仲の悪い隊長2人
ー1ーーーーーーーーーーーーーーーーー
青の領土、その首都マルクス。
周りを巨大な壁に守られ、数々の品や娯楽を備えたこの街は領主ダミアによって治められ、輝青騎士団の本部によって守られる、青の領土で一番安全、且つ華やかな街で知られる。
所々で見られる古く且つ時代を感じさせる建物は興味を誘い、最先端の知識を用いた娯楽は訪れた人々を飽きさせない。
北は海と未開拓の島が並び、ロマンを求める冒険者が日々出入りする。
此処は「時代と娯楽の街」マルクス。今日も娯楽を見せる職人と、それを見て笑みを浮かべる人々の声に満ち溢れていた。
「………………」
「………………」
そしてそんな賑やかなマルクスの外、首都を囲んだ巨壁の外側で、壁を背にナナシ一行を拒む10数人の集団が。
ナナシ達の前に立ちふさがった彼らを前に、案内人のディクヌは一歩前に出て彼らを睨みつける。正確には、その集団の真ん中で仁王立ちをしながらディクヌを睨む、他のプレイヤーと比べもっと立派な装備に身を包んだ男にだが。
そしてお互いに睨み続け合うこと数分。
長い沈黙に飽きが来たのか、その硬く閉ざされていた口を開き怒鳴る様に喋り始めた。
「長い間マルクスを離れては敵のスパイをゾロゾロと。青の領土を占領するつもりか?」
開口一番の罵倒に、ナナシ達の顔が目に見えて険しくなる。対してディクヌとタケルは馬鹿を見る様な目をしていた。
確かに、領主であるダミアに何も言わず勝手に同盟を結んだ事に対してディクヌも反省している。
その証拠に、ダミアに対してボイスメッセージで謝罪の言葉も送ったのだ。
故にディクヌからすれば、古傷をわざわざ掘り起こされる様な感覚を感じていた。
当のダミアは、ボイスメッセージから送られるディクヌの声に悶絶しながらそれを保存し、最重要ファイルの一つとして厳重に保管していたが。
それはともかく、領主であるダミアに話が通ったのなら目の前の男はそれに従わなければならない筈。
故に、それを知っているディクヌとタケルはバウレンの物言いに少しばかり呆れた様な視線を向けていた。
しかし言われっぱなしもまた癪なので、ディクヌはあくまで真剣に (内心では馬鹿にしているが) 目の前の男に言葉を返した。
「ダミアから話を聞いている筈だが?
それともあれか、お前は自分の主人を噛むマヌケな犬か?バウレン」
内心ではキレていたのかもしれない。思ったよりも馬鹿にする様な台詞が出た事に、内心自分でも驚くディクヌ。売り言葉に買い言葉で返してしまったが既に遅く、犬と呼ばれた西の隊長、バウレンは目に見えて顔を真っ赤に染め、叫ぶように反論した。
「五月蝿い!主人に勝手で大事を進めるお前も、躾のなっていない犬では無いか⁈」
その言葉に、バウレンの取り巻きの連中が揃って笑い始める。中には「隊長が犬だってよ」と小馬鹿にする者もいる始末だ。
「どうでもいいから通らせてくれないか?此方は身分証も持っているし、お前らに邪魔される筋合いも無いだろ」
バウレンを鬱陶しく感じたのか、レンが批判する様に声を出す。周りの全員はバウレンが只者では無いことが分かっていた事から2人の邪魔をしない様に話を聞いていただけだったからか、それに対して声を出したレンに驚いている。
タケは「俺たちが空気を読んで口を出さないでいたのに、しかも相手の親玉にそれを言うとか、おれ達が出来ないことを平然とやってのける、それに痺れる憧れるぅ‼︎」などと言うものだから周りの皆んなから変な目で見られていたが。
「ふん、お前は黙っておれ。俺は敵のスパイと話す気は毛頭無い」
しかしバウレンはそれを一蹴、それどころか話す気も無く、レンをスパイ扱いするバウレンの物言いに周りの顔が更に険しくなる。マキはヤマトが肩を押さえていなければ、即座に銃でバウレンを撃ち抜きそうだ。
お互いに犬と罵り合う2人の隊長達。
ディクヌがした事をいつまでもほじくり返すバウレンに対し、ダミアに認められたという正当性を主張しながらもバウレンを馬鹿にするディクヌ。
いつまで経っても、話が終わる所か激化の一途を辿りかねない状況に、壁の上からそれを打開する声が聞こえた。
「ディ〜〜ク〜〜ヌ〜‼︎」
壁の上から、低めの女性の声が響く。
最初は反響する様に聞こえたそれは、数秒毎に繰り返される台詞がどんどん明確に聞こえてくる事から、声の主が少しづつ接近してくるのが分かった。
それに対する反応は様々だ。
バウレンは興が冷めたと舌打ちし、その取り巻き達は見るからに顔を青ざめさせる中、ディクヌは声の主を良く知っている事から、懐かしさと諦めを含んだ笑いを浮かべる。
その他は彼らの反応の訳が分からず、置いてきぼりになった様に首を傾げていた。
「ディクヌ‼︎」
そして遂にハッキリと声が聞こえる。
