絶望の淵で眼鏡が光る
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Unknown: Aether
それは龍と言うより、翼竜と言った方が正しいか。腕を持たない代わりに翼が異常に発達し、脚に生えた強靭で鋭利な爪で敵を切り裂く。翼をひと薙する度に大気が震え、辺り一帯に真空波を撒き散らすその姿は正に災害。
Phioioioooiiooiooooo!!
鳥の様な鳴き声を発し、光り輝く風を放ちながら巨大な眼でギョロリとナナシ達を睨む姿は、ギリシャ神話の天空神・アイテールに相応しい。
「こんなヤツが出るだなんて聞いてねぇよ‼︎」
思わず悪態をついてしまうが、アイテールの状態から見て見逃してくれる筈もなく、半ば焦った様に刀を抜く。
遅れて老人も刀を抜いた所で、アイテールが仕掛けた。
Piihhhiiiiioooooooo!!
耳をつんざく様な高い鳴き声を発しながら、アイテールは空中で一回転するとナナシ達向かって突っ込む。
それは巨体任せの体当たり。誰でも避けれるだろう、単調な攻撃だ。
それを証明する様に、ナナシは余裕を持って回避行動に移る。回避直後のカウンターを狙らい、予備動作は最小限に。
そしてアイテールが間近といった瞬間、ナナシの背筋が凍った。それは少し前に感じた物と一緒で、タケルの炎を受けた時に感じた何かと似ていた。
「やべっ……⁈」
全体を使って体を無理矢理捻らせる。足の力も使って横に飛び込んだ結果、ナナシは4m程、距離を取る。
そしてアイテールがナナシが居た場所を通り過ぎた時。
グシャリ、と音を立てながらその場の地面を抉り出した。
「ーーーーーーー‼︎」
言葉にならない叫びが上がるのも仕方がない。アイテールはそこを通っただけで、マップの一部である土を抉り取ったのだ。その理由は簡単。
羽ばたく度に発生する、無数の真空波である。しかも、タケルの武器にも付いている「存在無視」のアビリティ付きで。
それは正に「歩く災害」
ナナシが恐怖する中、地面を抉り出しながら進み始めたアイテールはそのまま老人目掛けて突き進んでいく。
「逃げろ、爺さんっ‼︎」
ナナシが逃走を促す。それは初心者をいきなり変な目に合わせた故か、それとも中身が本当に爺さんだと教えてもらったからか。
理由はともかく、老人に絶対絶命のピンチが訪れているのは、誰の目から見ても明らかだった。が、
「|Nicht Kusse zu Gewalt(暴力には屈せず), |auch nicht fallen(倒れもしない)」
ドイツ語で一節。アイン鉱石に触れた時とはまた別の、呪文の様な何か。ただ今回は、どういう訳か何を言っているかが理解出来た。
「schwer(硬く)、schwer(硬く)、schwer(硬く)」
「Es gibt absolut unbesiegbar Schild hier ist(絶対無敵の盾がここにある)」
二節、三節と歌う様に続ける。
まるで言葉一つ一つが意味が持っているかの様に、歌う度に何かが震える。
「Open, Aegis Schild(開け、イージスの盾よ)‼︎」
最後の四節目を唱え終えた瞬間、老人の目の前に巨大な盾が現れる。
そして迫るアイテールを向かいうち……
鈍い音と共に衝撃が起きた。
その中心には、文字通り弾丸となって盾を突き破ろうとするアイテールと、巨大な盾で阻まんとする老人。
勿論、この光景を見たナナシの口が開いたまま塞がらなくなったのは言うまでもない。
ゲームを始めたばっかだと言って居た本人が、アイテールの攻撃を塞いでいるのだ。
あの詠唱の様な攻撃も合わせ、取り敢えず小一時間程問い詰めたい気分であったが、老人を連れて逃走するのが先だと走り出す。
「なんだってこんなこんな事に……」
思わずそんな言葉が出てしまうのだった。
ナナシが固まった状態から動き出すまでの間、老人とアイテールの間に何もなかった訳ではない。
老人もまた、冷や汗をかきながら自問自答の真っ只中にいた。
ーーシステム型アンノウンを確認
ーー逃走は不可能
ーー自分は初心者の老人…という設定の筈だ。
ーー目的の達成成功確率は極めて低い
ーー緊急事態に付き、システムスキル『魔術詠唱』を発動、「イージスの盾」を形成する
ーーこの盾はなんだ?私が出したのか?
