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VRのその先に  作者: 気まぐれ
第5章 VRのその先へ
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歩む円環

「話はわかった。取り敢えず死ね」


とても良い笑顔を浮かべ、右手の親指を立てて下に向けるタケ。


ナナシがフランソワを気絶させてから10分。彼らは未だその空間に残っていた。理由としては、未だ目を覚まさないフランソワから情報を抜き出すのと、空間に倒れ伏したままの黒領土プレイヤー達、そして隅で支え合う様に蹲っていた二人組への対応の為だ。

回復アイテムでHPを安全圏まで回復させ目を覚ますのを待つ間、ナナシを待っていたのは長い間離れ離れだった、タケ達の質問攻めだった。


電子空間に連れられた事、そこで習得したクラッキングの事。一応の事を考えて管理者でんでんの部分を隠蔽し事のあらましを説明した後、タケの第一声が先程のこれである。


なんでだよ、と額に青筋を浮かべながら拒絶するナナシ。チートとか羨ましいんじゃぁ‼︎ という心からの叫びと共にタケが拳を振るえば、売り喧嘩に買い喧嘩の如く。ど突きあいという名のコミュニケーションが始まる。

……ジレンマを感じるのは何故だろうとナナシが思い始めた頃、そのやり取りを止めたのは回復したタケルだった。


「そのクラッキングは一旦置いといて、この子は一体何なんだ? あんなスキル、聞いたこともないぞ」

「聞いたこともないのは仕方がない。なんせあれは作られた、違法(チート)の塊なんだからな」


システムに定められた能力ではなく、何らかの方法で作られた(・・・・)スキル。それはチートだとかそういう問題ではなく、明らかにシステムへのハッキング行為であるという事。


「でも誰がそんな事を? たかがゲームにそこまでやるだなんて」


そう問うタケにナナシは苦笑を一つ。


「たかがゲーム、されどゲーム」


そう呟くと、床に手を添えて何かを確認する素振りと共にフンッと力を込める。周辺全員の位置情報を確認したのだと気付くよりも早く、視界は無数の0と1に囲まれた。

その様子に周りが困惑する中、


「人生初めての瞬間移動だ。酔うかもしれないから気を付けろよ?」


ナナシのそんな声と共に、広場にいた全員が転移。小さな光と共に、広場から姿を消したのだった。


転移したタケ達が降り立ったのは、ナナシが鍛錬に使っていたあの黒い空間だ。ナナシ達が来るのを待っていたらしく、共馬が拍手と共に出迎える。


「ようこそ…と言いたいけど、その様子じゃ休憩が必要そうだね」


その言葉にナナシが背後を振り返れば、そこには……


「「「オロロロロロロロロロロロ……」」」


顔は真っ青、身体からは冷や汗をこれでもかと流し、口からは何故か虹色に光るエクトプラズムが……


完全に酔っ払いのそれであった。一度も経験した事のない転移に耐えきれず、流れてしまったらしい。というより、何故このゲームはそんな人間臭い症状まで再現したのか……


ナナシ達はそれから更に30分程休憩する羽目になったのだった。


「で、俺たちに何を見せたいんです?」


今、ナナシ達は黒い空間を歩いている。黒いと言っても、あちらこちらで光が溢れては消えたりの繰り返しが起きているのでそこまで暗くはない。そんな中暗さ故か、はたまた時間が経ったのか顔の青白さが消えたタケの質問に、先頭を歩く共馬は顔だけを振り返える。


