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カタクリズム:中編  作者: ウナ
烏合の讃歌
37/72

5章 第13話 風の前の塵

【風の前の塵】







「どうなってんだい……」


イエルの溶岩魔法はかき消された

原理は分からないがベリンダが何かをしたのだろう

そう思ったイエルはマルロを守るように立ち、

1歩後ろへと下がろうとする


「ふふっ……驚きましたぁ~?」


彼女からは悪意は感じないが、その余裕な態度が鼻につく

イエルは魔法が発動しなかったという未知の現象を警戒し、

今出来る最善を選択した


「……参ったよ、降参さね」


しかし、ベリンダはきょとんとした顔で小首をかしげる


「何かのぉ~、勝負だったんですかぁ~?」


これを冗談で言えるとしたら大したタマだ

だが、彼女は本当に理解していないようだった


「アンタが、あたしの魔法を消したんじゃないか」


どうやったか分からないけどね、とイエルは付け足す

それを聞いたベリンダはクスクスと笑い出し、

ふかふかのベッドの上で軽く跳ねる


「違いますよぉ~、私はぁ~、何もぉ~、してませんよぉ~」


どういう事だい……とイエルが困惑していると、

後ろにいたマルロが彼女の裾をくいくいっと引っ張った


「何だい?」


「ベリンダさんは本当に何もしてません

 イエルさんの魔法は"ここ"に消されたんです」


マルロは杖でコンコンと地面を突く

中が空洞のような軽い音がし、魔封石なのが分かる


「そんなバカな事があるかい、魔封石にそんな力は無いさね」


だが、マルロは首を横に振る


「本当です、魔封石の放つ魔力が干渉して、

 イエルさんの魔力が飛散するのを見ました」


これは鉱石に詳しいドワーフであるイエルには衝撃的だった

彼女の知識の中では魔封石にそこまでの効果はないのだ

だが、現に目の前で起こった不発に終わった魔法……

そして、マルロという信用出来る相手の言う事実……


本当に魔封石にそんな効果が……?

ここで使われてる石は特別なのかい?


