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カタクリズム:中編  作者: ウナ
烏合の讃歌
38/72

5章 第14話 建国史

【建国史】







今より約1100年前……

現在のドラスリア王国近郊には3つの小国があった


西にある唯一の海岸を領土とするラシュフォード、

東にある森を領土とするドラフィリア、

そして、南の平原を領土とするエクセスス


三国は30年に渡る戦争を繰り広げていた


事の発端は、東に位置する森を支配するドラフィリアが、

西の海岸を独占するラシュフォードに進軍した事である


争いを好まないドラフィリアが、

この戦争を仕掛けたのには深い理由があった


それは、ラシュフォードがドラフィリア現国王の息子、

タージ・フォン・ドラフィリアを殺害したためである


これは不幸な偶然が重なった事故だった


タージはある魔法を学ぶために1つの書を探していた

その書は一部の専門家から"白竜の憂鬱"と呼ばれる本である

なぜ本が別名を呼ばれるのか……それは、読めないからだ


見たこともない術式、見たこともない言語、

見たこともない魔法陣、その本は未知に溢れているという


ある研究者が表紙に書かれる文字の一部を解読した

それが"白竜"と"憂鬱"だったため、

この本はその名で呼ばれる事となったのだ


しかし、この本には厳重な封印が施されており、

本全体がアーティファクトで出来た鎖で巻かれている

そのため、開く事すら叶わないのだが、

彼はこの封印を解く方法に心当たりがあった


タージは新たな魔法を研究していた

彼は王の息子であり、次期国王だが、

七光りで王になったと言われたくなく、

エクセスス王のような特殊な魔法を手に入れたかったである


そして、白竜の憂鬱がラシュフォード国にあると聞き、

配下を20名ほど引き連れて、大量の金貨と共に向かった

もちろんこの金貨は本を買うためのものだ


当時の両国は友好国であり、よき取引相手の国でもあった

そんな隣国に赴くことはよくあることなのだが、

この日は嵐が迫っており、日が高い内に宿をとったのだ


その宿には先客が4名いたが、

部屋は配下の分も空いていたので泊まる事となった


夜になり、酒が入った彼等は、

先客たちと盛り上がり、つい口を滑らせてしまう


「高価な本を買いに行く途中」……と


翌朝には嵐は去り、彼等はラシュフォード国へ向け出立した

それから3日が経ち、もうすぐラシュフォード国首都に到着する

予定ではそうだったが、そうはいかなかった


彼等の馬車は覆面の一団に囲まれ、

襲われた配下は次々に殺されてゆく……


このままでは不味いと判断したタージは、

配下を見捨て、馬車を走らせた

これが最大の間違いだとも気づかずに


彼の走らせた馬車に並列するように覆面の一団も馬で駈け、

馬車を棍棒や剣で傷つける……その時、偶然にだが、

ドラフィリア王家の紋章が刻まれたプレートが剥げ落ちた


そのまましばらく走り、苛立ち始めた盗賊は、

たまたま通りかかったラシュフォード兵の首を跳ねたのだ

それを別のラシュフォード兵が見かけ、

タージの馬車は盗賊の仲間と勘違いされる事となる


そんな勘違いなど知るはずもないタージは馬に鞭を打つ

加速する馬車を追いかけるように盗賊も続き、

野盗が向かっている事を知らされたラシュフォード警備兵は、

見張り台の上から弓を構える……その数20


同時に20の火のついた矢が放たれ、

馬車は燃え、馬は暴れる

盗賊達は馬が暴れたことにより落馬し、

幾人かが死に、矢の雨に半数以上が殺された


そして、タージの乗る馬車は横転して炎上していた

ラシュフォード兵が鎮火した後に中を確認すると、

彼は両脇をぎっちりと閉じた状態で丸くなっており、

その身体は黒く炭のように変色していた


不運は不運を呼び、彼は死神の招待を受ける事となった