「君達は考えた事があるかい? どうやってこの世界が想像以上に再現されているかを」


まさかの質問に、タケは一瞬考える素ぶりをする。そして思い返してみれば、この世界はどうにも人間臭いのだ。


疲れた時に頬を流れる汗


悲しみに暮れた時に溢れる涙


転移に慣れず酔いを起こし、顔面蒼白になった時



これらの動作は唯ゲームを遊ぶには必要がない。「リアリティを出す為」と言われればそこまでかも知れないが、それを踏まえた上でこの世界はそっくり過ぎる。


そしてそれら全ては人間が出す感情に比例して、ごく自然に行われる一動作に過ぎない。ここである大きな疑問が流れる。


ーー即ち、どうやってこれだけの情報を扱っているのだろうか、と


人間の脳は謎が深い。

AR技術が進歩した現在、ニューロンの位置などを映像で再現するなどの成果はあったものの、感情などの不特定的な物は、未だにそのメカニズムが解明されていないのだ。


そして、VR空間でこの様な反応を起こすには、その不特定要素を数値化し、メカニズムに沿ってプログラムしていかなければならない。

幾ら地球規模の専用インターネット回線があるとはいえ、未だ開発されていない完璧な量子演算コンピュータの様なデバイスが無ければ、到底無理な話なのである。


故に、タケが何も答えられなかったのも仕方がない事。どれだけ頭をひねっても出ない答えなのだ。


何もなかった空間に、ナナシ達の足元から真っ直ぐ伸びる道が出来ていた。一体いつ出来たのかも分からないほど自然に出来たその上を、見えない何処かへ向かって歩き続ける。


「その答えがこの先にある。そこに居る老人が抱える謎も、この先で明かされるだろう」


恐らくダンに向けたのだろう。その正体に気付いているらしい気配を見せながらも、明言はせず、答えに向けて案内する。それを聞いたダンが気合を入れなおす中、出口の見えなかった道の先に光があった。

答えを求め、期待を胸に光に入る。ナナシ達を出迎えたのは……


「ようこそ諸君‼︎ ここがアナザースの中心、全ての情報が集い、終えてはまた始まる収束地点(エンドポイント)。フォトニック結晶体によって構成される演算装置にしてこの世界の中枢‼︎ 人呼んで『歩む円環(キープ・ウィキアス)』だ」


ガラスの様な四角形の結晶から放たれる眩い閃光。そして空間の天井?を覆い尽くし、結晶へと注がれる光の奔流だった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

フォトニック結晶。

それは屈折によって光を閉じ込める事が出来るナノ構造体である。しかし構造内での光の屈折などのプロセスは微細なので作製は容易ではない。流石に純粋な結晶では無いだろうが、ナナシ達の目の前にある結晶は目測だけでも3mは越えそうな巨大さだ。一体これだけの大きさをどうやって作ったのか、謎は尽きないが、それを製作者の一人である共馬とAIであるナナシ以外の全員は思うよしも無い。


しかし、光を閉じ込めるという性質がどう電子関係に含まれるのか。その説明は光景に呆気に取られる全員の横にいる共馬から出た。


「ここは現実とVR空間の境界が曖昧な領域。今君達が見ているこれは現実世界に存在しており、光を屈折させるガラス結晶を併用する事で情報を光に変換させている」


天井に走る光の波がそれさ、と指さされた天井を見上げれば、光の波がある。それらはよく見てみると、0と1で構成された光である事がわかった。


「そして変換された光はーーガラス結晶も混じった、純粋ではないーーフォトニック結晶へと注がれ、一度閉じ込められて解析される」


空間の中央で閃光をほとばしらせる結晶。その内部では光が回転して輪が出来ており、四角形の隅である4箇所から光が放たれている。


「こうして光を媒体とした演算処理システムと、情報を光に変えて取り込み、光を情報に変換して射出する半永久機関が完成したのさ」


自慢げに語る共馬。

しかし、この集団の大半が電子分野に疎かったため、ほぼ理解されていない。せいぜい「専門用語が多すぎてよく分からん」と言われるのがオチだろう。唯一理解したナナシが共馬の肩をポンポン、と優しく叩いた。


「そしてダン君。君はこれを見て何も思い出さないのかい?」


元から細かった目を更に細め、視線をダンに向ける。そしてその本人は、光景に未だ目を奪われていた。

視線は結晶へと真っ直ぐ向けられ、何かを思い出す様に、かすれる様な声で呟く。


「私の名は…」


その瞬間、ダンの身体は光に包まれ、直ぐに収まった。


「全て思い出した。私の名は……アインシュタイン」


ダンから発せられた声は、少し前までの彼の声ではない。老人めいた音質から、少し機械的な物へ。帰って来た天才に共馬は「おかえり」と返すのだった。

どうも、気まぐれです。受験で頑張った皆様、お疲れ様でした。 (遅いけど) VRのその先へもそろそろ佳境を迎えております。このまま最後までお付き合い下さい

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