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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

続・BLゲームの主人公の弟であることに気がつきました(VS冬)

作者: 花果 唯

腐女子発言が苦手な方はご注意ください。

今作だけでも読めますが、前作と併せて読んで頂けると分かりやすいと思います。

 僕はとても重要なミッションを遂行している。

 何度もトライしてきたが、未だに成功回数はゼロ。

 非常に難易度が高い。

 間違いなくランク『S』だ。


「ああ、くそ……見えねえ。あとちょっとなのに!」


 なんという絶対領域。

 侵すことの出来ない聖域。

 だが敢えて僕はその地に足を踏み入れる。

 さあ、怖くないよぉ……見せてごらん、ふふ。


「アキラ、また変な顔して……何してるんだよ。早く帰ろうよ」

「煩い。邪魔をするな。一人で帰れよ」


 今ターゲットは、絶好の場所にいる。

 僕は低い花壇のブロックに腰掛けている、一方向こうは普通に立っている。

 つまり僕は見上げる位置にいるということだ。

 これは千載一遇のチャンスというものだ!

 ああ、見えそうだ!

 よし、よし……あと、ちょっと!!


「もう、アキラってば!」

「あああ!? おまっ、邪魔!」


 前に出てきて視界を塞いだ友人を必死に押し退けたが、……遅かった。

 ターゲットの姿は無かった。

 ああ、またもクリアならず……。


「お前、本当に無いわ……」

「なんなんだよ! もう、なんでさっきから何見てるんだよ。……まさか、女の子のスカートの中覗こうなんてしてないよね?」

「そんなわけないだろ。そんなものはどうでもいい。そしてお前に関係無い」


 女子のパンツなんて前世で腐るほど見たわ。

 わざわざ見たいとは……ちょっと思うけど、そんなことよりももっと貴重なものを狙っているのだ、僕は!

 僕の視線の先にはすらっとした長身の成人男性、確か年齢は二十五歳。

 先生では無い、『用務員』さんだ。

 僕は彼の隠れた『素顔』を見たかったのだ。

 聞いて驚け、彼はただの用務員じゃないんだぞ!

 実は隠れ美形、『イケメンホモ』なんだぞおおお!!


 そんな美味しい存在、まさに天然記念物、国で保護すべき存在の隠された秘宝といえる瞳をこの邪眼で、直接網膜に焼き付けたかったのに!

 あ、邪眼というのは妄想加速ギアがオートマで入る腐女子フィルターのことだ。

 あの頭に巻かれたダサい白タオルと長い前髪の下には切れ長の鋭い金の瞳が隠されているのだ!

 うおお、見たいぞ!

 あきらめない、勝つまでは!


