最後の一人の物語
ー1ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この世界には二種類のプレイヤーがいる。
スキルや自らの技能を使い、戦いのセンスのままに戦うプレイヤーと、ゲームの数値を自由に扱うプレイヤーだ。
プレイヤー「メカタ」は後者に当たっていた。自分のスキルやアイテムの数値一つ一つを見比べ、戦いでのダメージソースを作り出す。
そんな彼はリベルタ平原にて、集団で動いていた。彼は2日目のリベルタ平原にて、援軍として参戦しているのだ。
「此処から3時の方角、数は1、こっちへ来るぞ!」
斥候役のプレイヤーが敵の接近に気付き、方角と数を教える。
「一人か、楽勝」
「だな」
敵が集団では無く、たった一人と聞いて周りが余裕の会話をする中、メカタは一人、思考の海に居た。
(敵は一人、こちらは5人、大した戦闘はしていないから、ほぼ全快で挑める。こちらは弓使いが二人だから、まずは牽制で……いや、奇襲にするか?ダメだ。向こうは既にコッチに気付いている。ならば………)
思考は既に身体を離れ、勝利への道筋を探す。脳内シュミレートにて1手を案じ、更に仲間の力を合わせて勝利を確実にする。軍で言う参謀の様な役割を、メカタは一人で5人分の頭脳を担っているのである。
そしてメカタは決して侮ってはいなかった。一人で来たということは、無謀な突撃をしに来たわけでは無く、本気で一人で敵を制圧出来ると確信しているからこそ、一人で5人もいる自分のグループを相手にしようとしているのだろうとメカタは推理する。
そこにあるのは絶対的な自信と、それを現実にする実力。
「敵、見えたぞ!接触まで後5…4…3…2…1…戦闘準備‼︎」
斥候から情報が送られる。そのカウントダウンと共に、メカタ達の前に敵が現れた。
「よぉ、お前らなら楽しませてくれるんだろうなぁ⁈」
ー2ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
現れた敵を前に、メカタはほぼ無意識で言葉を紡いでいた。
「急速区域‼︎」
その場の全員を囲む様に、緑色のサークルが展開される。
ナイフ専用、支援型スキル ー急速区域ー
半径6mにも及ぶサークルを発生させ、自分が選択したプレイヤーに行動高速化のパフを掛けるスキル。ただし、高速化のパフはサークルの外に出た瞬間に切れるという、サークル内に限定された高速移動を可能するものだ。
サークルによって緑色の光を放つ戦場の中、ダグラスを囲む様にメカタ達は展開する。
「「ショットフォール!」」
弓を持った二人が放った矢は、空中に跳んだかと思うと急転、落ちる様にダグラスを狙う。そして前衛の二人は心臓を狙う様に『バレットストライク』。
空からは矢、地上からは高速の突き。息の合ったコンビネーションによって作られた包囲網を前にダグラスは、圧倒的な暴力を持って答えた。
「ブロークン ディザスター‼︎」
ダグラスを中心に、強烈な威圧が風と共に放たれる。その風は飛ぶ矢や前衛の男達を一瞬止めるだけで無く、数メートル飛ばした。
「くぅっ‼︎」
歯嚙みしながらも、メカタは直ぐさまステータスの確認に移り、絶句する。バッドステータスの「麻痺」と「怯え」が掛かっているのだ。敵の動きを止めるだけで無く、バッドステータスを付与する。
(なんて意地の悪いスキルなのだろう)、とメカタは考えた。しかし、今は考えにふけっている場合では無い。バッドステータスを解除する為、直ぐにアイテムを使用する。
「パラライズアロー‼︎」
「ポイズンアロー‼︎」
視界端に移る後衛がそれぞれ、毒と麻痺の状態異常が付与された矢を放つ。
「しゃらくせぇ‼︎」
言葉と共に一突き。すると槍の先端が破裂。無数の棘となって矢を破壊し、後ろにいた後衛すらも貫いた。
それを見た前衛が驚きに顔を歪める中、メカタは槍の正体を分析する。先程の無数の棘という唯一の情報を元に、槍を持つ英雄や神を脳内検索。その武器の情報と照らし合わせ、敵の持つ武器の正体を明かす‼︎
そして、その正体が分かるのにそう時間は掛からなかった。
「武器がゲイ・ボルグと確認!
突きと共に出す無数の棘に注意し、攻撃範囲の確認、急げ‼︎」
その正体と共に、対処法を仲間に伝えた。
ゲイ・ボルグ
英雄クーフーリンが持っていたとされる、神話の槍。投げれば30の鏃となって降り注ぎ、突けば30の棘となって破裂するのだが、一番恐ろしいのはその「必殺」にある。
敵の全身の細胞へ毒を残す、全身の内臓と血管の隙間に大釘を残す、どんな防具も貫通する、奇妙な軌道で突き刺さる、無数に枝分かれして刺さる、この槍でつけた傷は直らない、刺された者は必ず死ぬなど、確実に相手に致命傷を与える事で知られている。
しかしここはゲームの世界。ゲームバランスを崩す程の能力を武器が持つ訳が無いのだ。故に、メカタはゲイ・ボルグに実装された部分がどれなのかを見極める必要があった。
状態異常の治療が済んだ前衛が再びダグラスと交戦に入る中、メカタは少ない情報を頼りに戦術を組み上げる。敵の攻撃範囲や威力、パターンを踏まえ、味方のHPを確認しつつ指示を与える。
「敵に近づき、先端から離れる様に回避!直ぐさま速攻して!
