高い戦いに身を投じようとしていた

その姉の背中を眺める妹も胸に手を当て……



1つの願いを叶えようとしていた




深い意味は無いと思って見てほしいのですが、

カタクリズムの主要キャラ達に対応するアルカナを書いてみました。

ただそれだけです\(^o^)/楽しい!



シルト → 愚者(0)


ベリンダ・ポープ → 魔術師(1)


マナ・マクリール → 女教皇(2)


ラピ・ララノア → 女帝(3)


シャチ → 皇帝(4)


ミラ・ウル・ラシュフォード → 教皇(5)


サラ・ヘレネス → 恋人(6)


アシュ・ブラッド → 戦車(7)


オエングス・オディナ → 力(8)


スカー・サハ → 隠者(9)


ウェールズ → 運命(10)


エイン・トール・ヴァンレン → 正義(11)


バテン・カイトス → 刑死者(12)


クガネ → 死神(13)


イエル・エフ・リート → 節制(14)


ジーン・ヴァルター → 悪魔(15)


プララー・チャンヤット → 塔(16)


シャルル・フォレスト → 星(17)


リリム・ケルト → 月(18)


ヒミカ → 太陽(19)


クー・セタンタ → 審判(20)


マルロ・ノル・ドルラード → 世界(21)

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