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VRのその先に  作者: 気まぐれ
第5章 VRのその先へ
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馬鹿正直な人間

「それでは、第2回戦争システムに付いて説明する」


それはテスト期間が終了し、首都ハナに再び活気が戻ったその日の夕方だった。無機質な、事務的な音声が空から響いたのだ。遊び始めたばかりのルーキーが驚き、街中でオロオロする姿も確認できたが、それを聞いていたプレイヤーの殆どは違う。

それは前にも一度聞いた声。戦争システムの説明を行なった、あの声なのだ。

それを聞いているタケ達の表情も自然と険しくなっていく。

ーーーだが、その声がボイスチェンジャーによって変質したナナシのそれだと知ったら。タケ達がどんな顔をするか、見ものである。


「今回はルールを変更した」


その一言に、聞いていたプレイヤー達からおおぉっと歓声が上がる。それもそうだろう。毎回同じ事では人は飽きるものである。そしてそれが一大イベントなら尚更だ。しかし、その歓声は色々な意味で静まる事になる。


「君達には繋がりの塔を一から攻略し始めてもらう」


辺りが静けさに包まれる。

何人かは言った言葉の意味が分からず、そして何人かは「やっとか」と言いたそうな表情をしている。


「気付かなかったかもしれないが、今回のアップデートで繋がりの塔を改築した。今の繋がりの塔は最大100階のフロア、毎階ボス戦の単純なダンジョンだ。そしてーーーー」


その瞬間、空中に巨大なディスプレイが浮かび上がる。そこに映ったのは。


「先に繋がりの塔100階を攻略した先着3箇所から新エリアである『空中回廊』への扉を開く‼︎」


その時、その場にいたプレイヤー全員の目線を釘つけにしたのは。


ーー空中に浮かぶ、巨大なエリアだった。


壁も。床も全てがガラス張りの様に透明で。映像からもそのエリアの下に、自分達が見上げているであろう大空と空中から見た大地の景色が見えた。


「すっげえええぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎」

「俺このゲームやってて良かった‼︎」

「綺麗ね‼︎ 行って見たいわー‼︎」


プレイヤーの群れから歓喜の声が上がる。空中に浮かぶダンジョンなんて現実では見れないのだから尚更だ。


しかし忘れてはいけない。

共馬は先着三箇所といった。それはつまりーーー


「つまり、三つの領土からしか入れないと言う事だ」


その言葉に、赤の領土プレイヤー達は唾を飲み込む。それが、自分達がその新エリアに行けないかもしれないと言う事だからだ。

余談だが、この部分からナナシがボイスチェンジャーを使って話しているのだが、それに気付く者は誰一人としていない。


「おっしゃ‼︎ 絶対一着を取るぞ‼︎」

「「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉおおおお‼︎」」」」」」」


プレイヤーのやる気に満ちた歓声が上がる。新エリアという餌に、三つしかない竿。プレイヤー達は見事にその竿に翻弄されていた。

ーーーこの光景を見た共馬が悪魔の様な笑みを浮かべ、それを見たナナシが「やだ、こいつ怖い」と恐怖したのは知る由もない。大方、「こいつらチョロい」などと思ってるだろうが。


「今回のイベントは4日間。その間は領主間の壁も解除しておく。開催は3日後、以上だ」


それを最後に、声が途絶える。

後に残ったのは、報酬に浮き立つプレイヤー達と、先程までとは打って変わって静かになった青空だけだった。





さてこの全領土に映った説明だが、ここから少し離れた未開拓フィールド、「エトラ」と名付けられたこの簡易拠点の上空にも、それは映った。


それを聞いたプレイヤー達は困惑する。

何故なら、そのエトラには繋がりの塔が存在しないからだ。

しかし……


「よし、作戦を練るぞ‼︎ 取り敢えず集まれ‼︎」


その声は明るく、寧ろ興奮気味とも言って良い。

一度は大軍に追い込まれ、未開拓フィールドという未知の場所に追いやられた全員。そんな彼等の脳内は今、そう遠くないリベンジに向けて熱く燃えたぎっていたのだ。


それは唯の精神論ではない。

そんな経験を受けた彼等だからこその理由と、やられっぱなしではいられないという意地。そして、


「ピンチから成り上がりのストーリー。ゲームじゃないと味わえないよなぁ⁈」


やりごたえのある展開だから。そんな半ば子供じみた理由も背負いつつ、黒領土プレイヤー達はある人物に付いていく。

ある日から全員を励まし始め、彼らの再起に一役買った人物。今の彼等のリーダー。

黒い長剣を腰に掲げ、黒一色の装備に身を包む一人の少年。その横に佇む一人の少女がいい笑みを見せながら話し掛ける。


「じゃあ考えよっか、クロ。どうすれば良いのかを」


その笑みには信頼と、彼に対する期待が満遍なく映っている。クロと呼ばれた少年ーー黒領土の新たなリーダーは、それに答える様に少女ーーアスカの頭を撫でながら頷いた。


「ああ。あいつらを、帝国をぶっ壊してやろう」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

場所は変わって、白領土の首都にそびえる、未だその輝きが絶えない白亜の城。その玉座に座るアルベルトは、この上ない程上機嫌であった。それは通り掛かったアレックスに自分から挨拶する程で、挨拶された本人から病院に行かないかと心配される程だ。


その上機嫌の理由は言わずもがな。

先程出された説明にあった、空中回廊という新エリアの存在である。これに心踊らされない筈がない、と意気込んでいる。


「本当に嬉しそうだね、相棒」


遂には鼻唄まで口ずさみ始めたアルベルトに、アレックスは困った様な笑みを見せた。その表情から、本気で困っている様ではないが。


「なに、私もまだ子供だという事さ」

「それは同感だ。僕もまだまだ子供らしい」


まるで皮肉のような物言いに、アレックスは肩を竦めて同意する。空に浮かぶダンジョンを見て心踊ったのは、何もアルベルトだけではないのだ。


「じゃあ、次の目標はアレかい?相棒」

「ああ、次は空に浮かぶあれを。空中回廊が次なる目標だ。付き合ってくれるな? アレックス」

「勿論だとも、相棒」


玉座に座る帝王とその横に立つ相棒は、次なる目標を決め目をギラギラと輝かせるのだった。






「大方好評の様だな」


そう言いながらウィンドウを消す共馬。その顔は未だ不敵な笑みが映っている。それに半ば恐怖するナナシであったが、意を決して先程から膨らんでいた疑問を問いただす事にした。


「なぁ共馬」

「うむ」

「なんでこんなシステムにしたんだ?」


そう、わざわざ『戦争システム』とまで名付けられたこれに、その単語とは縁遠いシステムにしたのか。ただ単に繋がりの塔を攻略させるだけ、しかも新エリアという餌付きで出すならば、タイムアタックなどとでも名付ければ良いものを。何故違和感溢れる戦争システムにしたのか。


その疑問を、共馬はふっと鼻で笑いながら、正解には遠く、しかし確かな確信を持って、言葉を述べた。


「ただ戦うだけが戦争とは言わない。馬鹿正直に動く人間はいるか? 考えろ」


そして口を閉ざす。それは自分で考えろ、と言いつつも、お前なら答えにたどり着けると信じた故の言葉。

目の前に広がるディスプレイに映った、各勢力の分布図をもう一度見直しつつ、ナナシは思考の海へ旅立った。

どうも、気まぐれです。

ここ最近はあまり話が進みませんね。すみません。

来週はやっと1日目が始まるので、また来週に。

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