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VRのその先に  作者: 気まぐれ
終章 toプロローグ
69/70

ラストバトル魔術(ウィッチクラフト)

すみません、遅れました。

(おっかねぇ眼をしてるな)


柳 恵子から放たれる殺気に似たそれを受け止めながら、ナナシはそう思った。彼女と近しい存在であるフランソワを、ワザと逃す事で黒幕たる彼女を引きずり出す事には成功した。後は彼女が隠し、企んでいるであろう「何か」を聞き出す事が出来れば上々なのだが、それは問屋が許さないらしい。その証拠に、柳 恵子は警戒すると同時に、誰も近付かさせまいとするプレッシャーを放っている。


「さて、隠している事全部、吐いてもらおうか?」

「はて、何のことかしら?」


共馬の質問に、柳 恵子は先程まで放たれていた殺気を抑えながら解答する。無論、共馬がそれに騙される訳がない。更に一歩進み、冷淡とした口調で踏み込む。


「さっきまで此処を走っていた女性は、正にバグの塊と言っても過言じゃない。俺たちがそれを施した訳じゃなければ、お前しかいない訳だが」


それは犯人を追い込む名探偵の如く。事実と推測を交え、簡潔な結果と共に更にもう一歩、距離を詰めていく。


「…………………………何よ」


長い沈黙と共に、ボソリと一言。

途端、雰囲気は落ち着いたものから不機嫌な物へ変わっていく。


「あんたらに何がわかるのよ⁈

良い⁈ このVR技術はね、人類の進歩なの‼︎ 教育でも、娯楽でも、何にでも使える、万能の技術(テクノロジー)なの。だったら、他のことにも使うべきじゃない?」


技術とは人と共に進化し、共に歩む、離れられない物である。それを多方面に使おうと言う志は、尊敬に値するだろう。だが問題は、


それを何に使うか、その『他のこと』に何が入るか、だ。


「だったら、貴方達にも見せてあげる。VR技術が見せてくれる可能性を、その先に見える物を‼︎」


酔いしれる様に。いや、何かに取り憑かれた様に、柳 恵子は指を振るう。

そうすれば、それに従う様に光が収束し、鋼鉄の甲冑に身を包んだ騎士が出現。ガシャン、と鈍重な音を鳴らしながらナナシ達の前に立ち塞がる。

恐らく柳 恵子の魔改造を受けているのだろう。恐らくどんなプレイヤーでも太刀打ち出来ないほど、そのステータスは強化され、チートの塊とでも言うべき存在なのだろう。


宜しい。眼には眼を、口には口を。ならば反則には反則といこうじゃないか!

足に力を込め、地面を蹴る様に跳躍。一時的に音速の壁を越え、群がる騎士に肉迫する。


「邪魔だ‼︎」


怒号と共に腰に吊るした刀を抜刀。それと同時に、予め把握していた地形データと、騎士達の位置情報を元に情報の書き換えを開始。

結果、騎士達がナナシの刀の射程内に入るように誤作動を起こす。


これにより、何が起きるのか。もし今のナナシの射程範囲を円状に視覚できる様にしたならば、一箇所に群がる騎士達をも飲み込むほど巨大な円が見えた事だろう。距離にして凡そ10m。それが、ナナシにとっての見えない射程(レンジ)である。

それを確認し、円を描く様に刀を振るう。結果、ナナシの目の前にいた騎士は勿論、明らかに刃が届いていない距離に立っている他の騎士までもが。ナナシから放たれた一刀にて斬り伏せられる。


カチャリ、と腰に下げる鞘に刀を納刀すると同時に、騎士は音もなく倒れた。しかも、騎士は決してナナシに倒された訳ではない。


「ふーん。やるじゃないの」


彼女は見たのだ。騎士達は決してHPの全損によって倒れた訳ではない。ナナシの見えない斬撃の他に、明らかにシステム外であると分かる処置が施されたのを。

真っ先に浮かんだのは、電子戦に対するセンスの良さへの褒め言葉だった。もしこれが現実世界の事であれば、流れ来る情報の波をパソコンのキー1つで処理するだけの単純な作業となるだろう。

しかし、ここはその電子が形となっている仮想世界。キー1つでどうにかなる訳ではなく、自分でシステムの穴を突き、自分の感覚で電子の流れを掴む必要がある。

故に、射程範囲を広げるという

一工程(ワンアクション)の作業でも、攻撃と共にあそこまでスムーズに作業を行うのは容易な事ではない。


(だけど、やはりAIはAIね)


