第4話 サイレント・アナザーの陰
「なになに?」「どれどれ」と集まってくるメンバーに誇らしいように印の披露を“りっちゃん”に促すコウであったが「ほんとに出来てるの?」と半信半疑の本人“りっちゃん”は「早く見せて」「早く見せろよ」とせがまれるかたちで印を披露することとなった。
すると、やはり煎餅が手を触れずとも動くではないか。
「テレビの超能力より凄い」
「ありゃ、マジックだろ」
「それより、どうやったか教えろよ」
ということになり『印』の説明をするコウであったが“りっちゃん”を真似た他の4人のメンバーで印を発動できるものはいなかった。
「素質なのかな」
「コウ、お前は“りっちゃん”だけをえこひいきしていないか?」
「いや、実は僕もできないんだ。ちょっと待ってね。気になることがあるんだ」
そう言うコウは、また調べ物を始めたのだった。
「多分、こういうことか。印には系統があるんだ。人には得手不得手があるだろ。それだと思うんだ」
「じゃあ、俺の系統はなんだ?」
とヘイがじれったそうに問うと、
「それは、わからない。自分で見つけるしかないさ」
「どんな系統があるんだ?」
とサクが尋ねると、
「それも書いていない。ちょっと、分かるだけ印の型をリストアップして分類してみようか」
…
「分類も難しいな。ここには、印の型しか載っていない。でも、印の型にもレベルがあるようだな。最低レベル1もたくさんあるけど、少しやってみる?そうそう印は型と力、対象から構成されるけど“りつ”は修験道を小さい時からやってるから、力、つまり精神力が高いんだろうな。その分皆より有利だよ。対象だけど、これは動かないものから始めたよ。動いているものだとややこしい」
それぞれが、思いのままに印の型を選んで試した結果“さっちん”が「視える。視えるわ」と言いだし、どうやら“透視”の技を会得したようである。「それって感知系?」という誰かの問いかけに「わからないけど、もう少し試してみるね」と答える“さっちん”であった。すると「ヘイって、そんなに優しかった?」と言う“さっちん”にヘイは「思いを送ってみたんだ」と答えたが、これが“さっちん”の感知能力の発現のせいなのかヘイの能力の発現のせいなのかただののろけか明らかでなかった。しかし、ヘイの能力のせいだとしたら、ヘイは精神感応系となるのであろうか?
シンは「感じる。上手く言えないけど、草木の勢いを感じる。世界が様変わりしたようだ。“ノン”を離れて動物たちに触れてみたいな」と、獣医が天職だと信じるシンならではの能力だったが、これは自然現象系となるのであろうか?しかし“ノン”を離れたいと思ったシンは、皆の前からいなくなった。どうやら、兎に角広いと感じた“ノン”の周囲の結界の出入りは「出たい」「入りたい」の思いに反応するようである。
コウは「おお、集中力が半端じゃない。しかもスイッチのON/OFFが自在だ」と、思考系の技を手に入れたようである。そして「“りつ”は空間系かな?」と判じるコウでもあった。
そして、サクだけが何も成果を挙げられないでいた。
(どうして俺だけが)と少し落ち込んでいたサクであったが、そこは持ち前の拘らない性格と負けん気で発言した。
「印は取り敢えずそれぞれが勉強するということで、街からここに来るのに何時間も掛かっちゃ効率が悪い。ヘイ、何とかならないか」
「道を造るという手もあるが、ここをそんなに開けた場所にするのは問題あるな。ダメもとで、うちの技研に相談してみようか」
そういうことで、ヘイだけが街に帰ることになったが、サクも戻りたいと言い出した。サクは、三沢の基地で福島の状況を仕入れてきたいそうなのである。“りっちゃん”でも一人づつしか運べないから二度手間になる。
「ヘイさん、技研からいいものが貰えるといいわね」
“りっちゃん”の性格から、これは皮肉ではなかったが、それでも“りっちゃん”は、印の習得を面白いと思い、それに時間を割きたかったのだ。ヘイとサク以外はここが気に入って、ここに本格的な住居を作ろうと言う者までいる。シンは、ヘイに休暇願いを託し“さっちん”は、自宅への伝言を頼んだ。コウは大学へ戻る交通手段はおそらくないから、連絡しなくてもいいと思っている。せめて連絡をする振りだけでも見せてはどうかと思うが、コウは既に大学を止めてでもここに居たいと思っていた。“りっちゃん”も二人を送り届けたら、ここに戻ってくる手筈になっている。
一番喜んでいるのはシンのようで、結界の外に出ては野生の動物たちと話をしているようだ。結界の中には生き物の姿が見当たらないから外に出るのだが、これがシンの印の習得に大きな影響を与えた。印のことを知ってから未だ一日も経たないのに、シンは動物たちと意思の疎通をとれるようになり、たまに結界の中に報告しにきた。
「今日の日中は晴れますが、夜半より雨が降り出すでしょう。傘のご用意をお願いします。以上、動物天気予報でした」
誰も傘の用意はしないが、皆一様に、
「シンのこんな活き活きした姿を見るのは初めてかもね。いつも、何処か思い悩んでいるようだったから」
と話すのであった。
技研に寄ったヘイは、そこの所長にさりげなく移動メカのことを聞いて見ると「それなら高橋に聞いてみるといい」と教えてくれた。山遊びをしたいと言ったヘイの言葉をそのまま信じたようで、しつこく理由を問い質されることはなかった。高橋という技術者に険しい山を走る何かいいものはないかと尋ねると、それならいいのがありますよと言う。実物を見せて貰うと、それは1輪の小型オートバイであった。確かに険しい山でも走りそうだが、性能はどうかと尋ねてみた。
「うちのアスファルトの試験場では、ゆうに時速50kmを出しましたよ。ギアは7段変速で超低速にすれば、体重60kgの男を載せて傾斜60%の坂も登りますよ。メインエンジンはバッテリー式でフル充電の時、最大3時間もって、補助エンジンのガソリンを使えば8時間走り続けます。しかも、ソーラーパネル付きで晴れた日なら1日で、空っぽからフル充電にできます」
と得意気に話す高橋は、お坊っちゃまにテスト運転させたら上司にも総帥にも怒られると言ってヘイに渡すのを少し渋っていたが、そこはヘイの我儘ということで2台の試乗車を提供させた。
「俺が強引に持って行ったとでも言い訳していいよ」
と高橋に気を遣いながら、この1輪バイクは誰と誰が運転できるかなと考えていた。二人乗りが可能かも含めて、あそこに戻ってから皆と相談しようと思うヘイであった。
米軍の三沢基地で、サクは思いもしない情報を掴んでいた。サクの相手をしている上級将校によると、
「N国でクーデターが起きたようです。日本にミサイルを撃ち込んだ犯人までは特定できていませんが、そのクーデターと関係していると思われます。クーデターは一夜にして無血で行われたようで、今日辺りに首謀者からの声明があるのではないかと推測しています。これに対して、C国もR国も緊張を深めており、今のところこの2国の後押しによるクーデターとは考えられません」
と、この将校はペンタゴンの友人の父親の子飼いらしく、サクに情報を漏らしてくれるのだった。
(あのミサイルは誤りではなく、意図したものだったというのか。しかし、一体誰が何のために。もしや“シャラ”の言うSAなのか)と思うサクであったが、先ずはN国の新しい支配者からの声明を待たなければ何もわからないようだった。




