予想外の告白
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餃子モドキ倒した次の日、宿で寝ていた俺は目を覚ました。いや、元々睡眠は必要無いんだが、やっぱり寝るとスッキリする。
今日は餃子野郎を倒して手に入れたアイテムを売りに行く予定である。因みに何を手に入れたかと言うと、実は変なものだったりする。
餃子野郎の戦利品
-1000ツェン(言い忘れたが、領土毎に通貨が違い、キョウの場合はツェンである)
-餃食乱波の触手
ここまでは良い。あいつの触手は気持ち悪かったが、問題はコレである
-餃子シールド
詳細:餃子の形をした盾。くさい臭いを発し、持ち手はフィールドでエネミーに遭う可能性が下がる
いるかこんなもん。地味に使えそうだが、俺は要らん。さっさと売りに行こう
そう思って宿のドアを開けた俺は…
「よ、よぉ」
「シズの勝ちだねぇ」
「ほら、やっぱり」
出迎えられた。何時もの装備に身を包み、気まずそうに挨拶して来るタケと、負けた様な顔をしたサヤと勝ち誇った様な顔をしたシズに。
え?なんで?皆朝から学校がある筈じゃあ?
俺がいきなりの事にポカーンとしているとタケ達が説明して来る
「今日は行事で時間があるからな、今の内にって思ったんだよ」
「みんな、やっと向き合う事にしたから!次こそは負けないよぉ〜‼︎
「そういう事だからこれからもよろしくね?」
それでこそお前らだよ。そうだ、まだやれる‼︎次こそは勝つぞ!
「まぁ、時間が有るっつってもそろそろ行かないとだけどな」
「ゴメンねぇ〜」
「昼には来るから」
まぁ、良いさ。あいつらにはあいつらの人生がある。さっさと行く様に言うとタケとサヤがメニューを開き、操作すれば身体を0と1に囲まれて消えていった。ログアウトしたんだ。
だがシズだけが残った。何だ?
「お前は行かないのか?」
「えぇ、ちょっとやる事があるから」
やる事って?そう思った矢先ーーーーー
「んっ」
キスされた。はあああぁぁぁぁぁ⁈何で⁈
「んっ、んっ」
途方に暮れる俺を尻目にシズはキスを続ける。それは感じた事の無い感覚だった。
口から感じられる初めての感覚。これは何だ?知らない。NPCだった頃に与えられた情報には無い、この胸の奥底から沸き上がるこの感覚は何だ?
現実では4秒、俺からは1分程に感じられた時間はキスを止めると同時に終わりを迎えた。
「ゴメンなさい。私の気持ちを確かめたくって、でも分かったわ。」
「で、何が分かったんだ?」
とぼけるフリをする。それは聞いてはいけないと、聞いてしまったら、もう後戻り出来ないと知ってしまったから。無理だと知っているから
「私ね、」
ヤメろ、やめてくれ、それは言ってはいけない。それでも俺は止められない。自分の奥深くに「聞きたい」と言っている自分がいるから‼︎
「貴方が好きみたい」
言った。言ってしまった。でもな、シズ。それは出来ない。いや、してはいけないんだ。それはーーーーーーーーーーーーーー
「報われない恋だとしても、それで良い。私がどう感じようが、それは私の勝手だもの」
そう、報われない。生きているシズと違って俺は世界にいるわけじゃ無い。何時か必ず別れが来るから、そうなって悲しむくらいなら
「でもね、ナナシ。私は信じているの、人間の可能性を」
可能性?
「そう、可能性。人間はいつだって色んな可能性に満ち溢れている。翼無しで空を飛び、テレパシー無しで遠くの人と繋がって、更には仮想世界までも作り出した。だから信じるの、いつか必ず、その仮想世界とすらも一体化できるって」
あぁ、分かった。分かってしまった。キスしている間、俺に沸き上がったこの感覚が何なのか。
これは恋だ
沸き上がる筈の無い感情、自覚してはいけない、そんな感情
「だから待っててね、ナナシ。貴方の事を落として、私無しでは居られなくしてあげるから」
後ろを向いて振り返りながらその台詞を言うシズの顔は、小悪魔的な笑顔を持ちながらも、俺には魅力的な顔に見えるのだった
ー2ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シズの突然の告白から数時間後の午後2時前、俺は宿の前にいた。理由は言わずもがな、シズである。今朝、シズに告白された俺は午後2時に半ば無理矢理、他のみんなと合流すると決めた2時半までの30分の間、デートする事を約束された。
あの顔は笑っていながら目が笑っていない、という器用な事をやりながら俺に約束させたシズに俺は恐怖を感じている。
はっきり言って怖い。だって目が本気なんだもん。あの狂気的な何かを含んだ瞳を前に俺は首を縦に振るしかなかった…
と、話が逸れたが今はデートの待ち合わせ、という訳だ。何だろう、何処からか殺気を感じる
………………………………………
何でやねん。いや、確かにシズは可愛い。綺麗だ、とか、見惚れてしまうレベルである。正直言って俺が買った巫女服モドキを着てもらった時は一瞬我を失った程だ。
え?彼女自慢はするなと?いや、彼女じゃねぇし
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OK、OK、落ち着こうか。だからその振りかぶった拳を下げるんだ。
「何してるの?」
「ウヲッ‼︎」
何だ、シズか。つい、変な声が出てしまった
「早かったわね、貴方」