 と、ついつい熱くなってしまったが一旦落ち着いて。

 何故そんなことを知っているのかというと、それは僕、天地央あまちあきらが『転生』をしているからだ。

 そしてここが、RがつくBLゲームの世界だということも知っている。

 ゲームの主人公は、僕の兄『天地真あまちまこと』であることも。

 BLゲームの主人公の弟ポジションだなんて、前世腐女子だった僕にとってはご褒美でしかない。

 こんな転生を出来たのは前世で余程善行を積んだか、死してもBLにしがみついた変態かのどちらかだなと思っていたが、最近では後者の可能性が高いなと思っている。

 このままいけば来世でも、いや、もう転生出来ずに地縛霊になってホモホモ言ってそうだ。


 そして、残念なことなのだが、この世界がBLゲームの世界だと思い出したときには、兄は本編の内容といえる期間を終えており、幼馴染の『櫻井春樹』とデキでいた。

 春樹ルートのグッドエンド後、という状況だった。


 前世から持ち込んだこの邪眼で兄達が出来上がっていく過程を見たかったが、終わってしまっていたものはしょうがない。

 出来てる状態でも十分美味しいので我慢してあげている。


 それはおいといて、だ。


 次に僕が気になったのは、兄にフラれたことになっている攻略対象達、通称『失恋ホモ』達の現在だ。

 個性やキャラクターが違えと、見目麗しいという点では共通の彼らの現在はどうなのか気になる。

 未だ兄を想いつつけているのか、はたまた新しいホモストーリーを紡ぎ始めているのか、気になりすぎ我慢できず、自分の目で確かめようと僕は行動を起こしたのだった。


 まず一人目。

 それが、さっきから僕の邪魔をしている奴、『楓秋人かえであきと』だ。

 同級生だったので、まず手近なところから攻めたのだが失敗して、逆に目をつけられ、結果何故か懐かれるということになっている。

 都市伝説メリーさんのごとく、毎朝一緒に学校に行くため玄関で待っている。

 その内部屋の前に、いや、ベッドの前に立たれているような気がする。

 御祓いにいくべきか……。

 なんでこんなことに……何故だ、腑に落ちない。

 朝は約束をしていたわけじゃないけど、春樹の妹である雛と喋りながら行くのが子供の頃からの日課だったんだけどなあ。

 雛もなんか機嫌悪いし、三人で行こうかと二人に声かけたら馬鹿呼ばわりされるし。

 何なんだ、どうしろというのだ。

 お前らもう一人で行けよ、僕は保護者じゃないぞ。

 まあ、楓については気が済んだ。

 そのうち新しい恋でもして、ホモ恋バナを僕にしてくれたらそれでいい。


 そして次にターゲットとしたのが用務員の彼、『柊冬眞ひいらぎとうま』だ。

 彼はグレーのツナギ作業服に白のタオルを頭に巻いていて、一見すると地味でダサい。

 髪は明るいオレンジで地味なんて印象を抱くはずがないのだが、実際地味ダサの印象を受ける。

 でも僕は知っている。

 作業服を腰の辺りまで下ろして袖を括り、中は黒Tシャツ姿でタオルをとり、髪は綺麗に切りそろえられて、オープンイケメンとなった時の姿を……!

 ああ、生で見たい!

 見れるなら、財布の中の全財産を払ってもいい。

 働いて返せる程度なら借金してもいい。


 用務員さんに想いをを馳せていると隣の楓がぎゃんぎゃん煩い。

 関係ないと言ったのを怒っているだが、だって本当に関係ない。

 あ、でも、兄を取り合っていたいたかつてのライバルだから案外関係深いかな?

 かつてのライバル、かーらーのー、ラヴ!

 ……あり、だな。

 お互いに傷を舐め合い、そして物理的にも舐めあ……ふっ。

 神聖なる校舎でこれ以上はよそう。

 続きの思考は家に帰ってからにとっておこうか。


「楓よ、年上、オレンジ、が『吉』だ」

「はあ? 何の話」

「多くは語るまい。だが、心に刻んでおけよ」

「アキラって時々会話が成り立たなくなるよね」


 楓に神の啓示を与えることが出来たので今日はこれで納得して、明日に繋げるとしよう。


 翌日、僕は用務員室前にきた。

 ここは当然、用務員さんが使用している部屋なのだが、生徒が訪れることもある。

 例えば色々な相談。

 進路やプライベートな悩みについて、教師には相談しづらいが話をしたい時に訪れて、話を聞いてもらうことが出来るのだ。

 なので、適当に話をしながら隠れイケメンっぷりを確認するというミッションを遂行しようと来たのだが、前まで来て少し戸惑った。

 まず何を話したらいいか分からないし、直接接触するのは危険だろうか。


 それにこの学校の用務員さんは隠れイケメンともう一人、肝っ玉母ちゃんのような四十代女性の二人なのだが、主に相談担当は女性の方で、隠れイケメンは学校の管理や体験活動の指導員なんかをやっていて外に出ていることが多い。


 やっぱりやめよう。

 こっそり覗き見るのが一番だ。

 そう思い踵を返していると用務員室ドアが開いた。


 振り返ってみると、そこには隠れイケメンの彼がいた。


「何か用ですか?」


 長い前髪で目は見えないし、今日も地味メンだが、やはり声はイケメンだ。

 アニメでは主人公の声をやっていそうなイイ声。

 くぅ、溜まりませんなあ。

 早く目が見たい!