だが、事故だからと言って許される事ではない

次期国王を殺害したのだ……その先に待つのは戦争しかない


こうしてラシュフォードとドラフィリアの戦争が始まるが、

両軍の力は均衡し、次第に戦域は拡大する……

その結果、もう1つの不幸な事故が起こってしまった


エクセススの国境付近にある、

1つの農村が戦火に飲まれる事となったのだ


エクセスス王……リゲル・ソー・エクセススは、

民を想う心優しき王として名を馳せていたが、

村が焼かれた事には怒り狂ったという


こうして三つ巴の長きに渡る戦争が始まってしまったという訳だ


元々農耕を生業としていた貧しい国であるエクセススは、

正規軍など僅かしかおらず、

兵力だけで言えば、この三国の中では圧倒的に弱かった


だが、エクセスス王には力があったのだ

彼に忠誠を誓う三騎士は近隣諸国で知らぬ者はいない

そして、王自身もまた武王として名高い人物だ


三騎士……火・水・風の属性を司る武器を有する騎士

彼等はそれぞれがアーティファクト武器を持っており、

その力は個人でも数百の兵にも勝ると言われるほどだった


かの王は、生と死という相反する魔法を使ったという……

類稀なる魔法の才に恵まれていたが、かの王は剣を手に戦う

この世界では珍しい魔法剣士だったのだ


だが、本来であれば魔法は1属性しか使えない

初級程度の魔法は可能だが、強い魔法は1属性しか不可能なのだ

かの王がどうやって2つの属性を使っているのかは謎だった


この4人の強者の参戦により、

ラシュフォード、ドラフィリア両軍は苦戦する事となる


均衡した力は優劣が決まらず、長い長い戦争が続き、

三国は徐々に疲弊していった……

しかし、ドラフィリアの一手により状況は大きく変わる


ドラフィリア国の切り札、

第ニ大隊長リリー・ノルン・ドラフィリア

彼女はドラフィリア王家の長女である

長男が王座を継いだが、戦争の才能は彼女の方が上と噂されていた


彼女が兄である王に何も告げず行った作戦がある

それは、エクセスス王と三騎士の暗殺だ


この作戦はリリーにしか出来なかっただろう

それは彼女が特殊な仮面を持っていたからだ

彼女の面には魔が宿ると言われており、

人を腐らせ、消えぬ恐怖を植え付けると噂されていた


そして、この作戦は半分は成功した

半分とは、三騎士の火と水を司る騎士を暗殺したという事である


その結果、力を失ったエクセススは追い込まれ、

両軍の攻撃対象となったのだ

そして、エクセススが草原の奥へと追いやられ、

王が討ち取られた地が現在のシグトゥーナ村である


勢いをつけたドラフィリアは、

エクセススの三騎士から奪った火と水の宝剣を使い、

ラシュフォードを海岸まで押し返していた


決戦の地……現在の首都ドランセルのある地、

そこは当時ラシュフォードの領土であり、首都があった地だ


首都の防壁を使い、籠城したラシュフォードは、

ドラフィリアの猛攻を何とか防いでる状態だった

この籠城戦は6ヶ月以上続いたという


次第に食糧の尽きたラシュフォードに餓死者が出始める


防壁から投げ捨てられる遺体が増え、

辺りには腐臭が漂い、病が発生し始めていた


それを見たドラフィリア国王は胸を痛めていた

息子を殺害されたことを許すことなど出来ないが、

これ以上、関係の無い民に犠牲者が出るのは嫌だったのだ


彼は本来は心優しい王だったのだ

息子を失った悲しみと憎しみが、

この悲しくも無意味な戦争を引き起こしたに過ぎない


そして、ドラフィリア王は決断する


ラシュフォードに無条件降伏するよう告げたのだ

その場合、王家や民の命は保証する、と……

ラシュフォードはそれに応じるしか生きる道は無かった


そして、ラシュフォードが降伏し、

ドラフィリアの勝利という形で終戦する……が、

これで終わりではなかった


ドラフィリア王は、両国のしこりが残らぬよう、

ある条件を提示したのだ、その条件とは……



