ANIMA 2
「名前……何にするかな……ふむ」
自慢じゃないが、ネーミングセンスなんてものは皆無なのだ。まあ、そんなものがあっても対してやくには立たないだろう。
ちょっと前の事を思い出した。勝手にスマホの電源が付いた時に映し出された文字。
Project.ANIMA
プロジェクト、アニマ。
アニマって何だっけ?なんか兄貴が持ってた本に書いてあったのは覚えてるんだが、内容まではさっぱりだ。
兄貴はコンピュータ関連だけじゃなく、様々なジャンルの本を山ほど持っていた。心理学とかも読み漁ってた記憶がある。あとエロ本も。
そういえば、兄貴は知識は力だとかなんとか言ってたなぁ、若い頃の俺には意味が分からなかったが、今なら分かる。
大人になると色んなものが様々な方法で襲い掛かってくる、それらをうまく避ける、打ち負かす為には知識は必要なんだ。俺にはその知識が無いからこうなったんだな、世知辛いねぇ。
しかし、アニマってなんだろう。気になる。
「なあ、アニマって言葉の意味を検索できるか?」
最近のスマホは、○○で検索って言えば検索してくれるらしいし、こいつもできるんじゃないかな。俺の型遅れのスマホじゃ、画面を表示するだけが精いっぱいだからな。
「了解しました……検索終了。サイトをお見せします」
速いな、2秒くらいしか経ってない。
「いや、読むの面倒だから口頭で伝えてくれ」
「了解しました。アニマはラテン語で生命や魂を示す言葉。となっております。他にはカールグスタフユングの提唱によれば、男性の女性的側面。男性の持つ未発達なエロスとあります」
エロスとは驚いた、アニマという言葉にそんなエロスが含まれていたのか。
やはりエロスは色んな所に散りばめられてる。絵画、音楽、文学そんな文化的なものだけじゃなく、日常生活の中にもエロスから発展したものはごまんとある。やはりエロスとは人の力そのものなのか。恐るべし、エロス。侮りがたし、エロス。
まあ、名前の意味で取るなら前者だな。こいつにぴったりだ、機械に宿った命、魂。
そういう意味で、兄貴もつけたのか。プロジェクトアニマって。
エロスって意味はないよな?あのむっつりスケベでもさすがにそれは無いよな?ありそうで怖い。
「じゃあ、お前の名前はアニマだ。スマホに宿ったアニマ、いい感じじゃないか」
「了解しました、これより全てを統合した状態の名称をアニマと設定させていただきます」
……もうちょいシンプルに考えれんのかこいつは。そろそろ面倒くさいぞ。
「じゃあ改めて自己紹介するか、俺の名前は戸堂雄介。お前を作った陽介の弟だ」
「何故、改めて自己紹介成されるのですか?」
うわ、うぜぇ。流石にそれはうざすぎるぞ。そこまで説明せにゃならんのか。
兄貴よ、もうちょい柔軟な考えのAIは作れなかったのか?
「それが、人間の礼儀ってもんなんだよ。覚えとけ」
「了解しました。それでは、私も改めて自己紹介した方がよろしいのでしょうか?」
……ほう?今度は打って変わって柔軟な考えじゃないか。
「ああ、そうだな」
「了解しました。私は陽介様に作られた人工知能、専門的用語は理解困難と言われましたので省略させていただきます。統合した名前は、先ほど雄介様が付けられました、アニマです」
……驚いた、さっき俺が言った事まで全部学習してやがる。すこし、恐怖まで感じた。
あまりコンピュータとかには、詳しくない俺でもAIの事なら最近話題になるからある程度は知っている。
知識を学習し、自ら考え、結論を導き出す。
人と同じ考えはできないが、コンピュータ独自の理論で答えをアプローチしていく。
映画とかでは、よく人類を滅亡させかけてるけど。
今のこいつを見れば、少しはそんな考えになるのも分かる。
今は融通の利かない幼稚園児でも、膨大な知識を得た時、こいつはそれはそれは化け物じみた存在になるんだろう。
その化け物じみた崇高な頭脳が、人類なんていらないと結論を出すのもありそうな話だ。
これが、人工知能なのか。
これが、兄貴の研究なのか。
これが、兄貴の夢なのか?
もしかして兄貴が俺に託した理由って、そういうことか?
こいつに、アニマにいろんな事を教えるために渡したのか?
感情、礼儀、人間、知識、ほかにもいろんな事をアニマに教えて化け物に仕上げるためにか。
……うわ、めんどくせぇ。
いくら兄貴の頼みだからって、これはめんどくせぇぞ。
それなら、俺なんかよりもっと博識な人間に渡すべきだろう。
29歳自殺未遂、無職のおっさんに渡してどうすんだ。
……自分で言って思ったが、俺って崖っぷちじゃん。
ちなみに、作者自身はそこそこプログラムを組むことはできます。
しかし、そこそこなのでAIについての見解には多少間違いがあるかもしれません。
あしからず。