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VRのその先に  作者: 気まぐれ
終章 toプロローグ
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謎解き回想

遅れました。

唐突に目が醒める。

疲れて眠ってしまったのだと気付くが、確かに自分を疲れさせる要因が昨日あったのだと思うタケ。起きたばかりで未だ意識がハッキリとしないが、周りを見渡せばそこが自分の部屋だと分かる。片隅に置いてある本棚に無数のライトノベルがギッシリと詰まっている事以外は普通の、何処にでもありふれた自室だ。


「朝飯食おう」


昨日の事を理解しようとするが、起きたてだからなのか頭が上手く回らない。取り敢えず何か口にしなければと部屋を後にする。時刻は6時、日曜日だからなのか、定日は朝早く起きている母親はおらず、台所は静かだ。

カップを用意し、冷蔵庫から取り出したパンをジャムと紅茶と共に食べる。糖分が脳に行き渡り思考がハッキリとしてきた頃、タケは改めて昨日の出来事を回想し始めた。




「それで、ダンは一体何なんだ?」


一時落ち着いた後、何処かから取り出された椅子に座って、これまた何処かから取り出されたテーブルを囲んだ面々の中、最初に口を開いたのはタケだった。奇妙なスキルを持ち、少しの間一緒に居たかと思えば、自分があの天才だと言うのだ。疑問が生まれるのも仕方がない。


「彼は科学技術で再現された天才、アインシュタインだ。しかし再現の結果であって、本当にアインシュタイン個人としての自我があるかは分からない」


チャールズ・バベッジの様に脳が残っていれば話は別だがね、と半ば独白気味に言う共馬。それによって全員の視線は自然とダンへと集中する。


「そんなに見つめられても困るね。私は作られた存在で、人口知能(再現)である事を理由に管理者の1人でいるだけなのだから。実験は眼を見張る結果を得られたがね」

「そんな君が急に姿を眩ませ、記憶を失って老人として暮らしているのは驚いたが。一体何があった?」

「柳 恵子に襲われた。今回のイベントは彼女が管理すると言ってな。その様子だと、お前にその役を奪われたようだが。はは、ザマァ」


どうやら管理者の間にも階級らしき物が存在するらしい。自分の思い通りに行かずに歯噛みする柳 恵子を脳内に思い浮かべ、声に出して笑うダン。

そんなタケ達が知る由も無いであろう管理者の事情と共に、今回の事の顛末は語られていく。


「そして襲われた瞬間、私はもしもの時にと用意したバックアップシステムを起動させた。必要最低限の機能を持った人口知能に私の全システムのコピーを持たせ、定められたアイテムに触れた時に残りの記憶が呼び起こされるように。結果、ダンという老人はこの世に生まれ落ちた。そしてその後は君達も知っての通りだ。この老人に付き合ってくれた事、感謝する」

「いやいやいや、おれ達こそ」


そう言って頭を下げるダンに、モノマネの如く全く同じ動きで頭を下げ返すタケ。感謝する事に慣れて居ないのか、その頬は少しばかり赤みを伴っている。


「だが、私が復活したとは言え、中にいるダンとしての記憶と自我が消えたわけではない。これからもよろしくじゃ。タケ」


これからもダンとして接してくれ、という些細な願い。それは受けたタケ達は勿論。


「ああ。これからも宜しく!」


一切断る事なく、蔓延の笑みと共にダンを改めて受け入れたのだった。


「と言うわけで、これからも宜しく、お兄さん(・・・・)


その瞬間、その場の空気は一瞬で凍りついた。残ったのはダンが放った言葉に硬直して生まれた沈黙、「誰の事を言っているのかしらん?」という疑問と、そんな爆弾発言をしたダンに見つめられ「な…な…な…」と続きの言葉がでないナナシだけだ。


「すまん。聞き間違いか? なんで俺が兄さんなんだ」

「そりゃあ勿論、自我を持った人工知能としては兄さんが先でしょう?ならバックアップとは言え後から生まれたワシは弟でしょうが」


当然のように返してきた言葉に、ナナシは困惑を隠しきれない。いつの間にか弟、しかも外見的には自分よりも圧倒的に年上のが出来たことに、内心、ドウシテコウナッタと嘆きながら頭を抱えるナナシ。