1.ラシュフォードの有する交易路、

  漁業権の半分をドラフィリアに譲渡する事


2.その上で必要となるラシュフォードの名を譲渡する事


3.ラシュフォード家は、

  ドラフィリア家の名を受け継ぐドラスリアを名乗る事


4.ドラスリア家は新国家ドラスリア王国を統治する事



この4つの条件が提示されたのだ


ラシュフォードの莫大な財の元となる漁業と、

魚介類を各国へと流通させる交易路の全てを奪い、

そのまま使えるよう家の名まで奪うというものだ


そして、名を奪われたラシュフォードは、

自身の敵であったドラフィリアの名を継ぐ

ドラスリアを名乗らされ、新国家ドラスリアを建国する


王の言い出したこの件は、ドラフィリア内でも大問題となった

それもそうだ、かの王はドラフィリアとラシュフォードを1つにし、

新国家ドラスリアを建国し、その王座を譲ると言い出したからである


配下たちは必死に王を説得した

だが、王の決意は固く、その真意を知った者は、

王の提案を飲む結果となるのである


彼がこんな無茶苦茶な条件を出したのには理由がある


彼は元々争いが好きではないのだ

二度と両国が争わぬよう敗戦国を王家にし、

自分は大商人になると言い出したのである


大切なものを嫌というほど失った王は、

この30年の戦争によって疲れ切っていたのだ


王は敵の名を名乗ることで相手を許し、

自分の名を与えることで(えにし)を深めたのである


無条件降伏をしたラシュフォードに断る権利はなく、

ドラフィリア王の言い出した無茶苦茶な提案を飲むしかなかった


その結果、東の森を統治していたドラフィリアは、

ラシュフォードと名乗り、ニ国分の財を得た

西の海岸を統治していたラシュフォードは、

ドラスリアと名乗らされ、その地に新国家を建国した


しかし、新国家ドラスリア王国は貧しく弱かった

その守護神となったのがラシュフォード家という訳だ


そして、両家には密約が交わされる

ラシュフォードは決して王家にはならない

代わりに、ドラスリアでニ番目の地位を確保する


その密約が守られる限り、

ラシュフォードはドラスリアを守り続ける、と……

破られた場合は、ラシュフォードは王座に返り咲く、と……


・・・・・


・・・



王の間は静まり返っていた


ミラの語る物語は誰も知らないものだった

だが、妙に細かく練られており、

時間稼ぎのために即興で作った話にしては出来すぎていた


彼女の語りが上手かったのもあるが、

誰もがその物語に耳を傾け、聞き入っていたのである

自国の秘密を語る、その物語を……


しかし、そんな物語を認める訳にはいかない人物がいる

王太后エレナ・ベル・ドラスリア、その人だ


「……なんですか? そのホラ話は」


エレナは扇子を何度も開いては閉じを繰り返し、

誰が見ても分かるほど苛ついていた


「あら、認めたくないのでしょうけど、作り話ではなくてよ」


ミラは嘲笑うかのような態度でエレナを挑発する

今のエレナは冷静でないため、その安い挑発にのってしまう


「そこまでおっしゃるなら、証拠はあるのかしら?」


エレナは「どうだ」と言わんばかりに口角を上げて言う

1000年以上前のことだ、証明など出来るはずがない、と


「えぇ、ありますわ」


ミラの答えは即答だった

彼女は自信たっぷりにそう言い、その大きな胸を張る

と言っても鎧の胸当てで胸は見えないが


ミラは自身の持つアーティファクト武器

"不滅のレイピア"というドラスリアの国宝を手にする

それを地面に置き、エレナの方へと滑らせた


「柄をご覧なさい」


まるで降伏するような行動だが、

ミラの態度は変わらず、威圧的にエレナに命ずる

だが、エレナはそれを拾わず、拳を震わせていた


『早く拾いなさいッ!』


彼女の大声が王の間に響き、

取り囲む兵達がビクッと肩を震わせる


「まさか、怖いのかしら?

