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VRのその先に  作者: 気まぐれ
第3章 戦争編
18/70

もう一人の物語

ー1ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

天元山の丁度真東に存在する山の山頂に、3人グループがいる。顔が似ている所から、兄弟らしい。

周りには誰もおらず、どうやら仲間内では一番天元山の近くに居るらしい


「どうやら俺たちが一番みたいだぜ、兄ちゃん」


緑と茶色で統一された軽装を見に纏う、グループの中でも一際背の高い少年が、一番背の低い男に話しかける。


「みたいだな。よし、このまま天元山を目指すぞ」


それに答え、天元山を目指すように言うのはこの3人兄弟の長男、レンだ。

………お気付きだろうか。

実は彼、3人兄弟の長男のくせに、一番背が低いのである。

大学に行き始めた頃からだろうか、いつの間にか弟二人に抜かれていたのだ。しかも、力比べでも弟に負けると来た。


「弟に抜かれちゃったじゃん‼︎」


笑いながらそんな事を親友から言われた時の彼の落ち込み様は言うまでも無い。リアルに四つん這いになり、「なんでだ…」と呟いたとだけ言っておこう。

ついでに泣いた後、ヤケ食いで体重が上がり、さらなる悩みの種となったことも追記しておく。


そんなレイだが、弟達と比べると一つだけ、知識で勝る事があった。


小説や漫画、その類である。彼は俗に言う、オタクとやらに近かった。しかし、別に美少女フィギュアを飾っている訳でなければ、「2次元萌え〜」とか言う変態でも無い。ただ単に、漫画好きな大学生なのだ。そう、ただそれだけである。中学時代の厨二がかった黒歴史さえ無ければの話だが…


まぁ、それはともかく。彼は剣道やら空手やらを学んでいない代わりに、小説などで得た知識を利用した。タケと似た様なものである。

現実(リアル)ではマネ出来なかった事を、ステータスという人知を超えた恩恵で可能にしたのだ。その成果は、プレイヤー相手に無傷で勝ったという事実を持って推すべし。


「リアルでもこうであればねぇ〜」

「無理そうだけど」

これはレンがゲーム内で弟であるケルンとサイルにほぼ無傷で勝った時、その弟達に言われたセリフである。因みに、上から順に、次男のケルンと末っ子のサイルだ。


そんな彼らだが、管理者による戦争宣言は波紋を呼んだ。お陰で彼らの学校ではその話題で持ちきりだった程である。

純粋に楽しみたい子供達は参加せず、上級生達は参加する。二つに分かれたクラスの中、レン達は少し迷った後、参加を決意したのだ。


理由は複数。ゲームを楽しみたいのと、戦争に疑問を抱いた事による。

戦争について聞いた後のレンの最初の疑問は、「なぜ領土に分けたのだろうか?」だった。

元々、プレイヤー同士で「繋がり」を作るのならば、領土間の繋がりを自由にするべきだ。いや、そもそもプレイヤーを差別する「領土」自体、無い方が良かったのではないか? そんな疑問が浮かんだのである。

そしてレンは、戦争に参加する事で答えを得れないかと参加したのだ。そして、眼帯を持つ伝説の傭兵の如き動きで、弟達と共に天元山のふもとまで向かったのだ。


そんな彼らは今、山を登っている。

不意に襲ってくる崖や、一歩踏み間違えば命は無い様な現実の山と違い、此処は作られた世界だ。0と1で構成された山は、リアル程の危険性を持ち合わせず、彼らの登山を容易にしていた。


しかし此処は戦場。

急な角度の無い山道を走り抜ける彼らを、一つの人影が襲いかかる。


その人物は槍を持っていた。木製の、特別な装飾も持たない、ただの木槍にしか見えないそれ(・・)を、彼はまるで槍投げの選手の様に構える。その瞬間、まるで投げやすくする為に槍が反応したかの様に、槍を持つ部分が捻れ、投げやすい形になった。


