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VRのその先に  作者: 気まぐれ
第5章 VRのその先へ
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第5章 プロローグ

ー1ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あーヒマだ」


珍しくプレイヤーの数が何時もより少なく、何時もより賑やかさが減った首都に、ナナシの声が響いた。


改めて周りを見渡してみれば、プレイヤーの数が少ない事が確認できる。見るだけで数が「少ない」と断言出来る程だろうから、違和感を覚えるナナシ。



青の領土での騒動を終えて赤の領土を帰ったタケ達を待っていたのは、2週間後に迫る冬休み前の期末テストだった。故に今はタケ達はテスト勉強真っ只中で、ナナシは現在一人なのだが、それが今の静けさとどう関係あるのか。


実は現在の日本では、小中高大、全ての教育機関にVR技術が導入されて居る。

そしてVRマシンの調整など等の理由により、全てのテストは全学校が同時にするのだ。つまり、全員が同じ時期にテストをする事になって居るのである。


しかし、第2回戦争システムが開始する3週間前にテストを行うのは、まるで誰かがわざとテスト後の戦争に専念できるように仕組まれて居るのような気がしてままならない。


それを一度話したナナシだったが、「気にし過ぎじゃねーの?」というタケの言葉に軽く頷く事しか出来ず、今に至る。


そして公園にてどう使えば良いかも分からない暇を、木製のベンチ上でだらける事に使って居る訳だ。


しかし、改めて考えるとやる事が無い。


青の領土で濃密な戦闘を行い、初めて精神的な疲労を体験した後のナナシは、やや魂の抜けた様な状況に陥っていた。

実はその時の疲労が完璧に抜けきっていないらしく、そのままウトウトと頭を漕ぎ始め、眠りにつこうとしたその時だった。


「ふむ、そこの若いの。

ちとジジイ話に付き合ってくれんかの」


ふと声を掛けられ、閉じ掛けていた目を開き、意識を浮上させる。


目の前に居たのは、既に70代でもいくのじゃ無いかと言うくらいの老人だった。腰に太刀を下ろし、武士の甲冑を思わせる様な装備に身を包むその人物は、ナナシにニコッと微笑む。


実はこのコネクトオンラインにてアバターは、年齢設定が60歳までとなっている。つまり、アバターの外見以外の要素が、その老人を人間とは思えなくする要素なのだが、ナナシはそれを「変わった人だな」と捨てると老人に話しかける。


「良いですよ。何ですか?」

「いやな、このアイテムが何処で手に入るか聞きたいんじゃが……」


そう言ってディスプレイに絵を浮かべ見せてくる老人。そこには鉱石の絵が映っており、ナナシは自分が知っている鉱石だと理解する。


ディスプレイに写るのは「アイン鉱石」。首都ハナから数分で着く小規模の鉱山の奥深くで採取出来る、黒と白のコントラストが綺麗な鉱石だ。

しかし綺麗なだけであり、装飾品(アクセサリー)の素材につかえるだけで、他に使い道がない鉱石である。


お世辞にも有用なアイテムとは言えない。


しかし老人がそれを欲しているのは確かであり、ナナシも在りかが分かっているので教える事にした。


「それはですね…「一緒に来てくれんか?」」

「……はい?」


それが手に入る鉱山の場所をウィンドウに映そうとした所を、老人が遮る。それによって気の抜けた返事をしてしまったナナシだが、老人は気にせず喋りだす。


「実はのう……ワシ、現実(リアル)では80歳のジジイなんじゃよ」


予想して居たカミングアウトではあったが、それでも言葉が出ない。喋り方が妙にじじくさいとは感じて居たのだ。ただ、本当に80代の爺さんがこんな最先端のゲームに居るとは思わなかったのだ。


しかし、今の時代で老人がVRに居ることは珍しくない。もう身体の動かない老人たちの脳の働きを良くするために、VRは今やリハビリの一環に応用されて居るのである。

あくまでリハビリ用のシステムであって、ゲームに入る事はないのだが。


「老い先短い身だ。

リハビリでなんとか動けるまで回復しても、やれる事に限界はある。ならばと、巷で噂になって居る最新のゲームを体験して見たい、と思ったのじゃ。今は80でも、儂が若かった頃はゲームが普及し始めた時代なんじゃ。

今のゲームにも興味を持つわい」


それは歳が歳故の、残り少ない人生を謳歌したいと思った男の、子供じみた、しかし悟ったが故の結果だった。


「孫がテスト期間だって言っていての。たしか若い者は全員がテスト期間中なんじゃろ?だから始めるなら今しかない‼︎と思って来たんじゃが……」


だがやはり老人故の恥ずかしさはあったらしく、後半は音声が低かった。ナナシも「ははは…」と苦笑いだ。


そして直ぐに「俺は…その……」とシドロモドロになる。実はNPCなんです、なんて言えるはずも無い。仮にも言ってしまえば、一生変な人扱いである。少なくとも変な目で見られる事は間違いない。その様子を見て老人は、