「あ、いや、何もないんですけど」

「……まあ、どうぞ。お茶でも飲んでいってください」


 どうぞ、と促される。

 少し迷ったが、お言葉に甘えてお茶だけでも頂いていくことにした。

 中には小さなテーブルを挟んで茶色の安そうなソファが向かい合って置いていた。

 ちょっとした応接室という感じだ。

 奥に繋がるドアが二枚あり、一つは備品や資材なのがある倉庫でもう一方は用務員二人が事務処理をするデスクがある。


 ソファに腰掛けて待っていると目の前にお茶が置かれた。

 暖かいほうじ茶だ。

 良い匂いと湯気でほっこりする。

 飲むように勧められたので、手にとってふうふう冷ましていると、柊が目の前のソファに腰掛けた。


「俺に、何か聞きたいことでもあるの? 天地央君」


 名乗っていないのに名前を呼ばれ、びくっとする。

 まあ、天地真の弟ということで顔は広いほうだから知らない人に知られていることは珍しいことではない。

 だが柊の目が、前髪で見えていないのだが、こちらを探るように鋭い視線を向けているような気がした。


「いえ? 何もないです」

「本当に? 最近俺のこと見てない?」


 バレテーラ!

 なんのことでしょう僕分からない、てへっ! と、とぼけてみたが、間髪要れずに再び問われる。

 『見てるのは分かってんだぞゴラァ』というような圧も感じる。

 ど、どどど、どうしよう。


「み、見てないです」


 声が上擦った。

 笑いが出るほど嘘をついてるのがバレバレだ。

 でも否定するしか道はないのだ!


「君、お兄さんから何か聞いた?」

「うええ!?」


 どう逃げるか考えていたのに、兄のことを出されてついつい変な声が出てしまった。

 兄と柊に一悶着があったのはゲームで知っているが、実際はどうなったかは知らないし、兄から柊の話を聞いたこともない。

 だが、兄と柊の関係がただの一生徒と用務員の関係では無いことは分かるわけで。

 そして今僕は柊にそれを知っていますよとリアクションで示してしまったのだ。

 阿呆だ、自分が阿呆すぎて穴掘って入りたい。

 だがここは知らぬ存ぜぬで通すかしかない。


「さあ? 何も聞いてないですけど」


 これは本当なのだ、何も聞いてない。

 でも、知ってるんだよね!

 だから思わず声が裏返っちゃうよね!

 ああ、僕はなんて素直な子に育ってしまったのだろう!


「……何を聞いたのかなあ。困ったね」


 背もたれにもたれて深く腰掛け、ソファの肘掛に肘をついて頬に手を当てている姿から殺気のようなものを感じる。

 ひええええ、怖いんですけど!


 と、いうかだ。

 ……聞かれて困るようなことをしたの?

 凄く、凄く気になる!

 そういえばゲームでの彼は普段は温厚で静かだが、恋愛関係には割りと強引なところがあって、兄を用務員室に閉じ込めて押し倒し……それかああああ!!

 思い出した。

 そんな場面がゲームであった。

 そして実際にも起こったのだろう。

 確かこのソファに兄は押し倒されて……。

 うわあ、このソファか!

 記念品として持って帰りたいなあ。

 おっと、思考が反れてしまったが、押し倒したが最後までいたすことは出来ず、兄は逃げたのだがこれって現実には結構まずい問題である。

 学校にチクられでもしたら大問題だ。


「本当に何も聞いてないの?」


 パニックを起こしていると、同じ質問をされた。

 声も出せず、こくこくと頷いて返事をする。


「……そう、じゃあいいよ。帰って」

「え?」

「帰りたい、って顔に書いてあるよ。もういいから、帰りなさい」


 どうピンチを乗り越えるかオーバーヒートしそうなくらい考えていたのにあっさり開放してくれるらしい。

 それならそれで良かった。


「お茶、ご馳走様でした! お邪魔しましたー!」


 脱兎のごとく逃げ出し、出入り口の扉を開けようと手をかけたその時――。


――ドンッ


 後背後には気配。

 そして目の前のドアは伸びてきた手に塞がれていた。


「なんてね、まだ逃がしてあげられないなあ」


 背後で声がする。

 柊の声だ。

 声のトーンが低く、恐怖を感じる。


 ……が。

 恐怖は感じるが、だ!

