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カタクリズム:中編  作者: ウナ
烏合の讃歌
30/72

5章 第6話 兄妹

【兄妹】






数日前……ドラスリア城



国内でも有数の貴族たちが一堂に会していた

彼等は王家であるドラスリア家の傘下に入った貴族たちだ

もちろんこの中には三大貴族……もとい、

二大貴族のライネル家、トレルド家も含まれている


彼等の大半は何故集められたのかすら知らない

そのため、噂好きの貴族たちはあれやこれやと話している

会話の中心にいるのはライネル家とトレルド家だ

他の貴族たちは彼等に媚びを売り、気に入られようと必死だった


だが、そんなくだらない会話も、

エレナ・ベル・ドラスリアの登場で終わりを告げる

全員が頭を垂れ、彼女の発言を待つのだ


「面をあげよ」


だが、誰一人顔を上げる者はいない

今はこれが最上位の者に対する常識とされていた

"1度目で顔を上げてはいけない"

そんなくだらないマナーが貴族たちの間で流行っているのだ


「面をあげよ」


貴族たちはゆっくりと顔を上げ、王太后エレナを見る

エレナは満足そうに頷き、その腰を玉座へと下ろす


彼女が玉座に座ることに異を唱える者はいない


現王イーリアスが床に伏せているのを知っているためだ

その代理として王太后エレナが玉座に座す、

これは自然な流れと言えるからである


「皆の者、よく集まってくれた」


玉座から貴族達を見下ろしながら彼女は言う


「この度、集まってもらったのは他でもない

 妾の息子、ドラスリア国王イーリアスの事です……

 皆も知っての通り、イーリアスは床に伏せておる

 それは何故か!………暗殺されそうになったからである!」


演劇のように芝居じみた言い方だが、

貴族達の心を揺さぶるには充分だった


ざわめきが会場内で起こり、

その反応にエレナは口元を扇子で隠し、ニヤける


「此度の件、主犯は判っておる……」


いちいち溜めを作り、観客……貴族達を煽る

その効果はあったようで、貴族達は固唾を呑み、

王太后エレナの言葉を待っていた


挿絵(By みてみん)


「ラシュフォード三姉妹……奴らが此度の主犯なのです」


ラシュフォードの名が出た途端ざわめきは強まり、

会場は一気に不穏な空気に包まれた


何故エレナがラシュフォード家ではなく、三姉妹を敵としたか

彼女は馬鹿ではない、ラシュフォードと事を構えるということが、

どのような結果をもたらすか判っているのだ


此度の件、イーリアス返還の件でラシュフォードに書状を送った際に、

当主であるユグド侯爵は静観すると言い放った

そして、娘達が暴走を始めたとわざわざ伝えてきたのだ

王は娘達が連れて行った、好きにするといい、と……


なんと愚かな男、エレナはそう思った

それと同時に、これはチャンスだと思ったのだ


三姉妹を逆賊として討てばラシュフォードを失墜させる事は出来る

同時に邪魔な現王イーリアスを葬ることも叶う

そうなれば、王太后である自分の独裁政権が叶うという訳だ


一石二鳥とはまさにこの事


エレナはこのチャンスに震えを抑えるのがやっとだった

油断すると馬鹿なユグド侯爵や三姉妹達の事を笑ってしまいそうなのだ

そして、目の前にいる愚かな貴族共の事すらも……


「ラシュフォードに勝てるの……?」


「三姉妹だけなのだろう?王家がいれば行けるのではないか」


「しかし、あのラシュフォードですぞ」


「戦争が始まるのかしら……」


「これはチャンスかもしれないぞ」


などと、貴族達は思い思いのことを言っている

不安に煽られて冷静な判断が出来てない貴族達を見下ろし、

エレナの口元は緩みかけるが、気を引き締め、最後の仕上げに入る


「皆の者、聞いてはくれまいか!

