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VRのその先に  作者: 気まぐれ
第1章 物語の始まり
3/70

悪意が潜む初戦闘

ー1ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

少年ーーー改めナナシがタケ達に自分が置かれた状況を話してから数分後、4人で色々と可能性を話したりしたのだが………


「わっかんねぇ」

そう言いながら4人の前を歩くのはタケだ。どうやら彼は分からない事は放っておけと言うスタンスらしく、更に頭が良いわけでは無いのか、話し始めて最初に考えるのを諦めた人物である。


「でも、そういう事だったら私達も手伝うよ」

そう言うのはサヤで、タケの次に脱落した人物だ。言葉ではそう言っても、頭から煙が出そうな程考えた顔をする限り、彼女もバカなのかもしれない。

そして後ろをついて行くシズとナナシ。


因みに、この「ナナシ」は言葉通り、「名無し」をカタカナにしただけで安直過ぎやしないか?と一瞬後悔したのだが、杞憂に終わったらしい。

そして今はーーー


「どうしたの?顔に何か付いてる?」

「い、いや、別に」

今更見惚れていました、なんて言えないナナシは別方向を向く。

しかし、確かにシズは綺麗なのだ。

綺麗に整った可愛らしい顔に、腰まで伸びた艶のある黒い髪。プロモーションも抜群とが言えないが、スタイルは良い方である。

因みに、サヤはビックリする程無い。何処がとは言わないが。言ったら作者さえ殺してしまいそうである。取り敢えず、シズが山脈ならサヤは荒野とだけ言っておこう。


それはさて置き、4人が何処に向かっているのかと言うと、外のフィールドだったりする。ナナシが獣に噛まれて死ねない事を確認した、あの平原である。


何のためかと言われれば、初戦闘を経験する為だ。それに、ここは8つの領土に分かれているコネクトオンラインの中で唯一の中立地帯であり、自分が行きたい領土に行くにはこの平原を突っ切らなければならないのだ。故に、今日のうちに初戦闘を済ました方が良いのである。


