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夢の向こうを託されて  作者: 紫煙
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面接の時間 2

背中に流れる冷や汗を感じながら、校舎へと進んでいく。


12月の高校というのは、何か少し怖い。校舎の窓やドアはすべて閉まっていて閉鎖的な雰囲気を醸し出して、植えられている幾つもの樹木は葉っぱがすべて落ちて丸裸になり、冬の厳しさを物語っている。おまけに授業中なのかどうかは知らないが、生徒の声が全く聞こえない。サイレントヒルの世界に入った気分だ。


しかし……めちゃくちゃ綺麗な校舎だ、私立の学校ってみんなこんなもんなのか?わかんねぇ。

校舎の外観は白一色で染められているが、見る限りじゃ汚れが一つもついていない。窓はすべてピカピカで、中庭は茶色のレンガっぽいタイル張りになっている。いやはや、お金かかってますねぇ。



確か山崎さんが職員室に行けばいいって言ってたよな……まず職員室どこだよ。山崎さん……言いたいことだけ言って電話切るんだもん、ここまで来るのも結構迷いそうで怖かったよ。ちくしょう。


とりあえず、校舎の中に入ってみるか。中に入れば誰かいるだろうし、そこで職員室の場所を聞いてみよう。


校舎の入口らしき場所を見つけて、入ろうとしたその時。


「……あ、トランペットの人」


と、後ろから声がした。


振り向いた先には、眼鏡をかけた綺麗な顔立ちの小柄な女子高生が居た、しかし何故か見覚えがある。


……誰だっけ?いや、どっかであった記憶があるんだが。いかんせん記憶が曖昧だ、俺ももう年だな。うん、決して馬鹿な訳じゃないぞ?年なんだ。


「……もしかして、私の事忘れてます?」


このセリフから察するに、どうやら本当にこの女子高生と会ったことがあるらしい。女子高生は俺の方を見て疑惑のまなざしを向けて来ていた。そんな目で見られても思い出せないもんは思い出せんのだ。


「……いや、覚えてるよ?うん、覚えてる。あれだよね、あの時あったよね、うん」


苦し紛れの言い訳を発してしまったのが不味かったのか、女子高生の顔がどんどん不機嫌になっていく。


なんかすごい不味い気がしてきたぞ……ええと思い出せ俺、見たことあるんだよ。ほら、もうのどまで出かかってる。いや、全然出てこねぇ。

その時、俺の胸ポケットの中に入っている喋るスマホ--アニマが振動し始めた。取り出して画面を見ると、『佐藤』と書かれている。

佐藤……あ、思い出した。


「佐藤ちゃんだよね?河川敷で俺の演奏聞いてた子だよね?」


俺がそう言うと、目の前の女子高生の顔がぱあっと明るくなった。

……アニマ、よくやった。いつもはめんどくさい禅問答しかしないくせに今日は大活躍じゃないか。お礼になんか買ってやろう、美味い棒くらいなら俺の経済状況でもなんとか買える。


「そうです佐藤です!えーと……その通りです、トランペットの人」


物凄い含みのある言い方だ。佐藤は明後日の方向を見ながら、へらへら笑っている。


「……もしかして、俺の名前忘れた?」


そういうと、佐藤は申し訳なさそうに笑って、


「はい、忘れちゃいました」


ときっぱり言いやがった。おい。


「戸堂だ、とどう」


「とどうさん、そうでした!とどうさんですよね?!しっかり覚えておきます!」


佐藤はそういうと、びしっと敬礼する。前も敬礼されたような気がするんだが……まあいいか。


「それで、とどうさんはなんでトロ高に?」


トロ高……あ、燈篭とうろう高校だからトロ高なのね。何そのマグロみたいな名前、もうちょいいい略し方は無いのか。


「ああ、ちょいと用事でね。そうだ、職員室ってどこにあんの?」


「職員室?この校舎の2階ですよ。よかったら案内しましょうか?」


「おお、そうしてくれると助かる」


「じゃ、行きましょう!」


佐藤は元気よくそう叫ぶと、俺を置いてずんずんと先へ進んでいった……案内の意味を分かってるのか?あの女子高生は。


……とりあえず、追うか。


佐藤が行った方向まで俺は歩き出した。




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