「射ぬけ、グングニル」

そう呟き、投げる。

手首のスナップと、全身を使った運動により、槍は凄まじいスピードで放たれる。

道中、邪魔してくる木があったが、それ毎突き破り、槍は定められた相手へと一直線で跳んでいく。


だが相手が走っている事で狙いが外れたのか、槍が向かう先は数秒前に彼らが通った後の地面だった。

しかし、槍を投げたプレイヤーの顔は歪まない。それどころか、逆に歓喜で口の端を吊り上げていた。


そして槍が地面に近づき、そのまま突き刺さ………………らなかった。


グィン

そんな擬音が似合う程急な方向転換を繰り出し、一直線にサイルの胸、詳しく言うと丁度心臓がある左胸目掛けて背後から狙ったのだ。


しかも、槍を投げた為に音がせず、レン達は気付く筈もなくーーーーー


「ガッ」

槍はサイルの心臓を背後から突き破った。

サイルは痛みのフィードバックにより苦痛に顔を歪ませるが、心臓への一撃はクリティカル補正が掛かっていたのか、直ぐに力尽き、倒れた。


「な………」

「オイオイ………」

HP全損による死でサイルの身体が光となって消えていく中、レン達から驚きの声が漏れる。


そしてサイルに突き刺さった事で動きを止めた槍は、更にレン達を驚かせる動きに出た。


ヒュンッ

風切り音を鳴らしながら、一直線で跳んでいったのである。そして少し跳んで、サイルに突き刺さるまでに近付いていた男の手の中に収まった。


「後、二人」

必殺、そして必命の槍を持つ狩人が、その目をギランと輝かせた。


ー2ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「後二人…」

男はそう呟きながら、舌舐めずりする。ズリュッ、そんな音がその場を支配した。そんな中、最初に動いたのはレンだった。


「ケルン、先に行け」

「でもお前、あれ強いぞ」


レンの先に行けという提案に、ケルンは質問で返す。「あいつに勝てるのか」ケルンの眼はそう語っていた。


「俺が強いの知ってんだろ?」

「ゲームの中だけな」


茶々を入れつつも、どうやら了承した様だ。振り返り、途中だった坂を再び登り始める。


「死ぬなよ」


そう言い残してケルンは去った。残ったのはレンと狩人のみ。


「あったりめーだ」


ここに、未来に名を残す二人目の物語の序曲(プレリュード)が幕を切った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ケルンが十分に離れたのを確認し、レンは自分の装備である短刀を取りだし構える。

レンの戦法は基本、短刀による攻撃にナイフの奇襲を合わせた、斥候の様な戦い方をする。

そんな彼は攻めない。いや、攻められない。

レン達に気付かせず、静かに、そして一撃でサイルを殺したという事実を前に、迂闊に手を出せないのだ。


「フッ」

レンから仕掛けないのを確認したからなのか、男は再び投槍の構えに入る。そしてーーーー


「ハッ‼︎」

声を出しながら投げた。真上に。

端から見れば馬鹿馬鹿しい事をした男を前に、レンは気が抜けた顔をする。しかし、その顔は一転、驚愕に染められる事となった。


「射ぬけ」

男の言葉と同時に、真上に飛んでいった筈の槍がレン向かって一直線で跳んできたからだ。直ぐに数歩後ろに下がるも……


「ハァ⁈曲がっただと⁈」

地面に突き刺さるスレスレで急な方向転換を決め、槍は未だレンを目指し飛び続ける。


「チィ‼︎」

流石に不味いと思ったのか、錯乱したかの様にクナイ上空へと放り投げるレン。

そしてレン目掛けて飛来した槍は


投入監獄(スロープリズン)‼︎」

レンの言葉と共に飛来した数本のクナイによって地面に叩きつけられた。


レンが使ったスキルは二つ。

投げたナイフ (又はクナイ)を一定時間空中に留まらせる補助スキル 浮遊投入(フロートスロー)と、

浮遊投入(フロートスロー)で浮いているナイフを飛ばし、敵の一部分を固定する束縛スキル 投入監獄(スロープリズン)だ。


この様に、レンはクナイを使った奇襲を織り交ぜた変則的な戦い方を好んで使っている。今回の変わった止め方に、男の顔がホウ、と歪んだ。


「お前、名前は」

男からの突然の質問。戸惑いながらも、レンはそれに名前だけを言いながら、短刀で切り掛かる。男は槍をもってそれに返した。


ガキィィィィンと音を鳴らしながら、ぶつかり合う武器。単純な力比べになった所で、レンは疑問を抱く。


男の力が弱いのだ。あれだけのパワーを持つ槍を投げられるのだから力も強いだろう……そう踏んでいた為、あっけなく感じたのだ。今だって、もう少し強く行けば力で押し切れそうな程である。