イエルの中で様々な疑問が浮かぶが、

その疑問にはベリンダ・ポープが答えてくれる


「ここはぁ~、普通の魔法じゃ~、ダメなんで~すぅ」


そう言った彼女の身体は突然ふわりと浮き上がる

風の流れを肌で感じ、それが風の魔法なのだと理解した


「どういう事だい……

 あたしのはダメで、なんでアンタのは使えるんだい」


「ふふふ~、すごいでしょぉ~」


ふわふわと浮いたまま漂う彼女はどこか誇らしげで、

まるで買って貰ったばかりの玩具を自慢する子供のそれだ


「イエルさん、私……分かったかもしれません」


マルロは杖を構え、地面を2度突き、片手を前に出し、

2つの魔法を同時に詠唱する


「童たちの歌よ……石壁の守り」


最初の魔法は小さなゴーレムを作る中級3章の地の魔法だ

次に発動したのは中級1章の防御強化魔法である


マルロの前に小さな土塊のゴーレムが、

もこもこと形を成すが一瞬で崩れ去る

しかし、防御強化魔法はしっかりと発動し、マルロは強化された


「やっぱり……イエルさん、分かりました」


マルロは少し嬉しそうにイエルに説明を始める


「石の魔力に乱されるから消えてしまいますけど、

 魔法とは別に、石と同等の魔力を放出すればいいんです

 ゴーレムが崩れたのは自ら魔力を放出できないからで、

 強化魔法が掛かったのは私が魔力を放出し続けたからです」


「せいか~い♪」


マルロの説明を聞いたベリンダは、

子供のように嬉しそうに空中でくるくると回る


「マルロちゃんはぁ~、すごいわねぇ~

 私なんてぇ~、70年くらい~、かかったのにぃ~」


イエルはマルロの説明で全て理解が出来た


自分がこの塔に足を踏み入れた時に感じた不快感、

その正体は魔封石から漏れる魔力で、

それが自分の魔力に干渉して鳥肌が立ったのだ


マルロがこの塔に入っても何も感じなかったのは、

無意識で魔力の膜みたいなものを張っていたからだろう

彼女の魔力量は自分の比じゃないため、それで納得がいった


「なるほどね……理解したよ

 で、アンタはどうするんだい? あたしはもう魔法を使えるよ」


そう言い、イエルは溶焔の宝玉を構える

しかし、ベリンダは空中でくるくると回りながら、

呑気に鼻歌まじりにこんな事を言う


「お茶でもぉ~、どうですかぁ~?」


空中で静止した彼女は、指をクイッと動かす

すると、テーブルにあったティーセットが動き出し、

茶葉がティーポットに入れられ、ティーカップにお湯が注がれた


その瞬間、全ての動きが止まった


「…………?」


イエルとマルロはどうしたんだ?と不思議そうにしている

空中で静止するベリンダはというと、表情は変わらず緩いが、

その何を考えているか分からない虚ろな目が、

イエル達の横で両手を上げている兵士達に向けられた


ふわりと移動を始め、牢を出て彼等の頭上まで移動する

そのまま彼等を見下ろし、ベリンダは微笑のまま言った


「お湯がぁ~、冷めてますよぉ~?」


「ひっ!」


尋常じゃない反応だった

兵士はマルロとイエルを恐れていたのではない

この女、ベリンダ・ポープを恐れていたのだ


「あれほど言いましたよねぇ~?」


「は、はい! 今すぐにっ!」


兵士は慌てて立ち上がろうとするが、

ベリンダはゆっくり降下し、彼に顔を寄せる


「言いましたよねぇ~?」


「は、はい……た、助け…あぁ……」


ガクガクと震える兵士は失禁してしまう

それに気づいたベリンダは、チラリと下を見る

僅かに湯気が上がり、アンモニア臭が辺りに広がっていた


そして、ベリンダは彼の頬を指でつつく


「私のぉ~、おうちをぉ~、汚しましたねぇ~?」


「ご、ごめんなさっうっ」


次の瞬間、彼はバタリと顔面から倒れ込む

ビクビクと数秒痙攣してからピクリとも動かなくなった


死んだのだ


「なっ……」


イエルは絶句していた

隣りにいるマルロは意味が分からないようで、

倒れた兵士とイエルを交互に見ている


「綺麗にぃ~、片付けてぇ~、くださいねぇ~」


もう1人の兵士にそう言い、

ベリンダは牢へふわふわと浮きながら戻ってゆく


残された兵士は涙を流しながら、

震える手で必死に死体となった彼を引きずり、

掃除道具を持ってきて片付け始める


死体に外傷は無かった

どうやって殺したのかも分からないが、

この女が危険である事は明白だった


「アンタ……何やってんだい」


イエルの問いかけの意味が理解出来ず、

ベリンダは首をかしげる


「何とはぁ~?」


「何で……何で殺したんだい」


イエルの声からは怒りが感じられた

その声が怖かったマルロはビクッと身体を震わせる


「お湯がぁ~、冷めてましたしぃ~

 おもらしもぉ~、したじゃないですかぁ~」


何を当たり前の事を聞いてるの?といった顔だった

そう、ベリンダにとってはこれが当たり前なのだ


「それだけで……」


マルロは杖をギュッと握り、

目の前に浮かぶ風の巫女への警戒を一気に強める


「たったそれだけの理由で殺したのかい」


「? どうしたんですぅ~?」


これは演技ではない、純粋に分からないのだ

彼女は本気で理解していないのである


人を殺すという意味を


『アンタってやつはっ!!』


イエルが激怒し、声を荒げ、溶焔の宝玉を構える

マルロの教えの通り魔封石の魔力を感じ取り、

同等の魔力を放出しながら宝玉に魔力を込める


「灰より生まれし(あか)