 王を……いや、息子の命を狙われた一人の母としての願いがある

 どうか、どうか……妾に、力を貸してはくれまいか」


先程、扇子で顔を隠した瞬間に目に水を垂らしており、

それをまばたきをする事でポロッと流す


「おいたわしや……」


それを見た貴族は彼女に同情する……まさに計画通りである


扇子で顔を隠し、肩を震わせる王太后は、

傍から見れば泣いているように見えるだろう


しかし、その実は笑っていたのだ

簡単に騙される愚かな者達を嘲笑っているのだ


これが王太后エレナ・ベル・ドラスリアという女である


「逆賊を討て!」


「そうだ!逆賊を討てー!」


「ラシュフォード三姉妹を吊るし上げろ!」


「魔女だ!三姉妹は魔女に違いない!」


「そうだ!焼け!焼き殺せ!!」


「正義は我らにあり!!」


貴族達は立ち上がり、会場は熱気に包まれた


もちろん貴族達にも下心はある

今回の戦争でラシュフォードを失墜させれば、

国の半分近くにもなる大規模な領土が分配される

この戦争でその甘い汁を吸おうと企んでいるのだ


こうしてドラスリア貴族達は結託し、

ラシュフォード三姉妹という敵との戦争に向け準備が始まった


・・・・・


・・・



数日後……ドラスリア南東部、シグトゥーナ村



たった60人ほどの小さな村である

特に名産品も無く、ただの農村といった雰囲気の村だ

裕福と呼べる者は住んでおらず、皆が力を合わせて冬を越す

シグトゥーナはそんな村全体が家族のような小さな村である


この地を治めている領主はヴァンレン家である


古くから続く家系だが、徐々に権力を失い、

今ではこんな小さな村1つしか持っていない低級貴族である

その生活は農家である村人と大差はない


何故領主たるヴァンレン家が農家と変わらぬ生活を送っているのか?

それは"税"の取り立てをほとんどしていないからだ

村を維持するための最低限の税は徴収しているが、

それ以上は求めず、平民と助け合って生活している


ドラスリアの貴族にそんな奇特な人など滅多にいないと言っていい

結果的にヴァンレン家は貴族というには貧しく、

他の貴族達からは笑われている始末だ


だが、現当主ダン・ドンナー・ヴァンレンは一切気にしていない


彼は十数年前に片足を失い、

それからはシグトゥーナ村のため尽くしてきた人物である

父であるヴォーダン・ドンナー・ヴァンレンの意志を継ぎ、

"民と共に生きる"を貫いているのだ


父ヴォーダンは存命だが、ダンの領主としての才や、

民から信頼されている事などもあり、彼に当主の座を明け渡したのだ

そして、妻であるメノッサ・ソール・ヴァンレンと共に、

静かな隠居生活を送っている


「もうっ!ダン兄さまはいつもうるさいんだから!」


黄金色に輝く稲穂のように、

細く美しい髪を揺らしながら早足で歩く華奢な少女がいる


「こんな時はやっぱり"あそこ"よね……ふふっ」


先程まで不機嫌だった少女は軽い足取りで屋敷の一室を目指す

透き通る青空のような瞳をし、

まだ13歳のこの少女は幼さの中にも美しさを秘めている


挿絵(By みてみん)