そして、自分達が好きな領土に行く為の、言わばここが分かれ道なのだ。

他のプレイヤーは知らないが、β版では4つの社会が出来た。そして製品化した時、この4つの社会を更に分ける事でこの世界に合計8つの領土が生まれたのだ。


-中国人サーバーが多い黄の領土・シェン

-日本人サーバーが多い赤の領土・キョウ

-アメリカ人サーバーが多い白の領土・フリー

-フランス人サーバーが多い青の領土・ナイツ

-アフリカ人サーバーが多い茶の領土・ガナン

-様々な出身の集まりの黒の領土・マルン


これらの領土に、自分達で何処に行くのか決められるのである。今回ナナシ達が入ったのは赤と青の領土に近い平原である。


タケ達は、初めてのフィールドに入るのだった。


ーーイニシア平原ーー

広い野原を、一つのグループが進んでいる。

先頭で辺りを警戒しながら進んでいるのは、大剣を肩に担ぐタケだ。どうやら、肩に担ぎながら戦うのが彼のスタイルらしい。

そしてその後ろを歩くのは、背中に弓を抱え少し怯えた様子のサヤだ。

まるで狂犬に吠えられた子供の様に怯えている。

そしてそんなサヤをあやしているのは、シズとナナシの2人である。


何故こんな事になっているのかと言うと…


初戦闘で起きた事が原因だったりする。

幾らゲームとはいえ、モンスターはかなりリアルに作られている。

それはナナシを噛んだ獣や、今回サヤのトラウマの原因になったモンスターもそうだったりする。

初戦闘時にサヤが相手したモンスター、その名前もーーー


「ビッグワーム」

これでお分かりだろう。簡単に言えば、芋虫である。小学生位の大きさだったが。

たかが芋虫と侮ってはいけない。

虫を良く観察してみると、実は虫はかなりグロテスクな作りをしている。

それは芋虫も同じで、そんなグロテスクな虫が一般的な小学生位の大きさで、しかも結構早いスピードで突っ込んで来るのだ。

ハッキリ言って、気持ち悪い。


「キモッ‼︎」

「やだぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ‼︎

気持ち悪い‼︎タケ、どうにかしてぇぇ‼︎」

「流石に気持ち悪いわね……」

「俺あんなのと戦いたくねぇ」


以上が、ビッグワームに遭遇した時の全員の反応である。台詞と今の状況から、誰がどの台詞を言ったのか一目瞭然だ。


しかも、斬られる度に体から体液を撒き散らすから更にタチが悪い。

コネクトオンラインの無駄に高いリアリティが裏目に出た結果であった。



そして今は、大してダメージを受けていないタケが先頭に立ち、大ダメージ(主に精神的に)を食らったサヤを守る様にシズとナナシが挟むという陣形に落ち着いている。

因みに、ナナシは武器を持っていない。

武器を装備できるか分からなかったし、そもそも武器を買うお金すら無かったので試す事もしない。

タケから大剣を借りると握れたので使えない事は無さそうだが……よく分からない。


ナナシが自分の無能っぷりに四つん這いに倒れてorzしたとだけ言っておこう。


そんなこんなで、危なげなく平原を進む彼らだったが、それは急に現れた。



「なっ」

足元に現れる魔法陣。それは4人全員を覆う程の大きさで、タケ達が何か言う前に、その姿を何処かへ飛ばしてしまった。


誰も居なくなった平原に、一陣の風が吹く。

それはまるで、罠に掛かった獲物を嘲笑うかの様だった。





ー2ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

魔法陣で飛ばされた4人は、気がつくと薄暗い空間の中に居た。

光が無いので良く分からないが、かなりの広さがある円形の空間らしい。

訳の分からないまま4人が探索しようとすると……


ーープレイヤーを確認、ボス構成開始ーー

突如として聞こえた、システムメッセージ特有の無機質な声、そして同時に現れた無数の0と1。


それらが化け物の一部を作っていく。

上から現れたのは頭と背中を、

横から現れたのは二つの巨大な腕を、

下から現れたのは強靭な2つの足を、

そしてその化け物の身体は少しづつ作られていきーーーー


「おいおい……まじかよ」

「ねぇ、シズ。あれって…」

「まさか…ありえない」

「あり得るよ…此処はゲームだぞ」

4人が信じられない物を見た様に固まる中、それは姿を現した。


強靭な足と腕を持ち、その巨大な体を動かしながら、それは今、この場所に現れた。




"Boss:Gretefrethe(グレテフレーゼ)"

漆黒の竜が、その牙を剥く。


『Guuuioioioioooiiiiooooooooo!!!!!!』





ー3ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Boss:Gretefretheグレテフレーゼ

HP:????/????

Status:正常


巨大な漆黒の竜が現れた。

それは唐突に、自然に。

そして、急に現れた脅威に彼らは対応出来ない。だからだろうか、彼らが立ち尽くしたまま動けないのは。


(動けよ、動けよ!俺の身体!)

(怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)

(身体が…動かない)

頭の中で分かっていても、動かなくてはいけないと分かっていても、目の前にいる圧倒的な脅威に身体が動かない、いや動かせない。脳が無意識に恐怖を理解していても、身体が、本能が、「動いたら殺される」と伝えてくる。

