出逢う2人
ー1ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
此処は日本、名古屋県のとある街。
朝日がやっと差し掛かった頃、学校のクラスに2人の女子が居た。
茶髪の女の子が、黒髪を伸ばした可愛いより、綺麗という言葉が先に出そうな少女ーーー切崎静香に話し掛ける。
「シズ。今日何か良いことあったの?」
「いや、別にぃ」
「嘘だぁ、顔見てみなよ。ニマァってしてるよ。」
「何その表現」
そういって切崎静香改め、シズは自分の顔を触る。自分の口の端が少し釣りあがっていることから、友達が言った事は確かなのだろう。
そして、シズが楽しみしているのも又、事実である。何故ならーーーー
「よぉ、シズ。」
「おっはよー。シズ」
そういって一組の男女が入ってくる。
男は金髪で欠伸をし、女の方はその茶髪を揺らしながら近づいて行く。
「おはよ、タケ、サヤ」
シズがそう返す中、あだ名で呼ばれた2人はそのままシズの近くにある椅子に座る。
そして4人が喋る中、ある話題が出た。
言わずもがな、コネクトオンラインの事であった。
曰く、ゲームとは思えないグラフィック
曰く、ゲームどころでは無い
曰く、別世界に迷い込んだみたい
などなど、期待を更に膨らませる感想が次々とネットに書き込まれているのを、タケ達は何度か見ている。
そんなコネクトオンラインだが、人気なだけあって手に入れるのは困難だった。
そしてシズ、タケ、サヤの3人がゲームを手に入れたのが配信して半年後の今日だと言えば、その人気が分かるだろう。
故に、その日のシズのテンションはダダ上がりだった。ゲームとマシンは既に家に送ってある為、シズ達はさっさと授業が終わらないかなぁと考えながら、ソワソワと身体を揺らすのだった。
そして同日夕方、遂に授業が終わった。
直ぐさまタケ達と落ち合う時間を決め、シズは小走りで家に帰る。
シズが通る道路には、運転手の居ない自動車が走り、子供は電気スケートで小道を走っている。老人が見れば、時代の移り変わりを確認させる様な風景だ。
歩き始めて数分後、一際大きい、しかし度を超えない豪邸とも取れない家に辿りつく
自動認証の門を通り、親に顔も見せず自室へ急ぐ。
此処最近、親とは話していない。会えば必ず、「切崎家らしい振る舞いをしなさい」と口うるさく言われている為だ。
故に、シズは親を拒絶する。親子の間には、明確な壁が出来ている。
部屋に入ったシズはベッドの上に黒い箱が置かれているのを見た。
直ぐさまそれが何なのかが分かり、破る様に封を開ける。そこから現れたのはーーー
「これが……コンヴェルト‼︎」
ヘルメットと言った方が正しいのか、マスクと言った方が正しいのか、黒いそれは頭をすっぽり隠す様に出来ており、更に手と足に装着する機械がある。
それら全てにケーブルが繋がっており、インターネットに繋ぐ為だと即座に分かった。
これが次世代型VRマシン、コンヴェルトだ。ヘルメットになっているのは脳に直接情報を届ける為で、マスクと手足の付属品は五感を感じさせる為である。
流石に夕方だからと使う気はしなかったし、タケ達と落ち合うのも次の日だ。
「むー、しょうがない。明日にしますか」
コンヴェルトを大事にしまいながら、土曜日である明日を楽しみにするのだった。
場所は変わってコネクトオンライン内、街の中を1人の不審者が歩いていた。
質が良いとは言えない布で出来たシャツに、同じく質の高くない皮で出来たパンツを着た男が、フラフラとした足取りで道を歩いている。これだけだと不審者に見えないが………………
その表情が理由だった。
有り体に言えば、全てに絶望したかの様な顔だった。
顔は涙でグチャグチャで、良く聞き取れない音量でブツブツと呟いているのも余計にそうさせる理由の一つだろう。
と言うか、あの少年だ。
あの狼似の獣に噛まれて傷付かない事を確認した後、痛くないのを良いことに引きずりながらなんとかして帰って来たのだが、少年に残ったのはどうしようもない気持ちと絶望だった。
自分の記憶が無く、
右も左も分からない世界に置いてかれ、
死んで楽になる事すらも許されない。
ある理論の中に、医療や科学が進んでやる事がなくなった場合、人は自ら死んでしまうと言うものがある。
なんでも人間は欲を欲する為、それら全てが満たされた場合、凄まじい虚無感に襲われ生きる気力が無くなるのだと言う。
想像してみてほしい。例えば、生きる為に必要な事を全てやってくれるロボットが居たとしよう。
仕事も、料理も、全てだ。生きる気力が湧くと思うだろうか?