ある部屋の前まで来た少女は、ポケットから1本の鍵と取り出した

鍵は銀で出来ており、しっかり手入れがされているのか、

異様にピカピカと輝いている


その鍵で、主が不在となって数年経つ部屋へと入り、

扉を開いているのが嫌なのか一瞬で閉め、両手を広げる


「すぅ~~~~~………はぁ~~~」


部屋に入るなり異様に長い深呼吸する少女の顔は、

誰が見ても判るほど紅潮していた

とろけるような表情で、その部屋の空気に酔いしれるように、

少女は3回ほど深呼吸を繰り返す


「ふふっ」


何がそんなに楽しいのかは判らないが、少女は少し上機嫌になっていた

そして、少女は室内をゆっくりと見渡し、

部屋の隅にある、この少女には合わない大きめのベッドで視線が止まる


ゆっくりと歩み寄り、ベッドが鳴らないよう腰を下ろし、

乱暴に靴を脱ぎ捨ててからベッドへと潜り込む


「すんっ、すんっ…………くんかくんかっ」


まるで匂いを嗅ぐ犬のようにベッドを嗅ぎ回り、

最終目標である"それ"へと辿り着く……枕である


「すぅぅ~~~~~~~~~…………あはっ…あはは」


枕に顔を埋めながら、肩を震わせて笑い出す

そして、顔を上げた彼女はトマトのように真っ赤に紅潮していた


「ふふっ……最……高…」


傍から見たら今の彼女は、

自慰行為の直後のように思われてもおかしくはない

息を荒くし、顔を紅く染め、愛しい者でも見るかのような表情だ

そんな少女は再び枕に顔を埋め、足をバタバタと動かし興奮している


「あぁ、エイン兄さま、エイン兄さまっ」


少女は枕に顔を埋めながら呪詛のように唱え続けている

その時、入り口の扉がガチャリと開く


「ふぉっ!?」


間抜けな声を出し、慌てて扉側を見た少女は、

驚き、喜び、恥じらい、感動、喜びとコロコロと表情が変わる

そして、大粒の涙を流しながらベッドから物凄い勢いで跳躍する


『エイン兄さまっ!』


「おっと……危ないぞ、フノッサ」


少女……フノッサ・ソール・ヴァンレンを抱きとめたエインは、

彼女の頭を撫でながら微笑む


あぁ、本物だ、本物のエイン兄さまだ

この匂い、このお顔、この体温……あぁ愛しい兄さまだ


嬉しさと驚きで感情がぐちゃぐちゃになり、

涙を流すばかりで言葉が出てこない


「フノッサ、また俺の部屋に入ってたのかい?