見えない鎖に縛られて、タケ達は動けない


「何してやがる! 逃げるんだよ!」

唐突に声が聞こえた。

それを認識した瞬間、言葉の刃が見えない鎖を壊す様に身体が自由を取り戻す。


慌てて彼らが真横に飛んだのと、グレテフレーゼがその長くて太い腕を叩きつけたのはほぼ同時だった。


ドゴォン‼︎

爆発した様な重い音が鳴り、タケ達が居た場所を粉々に粉砕する。

タケ達は間一髪避けた後、やっと反撃に映った。


「うぉぉぉぉぉ‼︎」

高らかに声を上げながら、あの攻撃から生まれた隙を突いて斬りつけていく。


それを合図にした様に、サヤ達も攻撃を始めた。

大剣と薙刀の刃が肌を斬り、放たれた矢が突き刺さる。


Boss:Gretefretheグレテフレーゼ

HP:4833/4500

HP:4759/4500

HP:4668/4500


ダメージを与えていることに、タケ達は静かに安堵する。流石にダメージを与えることができなければ、自分達に勝ち目はなかっただろうからだ。

だから、少なくともダメージを与えている事が支えになる。

今の所、グレテフレーゼは腕を使った大雑把な攻撃しかしていない。

後に攻撃パターンが増える可能性があるが、少なくとも今は大丈夫だろう。


「大丈夫、あいつは倒せるぞ!」

だから、タケは皆を励ますのを辞めない。自分が折れたら、皆が折れる。

そんな思いが、タケをより一層、奮い立たせる。彼にもう一回、立ち上がる勇気を渡す。







そして攻防を続ける事数分、それは起こった。


Boss:Gretefretheグレテフレーゼ

HP:3000/4500

Status: 正常

HP:2876/4500


それはグレテフレーゼのHPが3000を切った瞬間と

それはタケが追撃を与えようとして近づいた瞬間と

それはサヤが矢を弓に掲げた瞬間と

ほぼ、同時だった。


--Monster skill: tail whip--


『Guiuiuiiiuiiiiuooooooooooooo!!!!!!』

耳をつんざく様な雄叫びと同時に、その強靭な尾が緑色の光に包まれる。

今更だが、グレテフレーゼの身体はどちらかと言うとティラノサウルスに酷似していた。そしてその武器は強靭な顎とその体躯に似合わないスピードで振るわれる尻尾である。


円を描く様にして振るわれたそれは、タケの横っ腹を強打し吹き飛ばした。


「「タケ‼︎」」

シズとサヤの叫びが聞こえる中、ナナシの目にはシズを次の標的にし、超スピードで突進してくるグレテフレーゼの姿が映った。



ーーーとあるヒーロー漫画の中に、こんな台詞がある。

「考えるより先に、身体が動いていた」


だからだろうか、自分の足が動くのは。


何か策がある訳でも、

助ける力がある訳でも無い。

それでも、

それでなくとも、

この訳の分からない世界で、

自分を少なからず救ってくれた、

最大の恩人が死ぬのを見ていられるか⁈


「うぉおおおぉぉぉおおおおお‼︎」

自然と声が出る。

思わず踏み出した足は、グレテフレーゼとシズを遮る様に数メートル前で止まった。

そして身体は自然とかばう様に腕を上げ、大の字になる。

グレテフレーゼに背中を向け、シズと向き合ってナナシは言った。


「大丈夫」

ただそれだけ、

そのたった一言の後、


--Monster skill: power arm--


ナナシの背中を、紫色の光を纏ったグレテフレーゼの巨大な腕が襲った。



ー4ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

スキルとは、見えない数値である自分の行動に付く熟練度によって追加される力である。そしてそれはモンスターもまた然り。

決まった習性を持ち、自分の武器を一番良く理解している彼らも、それぞれのスキルを習得している。


そしてグレテフレーゼはハッキリ言って強い。今のタケ達では勝てないだろう。

パワー、スピード、全てに勝っている。

そんなグレテフレーゼのスキルであるpower armは一番力がある。


そんなpower armはナナシの背中を砕き、ナナシを地面に叩きつける筈……だった。


だが、お忘れだろうか?