「ま、人にも事情があるじゃろ」


それだけを言って、ナナシに案内を急かした


見た目はナナシを尊重しての言葉に聞こえるが、「ニートにも色々あるんじゃろうなぁ」などと言われている様な気がしてやまないナナシなのであった。





ー2ーーーーーーーーーーーーーーーーー

首都ハナの北からおおよそ5分。

草原と岩場が混ざった様なフィールドを抜けた先に、それはある。


首都の近く故に、危険なエネミーも出現しない、比較的安全な小規模の鉱山。

そこそこのレア度を持つ鉱石が多く手に入り、初心者の武器用の素材を集めるにはうってつけと言われるそこは「アウト鉱山」と呼ばれている。


山の中腹にぽっかりと空いた穴が入り口のそこに、ナナシと老人はいた。本来ならば、ゲームを始めたばかりの初心者が素材集めに多くたむろするはずなのだが、今はその影は無い。


テスト期間による影響を改めて再確認させられるそこで、ナナシは老人より数メートル先を歩いていた。


何故こんな陣形なのかと言えば、老人が初心者だという事を考慮したナナシが

自ら決めた結果である。


老人に大きな仕事をさせないが為に先行した結果、ナナシがポップしてくるエネミーを瞬殺しながら進む事で老人は安心して進む。


側から見れば変わった光景ではあるのだが、ナナシの脳内は限りない混乱の最中であった。


(ヤベェ、何話せばいいんだ)


理由は一つ。首都ハナを出る前に起きたある一幕のせいである。

現実ではただいまテスト期間中。そしてコネクトオンライン内にいるナナシ。そして老人が何気なく放ったある一言。


「ま、人にも事情があるじゃろ」


実はナナシの胸にクリティカルヒットして居たりする。本当の事を言えないから尚更、タチが悪い。


しかし、老人の実力はかなり上であった。


それは探索中の事。

宝箱を見つけたのも束の間、モンスターハウスに引っかかったのである。


モンスターハウスとは、狭い部屋の中に大量のエネミーがポップする罠の一種。いくらポップするエネミーが弱いとは言え、物量の差、ましては老人付きで切り抜ける訳がない。


しかし、その予感はいい意味で外れる事になる。


ナナシがそれに気付いたのは、戦闘中にふと老人の方を見た時の事。

老人は腰にさした太刀を構え、一風変わったステップで動いている。

しかしそれが原因なのか、エネミーは老人の姿を捉えきれていない。まるで霧を掴むかの様に、老人はスイスイと敵を避けては攻撃を繰り出すのだ。


「いったいどんな爺さんなんだろう」


ナナシの疑問は増すばかりである。


そうして進む事十数分。

マップ的に最深部についたナナシ達は、目の前にあるアイン鉱石に目を奪われて居た。


輝くのは白と黒のコントラスト。

それぞれが眩い輝きを放っており、二つが見事に調和して言葉にできない美しさを持っている。


しかしそれは圧巻と同時に、ナナシに違和感を覚えさせていた。


よく見れば、その鉱石の塊は直径1mを優に超えている。

それ自体がおかしい(・・・・・・・・・)

そもそも鉱石がここまで巨大な塊で発見されたという報告はない。大きくても拳大位しかなく、1mを超える大きさの鉱石は例え1番分布の広く場所の多い鉱石でも存在しない。


それはAIに進化したナナシに警告する。

それはただの鉱石ではないと。言わば人知を超えた何かだと。

その中、老人は歩みだした。


それは探して居た失くし物を見つけた子供の如く。

触れれば壊れてしまいそうな、そんな何かを扱う様な手付きで、鉱石に触れる。


「Vorläufige Informationen bestätigt, den Recovery-Prozess ein, der Anfang」


ナナシはそれがドイツ語なのだと辛うじて理解したが、それが何を意味するのかまで考えている余裕はない。老人がその単語を一つ唱える度に、鉱石がそれに反応するかの様に光りだすのだ。




そして震え続ける鉱石にヒビが入り、何かが溢れた。


それは閃光爆発の如く。ヒビから溢れ出す様に、溜めに溜めた何かをさらけ出す様に。

レーダーから0と1が観測出来た事から、それが途轍もない数の情報だという事だけが分かる。通常は波として視認できるのが光として認識出来るという事は、それだけ濃密なのだろう。


そうして溢れ出た光は、老人がいつの間にか出していた右の手の平に収束、吸い込まれていく。


「Restaurierung Bestätigung. Ende」


老人がそう言い終わった時には、先程まで溢れていた光は跡形もなく消えていた。


「あんた……いったい何者…っ⁈」


ナナシの当然の疑問は、間髪入れず襲って来た豪風によって遮られた。


何故なら…


突如吹き荒れる、破壊の風。

風圧で辺り一帯を切り裂くそれは。緩やかな、それでいて冷たい風に変質する。しかし大気が震え、澄み渡った空気は流れ込む。それは美しくも、恐怖を覚える光景。


Phiuiuuiuuuuuuuu!?


それは鳥の様な鳴き声。

振り向いた先には巨大な鳥型の龍が、その巨大な眼をギョロリと動かし、ナナシと老人を睨んでいた。


Unknown: Aether(アイテール)


ふと、背筋が凍る。

死の概念を持たないはずなのに、死がすぐそこに迫ってきていると確信する。



初めて感じた死は、冷たい氷の香りがした。

どうも、気まぐれです。

という訳で第5章開始です。

一つお知らせが。

前に6章で終わらせると言いましたが、諸事情により5章で終わらせる事になりました。すいません。

しかし、第5章は6章のイベントを同時進行、2つの章を一度で終わらせます。

と言うわけでよろしくお願いします。

次回更新は来週、何時もの時間に

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