 あのエレナ・ベル・ドラスリアともあろう御方が」


ミラはクスクスと口元を片手で隠しながら小さく笑い、

王太后を見つめながら挑発する

その様子を見守っていた兵達がコソコソと話し出した


「まさか……さっきの話は本当なのか?」


「それじゃ、俺達が逆賊にならないか?」


「待て待て、そんな馬鹿な話があるか」


「ラシュフォードが本来の王家……なのか?」


近衛騎士(ロイヤルナイツ)に動揺が広がり、

ささやき声が大きくなり始めた頃、エレナが動く


「馬鹿馬鹿しい!

 (わたくし)は小娘のホラに付き合えるほど暇じゃないのよ!」


彼女は足元にあった不滅のレイピアを蹴飛ばし、

その剣は近衛騎士(ロイヤルナイツ)の元へと滑ってゆく


「……そう、やはり怖いのですわね

 まぁいいでしょう……そこの貴方、その剣を拾いなさい」


ミラが指さしたのは、

不滅のレイピアが滑っていった先にいる騎士だ

恐る恐る剣を手にした彼は、柄を念入りに調べる

だが、特に変わったところは無かった


「どこを見てますの、紋章を見なさい」


ミラの一言で騎士は柄にある紋章を見る

そこにはドラスリアの紋章である双頭の竜が彫られており、

これといって変わったところはなかった


「そこを指で押し込み、右に回しなさい」


言われた通りにすると、カチカチという音がし、

45度ほど回したところでカチンッと音が鳴る


彼が指を離すと紋章部分が開き、

その中には糸とハサミの紋章……ラシュフォードの紋章があった

これは遥か昔、ドラフィリアという国の紋章だったものだ


「こ、これは……こんな事が………」


彼は目にしたものを疑いたくなる

そこにあるのは紛うこと無きラシュフォードの紋章

ドラスリアの紋章に隠されるようにあったその紋章こそ、

真の王家の紋章と言える、そう彼は思ってしまったのだ


不滅のレイピアとは、ドラスリアの国宝である

その歴史は1000年前に遡るとされており、

建国の際に王がエルフに作らせたと言われる宝だ


アーティファクトは破壊不可能……傷1つ付けられはしない

ラルアースに住む誰もが知っている常識の1つだ

それは同時に、この細工も現代では不可能という事になる


更に、彼は蓋の裏側にある文章を見つける

そこにはドラフィリアとラシュフォードの交わした、

4つの盟約が極小の文字で刻まれていた


裸眼でそれを読む事は難しいが、

彼には書いてある内容が手に取るように分かった

先ほど、そこにいる少女から聞かされたばかりなのだから……


「何があったのだ」


他の近衛騎士の問いに、

彼は震える声でこう言うしかなかった


「真の王家は……ラシュフォードだ」


彼の言葉に王の間はざわついた

だが、ミラが1度咳払いをする事で静まり、

皆が彼女の言葉を待った


「双頭の竜、ドラスリアの紋章は、

 二つの王家が一つとなった証であり、

 その内に秘めし紋章こそが正当な王家の紋章ですわ」


その言葉に近衛騎士達は唾を飲む

自分達が真の王家に対し剣を向けているという事実を知り、

このまま王太后エレナのために剣を振るうべきなのか否か……


「不滅のレイピアは建国の際に作られた宝剣

 それはドラスリアの誰もが知っていますわよね?

 (わたくし)の語った物語が真実である証拠ですわ」


だが、この言葉を聞いたエレナは声を荒げる


「黙りなさい! 逆賊が!