だが、魔力が普段よりも上手く練り上がらず、

発動には少し時間が掛かってしまいそうだった


チッとイエルが舌打ちをして更に魔力を練り上げる

彼女の周りには直径3メートルほどの魔法陣が出現するが、

魔封石の影響でその魔法陣は揺らいでいた


「かの炎の中で灰と還れ」


「イエルさんっ」


マルロの制止を無視してイエルは魔力を込める

その様子をベリンダは変わらぬ微笑のまま見つめていた


しかし、マルロには見えている

ベリンダという女は膨大な魔力を内に溜めているのを……


『イエルさんっ!』


マルロが大声を出すが、イエルの怒りは止まらない

そして、ついにイエルの魔法が発動する


灰象紅蓮(はいしょうぐれん)・ニ式!!』


これは火の巫女だけの魔法……究極魔法の1つである

究極魔法の中では最下位クラスのものだが、

その威力は通常の火の魔法を遥かに凌駕する


更にその魔法を溶焔の宝玉という至宝を通す事で、

地の属性を付与し、溶岩の究極魔法へと進化させていた


イエルの前方に灰で満たされた60センチほどの球体が現れ、

その中は小さな爆発と放電現象が繰り返されていた


「謝りなっ!」


イエルの言葉を聞いてもベリンダは首をかしげるのみだ

それも当然である、彼女は悪気など一切無いのだから


『さっさと殺した彼に謝りなっ!!』


「なぜです?」


その瞬間、イエルの堪忍袋の尾は切れた

宝玉を前へとかざし、灰象紅蓮・二式は動き出す


「1・1・4・1・7・1……

 リー・リー・リーロ・リー・レレ・リー……」


突然ベリンダは意味不明な数字と言葉を並べ、

両手の人差し指を指をくるくると回し始める

その動きには何かの法則性があるようだが、

イエルとマルロには理解が出来なかった


挿絵(By みてみん)