そこ! HPの分配に注意して! 『ファストヒール』‼︎」
先端が分離するという特徴から最適な回避方法を見つけ、簡易だが回復で味方を支援しつつ、戦況を管理する。行動パターン、攻撃範囲、味方のスキル、HP。これら全ての数値を把握し、的確な行動を取らせる事で、メカタは疑似的な未来予知すらも可能にするーーー‼︎
「ナメんなぁぁぁ‼︎ 『ブロークンファンタズム』‼︎」
しかしダグラスも流石と言うべきか、スキルをもって対抗する。現れたのは黒尽くめのダグラス。どうやら分身を作り出すスキルらしい。
「楽させてくれよ……」
メカタの呆れを含んだ声は、直ぐさまダグラスの分身が放った怒号によって掻き消された。
「グォォォォォ‼︎」
どうやらまだ、戦いは続くらしい。
ー3ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ブロークンファンタズム‼︎」
ダグラスがそう叫ぶと、彼の周りに黒い霧が現れる。そして一回震えたかと思うと、そこからダグラスソックリの人間が3体現れた。全体的に黒尽くめであったが、その姿はダグラスそのものであった。
「行けっ‼︎」
ダグラスの合図と共に現れた分身がメカタ達を襲う。
「『パワードテリトリー』、『ディフェンステリトリー』!」
再びサークルが広がり、今度は青と赤の色に輝き出す。メカタ持つヘイストテリトリーの派生で、攻撃力防御力を上げるスキルだ。防御、攻撃共に強化された前衛の2人が分身に斬りかかる。
それを視界の端でみたメカタはナイフを構え、分身一体に向かって走り出した。そして分身目掛けて『ラピッドスタック』、高速の突きを繰り出した。
「はぁっ」
スキルによるアシストに身を任せ、分身にナイフを突き刺す。分身に痛覚が無いのか、HPが0になる程の攻撃を受けても痛む振りもせず、分身は光になって消えた。
どうやら分身のHPはそこまで高くないらしい。あんな化け物が三体もいるとか鬼畜過ぎんだろ、とか考えていたメカタからすれば朗報である。取り敢えず、4人も同一人物と戦わずに済んだ事に安堵したメカタは直ぐに自分と前衛2人のステータス確認に移る。
Name:メカタ
HP:3608/5850
Status:行動高速化、攻撃力強化、防御力強化
武器アビリティ:俊敏力+5% (ナイフ)
Name:カイト
HP:5605/7304
Status:行動高速化、攻撃力強化、防御力強化、出血
武器アビリティ:防御力+5% (大剣)
Name:カナタ
HP:4904/7065
Status:行動高速化、攻撃力強化、防御力強化、出血
武器アビリティ:攻撃力+5% (大剣)
どうやら全員、HPはまだ5割以上あるようだ。前衛2人改め、カイトとカナタは攻撃を受けた為か、出血のバッドステータスを発症している。
出血を治療する為の「キュールエイド」を使用しつつ、メカタは次なる戦術を組む。敵は先程倒れた分身を数えず3人。こちらはまだ5割以上のHPを持つ3人。普通に考えればまだメカタ達が優勢に見える。しかし、次の策を練るメカタを前に、ダグラスは驚きの行動にでた。
槍を構え、前に突き出す。しかし、槍はカイトを狙わず、そのカイトと戦う分身目掛けて突かれた。
刹那、破裂する槍先。無数の棘となったゲイ・ボルグは、分身と戦っていたカイトに突き刺さる。弾ける血に裂かれる肉。VRとは思えない程のリアルさを見せながら、棘はカイトのHPを容易く削り取った。
「カイトーーー!」
カイトが光になって消えていく中、メカタの叫びが戦場に響く。HPが5割以上あったにも関わらず、無数の棘はカイトを蹂躙し、HP全損へと追いやった。
「まだまだぁ‼︎」
しかし、ダグラスはメカタに悲しむ時間すら与えない。カイトが死んだのを確認した後、近くに居たカナタ目指して突き進む。
だが、それをメカタが許すはずもなく、ナイフを構えながらスキルを発動した。もう仲間を傷付けさせまいと近いながら、メカタは奥の手を発動する。
『リアクト・ アクト』
地面に亀裂が走る。
唯、それだけ。何も起きなかった。
「なんじゃそりゃぁ!真面目にやりやがれ!」
ダグラスの怒号が響く。それはそうだ。たった今、命の奪い合い (まぁ、本当に死ぬ訳でも無いのだが…) をしていて、何かスキルを使ったかと思いきや、何も起きなかったのだから。戦いを楽しむ彼からすれば屈辱ものの事態である。