そして連想されるのは武器の性能。あの急な曲がりは通常の武器では起こせない為、レンは直ぐに特殊な武器を持っていると確信する。


「お前………それ、グングニルか?」

そして、その槍の名前を当てた。


グングニル。

北欧神話にて、オーディンが使ったとされる神槍。世界樹ユグドラシルの枝から作られたとされるそれは、投げれば最後、敵を穿つまで飛ぶ必中の槍。そして必ず使い手の元に戻るとされているものだ。


当たるまで飛ぶという特徴、そして木製であるという部分から、レンはその正体を見破ったのである。


「ハ、ハハ、面白れぇ!

こいつの名前を当てるたぁな!

気に入った!俺の名前を教えてやるよ。カイルだ。

さぁ、やろうぜ!

お前みたいな相手を待っていた‼︎」


名前を当てられたのが面白かったのか、カイルと名乗った少年は笑う。

それはまるで、探し求めていた遊び相手をようやく見つけたみたいで、

それはまるで、運命の相手を見つけた様な、そんな嬉しそうな表情だった。


カイルは数歩後ろに逃げ、グングニルを真横に投げる。しかし槍は、まるで変化球の様に美しいカーブを描きながら、レンを狙った。


付与投入(アタッチメントスロー)!」

そして紡がれるレンのスキル。トリガーは既に引かれ、放たれたクナイから鎖が現れる。


付与投入(アタッチメントスロー) は投入用の武器に何かしら道具を付与しながら投入する、文字通りのスキルである。

今回付与されたのは鎖。レンは一方のクナイを持ち、まるで鞭の様に鎖を操る。


ガキィン ガキィィン ギャァン


槍と鎖が何度もぶつかり合う。グングニルは塞がれる度に曲がってはレンを狙い、レンは鎖で槍の進路を塞ぐ。

何重にも鎖を巻き、槍に貫通されるのを防ぎながら、レンはその場を凌いでいた。


しかしーーーー


(ヤベェな)

レンは内心焦っていた。今は防げている。しかし、それが永遠に続くわけじゃない。いつかは貫通され、自分を貫くだろう。

そんな焦りと共に、レンは一心不乱に鎖を振るう。


何分続いたのだろうか。永遠に続くかと思われたその攻防は、あろう事か仕掛けた本人によって止まったのだ。


カイルが手を掲げると、グングニルはまるで忠犬の様に手へと飛び、その中に収まった。


「悪いが、俺も急いでいる。

ここで終わらせよう。

喰らえ、音速の壁すら越えるこの一撃を!」


そう言い、今度は別の構えをするカイル。

今までの槍投げの選手の様な構えから一転、今度は野球選手のピッチャーの構えをする。


不可視の(インビジット) グングニル」


放たれた槍は空を目指し、その姿を消した。


ー3ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

不可視の(インビジット)グングニルによって、空の彼方へと飛んだグングニルは姿を消した。


確実に射抜く正確無比の槍が、今度は透明のまま襲って来るという、悪夢を再現したかの様なスキルを前に、レンはーー


「………………」

無言で短刀を構え、ナイフを数本宙に浮かせるだけで何もしなかった。

それにカイルはホウ、と好奇心を疼かせた。見えない武器を相手に立ち止まる事は即死に繋がる。レンがそれを分からない筈が無い。故に、何をするのか興味が沸いたのだ。


ーー今度は何を見せてくれる?

ーー何で俺を楽しませてくれる?


今のカイルの頭の中はそれで一杯だった。偶然グングニルを見つけてからというものの、レンを相手にするまでグングニルを相手に数分も持つ相手に会えなかったのだ。そして、体感時間にして10分も経っていないが、レンは真っ向から対抗したのである。