 仮にその話が語り継がれていようとも、

 真実であれば王家である(わたくし)が知らぬ訳ないでしょう!」


王太后が知らない建国の秘密、確かに不自然ではある

この言葉でハッとした近衛騎士達は再びミラに剣を向けるが、

ミラはエレナを鋭い目つきで睨み、こう言うのだ


「貴女は資格がないから知らぬのです

 これは両家の当主にしか知らされぬ真実、

 わたくしは次期当主となるため、お父様から聞かされたのです」


そして、ミラはトドメと言わんばかりに続ける


「実の息子である王の暗殺を企て、

 ドラスリアの歴史も知らぬまがい物の王は貴女ですわ!」


近衛騎士達はミラの言葉に驚愕する

真の王家である証を示したばかりの彼女が、

王の暗殺を企てたのがエレナだと言うのだ

驚かない方がどうかしている


「イーリアス様は(わたくし)達が安全な場所に匿っています」


エレナの語った話と異なっていた

彼女はイーリアスは床に伏せていると言っていたのだ

その事実確認のため、近衛騎士の一人がエレナに問う


「陛下、王は今、何処(いずこ)に……」


「もちろん私室におります、

 逆賊の言葉に惑わされるのではありません!」


エレナは断言する、その言葉には自信が現れており、

嘘のようには思えなかった

その空気を感じ取ったエレナは勢いに乗る


「王の暗殺を企てたのは奴ら、ラシュフォードです!