 ちゃんと自分の部屋があるんだからそっちを使いなさい」


「はい、はいっ」


聞いているようで全く聞いていない

フノッサは兄であるエインが大好きなのだ


「兄さま、エイン兄さま、いつお戻りになられたのですか?」


「さっきだよ、ただいま」


エインの優しい笑顔がフノッサに向けられる


「おかえりなさいませっ!」


フノッサはエインに抱きつき、その胸に顔を何度もこすりつける

手は彼の背中をまさぐり、身体を密着させ、足を絡ませる


「こらこら、倒れてしまうじゃないか」


エインは優しく妹を引き剥がす


「大きくなったね、フノッサ」


優しい笑顔を向け、頭を撫でてくれるが、

身体が離れた事が少し寂しくて、しょんぼりとする……が、

それ以上に大変な事に気づき、彼女の顔から血の気が失せる


「に、兄さま……その腕は……」


彼女はエインが腕を失った事を知らなかったのだ


シグトゥーナ村は小さな村である

そのため、外界との接点などほぼ無いと言っていい

エイン達が世界を救った事は知っていたが、

彼の腕の事までは知らなかったのだ


「あぁ、ちょっと失敗してしまってね

 でも大丈夫だよ? ほら、今はこの銀の腕があるから」


わたしはなんて愚かなんだろう

兄さまが世界を救った事を、わたしは大喜びしていた

やっぱりエイン兄さまはすごい人、わたしの、わたしだけの英雄

そんな風に思って浮かれていた自分が憎い


気がつけばポロポロと涙を流し、泣いていた


「フノッサ?大丈夫かい?」


「はい……はい………」


エインは妹を優しく抱き締め、泣き止むまで頭を撫でていた

しばらくして落ち着いたフノッサは、ある事に気づく


じぃ~~~~……………


エインの腋の下から顔を覗かせるフノッサは、

彼の後ろで引きつった笑顔で佇む、

可愛く美しい女性……リリムを睨んでいた

目の合ったリリムは引きつった笑顔のまま言う


「初めまして、フノッサ…さん?」


「どうも」


エインに対する声色とは全く違う、敵意の塊のような声だった


「私はリリム・ケルトです、よろしくお願いしますね」


リリムは必死に笑顔を作り、握手をするため手を差し出す


「お断りします」


即答し、その手をパシッと弾き、鋭い視線を送る


「え………」


困ったリリムは弾かれた手で髪をいじり、苦笑していた


「こら、フノッサ、ダメだよ、死の巫女様に失礼だろ?」


エインが優しく叱ると


『え!?み、みみ、巫女さまっ!?』


フノッサの声が裏返り、慌てて土下座をする


「も、申し訳ありませんっ!!どうか、どうかお許しをっ!!」


フノッサという少女は信心深い子なのである

そして、彼女は死の神を崇拝している

すなわち、彼女にとって神の使いたる死の巫女リリムとは、

毎日崇めている死の神と同格なのだ


「顔をあげてください」


リリムは優しくそう言い、フノッサに手を貸して立たせ、

彼女の手を取り、しっかりと握手をする


「私はリリムです、よろしくお願いしますね、"エインの妹さん"」


とても優しい笑顔だが、フノッサは気づいている

この女は兄さまが好きだ、敵だ、と……


「フノッサです、よろしくお願いしますわ、"巫女さま"」


フノッサも笑顔を向けるが、両者の握手は徐々に強まる

そんな光景を見て、状況を理解していないエインは笑顔になる


「良かった、仲良くなったみたいだね」


「は、はい」 「えぇ、もちろんですわ」


全力を込めた握手をしながら二人は笑顔を作る

そんな静かな戦いが繰り広げられている事を知らないエインは言う


「ダン兄さんはどこだか判るかい、フノッサ」


「はいっ♪わたしが案内しますわっ♪」


リリムの手をパッと離し、エインの左腕にしがみつく

そして、リリムを見て勝ち誇った笑顔を向けるのだった


「ぐぬぬ……こんな障害がいようとは……」


リリムはエインの家族に会えるのを楽しみにしていたが、

それと同時に不安もあったのだ

お母様に気に入られなかったらどうしよう、と


しかし、そんな心配は妹であるフノッサの登場で崩れ去る

嫁姑問題どころの話ではないからだ


この子は明らかにエインを異性として好いている

しかも妹という立場をフルに使い、ベタベタと……ぐぬぬ

これは予想外でした……こんなところにもライバルがいようとは……

ミラさんだけでも大変なのに、もーーー!