 それよりも今、大変なことが起きたじゃないか!

 これは……あの、伝説の……!


「壁ドン!」


 巷の女子が憧れる壁ドンではないか!?

 正確には壁ではなくドアだが、何より今『ドンッ』って言ったしね!

 そうだよ、絶対これがそうだよ!

 距離が近いし、追い詰められたという圧迫感と恐怖感、そしてそこから沸き起こる高揚!

 素晴らしい!

 マーベラス!

 いやあ、貴重な体験が出来たな!

 これはイイ……女子達の気持ちが分かる、今だってドキドキして……!


「君は……」


 柊の声を聞いて我に返った。

 あれ……そういえば僕、ピンチでした?


「あ、すいません。続きをどうぞ」


 確か『やっぱり逃がさない』とかそういう件だったはずだ。

 お次をどうぞと促したが、振り返って見た柊の片手は頭を抱えていた。


「……いや、もういいよ」


 ドンをしていた手を下ろして、ソファに戻り、今度は両手で頭を抱えこんでしまった。

 これは、僕のせいでしょうか?

 放っておくのも悪い気がして、仕方なく向かいのソファに戻った。


「何か、悩みがあるのでしょうか。僕でよければ聞きますが」


 声をかけるとゆっくりと顔をあげてこちらを見た。

 相変わらず目は見えない。


「それ、俺の仕事なんだけどね」

「それは知ってますけど。今はどう考えても逆の絵面だと思うのですが」


 真っ直ぐ姿勢良く座る僕に、頭を抱える柊。

 どちらが悩み人かといわれたら間違い無く柊だろう。


「そうだな。じゃあ、聞いて貰おうか」

「え? あ、はい」


 あ、話してくれるんだ。

 ちょっとワクワクする。

 兄とのあれこれだろうか!

 すでに邪眼は解き放たれていますよ!


「君は本気で人を殺したいと思ったことはあるかい?」

「はい? え、な、無い、ですけど」


 え、どういう話ですか?

 ソッチ系ですか?

 冗談を言っている様子は無い。


「もちろん僕も、基本的には『無い』。でもね、状況とか環境とかタイミングとか、色んな要素が揃って『あ、今なら殺せる』って思った瞬間に、手を止める自信が無いんだ」

「はあ。それは殺してしまったら悲しませてしまう人を頭に浮かべるか何かして我慢するしかないんじゃないですか。というか、あの、それは何の話ですか」


 意味が分からない。

 ピンクな話題を待っていたのに黒い話題で正直しょんぼりです。


「ああ、すまないね。邪魔な奴がいるんだよ。あいつがいなかったら手に入るのになあって。この前、高いところから物を落としてしまったときにふと思ったんだよ。ちょうどこの下をあれが通っていれば、ってね」


 これは……、黒と思いきや元はピンクじゃないか?

 血が酸化したら黒くなるように、ピンクも黒くなってしまったのだろうか!

 十中八九、兄と春兄のこと言ってますよね!?

 大変だ!! 春兄が命の危機だ!!

 デンジャー! デンジャー! 警報発令!!

 失恋ホモがヤンデレ化してますよ!

 いや、デレは無さそうだから純粋に病んでいる!!

 そこまで兄のことを……ああ、ホモ愛は深海よりも深し! と感動する反面、警告サイレンが鳴り響いている。

 どうしよう、僕に出来ることはなんだろう。

 兄カップルには幸せにせっせと励んでほしい。

 兄達の愛欲生活を守るのは僕だ、僕は愛欲守護者カーマガーディアンなのだ!!


「じゃあ、高い所にいかなければいいんですよ!」

「そういうわけにはいかないだろう。それにそれは一つの例えであって、たとえば電車のホームであいつが目の前に立ってて……」

「電車乗るのやめましょう! 交通手段は車で!」

「運転しているときにあいつが前を歩いていたら……」

「徒歩! もう何処行くのにも徒歩にしましょう!」

「歩いていて、交差点で目の前に……」

「もう家にいろ!」


 面倒だこの人!