しかしバウレンやディクヌを除いた全員は、声の出処が分からず仕舞いで何処から聞こえるのか辺りを見回している。
何故なら、マルクスに入る唯一の入り口である門の向こう側から聞こえないのだ。そう、それはまるで壁の上から聞こえる様で……
「「「上?」」」
それに気づいた様に、全員が音の出処であろう高さ50mに及ぶ壁の天辺を見上げる。
そこには1人の女性が仁王立ちで立っていた。
風が強いのか、立派な光沢の付いた金色の長い髪をなびかせ、威風堂々と壁の上に立つ。女性用のジーンズに真っ白のシャツ、そしてその上に皮製のジャケットを羽織った彼女。
誰もが美女と言える顔立ちとシャツを押し上げる見事なプロポーション、両頬の小さなそばかすが可愛さを際立たせる。しかしその姿から放たれる存在感とプレッシャーはまさに女帝そのもの。
世にも珍しい女性の領主と呼ばれた彼女の何とも皮肉な事か。その立ち振る舞いと存在感は領主のそれ。口元の笑みは自信の表れか。
青の領土マルクスを治める女傑、ダミアが姿を現した。
ー2ーーーーーーーーーーーーーーーーー
突如として現れたダミアに、ナナシ達は声を出せない。それは彼女の存在感に気圧された証か。しかしそんな彼らを更に驚かせる行動に移る。
「よっ」
それは自然に。
まるで家の階段を下がる様に。
彼女は高さ50mの壁の上から飛び降りた。
下の全員から驚きから叫び声が上がるが、もう遅い。両足を壁から宙へ晒した彼女は重力に沿って加速、自由落下を始める。
ダミアが落下する中、下では大騒ぎになっていた。サヤ達は「死んじゃうよぉ⁈」と声を荒げ、レン達は「マジかよ……」と信じられない物を見る目でダミアを見つめていた。その中、ダミアを知っているディクヌとバウレンは何事も無い様に空を見上げたままだ。
その仕草に違和感を覚えたのか、ナナシは改めてダミアを見上げる。そしてある違和感に気付いた。
この世界でも、高い場所からの落下死は存在する。何体かのボスは、その落下死を利用して倒す必要がある事も知っており、この世界ではそういう部分が無駄に、且つ忠実に再現されている。
故に気付いた。
落下中のダミアが全くと言っていい程に空気抵抗を受けていないことに。
自由落下とは、重力以外の力が存在しない状況下での運動のことである。地球で落下した場合、空気との摩擦で空気抵抗が発生し、時間を掛けて重力による加速 (9.8m/s2)と釣り合う事で、決まった速度で落下するのだ。
何が言いたいかと言うと、地球上での自由落下には空気抵抗を受ける必要がある訳だ。そしてダミアは全く空気抵抗を受けている様子が見られない。通常通りなら、ダミアの周りに摩擦によって空気の層が見える筈なのだ。
だがダミアはそれが見られない。まるで空気を無視して自由に動いているようだ。
結果、それがスキルによる物なのだろうと判断したナナシは考える事を辞めた。思考放棄とも言う。
そして落下し続けるダミアは、ものの十数秒で地面スレスレまで落下。そのまま地面と激突するかと思われたがーーー
「遅いよ、ディクヌ‼︎」
まるで50mが何でも無いように着地し、そのままディクヌの元へと駆け寄った。
しかも、地面には全くの影響無しに。
落下の衝撃を地面に受け流した訳でも、それに耐えた訳でも無い。落下時の衝撃が嘘の様に消えていた。完璧にエネルギー保存の法則を無視している。が、ナナシは反応しない。問題の棚上げとも言える。
「すまん、目の前に人の言うことを聞かないバカがいたんでな」
そしてディクヌも気にした様子も無く、目の前のバウレンを睨むながら言う。
それを聞いたダミアはシュバッと音を背後に振り向き、バウレンを睨みながら口を開いた。
「ディクヌの事はもう話しただろう⁈」
「しかしダミア、奴は……」
「私の責任だって言っただろう⁈
分かったらさっさと道を開きな‼︎」
「う……判った」
流石に領主に言われてはこれ以上何も言えないのか、取り巻きに撤退の命令を出す。
そして門に向かう取り巻きと共に、ディクヌを一瞬睨みながらもその場を離れていった。
「……さて」
バウレン達が居なくなった門前で、ダミアが話し始める。どうやら姉御肌な性格らしく、何人かの女性から「お姉さま〜」とか言われそうな性格だ。
バウレンによって顔を険しくしていた全員をなだめる様な笑みを浮かべ、口の端を釣り上げながら歓迎の言葉を述べた。
「改めて、青の領土へようこそ‼︎」
どうも、気まぐれです。
やっと何時もの時間に登校出来た‼︎
久しぶりですね。
と、言うことでちょっとした物理学の授業が入りました。
基本スキルは物理法則を無視しますが、それも併せてこれからもこういう部分を突っ込みたいと思います。
こらそこ、文字数稼ぎとか言わない。
次回更新は金曜日の何時もの時間で




