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新乱界  作者: 酒井順
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第5話 悪意のミサイル


 N国の新しい支配者からの声明が発表されたが、日本ではそのニュースは流れなかった。そもそも、福島の原発にミサイルが落ちたことさえ政府は公式発表していなく、この声明は日本政府の筋書きと大きく違っているためだった。現時点で国民に知らされているのは、福島を通過する如何なる交通手段も一時的にストップさせるということだけで、その理由も“調査中につき危険性を考慮して”とだけ公表されていた。

 米軍将校からサクにもたらされた声明の内容は、

「我々は、物質的に、そして何より精神的に我が国民から全てのものを搾取した前指導者から独立するものである。また、我が国を敵と見做し我が国民を貧困へと追い込んだ西側諸国との絶縁を宣言する。我々は、精神的に自由であり何者にも脅かされる日々をおくるつもりはない。我が国に不当な態度をとる国を敵と見做し、制裁を加えることになるだろう」

と、クーデターが国民のためのものなのか、西側諸国に宣戦を布告しているのかわからないような声明であった。この様子だと意図的に福島にミサイルを撃ち込んだのは、声明の主だとしてもおかしくないことになりそうだ。

 エマージェンシーのかかった三沢基地から米空軍『北の槍』の戦闘機群と、米本土から移送中の空軍機がN国に向かって飛び立った。おそらく極東に駐留している空母を始めとした米軍艦隊も向かっているものと思われるが、その情報はサクにも確認できなかった。サク付きの上級将校も忙しく駆け回っているようで、サクは完全に蚊帳の外となってしまったのだ。


 父親である安堂財閥当主『平蔵』に呼び出されたヘイは、未だ声明のことなど知らなかったが、福島の惨状はある程度把握しつつあった。それは平蔵も同じらしく、ヘイの意見を求めるために呼び出したのであった。

「平太、我が財閥はこの事態にどう動くべきか。心して答えよ」

「はい。商いは即刻停止して、福島に救援を送るべきと思います。さらに俺と親父の状況認識を一致させ、安堂財閥独自の対策本部を立ち上げる必要があります」

「ほう、わしと認識を一致させるとな。ならば、わしより多くの情報を持っているというのか」

「はい、おそらく。もはや東京は首都ではありません。政府首脳は沖縄に移りました」

「何っ!ニュースが沖縄から流されているという情報は確かだったのか。何処からその情報を仕入れた?」

「はい、米軍関係者から」

実はサクからの情報なのだが、まず嘘は言っていないと思うヘイは続けて、

「東北は、日本政府から見捨てられました。福島から南の救援は当てにできません。かと言って米軍を頼りにするのは危険です」

 平蔵といえども現在の福島から南の情報を得ることは困難であり、途切れ途切れの数少ない情報を繋ぎ合わせて、そこからジャッジを降していたのだが、その情報は現実とは思えないほど悲惨で、平蔵はその情報を確かめたいと思っていた。まさか、息子から真実味のある情報が得られるとは思っていなかったが、ニュースソースが米軍となると俄然息子の信頼度が上がった。

「米軍からか。しかし、直接得たのではないな。米軍を頼るなとはそういうことだろう」

 さすがに鋭いが、ヘイはサクからだとは言わずに「ニュースソースは明かせません」と言い張ったのであった。平蔵もしつこくは聞かず、これからの指示をヘイに出したのだが、これは息子を跡継ぎとして信頼した証でもあった。

「お前は福島に行け。福島にできるだけ近いところで前線本部を作れ。後方支援には佳作をまわす」

 佳作は、平蔵の弟であり、右腕でもあったが、それを後方支援にまわすということは平蔵も本気で財閥の商いを停止するつもりのようである。

「わしが対策本部長になる。全ての情報をわしに集めろ」

 こうして、安堂財閥の所有する物資は全てが救援物資となり、それと共に住宅や避難経路の確保も行われた。


 白神山系の田代岳の“ノン”のある場所を『シラカミ』と呼ぶことにしたシンたちであったが、ここには東北の騒ぎも情報も届いてこなかった。そんな中で“さっちん”はヘイのことを心配したりしている中に透視の能力が飛躍的に上がっていた。元々“お告げ”という超予感なのか超能力なのかわからないものを持っていたため、それとの相乗効果が考えられるが、いずれはっきりとはしない。それでも“さっちん”の能力は他の者と一線を画し、突出したもののようだった。