 イケメンっぷりが今のところ全然見えない!

 地味な上に病んでるしイケメン要素皆無だよ!


「どうすればいいんだ……。本当は、こんな自分は嫌なんだ。こんなんだから、俺じゃ駄目だったんだろうな」


 再び頭を抱えて沈む柊。

 良い体格をしているはずなのに凄く小さく見える。

 今の呟きを聞いて、この人は、本当に兄が好きだったんだなと切なくなった。

 失恋の辛さと嫉妬の妬みで淀んだ自分に嫌気がさしているようだ。

 兄達も救いたいし、この人にも手を差し伸べる、というのは大層な言い方かもしれないけど、何か力になってあげたい。


「じゃあさ、その黒い感情が沸いてきたらとりあえず僕に連絡してよ」

「……君に? 何故だ?」

「一人で考えて殻に閉じ込めてモヤモヤするから溜まっていくんだよ。誰かに伝えて拡散させたら淀みも少なくなるんじゃない? まあ、とりあえずやってみない? あ、やってみませんか」

「はは、今更敬語はいい。そうだな、頼めるか?」

「はい、じゃあ。ラインかメールで連絡してください」

「ラインはやっていない。メールで頼む」

「分かりました!」


 とりあえず柊と連絡をとって、病んでる度を測りながら様子をみよう。

 それで兄達の身の危険も察知出来るだろう。

 我ながら、名案じゃなかろうか!


 それから、学校がある平日は毎日柊メールが届くようになった。

 基本的には『あいつ』、明確には言わないが春兄を見かけたから殺意が沸いたという内容だ。

 読んでいて非常に欝だ。

 だが、柊メルマガに登録してしまったのは自分だからしょうがない。

 これが兄カップル、そして柊の為になるなら我慢しよう。


 そんな事を考えていたら、メールの着信音がなった。

 着歌は髪の長い女性が井戸から出てくる映画のアノ歌だ。


 今日も、来ーるー、やっぱ来るー。




 FROM:柊・ヤンデル・冬眞

 TO:天地央


 件名:例のあれだ


 すまん。花壇の手入れをする為シャベルを持っている時にあいつが通った。

 殺っていいか?


 >Re:例のあれだ


 いいわけないだろ。

 花の匂いを嗅いで落ち着け。




 今日も今日とて病み具合は絶好調のようだ。

 ちなみに春兄には玄関に盛塩をするように進めた。

 何言い出すんだと笑っていたが、お前の命がかかってるんだぞ!

 全く、この年中発情期は兄のことで頭がいっぱいなのか。

 命があるからこそ励めるのだぞ愚か者が!


 そしてまた後日。




 FROM:柊・ヤンデル・冬眞

 TO:天地央


 件名:例のあれだ


 すまん。五メートルホースを巻き取っているときにあいつが通った。

 絞めて吊るしていいか?


 >Re:例のあれだ


 いいわけないだろ。

 ちょうどいいじゃないか、水かぶって冷静になってからホース片付けよう。




 ちょっと風邪を引いて寝こんだほうが憑き物が取れるかもしれない。

 そしてまた後日、症状は徐々に悪化している気がする……。




 FROM:柊・ヤンデル(末期)・冬眞

 TO:天地央


 件名:いつものあれだ


 今お茶を入れるために湯を沸かしているのだが、ぐつぐつ煮立っている湯を見ていると、ここにあいつを刻んで入れたくなった。

 殺っていいか?


 >Re:いつものあれだ


 お願いします、やめてください。

 火を止めて、お湯はそのまま置いておいて、温かいお茶はあきらめて冷たいお茶にして。

 コップ一杯飲んだら、一度深呼吸。

 そして仮眠をとれ。

 これは命令だ。




 駄目だ!

 確実に悪化してる!!

