空を駆ける乙女
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ダミアから招かれ、一行はようやく壁の中に入る事が出来た。
一切の装飾を持たない、無骨な作りの巨壁。
一見、余りの装飾の無さに壁を作った者に手抜きを感じられるが、その巨大さが存在感を際立たせ、見るものに「一切の侵略を許さない」という気迫さえ感じさせるそれは、正に「難攻不落」に相応しい。
そんな壁の下部に、ポツンと佇む鉄の門。
これこそが街と外部を繋ぐ、東西南北の合計4つ存在する出入り口。東に位置する事から「東城門」と呼ばれるこれまた無骨な作りのそれを、
ーーあるものは見知らぬ街への期待に胸を膨らませ、
ーーあるものはこれから起こるかもしれない冒険に目をときめかせ、
ーーまたあるものはこれから彼らを待つ大事に溜息を吐きながら、
駆け足気味に潜った。
陽射しが遮られ、一瞬の間だけ暗闇が場を支配する。少し長めの小道の先へ行き、再び陽射しが当たる街内へと足を急いだ。
「わぁお」
途端に広がるのは、賑やかな街の景色。
人々は道端で行われる娯楽の数々に笑いを響かせ、その人々を魅了する娯楽を演じる芸人達はお互いに芸を競い合い、それを見る人々を虜にしてやまない。
我先にと道を抜けたサヤにそう言葉を零させた、「時代と娯楽の街」と呼ばれる街の風景が、そこにはあった。
サヤを追いかける形で道を抜けた面々が「おぉ」と声を漏らす中、ナナシが真っ先に視線を向けた先は背後、正確には壁の内側だった。
ダミアは壁の天辺から現れた。
それはつまり、壁の内側に登るための仕掛けがあるのでは無いか?
そう考えたのである。古風な階段や、現代的なエスカレーターを想像しながら後ろに振り向いたナナシの眼に映ったのは……
「……マジかよ」
何も無かった。
ナナシが想像していた様な階段もエスカレーターも無く、壁の外側と同じく質素な作りの、全く装飾の持たない垂直の壁が、そこにはあった。
見張りが居ないことから城砦とも呼べず、かつその首都を囲む様に円形に作られたそれは壁とも呼べない。もはやダムに囲まれた街。
それがマルクスなのだ。
さて壁の謎が明らかになった所で、ナナシの脳内でまた新たな謎が生まれる。即ち
(どうやって登ったんだ?)
だ。
壁はその装飾の無さから、手や足を引っ掛ける窪みすら無い。明らかにダミアが空を飛んで壁を超えたとしか思えないのだ。
それに気付いたのか、タケルやレンなどが顔を見合わせながらお互いの推測を話し合っている。
それを見て自分で色々と仮説を立てるナナシに、横から先程の一部始終を見ていたディクヌが話し掛けた。
「気になるか、ナナシ」
「まぁ……どっちかと言えば、気になる」
「すごいだろう、あいつは。
スキル「天駆ける人の知識」を使ってこの街を自由に駆け回る彼女は、「天駆ける乙女」の異名で人気なんじゃぞ」
「へぇ………ってえぇ⁈」
ディクヌからサラッとダミアのスキルを言われ、ディクヌの方を振り返りながら驚くナナシ。
まさかスキルを教えるという、正に敵に手の内を明かす様な真似に困惑の表情しか浮かばないナナシ。
そんあ様子のナナシに微笑みながら、ディクヌはその理由を話し始めた。
「ダミアのスキルは、説明しても対応できん。ダミアがスキルで空を走ると分かって、お前さんに何が出来る?」
ディクヌの言葉に、ようやくその意味を分かったナナシ。
確かに、ダミアが空を走ると分かった。
しかし対抗策は?
思いつかない。空を飛ぶダミアを相手に、どう対抗しようというのだ?