この理論ではNOと答えている。
そもそも人は生きる為に働き、楽する為に技術を日々進化させていく。
前述のロボットの様に、自分が何もしなくても生きていける世界になったら、それはそれで生きづらい世界だと思わないか?
ーーーーーー生きる意味があると思うか?
話を戻そう。
そして少年は、死ぬ事すら許されなかった
しかもお金を持っていない為、宿で寝泊まりする事も出来ない。
少年が行き着いた先は、人目に付かない建物と建物の間の小道だった。何もないが、風位は凌げるだろう。
少年はその隅で蹲る様に体を丸める。
こうやって少年は、コネクトオンラインの世界での初めての夜を過ごしたのだった。
ー2ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日の朝8時、両親が仕事で出掛けたのを確認したシズは一目散に部屋に駆け込む。
仕事の都合上から今日1日は家に不在なのが確定している為、絶好のゲーム日和と言える。タケやサヤと落ち合うのも朝9時と決めているが、
「一足先にゲームを体験しても良いよね?」
といシズのヤンチャで抜け駆けする事にしたのである。
だが、この行動が彼女に運命の出会いを果たさせるとは知る由も、思ってもいなかったのだった。
ヘルメットを被り
マスクを付け
手足に装着
コードをコネクトイオンに繋ぎ
電源をONにする。
そしてシズの意識は眩い光に包まれた。
光が収まると、シズは暗闇の中に居た。
光も何も無い、虚無感すら覚えそうな空間が広がっている。立っている感覚も無い為、上も下も認識出来ない。だが、その無は人間味の無い無機質で機械的な声で終わりを告げた。
ーーーコネクトイオンとの接続を確認
コネクトイオンの回線に繋ぎ、地球上の軌道を回る複数の衛星を介して大量のデータをダウンロード、コンヴェルトによってデータを映像化。
偽りの、しかしほぼ完璧に作られた世界を脳に伝達。
ーー新規アカウントを確認、設定に移ります
意識は現実から離れ、仮想世界へ浮上する
ピピッと音を立てながら、足元と思われる所から大量の0と1が現れた。それらは時間が経つごとに数を増やしていき、同時に風景を形作る事で数を減らしていく。
シズはこの時、コンピュータの仕組みを目の前で見ている。
コンピュータとは、基本的に0と1の数字で動くものだ。この二つの数字の組み合わせが、全てを形作っているのだ。
その証拠に、現れた二種類の数字はそれぞれが組み合わさり、電線を作っている。
たった2種類の数字が、データ上とはいえ無限の世界を作り出せるのだ。
最新技術の凄さにシズが見惚れていると、風景が一変する。
空間は黒くなく、青を基調とした電子版の様な風景になっている。
だが、1番特徴的なのは周りに浮かぶ多種多様な武器だろう。剣や槍を始め、弓や鉄球が、更には銃までもが無造作に、しかしシズの周りを囲む様に浮いている。
そしてシズの目の前には一つのウィンドウが
「使用する武器を掴んでください」
つまり、こうやって浮いている中から一つを選べということなのだろう。シズは武器を物色し始めた。
剣、槍、槌、盾、弓、銃、鎌、刀、
どれも今ひとつこない。
そんな時だった。それを見つけたのは
槍に似て長く、しかし刃は曲刀の様に
その刃は鋭く、本当に人を斬ってしまいかけない様な雰囲気を晒し出している。
間違いない。実家の道場で見たことしかないが、それは確かに自分が慣れ親しんだ薙刀だった。
手を伸ばす。
手が触れる。
そこには確かに薙刀を掴んだ感触がある。
そこにはあるはず無いのに。
頭の中で分かっていても認識してしまう。
"そこには確かに、薙刀があるのだと"
ある筈もない感触を改めて感じた瞬間、またしてもあの無機質な声が聞こえてきた。
"第2の人生を歩む君達に、幸せのあらん事を"
第2の人生だなんて大袈裟なと、しかし確かにその通りだと思いながら、シズは再び移り変わり行く景色を眺め、改めてこのゲームを買って良かったと思うのだった。