 もうメールでは対処しきれない。


 授業が終わると、引っ付いてくる楓を引き剥がして用務員室に急行した。


「正気かー!!」


 扉を開けると、デジャヴな光景があった。

 ソファに頭を抱えて座っている柊がいた。

 前に見た光景ではあるが、前より重症なのが分かる。


「全く、世話のかかる大人だなあ」

「返す言葉がないよ。ほんとに駄目な大人だよ。高校生にこんな……ははっ」


 ほんとだよな、社会人が高校生相手に恋愛したり想い破れて拗らせたり、それを相談したりとちょっと大きな声で言えることではないかもしれない。

 ソファの隣に座って様子を伺う。


「まあ、大人だから我慢しなきゃいけないことも沢山あるし、息苦しいのかもよ。いいんじゃない、無理して大人らしくしなくても」


 声を掛けると、幽霊のような儚げな動きでこちらを向いた。

 わあ、もう本当に重症ですね。

 逆にこんなに人を好きになれるなんて凄いと思うし、羨ましい。


 そう思いながら柊を見ていると急に腕を掴まれた。

 力が強くて痛い。

 抗議の視線を向けようとすると今度は押されて倒された。

 ソファの上に押し倒されて、目の前には柊の顔……と、いう状況なのだが、これ……どういうこと?

 頭の中はハテナで一杯である。

 何がしたいのか上を見てはっとした。


 柊の頭に巻いていたタオルは取れ、長い前髪も下に垂れ、彼の瞳が見えた。


 わ、見えたっ、見えたっこんな状況でえええ!!!!!

 ミエタヨ! ヤッタネ!


 ゲーム知識であったとおり、切れ長の鋭い金の瞳だ。

 わあ……格好良いよう、凄いよ、凄いのきたよこれ!

 美形度で言えば春兄を超えるかもしれない。

 恐ろしい……恐ろしい子!


「こんな状況で、なんで君はにやにやしてるんだ?」

「え、にやにや、なんかしてないよ」

「してるけど? もしかして……こういう状況喜んでるの?」

「は? してないけど? っていうかこの状況何?」

「何って、分かるだろ?」


 頬に手を当てられ、撫でられる。


「……本当に似てるね。君でいいや」


 そういうと、恐ろしく格好良い綺麗な顔が降りてきた。


 あ、やばい。

 やっと状況が分かった。

 と、いうかなんで分からなかったんだ今まで!

 自分の馬鹿、阿呆、間抜け!


 そんな事を考えている間にも柊の顔は目前に迫っている。

 もう息がかかるくらいだ。

 わ、駄目だ、駄目だっ、こんなイケメンならいいかとちょっと思わないでもないが、自分は神聖なるホモロードを歩くつもりはないのだ!

 パニックだし、押さえつけられていて身体は動かない。

 ああ、もうどこか動けえええ!!!


「無理いいいいい!!!」

「ぐあああ!?」


 なんとか動いたのは頭だった。

 頭を動かした結果、頭突きが柊の高い鼻にクリーンヒットした!

 続けて身体を起こして鼻を押さえている柊の腹を思い切り殴る。


「ぐぼうっ」

「何すんだよ! 馬鹿じゃないの! 大人らしくしなくていいって言ったのはこういう意味じゃねえよ馬鹿! 僕でいいかってなんだよ! 僕を兄ちゃんの代わりにする気か!? そんなの無理に決まってるだろ! あんな完全無欠な兄の代わりなんて出来るわけ無いだろうが! 三割も埋められないってーの! 大体僕にも選ぶ権利というのがあるんだ馬鹿! さっさと新しい恋を見つけろよ馬鹿! まずそのダサいタオル取って髪切って小奇麗にすりゃ凄いイケメンなんだから、いくらでも相手みつかるだろばあああか!」