ーーなにかが言っている…私が消えてはならないと
それはまるで、一つの身体に二人の人間がいる様な…そんな感覚。何かと混濁し始めた意識の中、老人に分かる事が一つだけ。
(老人の儂の他に一人、何かをさせようとする誰かがいる……‼︎)
それは二重人格と呼べるものなのか、はたまた老人の思い違いか。だが、目の前の現実は確かであり、こうして老人を守っている。
(儂は誰だ⁈もう一人は誰だ⁈ )
それは自分の存在そのものに対する疑問。自分が誰なのか、何故中にもう一人いるのか、疑問は尽きない。その中で一つだけ、答えのヒントがある。
それはもう一人が望む、2つのアイテム。実はアイン鉱石から溢れた光を吸収した時から、この『魔術詠唱』が使える様になった。つまり、残り二つを手に入れれば、これになにかしらの答えが出るという事‼︎
「ならここで終われんのぉう‼︎」
友の背中を押す様に、目の前に展開する盾をゆっくりと、しかし力強く押す。
(生き残りたい)
たった一つのシンプルな願いを望んだ瞬間、頭の中を三節の詠唱がよぎる。
意味は分からず、その効果も知らない。
だが、この状況を打開するだけの力がある。何故かそう確信できた。
「|Blitz erleuchtet alle(閃光は全てを照らし), |die Dunkelheit(闇を晴らす)」
「|glänzend(光る)、|glänzend(光る)」
一節、二節目を唱え終えた所で、右の掌にスパークが迸る。それはまるで高電圧の電力が帯電したかの様。
その右手を高く上げ、ナナシに自分の策を伝える。それを見たナナシが頷き、上半身全体を使って顔を隠す。
目を閉じながら、回転する様に盾をズラす。今も突進を続けていたアイテールは、その勢いのまま誰もいない方向へと突っ込んでいく。
大きな隙が生まれた瞬間、その口から三節目が唱えられた。
「|Spritzte(迸れ), |Donner des Zeus(ゼウスの雷よ)‼︎」
光が弾けた
ー2ーーーーーーーーーーーーーーーーー
走る。
背中に流れる冷や汗も気にせず、二人組の男達は走る。
途中でポップするエネミーには目もくれず、二人は死に物狂いで走り続ける。
タッタッタッタタタッタタタ……
二人が走る道は狭く、長い一本道が続くばかり。走る音が反響し、遠く、長く、暗い道の奥へと続いていく。
今更説明する必要もないだろう。
走り続ける二人は言わずもがな、ナナシと老人である。
アイテール相手に閃光を放ち、目を奪った老人。そのままナナシの案内と共に鉱山の出口への最短ルートを走っている最中だ。
因みに、老人が放ったのは「ゼウスの雷」。「攻撃にも使えるし、目くらましにも優秀なんじゃ」とは後の本人の談だ。
しかし、あくまで目くらまし。
十分もすれば、ナナシの背筋をヒヤッとさせるあの鳴き声が流れた。
Phioooioooiiooiooooooohoo!!
狭い鉱道を反響し、ドップラー効果を連想させる様なアイテールの鳴き声。それに混じって何かを破壊する様な音が聞こえるのは、飛びながら衝撃波で道を破壊しつつ追跡してきているせいだろう。
「さっさと外出るぞ、爺さん‼︎」
「うむ‼︎」
走る速度をより一層上げる。
それから数分。パルクールの達人も真っ青なスピードで鉱道を走るナナシ達の前に、出口の光が見えた。ただし、それを塞ぐ様にエネミーがポップしたが。
「邪魔するなああぁぁぁぁぁっぁあ‼︎」
横を走る老人の腰に手を伸ばし、ガシッと固定する。走りながらも空いた手で刀を抜き、腰に目一杯力を込め、まるでバネの様に飛び出す。
結果、 ナナシは老人を抱えたまま高速でエネミーに肉迫。そのまま刀を横に一閃。無理矢理エネミーを越え、エネミーを後ろに追い越す。そのまま浮いた両足の狙いをエネミーに定め……
「オラアァァァ‼︎」
思いっきり蹴りつけた。
垂直に蹴り、明らかに自分より体重の多いエネミーをつっかえ棒宜しく大きく跳躍。出口を飛び出した。
途端、ナナシ達の頬を風が伝う。長らく鉱山の中にいたせいか、それすらも懐かしく感じる。それほど濃密な戦いを経験したからか。しかし、運命とやらはまだナナシ達を休ませたくないらしい。
その瞬間、背後の鉱山がガラガラと音を立てて崩れ、眼を血走らせたアイテールが飛翔した。
鉱道を破壊しながら進んできたせいか、息は荒く、翼を羽ばたかせる力強さもそれほど感じられない。
しかし流石は神様と言うべきか、翼から放たれる神々しさは健在。手負いでも尚ナナシを狙うその姿に、ナナシは思わず唾を飲み込んだ。
アイテールが動く。
翼を盾にする様に、自分を覆う様に丸まり、羽根だけを小刻みに揺らす。
それだけでナナシはわかった。分かってしまった。アイテールが何を考えているのか。
「逃げるぞ、爺さん‼︎」
逃げ出そうとするナナシ達には目もくれず、翼に生える無数の羽根を小刻みに揺らす。そしてその度に衝撃波を纏う眩い光が収束していく。
そう。力を溜めて放つパチンコよろしく、衝撃波を一点に溜めて放つつもりなのだ。
動くだけで地面をもえぐり取る衝撃波が収束される。それだけでどれ程危険なのかが分かるだろう。
そしてナナシ達を追いかけないと言う事は、今から放つ衝撃波はどこまでもナナシ達を追いかけると確信しているから。
光が集まる。
羽根から放たれる衝撃波が円を描いて収束していく姿は、正に幻想。光の宝玉とでも表現できそうな程、それは光り輝いていた。
Phiiiohoooiiioiiooooooo!!
一吠。収束した光は更に凝縮され、直径30cm程の球体になりーーーー
「おイタはそこまでだ、アンノウン」
突如、四角形の何かに閉じ込められた。
目の前の地面に、一人の男性が降り立つ。
肘まで届きそうな白衣を翻し、眼鏡を煌々と光らせる。
「久しぶりだな、ナナシ。今度は何を見せてくれる?」
管理者の一人にして研究者、共馬が、大胆不敵な笑みを浮かべていた。
どうも、気まぐれです。
第5章2話、更新しました。ここから急ピッチ…とまでは行きませんが、話しを進ませていきます。
さて、この爺さんの正体は…⁈
まぁ、バレバレでしょうが。 伏線隠すの難しいのよ。ハイ。
後、次回作のプロットも練っております。今作とは違い、プロットに基づいて書いていくのでしっかりとしている…筈です。先にこちらを終わらせ、と苦情が来そうですが。
と言う訳で。
次回更新はまた来週。何時もの時間に