狼に噛まれ、痛みも傷1つ付かず、死ねない事を確認した事を。


そして今、ナナシのその謎の現象が

死すらも遠ざける、忌まわしい筈のアレが

今度はナナシを救った。


スキルによって放たれた腕の一撃は、ナナシの背中に食い込むだけで終わっており、それ以上の侵略を許していない。


この現象を前に、助けられたシズは開いた口が塞がらなかった。


それも仕方がないと言える。

なんせダメージも衝撃も食らっていないのだ。それこそ、ダメージを無視しているかの様である。

既に似た様な話を聞いていても、驚きは隠せなかった。


「話には聞いたけど、やっぱり信じられないね」

「だろ?俺でもビックリしてる」


話とは、自殺未遂の時の話だ。

その時の話も合わせ、戦場にいる事を忘れる様な笑い声が出る。

そして、一通り笑った後


「じゃ、やってみるわ。タケの事よろしく」

「ええ、頑張って。私も後で行くから」

そう言って、グレテフレーゼに向かって振り返るのだった。


「覚悟しやがれ、糞ドラゴン」


ナナシが今、巨大な竜に挑む。




『Guuuioioioioooiiiiooooooooo!!!!』


グレテフレーゼが雄叫びを上げながら、その巨大な腕を振るって迎撃する。


上から振り下ろす様にして放たれたそれを、ナナシは……


「喰らいやがれぇ‼︎」

気合いの入った声と共に、大振りのテレフォンパンチが放たれる。

一見、何の変哲も無いそれは、グレテフレーゼの腕を真正面から受け止めた。


何故ナナシがこんな事を出来るのかは分からない。しかし、一度は恨んだ力でもそれが仲間の為になるならば……


使える物は何でも利用する。

そんな思いで、ナナシは拳を振るう。


「まだまだぁ‼︎」

再び、拳はグレテフレーゼの腕を止めた。

そうしてグレテフレーゼがその猛威を振るう度、ナナシは拳を使ってそれを止める。


勝てるかの様に見えたが、1つだけ懸念事項があった。


(ダメージが入っていねぇ‼︎)

そう、ナナシのパンチはグレテフレーゼのHPバーに傷1つ与えていないのだ。

つまりは、ナナシ1人では倒せない。


それを悟ったナナシが冷や汗をかいた瞬間


「『パワースラッシュ』ゥゥ‼︎」


横から突然、その大剣に光を纏わせたタケが飛んでくる。


大剣、片手剣専用攻撃スキルーーパワースラッシューー

これは縦斬りから派生したスキルであり、大抵の剣使いが最初に習得するスキルでもある。

ただし別にスキル習得までに必要な熟練度は低くなく、ナナシはタケがこの場で習得するとは思っていなかった。


しかし、その懸念はいい意味で裏切られたと言っても良い。


そして、それはナナシ達が最大のダメージソースを手に入れたという事でもある。


タケが放った渾身の一撃は



Boss: Gretefretheグレテフレーゼ

HP:2876/4500

Status:正常

HP:2503/4500


戦闘が始まってから今までで最大のダメージを叩き出した。


『Guuuioioioioooiiiiooooooooo!!!!』

叫びと共に振るわれる尻尾をナナシはその拳で受け止める。

ダメージを受けないという不確定要素に賭けた戦いの終わりは、一歩、また一歩と近づいていた。







ー5ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

それから数分、ナナシはひたすらグレテフレーゼの攻撃を止めていた。

幸い、グレテフレーゼの動きは単調で大振りだった為、受け止めること自体は簡単だったからだ。


そして、ナナシが攻撃を受け止める間にタケとシズ、そしてサヤの攻撃が少しづつ、しかし確実にHPを削っていく。


Boss:Gretefretheグレテフレーゼ

HP:649/4500

Status:正常


そしてHPが700を切った瞬間、


『Guuuioioioioooiiiiooooooooo!!!!』

グレテフレーゼが叫びをあげる。

しかし今回ばかりは、何時もの叫びとは違った。何故なら………


--Monster skill: pressure howl--

そんなウィンドウが現れたからだ。

字面から察するに、周りの動きを一瞬止める効果があるのだろう。

そしてその一瞬は最大の隙を生んだ。


--Monster skill: tail whip--

追い打ちを掛けるように追加のスキルが発動され、グレテフレーゼの尾は光に包まれる。それは最大の一撃。グレテフレーゼのHPが一定以下を切ると使うようになる、最後の悪足搔き。


その雄叫びは、その場の全員の動きを一瞬だが止めたーーーー


その場にいた、攻撃を受け付けないたった1人を除いて。


「させる……かぁ‼︎」

脳の何かが切れた音がしたが、関係無い。

今はただ、あの一撃に届く足があればいい

そんな思いが、自分の中にある何かを切った


自然と足は力を持ち、身体から力が湧く。

この瞬間、ナナシの脳のリミッターは粉々に砕け散った。


そして、ナナシの身体はあり得ないスピードで加速し、スキルよって放たれた尻尾の一撃をシズに当たる直前で止める。


「今だぁぁぁ‼︎」

後は身体が勝手に動いていた。

足はグレテフレーゼに向かって進み、

身体は最後の一振りに力を貸す。

肩に担いだ大剣を掲げ、

タケはトドメの一言を言い放った。


「喰らえ、『パワースラッシュ』ゥゥ‼︎」

金色の光を帯びた大剣が、グレテフレーゼの体を切り裂く。血を吹き出しながら倒れた竜はーーー


Boss:Gretefretheグレテフレーゼ

HP:0/4590



そのHPが0になると同時に、光の粒になって消えていった。

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