リリムは頭を掻き毟り、一人で暴れていた


「どうしたんだ、リリム」


「あ、いえ、なんでもないですよ」


「そうか、それじゃ一緒に行こう」


そう言いエインは銀の腕を差し出してくる


「は、はい……」


リリムはその手を取り、頬を染めていた

その瞬間、フノッサが小さく舌打ちしたのをリリムは気づいていた


すぐに手は放してしまったがエインとリリムが並んで歩き、

エインの左腕にはぴったりとフノッサがしがみついている

そんな3人は屋敷の外へ出る


「アシュ、プララー、ちょっと来てくれ」


エインが声をかけると二人の男?が近寄ってくる

フノッサはエインの腕を掴む手に力を込め、少し身を隠すように立つ


「なんっすか、たいちょーさん」


「あら、そちらの可愛い子は誰かしらん?」


二人がフノッサを見るが、彼女は更にエインの背に隠れる


「妹だ、それよりも……イース君はどこだい」


「あぁ、馬車にいんぜ」


アシュが親指を立てて馬車を指し示す


「連れてきてくれないか、兄に会わせておきたいんだ」


「りょーかい」 「は~い☆」


二人が馬車へと向かい、1人の少年を連れてくる

イース……またの名をイーリアス・ベル・ドラスリアという

今は命を狙われているため、偽名を名乗っているのだ


「初めまして、イース……です」


イーリアスは正体を隠すように普通に話そうとしてるが、

慣れていないため、ぎこちなさは否めない


「フノッサ、挨拶しなさい」


エインに背中を押され、仕方なく前へと出る


「エイン・トール・ヴァンレン兄さまの愚妹、

 フノッサ・ソール・ヴァンレンですわ、以後お見知りおきを」


フノッサはスカートの端を摘み、礼儀正しく礼をする

その姿はこんな田舎の低級貴族とは思えない気品があった


どくんっ


イーリアスの心臓が大きく跳ね上がる

目の前にいるこの少女を食い入るように見つめる

格好だけで言えば村娘より少し小奇麗な程度だが、

少女は美しさの中にも芯の強さのようなものが感じられた


なんと麗しい人だろう……


イーリアスは一目で彼女に惚れていた

だが、今は恋など考えている余裕はない

まずは身を隠さなくては……頭を切り替え、エインに目で合図を出す


「では、参りましょう」


アシュとプララーも引き連れて行く


今回の旅はミラ、マルロ、イエル、オエングスは同行していない

ドラスリア城を落とすために別行動を取る事にしたのだ

もちろん提案者はミラの姉、ノル・スク・ラシュフォードである


一行は屋敷の裏側へと回る

裏には畑があり、兄であるダンは畑仕事をしていた


『兄さんっ』


エインが声を上げると、それに気づいたダンはクワを放り投げ、

畑を踏み荒らす事を気にせずドカドカと走ってくる


彼には右足が無い、そんな彼が走れるのは、

鋼鉄で出来た義足をつけているためだ

しかし、エインの腕のように自在に動く物ではない


そもそも、エインの腕は特別製である

自分の意志で自在に動く義足や義手など、

このラルアースには彼の銀の腕以外に存在しないのだ


「おー!我が弟よー!」


一直線にエインの元まで駆け寄り、そのままの勢いで抱きつく


「元気にしてたか、なぁ!エイン!」


バシバシと何度もエインの背を叩き、

肩や腕を触って確かめてゆく……そこでダンの表情が曇った


「お前、腕はどうした」


「はい……先の旅で無くしました」


「そうか……辛かったな」


「いえ、素晴らしい腕をいただきましたから」


「そうか!なら良かった!はっはっは!」


ダンは一瞬で表情が変わり、再びエインを抱き締め、背中を叩く


「兄上、皆の前です、ご勘弁を」


「硬いことを言うな弟よ!久方ぶりの再会ではないかっ!」


豪快に笑いながらエインの言葉など無視をして熱烈なハグを続ける

このやたらと声の大きい男こそ、エインの兄であり、

シグトゥーナ村領主であり現ヴァンレン家当主、

ダン・ドンナー・ヴァンレンである


その光景をフノッサはジト目で見ている

彼女がダンではなくエインを好きなのはこれが理由だ

ダンはとにかく暑苦しい男なのだ

この暑苦しさが逆にこの寂れた村には良いのだが


「で、お前何故帰ってきた

 確か死の巫女を護衛するとか言ってなかったか?終わったのか?」


「いえ、死の巫女様ならそこに」


エインが紹介すると、リリムは緊張気味に言った


「リ、リリム・ケルトですっ!死の巫女やってます!」


また"死の巫女やってます"と訳の判らない事を言ってしまい、

茹でタコのように真っ赤になった彼女を見てダンが笑い出す


「これはこれは、面白いお嬢さんだ!

 っと、これは失敬……ごほんっ

 ヴァンレン家当主、ダン・ドンナー・ヴァンレンです

 愚弟が世話になっております、美しき巫女よ」


ダンは膝をつき、リリムの手を取り、手の甲にキスをする


「あわわ、ご丁寧にありがとうございます」


慌てるリリムの手を離さず、ダンは立ち上がり、

彼女の腰に手を回す


「見れば見るほど美しい……」


「あわわわ」


どことなくエインの面影のある男性が、

身体を引き寄せ、顔を寄せてくる


ひぃぃぃ~、どうしよぉ~~っ


エインの兄を突き飛ばす事も出来ず、困っていると……

どすっ、という鈍い音がした


「ぶべっ」


ダンは妙な声を出し、その場にうずくまる


「兄上、やりすぎです」


エインが剣の柄でダンの脇腹を突いたのだ


「げほげほっ……良い!良いぞ!エインっ!