ちょっとしか戦っていないじゃ無いかと言うなかれ。創作物の小説などでは戦いは長いものの、実際の戦場ではそうそう長引かないものだ。


その日の体調

装備のコンディション

政治的な話


それら全てが絡み合い、戦いの勝ち負けは意外と早く着いたりする。そうなると、一瞬で終わる戦いというものは現実なのだ。

そして、人外の力がここに関わっているのなら話は更に早くなる。そんな中、レンは不可視の一撃を相手に何かをするつもりなのだ。

これで好奇心が沸かない訳が無い‼︎


そんなカイルはレンをじっと見つめる。

その視線の前には、目を閉じたまま突っ立っているレンがいる。

胸の前に逆手で構えた短刀と、何時の間に抜いたのだろうか、腰辺りにもう一本構え、二刀流になっていた。ナイフも6本、宙に浮かせている。


カイルは少し考えた後、|敢えて(・

・・) レンにグングニルが向かうタイミングを教えた。


「射ぬけ、グングニル」

既に隠す気も無く、グングニルに飛ぶよう指示する。たとえタイミングを知られようと、何処から来るのか分からなければ意味が無い。その考えの上で、わざわざ声に出さなくてもいい合図を出した。


そして反応するグングニル。

上空数百mを飛んでいたグングニルは、方向転換でレン目掛けて加速した。

自由落下と、投げられた際に生じたスピードを加え、グングニルはスピードを上げていく。

そして10秒と経たずにレンの上空数mやってくる。角度的に、大体45度で後ろ上から心臓を狙う‼︎

心臓へと後数センチ言った所でーーー


ガキィィィィン


音が鳴った。その出処はレンの背中、ちょうど心臓に近い場所。レンが浮かばせたナイフが空中で震えていた。

ナイフがある場所には何も無い。しかし、現在も進行形でギチギチと金属音を鳴らすナイフが、そこに見えない"何か"があると教えている。それはつまりーーーー


「止めた……か。ハハッ」


そういう事だ。

事実、カイルの目に見えているグングニルは、レンのスキルに寄って動かされたナイフに止められている。幾つものナイフが盾になり、グングニルの進撃を防いでいるのだ。


「戻れ‼︎」

カイルは笑うと、グングニルを戻そうと手を掲げる。しかし、ようやく攻撃のチャンスを手に入れたレンがそれを許す筈も無く、


発射投入(ショットスロー)‼︎」

グングニルが離れた事でフリーになっていたナイフを、今度は弾丸の様にカイルの手に突き刺した。


思わずグッ、と唸るカイル。そしてレンは丸腰となったカイルに近づき、止めのスキルを発動した。


「流星連撃‼︎」

スキルの光を帯びた二刀の短刀が、文字通り流星を描きながらカイルを切り刻んでいく。グングニルを投げやすくする為に軽装だった為、カイルのHPは容易く削られる。


「何処かで会おうぜ……レン

俺も日本出身だ」

流星に切り刻まれたカイルは、自分がレンと同郷だと教えると同時に、光となって消えていった。


「あぁ、また会おう。俺も、お前に会ってみたくなったよ」

敗者が居なくなり、風が吹く中、レンの呟きが響く。


「さて、行くか」

カイルを倒したレンは、先に行ったケルンを探しに足を進めるのだった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

オマケ

レン「それ…グングニルか!」

カイル「そうだ、投げれば最後、確実に相手を射抜く必中の槍だ‼︎ 狙った女のハートは絶対射抜く俺の様にな‼︎」


……………………………………ピシッ (場が凍りついた音)


レン「お前それ…上手いこと言ったつもりか? プクク (笑いが堪えられない音)」

カイル「よし、殺してやるからな…… カーァッ (顔真っ赤)」

レン「ぎゃっはっはっは‼︎カッコ付けたつもりかよ‼︎ あーヤベェ、笑いが止まらん…‼︎お前、モテないだろ‼︎」

カイル「ブチッ ………殺ぉす‼︎殺してやるぅぅぅう‼︎」


カイルの絶叫が山に響く。

そしてこの後、モテない者同士何かを感じたのか、意気投合して親友になるのだが………それはまた別のお話。

どうでしたでしょうか?

タイトルにも書いている通り、今回はこの物語の第二の主人公とも言えるレンの物語と、後一人の話を戦争編クライマックスの前に書こうと思います。

それではごきげんよう。次回の更新は………なんとか今週中に載せます……ハイ


祝!総合PV3,000突破‼︎

いや〜3,000ですか……嬉しいですね。

ユニークPVも1,000突破致しました。ありがとうございます。


それではこれからも、気まぐれとこの小説を宜しくお願いします

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