そんなナナシを兄さんと呼んで絶えないダンと、それを否定しようとしてどうすればいいかわからず、一先ず戦略的撤退を図ろうとするナナシ、そして逃がさんとばかりに組みかかるタケ。

一瞬にして出来上がった|カオス(ドタバタ騒ぎ)。展開についていけず立ち尽くしたままのクロ、アスカの黒領土二人組。


「さてさて、面白いことになったものだ」


それを眺めながら、騒ぎに混ざらずに見ていた共馬はそう、面白そうに呟いた。こうして、激動の1日は幕を……


「って、ちょっと待てーーー‼︎」


……どうやらまだ、話は続くらしい。




「どうした。白領土にボッコボコにされた挙句、一番乗りでダンジョンを攻略したと思ったら、見知らぬ女にボッコボコされた黒領土の2人組よ」

「痛い所突くな‼︎ あと説明ありがとう‼︎」


一気に事情の説明と罵倒をする共馬。例え言葉少なかろうとそれでほぼ合ってる説明に、今まで一切口を開かず静観していたクロがツッコミを入れる。

最後にありがとうと礼を入れる所、彼の生来の真面目さが出ている。

今この空間に残っている黒領土プレイヤーはクロと隣にいるアスカだけだ。他の全員は死亡による強制転移と、僅かに生き残った数人は一足先に新エリアへと向かった結果だ。


「君達は今さっきまで見た事は忘れるんだ。巻き込まれただけだからね」


そう、タケ達は少なからず関係しているだけで、黒領土のプレイヤーはただ巻き込まれただけに過ぎない。だがナナシが連れてきたのだから、そのまま放っておく訳にもいかない。だからこそ、今の今まで彼らを放置してタケ達に事情を説明していたのだ。

……決して2人の事を忘れていた訳ではない。決して。


そして問答無用とばかりにフィンガースナップを一つ。パチンッという音と共に、2人の姿は一瞬にして消えた。

……誤魔化す用にしたのは、気の所為だろうか?






そして現在に至る。

ダンを襲撃した柳 恵子の目的は未だ知れず、かと言ってダンがいる事が彼女にバレる事も起きて欲しくない。ならば今まで通り、何もなかったかのように振る舞おうじゃないか、という共馬の提案に便乗した結果だ。そしてその場にいた全員に翌日の昼過ぎにフランソワと戦ったあの空間に集まろう、という結論と共に解散した訳だ。


改めて思うと、とんでもない事に巻き込まれたものだ。自分が憧れる異世界転生などの突拍子のない事ではなく、自分の日常から生まれた非日常。手元の紅茶をすすりながら時計を確認すれば、回想を始めてから二十分は経っている。


そして、脳内に浮かぶのはログアウト寸前のナナシの声。


『……悪りぃ』


謝罪のようなそれは、心の底からの物ではなく、友達に気軽に言うようなトーンのそれ。一体何で謝罪したのか、幾ら考えても思い付かない。


「さて、昼過ぎまでに色々終わらせときますか」


幾ら考えても出ないのなら分かるはずがないと、そう言いながらタケは自室へと戻っていくのだった。今度あったらその真意を問いただそうと心に決めながら。


戻った時どころか、その日の内に全てが終わっていたとも知らずに。



実はタケ達がログアウトしたあと、アナザース中枢の歩む円環(キープ・ウィキアス)に、共馬とダン、そして2人を呼び止めたナナシが残っていた。タケ達に出したテーブルなどもそのままに、ナナシに向かい合った共馬と、その隣に座るダンはナナシを見つめている。だが、何故かナナシは黙ったままだ。


ひと時の沈黙が続く。これから起こる事を前に、少しの安息の様に。


やがて、ナナシは諦めた様な、決心を決める様に溜息を一つ。


「倒すぞ。柳 恵子を」


いきなりの宣言を前に、2人は顔を見合わせるのだった。

どうも、気まぐれです。

と言うわけで最新話、終章突入です。と言っても後3話位で終わる予定ですが。

伏線もクソもない、素人の処女作。最後までお付き合い頂けたらと思います。


では、次回更新はまた一週跨いで再来週に

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