 しっかり護衛を果たしているようだなっ!」


「当然です、俺はリリムを守ると誓いましたから」


その瞬間、リリムは身体から湯気でも出そうなほど全身赤くなり、

その横にいたフノッサは真っ白に燃え尽きていた


「冗談はこのくらいにして……兄上、話があります」


「ん?なんだ、言ってみろ」


先程までのふざけた雰囲気は無くなり、

ダンはヴァンレン家当主の顔になる


「イース君……こちらへ」


「はい」


イーリアスはダンの力強い眼差しにも屈せず、

しっかりと彼の目を見て言う


「僕はイース、よろしくお願いします」


「…………」


あの喧しいくらい喋るダンは口を開かなかった

そして、しばしの沈黙の後、彼は膝をつき、頭を垂れる


「陛下、お会いでき光栄に御座います」


「面を上げてください、今はお忍びゆえ」


「はっ」


ダンは気づいた、彼のまとう気品、風格を

1度だけ遠くからだが見た事があったのもある

だが、その時は顔を上げる事など許されない場だったため、

チラッと足元が見えた程度なのだが、ダンは気づいたのである


彼が王である、と


「え?えぇ!? 王……さま?」


一人パニックになっているのはフノッサだった

ダンはニカッと笑い、突然イーリアスを抱き上げる


「なっ!ダン兄さんっ!」


慌てるフノッサとエインだったが、

イーリアスを肩に乗せ、ダンは笑い出す


「お忍びなのであろう?なら良いではないかっ!はっはっは!」


肩車などされた事のないイーリアスは慌てるが、

普段と違う視点に胸が高鳴る


「あはは」


イーリアスは笑っていた

母から命を狙われてからというもの、

一度も笑っていなかった彼が笑っていた


「イース君と言ったか、理由は知らんが好きなだけここにいるといい」


何も状況を説明していないのに、ダンは彼をここに置くと言い放った

これが父ヴォーダンが認めた、ダンの領主としての資質なのだ


「ありがとうございます、あはは」


低級貴族当主に肩車された王は笑いながら畑を駆け回る

その異様な光景をただ見ている一行だった


・・・・・


・・・



その日の夜……ヴァンレン家のテラス



「はぁ……まいったなぁ………」


リリムがため息をもらし、

椅子に座り、足をぷらぷらとさせていると、

1人の女性が隣の席を引きながら声をかける


「いいかしら?」


女性は高齢だが美しかった

フノッサのように綺麗な金髪と透き通るような青い瞳、

どことなくエインの面影もあるその女性は、彼の母だった


「は、はい!どうぞ」


見ただけで誰かを理解したリリムは背筋を正す


「初めまして、死の巫女様……私はメノッサ・ソール・ヴァンレン」


「は、はぁじめましてっ!リリム・ケリュトですっ!」


緊張のあまり酷い有様になってしまった

そんな彼女に優しい笑みを向け、メノッサは言う


「そんな緊張しないでくださいまし、

 本来であれば私の方が緊張すべきなのですから」


とても、とても優しそうな人、それが第一印象だった


「……はい、すみません」


リリムは横目でチラチラとメノッサを見る

この雰囲気……エインと同じだ……温かい


「私の顔に何かついてるかしら?」


「い、いえ!ごめんなさいっ!」


慌てるリリムに、メノッサはエインのような優しい笑顔を向けてくる


「冗談ですよ、ごめんなさい」


メノッサはとても穏やかで、優しい雰囲気を纏っている

だが……だが、リリムはどこか引っかかる感じがしていた


「失礼ですが、メノッサさん……誰かを亡くしましたか?」


「いえ………いえ、そうなのかもしれません」


彼女は顔を伏せ、寂しそうに、悲しそうに呟く


「年寄りのお話なんて聞いても面白くありませんよ」


「そんな……私は死の巫女です

 貴女の中にある"何か"を"殺す"事も出来ます」


それからしばらく二人の間には静寂が訪れ、

穏やかな夜は心地よいそよ風が吹いていた


「ありがとう……ずっと誰にも言えなかった事があるのです」


聞いてくれますか、と彼女は言う

リリムは頷く事だけで応え、彼女の言葉を待った


「エイン……巫女様はエインがお好きなのかしら」


「え?!あ、えっと……」


予想していなかった言葉にリリムの言葉は詰まる

しかし、その異常なまでの慌てぶりや、

夜でも判る耳まで赤くなってる様で、メノッサは察した


「ありがとう、息子を愛してくれて」


「いえ……はい」


再び静寂が訪れ、何とも言えない時間が過ぎてゆく


「私は……息子を、エインを愛せなかった」


「え……何故ですか?」


「あの子は………私の子であって、私の子でないのです」


言わんとしている事が判らない

それでもリリムは彼女の言葉を待った


「少し長いお話になりますけど、いいかしら」


「はい」




メノッサはぽつぽつと語り出す

彼女の過去を、エインの秘密を……




めりくり~&よいお年を~


挿絵(By みてみん)

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