開戦
遅れました、すいません
赤と青の領土の境目には広い大草原がある。
"リベルタ平原"と呼ばれる其処は、山も木も無く、只々草原が広がるだけで有名なフィールドだ。
他のフィールドの様に奇襲される恐れが無く、強力なエネミーが出現する訳でも無い。
領土間の境目にある為半分しか使用できないが、其処は初心者の腕試しには持ってこいの場所である。
普通なら初心者がたむろするリベルタ平原だが、土曜日の今日だけは違かった。
領土間のバリアーを挟んで二つの大軍が立っていたのだ。
それぞれの装備を持ち、興奮の為か話が絶えない赤の領土所属のプレイヤー達と、青で統一された装備を見に纏い、何処ぞの軍の様に整列している青の領土所属プレイヤー。
ガヤガヤと声が絶えない赤の領土側と何も言わず、一言も喋らず動かない青の領土側。
正反対と言える異質な雰囲気。
時刻は日本時間の午前8時半。
管理者が設定した、戦争開始時刻は日本時間の午前9時。
残された30分を、お互いはそれぞれのやり方で過ごす。
その時間は、刻一刻と迫っていた。
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話は1日前に遡る
タケ達はタケルの家で鍛錬に挑んでいた。
ナナシとの戦いの後でタケルにも事情を話した結果、なんと謝られたのだ。
「普通はそんな話は信じられないが、あの戦いで彼が異常だという事は分かった。君達を信じよう。そして済まなかった、君の仲間にあんな事をして」
以上が説明を受けた後のタケルの第一声である。
やはりあの戦闘で他のプレイヤーに見られない違和感があったのか、アッサリと信じた。
そしてその償いをしたいと、自らが所有する建物の一つを貸したのだ。
かくして戦争までの住まいを手に入れ、更に稽古までつけてもらう事になったタケ達だが…………
「このスキルの余剰モーションは何かな⁈」
「大体どれ位のタイミングで繋げれば⁈」
「弓スキルでも出来るかな⁈」
「教えて‼︎ タケ先生‼︎」
「知るかァァァァァァァァァァァァ‼︎」
教わるどころか、スキル連結を見せてから教える側になっていたタケ。因みに先程タケに聞いていたのは上から順に、
ヤス (タケルの側近)
タケル
サヤ
である。稽古をつけると言った本人まで参加してしまった上に、あの三年○組の先生ネタをするという惨事を前に、タケは全力のツッコミをするのだった。
そんな騒がしい声を聞きながら、シズはナナシが眠るベッドの横に座っていた。
あれからナナシに変化は無い。
身体の火傷も消える気配は無いし、これ以上悪化する気配も無い。ハッキリ言って、生きているのか死んでいるのかすらも分からずじまいだ。
「ナナシ……」
シズが話し掛けるが、ナナシに変化は無い。タケが教える側に回った時にさり気なく逃げたものの、シズがナナシにしてあげれる事は何もなかった。
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その日の夕方、タケルは全員を集めて会議を開いた。内容はーーーーー
「それでは、明日の戦争1日目のミーティングを行う」
そう、戦争は遂に翌日まで迫っているのだ。細かい調整を行いに、会議を開いたのである。
「取り敢えず、初日は赤の領土と繋がっている青と黄の領土対策だ。
先ずは領土の境目に配置して、必要な援軍を送る。連絡係は明日の朝、ログイン出来るなら?」
「「「了解っす!明日の朝一番にログインしましょう!」」」
タケルの問いに連絡係のサル、トリ、ネズミが返事をする。彼らは三つ子の連絡係だ。
「よし、それじゃあ明日は直ぐに何人がログインしたか確認する‼︎
みんな、これは戦争だ。躊躇していたら殺される!良いな‼︎」
「「「「「「はっ‼︎」」」」」」」
タケルに全員が答える。
初戦は明日、プレイヤー達は英気を養いにログアウトしていくのだった
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そして迎えた翌日
赤の領土に、日本人を中心に一万人が集う。
4000人を各領土の境目に用意し、残った2千人の精鋭が首都ハナに待機。
準備は万全。皆がその時を待つ中、遂に時計が9時を指す。
カチリ、
「突撃ぃぃィィィィ‼︎」
誰が叫んだのだろう
しかし誰もそんな事は気にしなかった
戦争が始まった事実が彼らに力を与える。
敵を殺せ
全てを奪え
向かい合っていた両軍が激突する中、そんな声が聞こえたーーー気がした。