 まだ跨っている身体を押しのけ、おまけにもう一発食らわしてから荒々しくドアを開けて用務員室を出た。

 全く、心配して来てやったのに馬鹿が。

 兄を好きなやつは発情期真っ最中ばかりかよ。

 ……出たが、再び怒りが湧き出したのでもう一度ドアを開けた。

 すると僕が飛び出した時のままの体制の柊がいた。


「央君、聞いてくれ。違うんだ、俺は……本当は君と」

「ばあああああか!!」


 何か言おうとしてたが知らない。

 罵るだけ罵って用務員室を後にした。

 もう二度とここには来ないだろう。


 翌日。


 本日もメリー楓に連行されながら登校。

 昨日は楓を放っておいたので何処に行ってたのだと問い詰められ、叱られ……なんなのこれ、もう。

 昨日の柊との一件も思い出したくないし、楓もだるい。

 項垂れながら歩き、校門に差し掛かったところで何やら騒がしいことに気がついた。


「あれ、誰? すごーくかっこいいんですけど!」

「えー知らない。新しい先生とか?」


 主に女子がきゃーきゃー騒いで誰かに群がっている。

 兄がいるのかと思ったが、兄はまだ来ていないだろうし知らない人のようだから興味も無く、立ち去ろうとしたその時――。


「央!」


 うん? 誰かに呼ばれた。

 誰かに呼ばれたが姿が見当たらず、きょろきょろしていると騒ぎの中心から人が現れた。


 ジャケットは着ていないが、スーツ姿のイケメンだった。


「誰?」

「ええっと……」


 隣の楓が小声で聞いてくる。

 そうだよね、僕も誰だろうって思った。

 でも、分かる。

 この美貌は忘れられない。


「用務員の柊さん」

「え? ええ!?」


 僕の答えを聞いて、楓も、周りの女子も騒然となった。

 知らなかったのかよ。

 しっかし、凄いのが世に解き放たれてしまった。

 僕が知っているオープンイケメンスタイルとは違うが、髪も切って整えられ、スーツでスタイリッシュになっていてイケメン度MAXという感じだ。


「央がこうした方がいいっていうから。どうだ、変じゃないか?」

「え、言ったっけ?」

「言った。小奇麗にした方が格好良いって言った」

「そうだっけ?まあ、確かにそっちの方がいいけど、スーツで土仕事とかもするの?」

「その時は着替える。良かった、変じゃなくて。央、昨日はごめん。話したいことがあるんだ」

「いや、もういい。話も、いい」

「じゃあ、今聞いてくれる?」

「はあ?」


 今、だと?

 良いわけが無いだろう!

 周りの女子は興味津々だと目が輝いているし、隣の楓は『昨日って、何』って殺気を放ちながら呟き続けてるし、何を言いたいのか知らないがきっと禄でもないことに違いない!

 なんか急に名前を呼び捨てにしてるしな!


「また今度聞きに行くから! じゃあ!」


 逃げるように人だかりから離脱した。

 楓は同じ呟きを延々繰り返しながらそれでもぴたりとついてきている。

 もう、お前完全にホラーだな。


 ああ、もう失敗だ!

 また失敗だ!

 僕はただホモを傍観したいだけなのにいいいい!!!

 何故か柊にも懐かれていないか?

 世の中とは、本当にままならないものだ……。


 渦中の人となりつつある弟の後ろで、兄は呆然と立ち尽くしていた。

 そして、その隣には最近まで知らず知らずのうちに命の危機に晒されていた人物。


「おい、真。あれはどういうことだ」

「……」

「おい!」

「ああ、ごめん。……央、あの子は本当にもう」

「楓に続き、あいつもか?」

「そういうことなんだろうね。俺はあの子が怖いよ」

「オレからすればお前の魅力が一番恐ろしいが、確かにあいつのはやばいな」

「……春樹?」

「妬くなよ。お前抜きでって話。あいつはなんか、飛びつきたくなるというか、手中に収めたくなる衝動に駆られるというか」

「ふうん? そんなこと考えてたんだ。へえ」

「だから妬くなって」


 本人達の知らない間に着々とストーリーは進んでいく。

 前主人公である兄の心配は、より一層積もっていくことになるのだった。

攻略対象四季の内、冬でした。

唯一の女子、雛とのあれこれは番外編の雛視点というか、BL世界で戦う女子な感じで書いてみようかなと思ったり思わなかったり。

残りの夏も折角だし、書こうかなと思っています。

感想・ご意見・評価など頂けると次への意欲になりますので、よろしくお願いします!

読んでくださり、ありがとうございました。

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[良い点] 面白かったです [一言] 取りあえず私的な候補ではメリー楓を相手に主人公攻めで。 家族的な心情では親のために孫の顔を見せてあげると言う意味で、外見も中身も男らしいけど性別女子な恋人をGET…
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