納刀から流れるように体制を変え、再び刀を振るわんと接近するナナシを眼前に、柳 恵子は迎撃の為に腕を振るう。


出現したのは、無数の氷の礫。

一つ一つが機器にフリーズを発生させるウイルスを持ち、巧みな操作によって直撃した相手を文字通りフリーズさせる、電子機器の宿敵。遠隔操作によって礫一つ一つが小爆発を起こす様になっており、これを前には如何なるAIだろうとその機能を強制的に凍結され、手も足も出せなくなるだろう。そんな礫が、着弾位置をナナシに固定する事で追尾機能を施し、発射された。


取り敢えずは様子見、と柳 恵子が放ったのは100近い数のそれ。追尾機能によって射線を真っ直ぐナナシに向けた礫は、ナナシの機能を凍結させんと眼にも見えぬ速さで接近する。


対してナナシも、それが只の礫ではない事に気が付いている。例え一掠りしようと致命的な打撃を受けるであろうと判断したナナシは、そのまま空高く跳躍。

暗闇に浮かぶ光で出来た橋と、追尾機能によって射線を曲げ見事なアーチを描く様を眼下に、ナナシは自分の髪の毛の橋を引っ張り毛一本を引き抜くと、それを迫り来る礫目掛けて投球した。


毛一本は重さがなく実際に投げようとしても、そもそも風に身体を持っていかれるので投げれる物ではない。しかしナナシが投げた毛は、さながらプロ野球選手が投げた野球ボールの様に緩いカーブを描きながら、礫を遮る様に向かう。


そして接触寸前の間際、


パチンッ


軽快にフィンガースナップを一つ。同時に位置情報の書き換えによって礫がナナシを捉えたと誤認識させ、ナナシの数m手前で爆発させる。


「なるほど。絶対に当たるならば当たったと思わせた方が得策なのか」


共馬の納得した様な呟きにその通り、と返し、空中を蹴って一回転。更に飛距離を伸ばし距離を取る。


上等、と柳 恵子がさらに放った礫の数は、もはや数えるのも馬鹿馬鹿しくなるレベル。あまりの数にそれは一個の集合体に見え、まるで魚が群れを成して一匹の大きな魚に擬態しているかの様。


迫り来る数の暴力を前に、ナナシは刀から手を放し前に向ける。そしてーー


「転移っ⁈」


そう気付くよりも早く、転げる様にその場を離れる。だが、


「………え⁇」


身を起こそうと視線を向けたその先に、背後に転移した筈のナナシが立っていた。

一体何が起きたと言わんばかりに混乱しながらも、未だ周囲に浮かぶ礫を操作しようと背後を振り返りーー


「なにが起こっているの⁈」


最初の余裕は一体どこへいったのか。困惑の表情と疑問を遂に声に出し始める。しかしそれも仕方がないことだろう。なにせ、ついさっきまで背後で浮かんでいた礫が、跡形もなく消え去っているのだから。


「一体何をしたの⁈」


目を大きく見開き、怒りの形相で質問する柳 恵子に、ナナシはハッと笑いを浮かべつつ、


「お前らは目に頼り過ぎなんだよ‼︎」


続く斬撃と共にそう言い放った。

新しく作った礫でそれを迎撃しつつ、その言葉の意味を考える。体感的には数秒ほどの思考の末、生まれた結論は…


「とりあえず、あんたを倒してから考える‼︎」


問題の先送り。技術者として褒められる行為では無かったものの、先に問題の方を始末せんとナナシに接近する。

そして何故その行動に移ったのか。それは勝つ自信が、それを実行する為の策があるからに他ならない。右手に余剰リソースを握り、空高くかざす。


「我、(うつろ)なる物を呼ぶ。

(きょ)は何物でもなく、

(きょ)は何者にもなれる」


この仮想世界は存在しない物で構成されており、数式によってどんな物にも化ける。数学の因数分解によって存在しない数字を数値化する様に、この世界もまた、存在しない虚数(きょすう)を組み合わせ作り出している。

ナナシがやっていた事は、既に存在する数式を少しばかり弄るだけ。


虚数因数(イマジナリ・ファクト)分解(デスコンポシッション)開始(スタート)