その日の朝、時を同じくして小道の隅で寝ていた少年が目を覚ました。前日で思いっきり泣いたからだろうか、昨日程の絶望は見られない。
「とにかく、今日は誰かと話すか」
その日の日程を決めながら、少年は体を起こす。自分で解決出来ないなら、誰かの力を借りれば良かったのだ。
因みに、ゲームで良くある問い合わせはしない。その策を思いついた瞬間、頭の名から否定の意思が感じられるのだ。
まるで見えない何かに脅える様な感覚に、少年は大人しく従う事にした。こういう時は直感に任せた方が良いのだ。
今の事態がそう簡単に片付くとは思っていない少年だったが、直ぐにその救いがやってくる事は知る由も無かったのだった。
ー3ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
移り変わり行く景色が収まった時には、シズは石作りの広場の中に居た。良く見れば、周りにもいきなり現れた人が何人かいる。待ち合わせをしていた者もいる様だ。
どうやらここがスタート地点らしい。
「さて、行きますか」
こうして、シズは一足早くコネクトオンラインの中に入ったのだった。
ーー起源の街 イニシアーー
広場を出たシズを待ち構えていたのは、膨大な数の人間とファンタジーらしい風景だった。
古めかしい石作りのそれは、まるで中世ヨーロッパのよう。コネクトイオンを介して送られるデータは、ラグる事も無く全ての情報をリアルタイムで送られる為、コードを外されでもしない限りはこの仮想世界は揺るがないのだ。
それはさて置き、シズは街の見物に歩き出す。見渡せばファンタジー風の装備を着た人が何人か居て、街人の格好をしたNPCがまるで生きているかの様に暮らしている。
改めてVRの凄さに驚いていると、シズの目に奇妙な者が映った。
格好は街人と同じシャツとズボンだが、その表情から溢れる絶望が、NPCとは違う事を明らかに示していた。背丈からして自分と同じ17歳だろうか?何故あんな表情なのだろうか?
それを見たシズは少年に向かって歩き出していた。
理由は分からない。
少年だから?
明らかに不審者だから?
いや違うだろう。あの今にも泣いてしまいそうな表情を見て、動かない自分が居るだろうか⁈
「どうしたの?君」
だから、少女は少年に声を掛ける。
「俺の話……聞いてくれるのか?」
声を掛けられた少年はゆっくりと顔を上げた。その顔は涙で汚れている訳では無いものの、まるで心底嬉しそうな顔をしている。
「そんな泣きそうな顔をされたら、放っておけないでしょ」
つまりは、そういう事だ。
ただ単に、泣きそうな顔をする少年を見ていられなかっただけである。
「そっか……あんたはみんなとは違うんだな……」
「皆んなって?」
「実は………」
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そして話は数十分前に遡る。
「誰かと話そう」と意気込んで道に出たは良いものの、誰も少年と話そうとしなかったのだ。
まぁ、それは仕方がないとも言える。
NPCと同じ格好で急に言い寄られても不気味としか言えないだろう。
だがまだ話さないだけ良かった。
何人かは、「イベントか⁈」と期待しながら少年の話を聞いていたのだが、聞いていく内に、
「不気味な奴」
と言い残して離れていった者よりかは、まだマシな態度だろう。しかし、今まで少年が話してきた者全員がこの2つの内どちらかの対応しか取らなかったのだ。
逆に、向こうから話しかけてきたシズがおかしい方である。それをシズは「見ていられないから」という理由で話しかけてきたのだ。少年が驚くのも無理は無いだろう。
そして、少年は声を掛けられた
「どうしたの?君」
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こうして話は戻る。