 何をしているのですか! 早く首を跳ねなさい!」


王太后の(めい)で近衛騎士達は剣を構え直す

それを見たミラはため息をもらし、隣りにいる男に声をかける


「オズワイド、(わたくし)を守りなさい」


「ハッ!」


「無抵抗の者は生かしなさい」


「御意」


オズワイドの甲冑から漏れる赤い光が強まり、

彼は右手の片手剣……アーティファクト武器・三の剣を構えた


そして、一人の近衛騎士が動いたと同時に彼も動き、

動き出した騎士は一瞬で腹部を貫かれ、前のめりに倒れる


「なっ……んという速さ……」


ミスリルの鎧を着込んだ近衛騎士を、

まるで鎧など着ていない者を斬り捨てたかのようだった

それほどオズワイドの剣の切れ味は尋常ではなかったのだ


彼が元々居た場所の地面、

鏡のように反射する大理石の床にヒビが入っており、

一蹴りで3メートルという距離を詰め、

一刺しで1人の近衛騎士を屠った事が分かる


ミラはその動きを見て、

改めてこの男……オズワイドの力を実感する


「オズワイド、時間を稼ぎなさい

 (わたくし)は王太后を討ち取りますわ」


「ハッ!」


本来であれば巫女達と合流してから行う予定だったが、

オズワイドの力があれば現状でも可能と判断したのだ


「そこの貴方! (わたくし)の剣を返しなさい!」


不滅のレイピアを手に持つ近衛騎士は戸惑い、

どうするべきなのか悩んでいた


「渡しなさい! 逆賊エレナを討つために!」


彼はこの一瞬で様々なことを考えていた

この短時間で得た事実と、手の中にある証拠……

それら全てを合わせると答えは1つしかなかった


レイピアを持つ彼はそれをミラへと放り投げ、

自身の剣を構え、ミラに背を向ける


「ミラ様、微力ながら我が力を御使いください!」


「その命、借りますわ」


ミラは微笑んだ、その笑顔はとても美しく、

民を救う尊者を体現しているかのようだった

そして、この笑顔が新たに3人の近衛騎士を動かす


「ミラ様、俺の力も使ってください!」


「私の剣は真なる王家のために」


「共に逆賊を討ちましょう!」


近衛騎士4名の参戦により、戦況は6対16となる

まだまだ不利な状況だが、こちらにはオズワイドがいる

更に士気は最高と言っていい、対するエレナ側の士気は最低だ

それは疑念からであった


「活路を開きます」


そう言ったオズワイドが走り出し、

剣を構える近衛騎士の2人を斬り伏せる

それに続いた仲間となった騎士達が二手に分かれて壁となる

この時、ミラとエレナの間に1本の道が出来上がった


「覚悟なさい!」


ミラは走り出し、皆が作ってくれた道を駆ける

慌てるエレナは扇子を投げつけるが、

それを不滅のレイピアで叩き落とし、彼女は構える

切っ先を王太后へと向け、狙い定め、

1歩1歩足に力を込めて走った


そして、彼女の神速の三段突きが放たれる


それはエレナの右胸、左肩、喉をほぼ同時に貫き、

三箇所から同時に血が吹き出した


喉を貫かれたエレナは声を上げる事すら叶わず、

ゴフッゴフッと血を吐き出しながらのたうち回る


ヒュッと音を鳴らしてレイピアを振り、

剣についた血を払ったミラは、彼女を見下ろし言った


「くだらぬ野心に身を滅ぼしましたわね、あの世で懺悔なさい」


王太后が討たれた事により戦闘は止まり、

近衛騎士達は剣を捨て、投降した

彼等は元々迷っていたのだ、誰に剣を預けるべきなのか

そして、この決着を見てすぐに投降したのである


まだ息のあるエレナを見て、

哀れに思ったミラはオズワイドに命令する


「オズワイド、楽にしてやりなさい

 せめてもの情けです、1撃でやりなさい」


「ハッ」


それを聞いたエレナは必死に逃げようと這うが、

彼女の背中を片足で踏みつけ、オズワイドは剣を構えた


エレナは必死に暴れるが、

フルプレートの男に踏まれて動ける淑女などいない

そして、彼女の首は落とされた


オズワイドはエレナのマントの一部を破り、

それを包みとして首を包む

固めに結ばれたそれを手にミラの元へと戻り、

片膝をついてそれを掲げた


「よくやりました、オズワイド」


そう言い、彼女は首を受け取る


「勿体なき御言葉、感謝致します」


オズワイドは深々と頭を下げるが、

彼の肩は激しく動いており、息が上がっているのが見て取れる

彼は魔力を使いすぎたのだ


「もう休みなさい、限界でしょう」


「いえ、まだ……」


「黙りなさい、(わたくし)(めい)が聞けないのですか」


その言葉を聞いたオズワイドは顔を上げ、

主の愛娘であり、未来の主であるミラを見る

自分を見下ろす彼女の顔は慈愛に満ち、

自分の事を本当に心配しているのだと理解した


この御方は剣を捧げるべき御方だ


そう心の中で言い、彼はヘルムのバイザーを上げる

それと同時に赤い光は消え、汗だくの彼の顔が露わになる


挿絵(By みてみん)