「暇だったからな」
それは本当である。実際、餃子モドキの素材を売った後はする事がなかった。
「じゃ、行きましょうか。初デート」
「ウッ」
つい、呻き声が出てしまう。やはり俺からしたらおかしい。何故ならこれはあってはいけない恋心なのだから。もし付き合ったとしても、ずっと一緒に入れる訳でも無いし、キスや、その先ができる訳でも無い。
「どうしたの?行くわよ」
真剣に悩んでいる俺を他所に、シズは本当に嬉しそうな顔で俺を誘うのだった。
とはいえ、やる事などほぼある筈が無く、歩き始めて10分程でネタ切れになった。
「どうする?私としては何処でも良いのだけれど」
これはデートが始まって数分でシズが放った第一声である。
何も考えていなかったのかよ
「そうだな、じゃあ、稽古」
「は?」
「だから、稽古付けてくれよ」
そう。俺はシズに稽古をつけて欲しいと頼むのだった。はい?デートなんだからもっといい場所行けって?しかし俺たちは俺たちらしい事がしたいのだ
「はぁ、どうやらまだ貴方は落とせそうに無いわね」
「落とそうと思う方がおかしいと思うがな」
「それでも良いの。私は私の恋がしたいから」
呆れた様な、しかし納得したかの様な顔をするシズは綺麗で、俺は見惚れてしまっていた。改めて見れば、黒くて長い髪、整った顔。「可愛い」よりも先に「綺麗」の言葉が浮かんでくる
「そうと決まれば行きましょうか。裏庭で良いのでしょう?」
「あぁ、行こうか」
少なくとも俺は最初はこんな感じで良いと思っていた。後に後悔するとも知らずに
ー3ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
イキナリだが"居合い"について話をしよう。
刀術、もしくは居合 、居合い術と呼ばれるこれらは、日本刀を鞘に収めた状態で帯刀し、鞘から抜き放つ動作で一撃を加えるか相手の攻撃を受け流し、二の太刀で相手にとどめを刺す形、技術を中心に構成された武術である。
これらは1561年、林崎 甚助 (はやしざき じんすけ)が神より居合いの極意を伝授されたと言われ、後に居合いの始祖と呼ばれている。
彼が使ったとされる神夢想林崎流 (しんむそうはやしざきりゅう)を始め、後々に数々の流派へと派生し、今では現代武道と化した「居合道」と言うものまであるらしい。
因みに何故「らしい」かと言うと、裏庭に着いていざ特訓開始、と思った時にシズから説明を受けたからである。何でも、これから更に強くなる為には原点に戻る必要が有るのだとか。
真面目なやつである
話を戻そう。今回シズはこの林崎 甚助が使っていた神夢想林崎流を調べて来たとのこと。シズに寄ればーーーーーーーーーー
「何でも『居合の生命は電瞬にあり』って言われてて、抜刀した際の一撃重視してるんだって」
らしい
確かに理にかなっている。シズに教えてもらった技も一撃必殺を重視しているからな
「さっ、始めるわよ‼︎」
やったろうじゃねぇの。マンティコアとのリベンジもまだだしな。
「さぁ、来ぉい‼︎」
シズに向けて俺は刀を構えるのだった
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結論から言おう、難しい。そもそも前に教えてもらった「音無」や「紫電」、自分で作った「飛天風車」で十分強いのに更に上の技を自分で作れ、と言うのはかなり厳しい。
実はこの居合、実際に人間がやると自分では早い事が実感できない。それは何故か。
理由は居合の構えにある。まず腰を落として身を捩り、柄へと手を伸ばす。そこから鞘を後ろへ引きつつ、抜刀するのだ。
横から見たりすると何も変化が無い様に見えるが、実はそれを目の前で、しかも自分にされると分かる。
刀がくるタイミングが分かりづらいのだ。先に鞘を引く事によって認識をズラし、最速の一撃を叩き込む。
通常、刀で斬るときは三つの行程が必要である。
-抜刀する
-刀を上げる
-刀を振るう
居合の場合、これらの行程を抜刀から直接斬りに掛かる事で省略しているのだ。
故に相手はビックリする事になる。なんせ鞘に入っていた筈の刀が一瞬にして目の前に在るのだから。だから昔は「近距離の鉄砲」と呼ばれ、恐れられたらしい。
ここまで来ると俺は居合が暗殺剣じゃないのかと疑ってしまう。実際、幕末などではすれ違い様、出会い頭の暗殺術としての抜刀術も隆盛した事をシズから聞かされた時はビックリした。
その反面、相手より刀身が長い武器を使う事で相手の攻撃が当たらず、自分は切れる角度と距離を作る事で、相手に幾ら攻撃してもカウンターを出せる事を理解させ封殺する事から、活人剣としての場面も見せている。
「だからナナシはどちらか一方に絞れば良いと思うの」
活人剣としての居合か、それとも暗殺剣としての居合か
やはり決めねばならないだろう。俺はタケ達がやって来るまで試行錯誤を繰り返すのだった。
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タケ達がやって来た午後2時半、何とか何かを掴めた俺たちはタケ達と合流した。
「よし、張り切って行こうぜ!」
こういう時、何時でも元気なタケは頼りになるマンティコア戦の傷も癒えたみたいだ
俺がタケに声を掛けようとしたその時、不意に空から声が響いた。
「赤の領土に住むプレイヤー諸君、こんにちは」