自分の事も踏まえて全て話した少年にシズは、
「じゃあ、私と来てよ」
そんな提案を持ち掛けたのだった。
ー4ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここイニシアの街は基本、シンプルな街である。
何がシンプルなのかと言うと、ショップや武器店の配置などが、だ。
しかしやはりどこの街でもある通り、イニシアの街には隠れた名店?が存在する。
何故そんな事を話しているのかと言うと…
「ね、ねぇ、君。本当に、本当〜にこの道で合ってるの?」
「大丈夫だって。ここを過ぎれば目当ての店がある…………………筈」
「ねぇ……その変な間は何?」
「大丈夫だって……………多分」
「ちょっと〜‼︎」
この通り、街の裏道や隠れた小道を進んでいるからだ。
シズから「一緒に来ないか」と提案をされた少年。シズから提示されたのは、
「君の事が分かるまで面倒見てあげる。その代わり、君が知ってるこの街の情報を教えてよ」
という物だった。
右も左も分からない自分を引っ張ってくれ、しかも対価は自分が知っている大したこと無い情報と言う破格の条件に、少年は直ぐさま承諾したのだ。
そしてまずはショップや武器店の場所からと案内し始めたのだが………
「なぁ、シズ」
「なに?」
「お金……持ってんの?」
ピキッ
その時、少年は確かに時が凍った音がしたと言う
「………そもそも、お金ってどうやって確認するの?」
「そこからかよぉぉぉぉぉぉ⁈」
…………少年のキャラがブレブレになっている!
ゴフン、まぁ自分の事を何も覚えていないので仕方ないと言えるのだが。
「まぁ、"メニュー"って言えば良い」
気をとりなおして、まずはメニューから教える少年。シズが支持された様に「メニュー」と言うと……
「わ、何これ。これがメニュー?」
どうやら無事にメニューを出せたらしい。
そして何とかしてメニューを可視化させた結果、シズ達は遂に自分のステータスを確認したのだった。
Name:シズ
HP:150/150
Status:正常
武器アビリティ:無し
以上が、現在のシズの状況である。
装備は初期装備の軽装で、ファンタジー感溢れる格好となっている。
因みに、このコネクトオンラインはレベル制では無い。自分の動きを認識し、攻撃方法一つ一つが熟練度などの見えない数値に見守られ、それらの数値が水準を満たせばスキルが発現すると言うものだ。
例えば、縦斬りを何度も行えば「縦斬り」の熟練度が上がり、縦に斬る様なスキルを覚えるのである。逆に、実際にカウンターを行った事が無ければ、カウンター系のスキルは覚えれないという事でもある。
暗殺者の様な戦い方をすれば暗殺系のスキルを覚え、戦いを支援ばかりしていれば支援系スキルしか覚えない様に、このゲームではスキルは自分のプレイスタイルに影響される物であり、プレイヤーの数だけスキルの組み合わせがあるのである。
故に、始めたばかりのシズにスキルは付かない。戦ってすらいないのだから
それはさて置き、
肝心のお金はと言うと……
Gold:100g
少年は凍った。
それはもう、本当に凍ってしまったんじゃ無いかと錯覚するくらい、自然に。
それは無理も無い。
なんせ1番安い武器でも500gはする事を少年は知っているからだ。
つまり、これっぽっちも買えないのである
「ーーーーーー、ーーーーー‼︎」
少年が声にならない叫びを上げる中、一組の男女が接触した。
「よ、シズ。抜け駆けなんてズルイなぁ」
「ねぇ、シズ。誰その人」
シズの友達のタケとサヤとの再会であった
タケは余り気にした様子では無いが、サヤは少年が誰か気になるらしい。
何か言わなければ、とオロオロするシズを尻目に、少年は怪しまれない様にと、
「初めまして、かな。
ナナシって言うんだ。宜しく」
そう逃げるのだった。