「リー・ルラル・ラーレ」


彼女がそう言うと同時に、

イエルの灰象紅蓮・二式は一瞬で消え、

灰だけが地面へと落ちた


「なっ……に、したんだい……」


イエルは額に汗を滲ませ、

手汗で一族の至宝である宝玉を落としそうになる

それほど動揺していたのだ


その後ろでマルロは目を見開き、

彼女……ベリンダのした事に驚いていた


「ふふふ~♪」


ベリンダは上機嫌に空中でくるくると回り、

子供のように無邪気に笑っている


「イエルさん、ここは私が……

 火と風では相性が悪いと思います」


普通ではそんな事はない

多少相性が悪い程度の軽い問題のはずだが、

相手は風の巫女、想像を遥かに超える風の力を有する


普通の火と風の魔法使いの相性による影響は、

僅かな違い程度だが、それが巫女同士となると話は別だ


僅かな違いだった差は大きな差となり、

この思うように魔法が使えぬ環境という事も合わさり、

その差は決定的な差となったのだ


「今度はぁ~、マルロちゃんですかぁ~?」


嬉しそうにベリンダは言う

まるで遊んでるかのような態度だ


いや、実際遊んでいるのである

彼女は久々に魔法の勝負が出来て嬉しいのだ


以前、ベリンダを取り押さえようとした魔法使い達がいる

その1人の名は「ブロス・ラジリーフ」

ドラスリア宮廷魔導師の風の魔法使い


先の【死の概念消失事件】の時に、

ドラスリアの代表に選ばれた6名の1人である


子煩悩な彼はそんな危険な役目は嫌だった

しかし、命令のため仲間の宮廷魔導師4人と共に、

わがまま放題をしているベリンダを止めに来た


結果は宮廷魔導師2名の殉職


彼女の魔法を前には、

エリートである彼等でも何も出来なかったのである


その時以来の魔法合戦に、

ベリンダは心から楽しんでいたのだ


「はい、私がお相手します」


マルロはペコリと礼儀正しくお辞儀をし、

黒曜石の杖をイエルへと預ける


「マルロ……使わないのかい?」


「はい、殺し合いじゃありませんから」


少女は一瞬笑顔を見せ、真剣な表情へと変わる


「ベリンダさん」


「なんですかぁ~?」


「意味もなく人を殺すことは悪いことですよ」


やはりベリンダは小首をかしげた

何が悪いのか理解出来ないのである


「なぜそんな簡単に殺せるんですか?」


「私はぁ~、特別なので~、いいのですよ~?」


ベリンダは当たり前でしょ? といった表情で言う

彼女はそう育てられ、そういう環境で生きてきたのだ

この閉鎖空間で、200年近い時間を……


「特別……ですか、わかりました

 私が……ベリンダさん以上に特別なら、

 それなら私がベリンダさんを殺しても構いませんね?」


「ふふっ……それはぁ~、ありえないでしょ?」


ベリンダの眉が一瞬だが動いた

それをマルロは見逃さなかった


この虚ろな目と微笑に騙されがちだが、

彼女の人間、感情があるのだ

マルロの挑発に、僅かにだが怒ったのである


ベリンダ・ポープという女性は、

幼い頃にドラスリアに監禁され、長い時をここで過ごしてきた


幼い頃から彼女は特別だと教えられ、

だからここから出てはいけないのだと教えられた

当時は魔封石の効果を破れず、

魔法すら使えない少女に抗う力は無かった


そんな彼女が年齢を重ねる内に、

魔力を見る目が鍛えられ、内なる魔力も鍛えられ、

本から得た膨大な知識を元に、オリジナルの魔法を作り上げ、

魔封石の効果の中でも自由に魔法が使えるようになった


そして、彼女は気づいてしまったのだ

自分は本当に特別だったのだ、と

巫女……それは世界に6人しかいない存在

外にはあんなにも人が大勢いるのに、6人なのだ


力を得た彼女は自分の力を信じ、

その力を示して、ありとあらゆる我儘を通してきた


だが、元々怠惰な性格だった彼女は、

外に出るという選択肢は無かった

それが教えられたからなのか、

本当に面倒だったからのかは分からない


ただ、彼女は出るという発想がなかった


長い時をここで過ごし、何でも好きに出来た

腹が立てば魔法を使った

その結果、人が死んでも彼女にはどうでもよかった


だって、その他大勢の1人なんだから


彼女は本気でそう思っており、

周りも恐怖から指摘など出来なかった


この狭い人間関係と、閉鎖空間により、

彼女の異常性が作り上げられてしまったのである


「それなら1つ勝負をしましょ

 どちらが特別か決める勝負です」


マルロが真剣な表情でそう言い、

ベリンダは変わらぬ微笑で答える


「いいですよぉ~、私からでいいですかぁ~?」


ベリンダの広角は僅かにだが上がり、目尻は僅かに下る

その表情はこれから起こるであろう事柄を想像し、

快楽の前借りをしているようだった


「はい、構いません、いつでもどうぞ」


マルロは足元の魔封石の魔力を、

ウィングルデン・タワー全体の魔力を読み取る


膨大な数の魔封石が連なり、

1つの大きな流れとなり、魔力を乱す

その大きな流れの本流を掴み取り、

マルロは自身の魔力と同調させてゆく……


「4・5・7・1・3・3・2………

 リーロ・ラーレ・レレ・リー・レー・レー・ルー」


左右の指を右回転・左回転と何度もくるくると回す

数字・言葉・指の動きだけで彼女は魔力を練ってゆく

マルロはその一連の流れを余すことなく見ていた

巨大な魔法陣が指と同じ方向にくるくると回る


そして、ベリンダの魔法が発動する


「ルー・ルラル・ラーレ」


「涙する土塊よ、この導きに従え

 母なる大地よ、子を想う愛を示せ」


同時にマルロは詠唱を済ます


ベリンダの魔法はチチッと囀る鳥の鳴き声のような音がし、

散乱した本が舞い上がり、見えない何かにバラバラにされる


風の刃が踊るように舞っているのだ

それが一定の空間を行ったり来たりしており、

触れたものを確実に両断する


(パットリーノ)(プーグノ)