そして、彼女はその虚数を自らの手で分解し、自らの望む形に構成させていく。かつて青領土の戦いにてディクヌが使用した『鍛える刹那の鍛冶(モーメントフォージ)』、バウレンが使用した『無限の(アナンタール)瞬装場(マードゥカソゥ)』の様にルールを作るのではなく、世界そのものを作り出す。


「『虚数世界(ザ・ワールド)』、展開‼︎」


その瞬間、何かに引っ張られる様な感覚と共に、ナナシの視界は光に包まれた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次の瞬間、ナナシは部屋の中に立っていた。周りには無数の研究書が錯乱し、一箇所に纏めて放置されているゴミの塊が、何日間もここに誰かが住んでいたと示す様だった。

中心に立つナナシに、ここに引きずり込んだであろう柳 恵子が声を掛ける。


「どう、私の工房、いや世界は」

「………一体何が起きた?」


新しいオモチャを見せびらかす様な、そんな雰囲気を感じ、ある憶測を胸の奥にしまい込み、ナナシは問う。一体何をしたのかと。それに柳 恵子は、顔面に付いた笑みをより一層深め、答えた。


「木にも、鉄にもなれる、夢の様な素材。そんな物がこの世にあったら、途轍もなく良いことだと思わない?」


いや、答えと言うよりも問いかけの様な返事。しかし、ある種の仮定を立てていたナナシはそれだけで理解する。


「余計なリソースを物量に変換して、再構築する事で万物を作り上げた…?」

「それが現実世界で出来るとしたら、最高じゃない?」


それは、悪魔の囁きに聞こえた。

万物の創造。一見不可能、いや世迷い事とすら受け入れられかねない。現代では不可能だろう。しかし……


「ARによって擬似的な魔術を、いや魔術そのもの(・・・・)を、作り出そうと⁈」


近い未来ならば、可能かもしれない。


魔術。

古くからその存在は知られ、最新の研究によって数百年前まで実在したと言われる、超常の力。


そして|AR(拡張現実)。

存在しない物の匂いや姿形は勿論、果てには物量まで再現する可能性すら秘めた、最新技術。


突拍子のない話だが、目の前の女性は本気で迷信めいた力を再現するつもりなのだ。その証拠に、この|VR(仮想)世界で既に再現され、ナナシは実際に体験している。


「そうよ、実験は既に最終工程の一歩手前まで完遂されている‼︎ 楽しそうじゃない⁈ 自分が望んだ世界が、好きな様に作れるのよ‼︎ 」

「ああ、狂ったのか」


叫ぶ様に未来を語る柳 恵子を見て、ナナシは自分の仮定が間違っていない事を悟った。

未知のエネルギーに取り憑かれた狂気の科学者の様に、彼女もまた、魔術に取り憑かれたのだ。

そして大抵、この様な人間に待っているのは穏やかな未来では無いと相場が決まっている。


止めなければ、と気を引き締めたその瞬間。


「ただ、貴方は頂いていくわ」


柳 恵子のそんな言葉と共に、何処からともなく現れた氷の柱に四肢を砕かれた。

あらゆる機器をフリーズさせるウイルスが注入され、侵食している両手足を文字通り氷結させていく。


「そこまで自由意志があり、立派な自我を持ったAIは貴方が初めてなの。ホルマリン浸けとはいかないけど、貴重なサンプルとして確保、ないし利用させてもらうわよ。その身体」


どうやら柳 恵子の今の狙いは自分だけらしい、と凍った両腕を動かそうと試みるナナシ。だが物理的な枷ではないと理解した瞬間、ナナシは改めて自分の状況を整理する。


二人だけの隔絶された世界

向こうは無傷で、対して此方は両手足がまともに使えない。

捕まれば最後、実験体(モルモット)として暮らす日々。

こんな所で終わってたまるか、と力を入れるものの、これは根性論などの問題では無い。


「さて、さっさと行きましょうか」


柳 恵子の足は、軽い音を鳴らした

どうも、気まぐれです。

と言うわけでラストバトル。此処だけの話、次回 最終話です。 此処まで書けたのも、皆さんの応援あってこそ。嬉しい限りです。

いつも通り更新は再来週ですが、楽しみに待ってくれたらと思います。

後、魔術とか虚数とか出てるけどF○te 関係ありませんよ?

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