つまり、空からも来ると分かっていてもどうしようも無いのだ。
「ダミアが持つスキル「天駆ける人の知識」、その効果は"大気と重力を理解、無視する"事じゃ」
これはどういう事か。
簡単に言うと大気は空気、重力は引力、つまり引っ張られる力だと言える。
ダミアのスキルはこの二つの力に関する知識を与え、時にはその力を文字通り無視出来る様にする。
重力を無視して空を駆け、
大気を無視して空中で加速する。
この些細な二つの現象で、ダミアは自由に空を駆け回るのだ。しかし、それをナナシ達は知る由も無いのだが。
「そうか。じゃあ深く考えない事にする」
故に、ナナシは深く考える事を辞め、街の景色に目を移す。
騒がしく、且つ楽しげな雰囲気に囲まれながら、ナナシ達はダミアの案内の元、青の領土領主館へと足を運ぶのだった。
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数々の娯楽を鑑賞しつつ、ナナシ達は領主館を目指す。所々で披露される芸に足を止めながらも、無事に領主館へと辿り着いた。
「さて、いきなりで悪いが少し休憩してから北に向かおうじゃないかねぇ」
大勢の客人をもてなす為に作られた、執務室らしき場所でのダミアの開口一番の台詞にナナシ達は唖然とし、ディクヌは「せっかちな奴め」と呆れた様に肩をすくめていた。
いくら観光が言い訳とは言え、いきなり本題に移る奴がいるかといった様子のディクヌを見て「仕方がないじゃないか」とだけ答えて、ダミアはさっさと本題に移ることにした。
そもそも今回の旅自体、滞ったままの開拓を他領土の力を借りて一気に進めていこうという、ナナシ達を利用する様に計画した旅行なのだ。
利用できる時に、利用出来るだけ利用する。と言うのがダミアの根端であり、ぶっちゃけずっと隠しながら騙すのは気が引けたからなのだが。
総じてほぼ全員がポカーンとする中、見兼ねたディクヌが今回の旅は、ダミアがナナシ達を利用する為に計画した事を説明する。因みに全員は既に座っており、マキやサヤ、シズなど女性は並べられたクッキーを頬張っている。
ディクヌは、全員がそれに対して批判して来るかと思っていたのだが……
「「「なんだ、そんな事か。さっさと言えば良かったのに」」」
という、ディクヌの想像とは180度違う答えだった。
「そもそも、観光だけで終わらせるつもりは無かった」
「というか、そんな冒険のネタがあるなら俺たちから突っ込んでますよ」
とは面々の談である。そもそも、このゲームは楽しむ為に遊んでいるのだ。そして自分達が知らない、別の領土に遊びに来ているのだ。そこに楽しむネタをぶら下げて来たらどうする?
「「「楽しむしかないじゃん⁈」」」
途中でノッてきたサヤ達を交えて、テンション高めにそう熱弁するタケ。
それを聞いたディクヌは「そうか」とだけ答えると 、満足そうに笑みを浮かべるのだった。
因みに、ディクヌの満足そうな笑みを見てダミアが悶絶していたのは言うまでも無い。どこまでもディクヌLOVEなダミアであった。
「じゃあ、まずはこれを見て貰おうか」
そう言ってダミアが渡したのは地図だった。中央から少し下に巨大な土地があり、その中央上部に黒く太い線で凹凸のある長方形を形作っている。
それより上は海の様で、青く描かれ、あちこちに島がある。
「この黒くて太い線で囲まれているのが首都マルクスだよ」
誰かが聞く前に、ダミアが地図の説明と捕捉を行った。
「この青の領土は、北を海に囲まれた領土なのさ。そしてその海には無数の島々が浮かんでいる。
そしてプレイヤーは船と勇気で未開の島を切り拓く‼︎」
そこまで言ってダミアは、勢い良く立ち上がりながらナナシ達に言い放った。
「「時代と娯楽の街」改め、「娯楽と航海の街」へようこそ」
どうも、気まぐれです。
何とか期限に載せる事が出来ました。
これからもちゃんと載せていこうと思います。
では、次回更新は来週に