マルロの詠唱が終わり、魔法が発動した

辺りの魔封石が急速に形を変え、マルロの元に集まる


更に1つ1つブロック状の魔封石は圧縮され、

極小のキューブへとなり、それが形を成してゆく

そして、大量にキューブは1つの黒い球体となった


「なんですかぁ~、それ~、ふふっ」


ベリンダは馬鹿にするように笑う

それもそうだ、彼女の風魔法は魔封石など簡単に両断する

いくら集めようが無意味なのだ


「それじゃぁ~、行きますよぉ~」


「いつでもどうぞ」


ベリンダの魔法が地面と本をズタズタにしながら進み、

マルロの魔法で形成された黒い球体を飲み込み、

その魔封石で出来た球体をズタズタにする……


はずだったが、そうはならなかった


傷1つ付かず、球体はそこに浮いている

金属を削るような音が響いているが、全く傷はつかない


「もういいですか?」


「え……」


マルロの問いにベリンダは言葉に詰まる

信じられないのだ、今起こっていることが


自分の魔法が通じていない

あってはならない現象が今起こっている


風魔法は徐々に勢いが弱まり、

次第に鳴り響いていた音も消えていった


「まだやりますか?」


マルロの声が届く、それは彼女には恐怖になっていた


「ま、まって? ね、少しまってね?」


「はい」


何がいけなかったのだろう、とベリンダは考える

そして、魔力を見る目でマルロの魔法を見た時、彼女は理解した


魔封石の魔力を凝縮し、外方向にだけ放出させ、

魔封石は強靭な魔法障壁で守られていた

更に防御魔法も重ねがけされており、

一体いくつの魔法を同時に行使しているのかも分からない


こんな繊細な魔力コントロール、自分には出来ない

ベリンダは一瞬でその差を理解した


マルロがキューブを操作し、球体は拳へと変わる


「そろそろいいですか?」


「や、やぁ~だ~、まってぇ~」


慌てるベリンダは涙目になりながら必死に止める

初めて自分に死が迫っている事を理解したのだ


「お願いぃ~、殺さないでぇ~」


「殺しませんよ」


「うぅ……ホントにぃ~?」


ベリンダは今にも泣き出しそうな声で言った

彼女は怖いのだ、死というものが


「マルロちゃん……あなたは何者なのぉ~?」


「私は……神の子です」


「神………の子……巫女じゃないのぉ?」


「地の巫女ですよ、それと同時に神の子でもあります」


ベリンダはゆっくり着地し、膝立ちになる


「私なんてぇ……ただの巫女だったのね……」


目に涙をためて彼女は震え出し、

わんわんと幼子のように泣き出した

自分が"特別"じゃないと悟ってしまったのだ


「ベリンダさん」


「うわぁ~~~ん、なぁにぃ~、わぁ~ん」


大泣きしながら彼女は答える

思ったより冷静なようだ


「私達巫女は特別かもしれません

 でも、それは神の御言葉を頂ける立場だからで、

 私達自身が特別じゃないのです、わかりますか?」


「わぁ~~ん、はい……ぐすっ」


マルロは優しい声で、子供をあやすように伝える

涙する彼女に近寄り、頭を撫でながら……


「人が死ぬのは悲しいことです……

 ベリンダさんも死にたくはなかったでしょう?」


「はい……」


しおらしくなったベリンダはペタンとお尻をつき、

女の子特有の座り方をして涙を拭う


「私は大切な人を亡くして気づきました

 命はとても重くて、とても暖かくて、

 とても大事で……簡単に奪ってはいけないんです」


マルロはどこか遠くを見つめながら言う

その目は悲しみに満ちていて、胸が痛くなるほどだった


「マルロ……」


イエルはマルロの言葉に涙しそうになっていた

やっと……受け入れられたんだね……


「……はい」


「今後、無意味に人を殺してはいけませんよ」


「うぅ…はい、ごめんなさぁい~」


ずずっと鼻をすすりながら彼女は頭を下げる


「私に謝ってもダメですよ

 イエルさんが言った通り、彼に謝ってください」


マルロは先程殺された兵の方を見る

相棒の兵士が部屋の隅みまで運び、

綺麗に胸の前で手を組ませてあった


ベリンダはふらつく足取りだが自身の足でそこまで歩き、

亡くなった彼の前で膝をつき、頭を地面にこすりつける


「ごめんなさぁいぃ~~~」


再びわんわんと泣き始め、

その涙はなかなか止まる事はなかった


彼女は理解したのだ

死の恐怖と、命の大切さを


この閉鎖空間ではそれすら教えてくれる人はいなかった

本には書かれていたが理解が出来なかった

彼女は200年以上知らなかったのだ


ベリンダは根は悪い人間ではない

彼女が狂ってしまったのは環境のせいなのだ


「ベリンダさん」


「……はい」


泣き疲れたベリンダは遺体に寄り添うように寝転がっていた


「私達と一緒に、聖剣を手に入れてくれませんか?」


「……やですよぉ~」


「え……」


この返答には流石にマルロも引きつった顔になる


「どうしてだい」


黙っていたイエルが口を開き、ベリンダに問う

すると、彼女は言った


「だってぇ~……三食昼寝付きじゃないとぉ~」