「見得るのよ。感じるのよ」

「何が?」

「わからないけど、はっきり伝わってくるの」

そう言う“さっちん”は、その光景を意図して見ているわけではなく、何者かによって見させられているのかもしれなかった。そして“さっちん”が見るその光景とは、


 そこはN国を臨む海域で、米軍の艦隊が空母を主戦力としてぞろりと揃い、空域には戦闘機などがところ狭しとひしめき合っていた。空母の甲板では緊張が走り臨戦態勢に入っていたが、詳しい情報を与えられているのは艦隊司令官の他数人だけであった。乗組員には「またか」という思いが多少なりともあったかもしれないが、出動しろと言われれば出動以外に方法はなく、攻撃しろと言われればスィッチを押すしかない。しかし、いつもと違い出動部隊の規模は大きく異なり、駐日艦隊のほとんどと攻撃軍機が揃っていて、なにやら剣呑さを感じる者もいた。ミサイル搭載型のフリゲート艦に乗り組んでいるエリック中尉もその一人で、なにか周囲の空気にうなされているように見えた。


そもそも“さっちん”は、望んでいるものはヘイの安否だったのに、どうして米軍の光景が映るのだろうと不思議に思っていたが、もしかすると何か、そして何時か重要な関係を持つかもしれないと思い直していた。“さっちん”が結んだ印は「大切」と「映れ」だったから、ヘイに関する情報が得られるとは思えないのだが、そこは(わたしの思いが報われる)と思いこんでいる“さっちん”にとっての思い込みというものであって「ヘイ」という印がないのだから仕方ないが、ヘイを示唆するなにか代わりの印があったのではないだろうか。しかし驚異的なのは、思いの対象が異なるとはいえ遠隔の地の光景が映ったことだが“さっちん”に言わせれば、映ったのではなく“視える”と“感じる”の丁度中間くらいの雰囲気らしい。“さっちん”にも上手く言えず、得た情報が真実なのか確かめる術もないが、他のメンバーはそれを文句なしに信じたのであった。


 “さっちん”が見た直後であったのだろうか。数発のミサイルが米軍の1隻のフリゲート艦から発射され、艦隊は大騒ぎとなっていた。発射されたミサイルを見た誰もが、最初はなにかの間違いだとか夢だとか思っていたが、現実に気付くと大騒ぎとなっていたのである。赤くなったり青くなったりする艦長は、

「わしは押しておらんぞ」

と、知らない人が聞いたら下手な言い逃れと聞こえるセリフを吐きだしていた。そのセリフの理由は、艦橋のスイッチとミサイル制御室のスイッチの両方を押さなければミサイルは発射されない仕組みだからである。戦闘に入れば、艦橋のスイッチは押したままであるが、今は未だ戦闘中ではないから「わしは押していない」と主張しているのであった。つまり、艦長以外の誰かが艦橋のスイッチを押し、ミサイル制御室のスイッチも押したということである。理屈からいえば犯人は一人でも出来るが、ミサイルの発射が絶対の目的ならば二人欲しいところである。艦長は言い訳もできずに司令官への対応に追われているが、他の艦員で犯人探しが始まった。ミサイルを発射した犯人が悪意を持っていたなら、この艦に危険が及ぶと考えたからであるが、悪意がなくてミサイルを発射するとは思えない。誰かが「エリック中尉が見えないぞ」と言い出し「そんなに存在感の無い人じゃないのに」と誰かが応じた。確かにエリック中尉は何処にも見当たらず、結果船倉の中から射殺体で見つかった。自殺とも他殺とも言える状態だったが、自殺の原因も見当たらず「犯人にやられたんだ」ということになった。しかし、2、3人のエリック中尉を見掛けた者は、

「何か、ぼ~っとしていました」とか、

「思い悩んでいるようでした」とか、

「幽霊のように存在感が全くありませんでした」

とか証言していた。しかし、これらは決め手とならず、仮に仲間割れでエリック中尉が殺されたとしてももう一人は何処だとなり、結局犯人の目星はつかなかったのである。


やがて、犯人探しも行き詰まり全員持ち場に戻れとなり、艦長の「総員撤退する」との命令で沖縄に退却となった。


 しかし、この退却しようという間際にN国からの報復があった。


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