だがメカタの顔に変化は無い。まるでダグラスの事など知らん、とでも言いそうな様子だ。そしてその態度が更にダグラスの怒りを加速させる。しかし、ダグラスはその怒りから失念していた。メカタの態度が変わらないという事は、その一見無駄に見えるような手も、確実に勝利への切符へ繋がる事を。そしてその結果は、近い内に実証される事となる。
『マルチプル・スタブ』
メカタが持つナイフが光り、連続した突きが繰り出される。一回の発動で数回のヒットが繰り出されるこの技は、メカタがかなり重宝しているスキルであり、この戦いの勝利の鍵であった。そしてナイフがダグラスに突き刺さった瞬間、地面から針が現れる。
「なぁっ⁈」
ダグラスの驚きを他所に、ナイフは更にダグラスを突いていく。そして突く度に現れる針は、少しづつ、しかし確実に、ダグラスのHPを削っていく。そのスピードでメカタはダグラス合計20回連続でナイフを当てることに成功する。そして地面から突き出た針がダグラスを傷つけた数も20回。そしてその技は、ダグラスを遂に崩れ落とさせた。
少し昔話をしよう。このコネクトオンラインに入ったプレイヤーは、もう1人の自分だった。荒野を走り、バトルをする。「ゲーム」というもう一つの人生で、プレイヤーたちは人間としてのめり込んでいった。
そしてそれが、彼らの目を閉ざしていたのだろう。彼らは、まるでバカの一つ覚えのようにただ斬りあった。スキルという、無限の可能性に目を向けずに。
そしてメカタは例外に入った。他のプレイヤーと違い、「ゲーマー」としてこの世界に参戦したのだ。
思えば、おかしかったのかもしれない。
スキルという可能性をすて、まるでそこの住人の様に殴り合うだけの戦いをする。おしてメカタはゲーマーとしての実力を直ぐに発揮した。PCゲームでも良くやっていた、パーティのHP管理による擬似的な未来予知をも可能にし、更にスキルの補正や倍率なども実験で計算した。そして編み出したのが先程の組み合わせ。『マルチプル・スタブ』とーーーー
ナイフ専用、支援スキル ーリアクト・アクトー
これが、ダグラスを傷つけた先程の出来事のタネである。このスキルは発動後、相手にダメージを与える度、そのダメージの10%を追加ダメージとして与えるスキルである。しかも恐ろしいのが、二回目からはその10%にx1.1倍の補正が掛かるところにある。
1.1倍と侮るなかれ。例えば、『マルチプル・スタブ』の一発一発が100の威力を持つとする。
一発目は100x1.1=110
二発目は100x(1.1x1.1)=121
三発目は100x(1.1x1.1x1.1)=133
ここまで行けばもうお分かりだろう。一発毎の威力が上がり、その合計ダメージが更に跳ね上がるのである。因みにこの計算の場合、メカタが当てた回数である20回目のダメージがどうなるかと言うと…
100x(1.1の20乗)=100x6.727=672.749
600以上のダメージを叩き出すのだ。しかも、20回もダメージを与えた場合、その合計ダメージは計り知れない。今回メカタが使った『マルチプル・スタブ』の一発毎の威力は少ないものの、『リアクト・アクト』によってそのダメージは計り知れないほどの威力を持つ、文字どおり化け物と化すのだ。
そんなダメージを食らったダグラスは未だ倒れたまま。メカタは既にスキルのよる疲労で満身創痍。残ったカナタからすれば、もう戦いたく無い、というのが本心である。
そんなカナタの想いをぶち壊すように、理不尽は立ち上がった。
「ハァ、ハァ、ハァ」
息は上がり、あちこちが出血している。度重なる突きによってバッドステータス「出血」を発症しているようだが、まだHPはあるようだ。
「危なかったじゃねぇか、もう少しでHP全損する所だったぜ」
どうやらメカタの一撃は確かに届いたようだ。ただ、足りなかっただけで。カナタは絶望する。もう勝てないと思わせる。メカタが倒れるのに、そう時間はかからなかった。
興奮からか、緊張からかは分からない。しかしメカタは倒れる。まるで燃え尽きたボクシング選手のように、膝から崩れ落ちる。そんなメカタは、誰かが支える事で落ちなかった。
「よく頑張った。あとは任せろ」
不意に聞こえる、暖かな声。安心感を与えるその声にメカタは「お願いします」とだけ呟くと、音を立てて眠り始めた。
メカタを支えていた男は、メカタをそっと地面に下ろし、カナタにメカタを運ぶように伝える。
そしてメカタを担ぐカナタが消えた後の戦場には、満身創痍のダグラスと、戦場に乱入した男ーーーー
「さぁ、反撃開始だ‼︎ 野郎ども‼︎」
タケが今、戦場に降り立った