「有難う御座います、しばし休ませていただきます」


オズワイドは再び頭を下げる

すると、彼は咳き込み、少量の血を吐いた

魔力欠乏症の症状の1つだ


「無理はいけませんわよ、オズワイド

 貴方の命はラシュフォードのものなのですから」


「ハッ、申し訳ありません」


壁に身を預け、目を閉じたオズワイドは、

まだ肩で息をしている、本当にギリギリだったのだ


ミラは受け取った首を一旦置き、

辺りにいる近衛騎士達を集める


「貴方達、まだ疑っている者がいるなら、

 王の私室へ行きなさい、それで分かりますわ」


しかし、動く者はいなかった

彼等はもう分かっているのだ、どちらが正義であるか

そんな彼等の様子を見たミラは静かに頷き、言葉を続ける


「ならば、(わたくし)に付き従いなさい

 これより、(わたくし)達は風の巫女奪還に向かいます」


新たな事実に近衛騎士に動揺が走る


「巫女奪還……どういう事ですか?」


「逆賊を討ちに来たのではないのですか?」


彼等はもっともな質問を投げてくるが、

ミラは丁寧にその問いに答えてゆく


「事の発端は神の神託により聖剣を手に入れるため、

 ドラスリア城に囚われている風の巫女を

 奪還する事が目的でした、ですが……

 王が王太后に命を狙われ、(わたくし)の家に助けを求めたのです」


ざわつく近衛騎士達を手で制し、彼女は続ける


「王は現在、シグトゥーナ村に匿っていますわ、安心なさい

 今回の件は死の巫女リリム様、地の巫女マルロ様、

 火の巫女イエル様も御力も貸していただいてますわ

 これは神の御言葉を守るため、世界のための戦いなのです」


ミラは近衛騎士達が納得出来るよう丁寧に説明した


「剣を向け、申し訳ありませんでした」


近衛騎士はミラに頭を下げるが、

ミラはその彼の肩に手を置き、微笑みながら言う


「構いません、貴方は自分の仕事をしたまでです

 この国を守るためだったのでしょう? それは誇りなさい」


「有難う……御座います」


騎士は涙を流していた、その言葉に救われたのだ


「動ける者は(わたくし)に付き従いなさい

 時間が惜しいですわ、行きますわよ」


こうして近衛騎士14人を引き連れ、

ミラは風の巫女のいるウィングルデン・タワーを目指す

……かと思ったが、王の間を出たところで巫女達と会った


「おや、こんなとこにいたのかい」


イエルが豪快に笑いながら言うと、

その後ろにマルロが控え目に立っており、

更に後ろには見覚えのないエルフの女性がいた


「そちらの方が?」


「はい、ベリンダ・ポープさん、風の巫女です」


マルロが紹介した彼女はペコリと頭を下げ、

どこか落ち着かない様子で目が泳いでいる


「ベリンダ様、お初に目にかかります

 (わたくし)、ラシュフォードが三女、

 ミラ・ウル・ラシュフォードと申しますわ」


礼儀正しくお辞儀をし、ベリンダの様子を伺う


「は、はぁい……よろしくですぅ~」


エルフ、挙動不審、とてもゆっくりな喋り方、

はちきれんばかりの胸、それが彼女の第一印象だった


「あ、それ生首ですかぁ~?」


ベリンダがミラの手にある包みを指差して言う


「え、えぇ……そうですが」


ミラはまさかこれに言及されるとは思っておらず、

血の滴るこの包みのどこに興味を惹かれたのか不思議だった


「人殺しはぁ~、ダメなんですよぉ~?」


「え……えっと」


ミラは困り、助け舟を求めてイエルの方へと目を向ける


「ははっ、参ったねこりゃ……マルロ、頼んだよ」


「え、私なんですか……分かりました」


マルロがベリンダに必要な事なんだと説明を始める

その様子を見ていたミラは、想像と全く違う風の巫女に、

若干の不安を覚えながらも、目的が達成出来た事を喜んでいた


「分かりましたか? ベリンダさん」


「はぁい、ありがとぉ~、マルロちゃん」


子供であるマルロが大人びており、

大きな子供を相手しているような不思議な光景だった


「えっと……ご理解いただけたのかしら……」


ミラが苦笑しながらベリンダに言うと、

彼女は笑顔でこう言った


「はぁい、必要だからぁ~、殺したのですねぇ~」


「えぇ……そうですけど……」


「わたしもぉ~、殺したぁ~い」


ミラはその言葉にはゾッとした

彼女からは悪意が微塵も感じられない

純粋にそう思っているのだ


嫌な汗をかき、半歩距離を取ろうとすると、

マルロがベリンダの手を掴んで言う


「ベリンダさん、無意味な殺戮はダメですよ

 ミラさんがやった事はこの国のために必要な事なんです」


「どう違うのぉ~?」


「えっと……ミラさんは大勢を守るためにですね……」


それからマルロの必死の説得が続くが、

ベリンダはイマイチ分からぬようで、首を傾げてばかりだった

その様子を見ていたミラは、この巫女の危険性を感じ取り、

今後の対応をどうするべきなのかを考えていた


どうやら地の巫女には懐いている様子

でも、彼女は危うい……まるで小さな子供のよう

その幼子が人智を超える力を有している……危険ですわ


ミラは彼女を警戒しつつ、皆に号令を出す


「これよりお姉様と……本陣と合流しますわ」


近衛騎士達に門の外にいる

ラングリットを連れてくるよう言い渡し、

彼女達は中庭へと移動を始める

外に出た彼女達は1つの異変に気づく事となった


空に浮かぶ黒い影……悪魔の群れだ


その群れはリーン砦を目指しており、

見たこともない存在の出現に皆が恐怖した


そして、マルロの目が大きく開かれる事となる

彼女は見つけてしまったのだ

群れの中に1体だけいる桁違いの魔力を持つ存在を……


「あれは……邪神?」


マルロは空を眺めながら、手汗で滑る杖を握り直した


巫女が全て揃ったのでまとめてみました。


六神の巫女 マナバージョン

挿絵(By みてみん)




六神の巫女 シャルルバージョン

挿絵(By みてみん)

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