「まだ言ってるのかい!」


イエルの怒りはまだくすぶっている

このベリンダの態度には腹が立つのだ


「ベリンダさん、神の御言葉に従わないと、

 三色昼寝なんて到底出来なくなりますよ

 それこそ、全員死んじゃいます、それでもいいのですか?」


「いやですぅ~」


マルロの言葉には身を起こして答えた


「死にたくぅ~……ないですぅ~」


再び目に涙をためながら彼女は言った

それは本心だろう、先程死を目の当たりに悟ったのだ


「なら、私達と行きましょ?」


「……でもぉ~」


「全部終われば、またこの生活に戻れますよ」


「ホントぉ?」


「ホントです」


マルロは笑顔で言い、ベリンダも涙を拭い、笑顔になる


彼女は幼いのだ、その心は成長しておらず、

誰も教えてくれず、一人で閉じ籠もってきた


その結果がこれだ


そして、彼女は今日様々な事を知った

自分が特別でない事、死の恐怖、命の大切さ、

世界がまずい(ベリンダいわく)という神託の本当の意味


こうして、風の巫女ベリンダ・ポープは同行する事となった


・・・・・


・・・



一方、ミラ・ウル・ラシュフォードは……


オズワイドと共に王の間に向かった彼女は、

道中で近衛騎士(ロイヤルナイツ)を4人倒し、

今その王の間の扉の前へと到着したところである


綺羅びやかな装飾が施された分厚い扉は、

来る者を拒むかのように重く重く閉ざされており、

空気さえも重く感じるほどだった


「ミラ様、私が先に」


「えぇ、頼みましたわ」


オズワイドは既に魔力を使い過ぎている

これ以上の無理は命に関わる可能性があるが、

今は耐えてもらわなくてはならない


ここが正念場なのだ


「行きます」


こくりと頷き、オズワイドが扉を開く

ゴゴゴゴ……と重苦しい音が鳴り響き、

ゆっくりと扉は開いて行った


隙間から中を覗い、敵がいないか確認を取り、

その身を滑り込ませる


しばらくしてからオズワイドの合図があり、

ミラも王の間へと入って行った


「どうやらいないようですね……」


「そのようね……後はどこかしら」


姉からの指示では王太后エレナを見つけ、

時間を稼いでから仲間と合流し、

その首をとれ、と言われている


場所の指定が無かったのだ

流石に姉でもそこまで分からなかったのだろう


「残るは王太后の部屋かしら」


戦時中だからここにいると思ったのだが、

働き詰めで部屋で休んでいるのだろうか


そう思ったミラは移動を始めようとする……が、

1本の矢が彼女の背中目掛けて放たれた


それはオズワイドが三の剣で叩き落とし、

ミラに当たる事はなかった


「ミラ様、伏兵です」


「そのようね」


弓兵は柱の影からこちらを狙っており、

その数は確認出来ただけで3以上……

更に、壁が開き、そこから20名近くの兵が現れた


その最後尾に、

目的の王太后エレナ・ベル・ドラスリアの姿が見える


「居ましたわね」


「仕掛けますか?」


「お待ちなさい、時間を稼ぐ事が最優先ですわ」


「ハッ、失礼致しました」


弓兵がミラ達を狙おうとするが、

エレナがそれを止め、扇子で口元を隠しながら言う


「おやおや、ラシュフォードの小娘じゃないかい

 飛んで火にいるとはこの事ですわね

 ところで、どうやってここまで来たのかしら?」


殺す前に侵入経路が知りたいのだろう

当然のことだ、そこから援軍が来られてはたまったものじゃない


「ご機嫌よう、王太后……これは失礼、ただの逆賊でしたわね」


ミラの挑発に王太后は歯をギリギリと鳴らすが、

ここは我慢しなくてはならない……

とにかく侵入経路を調べなくては危険だ


「ほほほ……ご冗談が過ぎますわよ、ミラ侯爵」


「ふふ、そちらこそ、

 ご冗談はその服のセンスだけになさい」


エレナは紫と金色の派手なドレスを着ている

いかにも老婆の好きそうな服といった印象だ

自分に華が無くなり、服にそれを求めてしまうのだろう


バキッという小さな音が響き、

エレナの持つ扇子は投げ捨てられる

どうやら怒りのあまり扇子を叩き折ったようだ


「まぁ……今はいいでしょう

 そんな事より、貴女…ここから生きて出れるとでも?」


「どうかしら、(わたくし)の予想では、

 貴女こそ生きて出れるのか怪しいですわよ?」


ミラは自信に満ちた表情で皮肉を返す

彼女はラシュフォードだ、そのように育てられた

次期当主の座を約束された少女なのだ


「いい加減になさい、小娘っ!」


怒りをあらわにし始めたところで、ミラは微笑む

今だ、と……


「では、本題に入りましょう」


そう言い、ミラは辺りの者に訴えるように、

身振り手振りを加えながら語り出す




「これはドラスリア王国の始まりの物語……」




ミラの語りし物語は、この国の根幹を揺るがすものだった




やっと巫女が全員揃いましたね!

ベリンダさんを気に入ってくれると嬉しいです(*´∀`)


挿絵(By みてみん)

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