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新乱界  作者: 酒井順
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第2話 精神感応メモリ


 “さっちん”と“りっちゃん”の“シャラ”との出会いの場面をパネルを通して見ていた5人であったが、この5人の中での発言の役割が概ね決まっていた。誰もが無口というわけではないが、コウは興味あること以外は積極的に話さないし、りっちゃんも話すより身体を動かしている方が性に合っている。さっちんは、お告げ以外は思いに沈む方だし、ヘイは決まって最後に美味しいところを持っていく。すると、おしゃべりというわけではないがシンが進行役となる。

「こういうことかい?この“ノン”を操作するためには“さっちん”か“りっちゃん”が必要で、どちらかがいれば俺たちも操作できる。でも1人分枠が余るな」

「あいつしかいないだろ」

というヘイに皆が肯いた。

 あいつとは、サクこと小田桐勇作おだぎり ゆうさくのことであり、男性陣と高校の同級生で親友同士、そして高校時代“陣馬の4天王”と呼ばれた高校創設以来の傑物4人組の一人であった。

「でも、あいつ今ケンブリッジにいるだろ」

「ああ、俺が呼びだしてやるよ。あいつもこういうの好きだろ」

というヘイは、それぞれの今後の割り振りを決めた。ヘイは最後に美味しいところを持って行くのだが、不思議と誰からも不満は漏れず、それが皆の総意という形になっていた。

「“さっちん”はここに残って。“りっちゃん”は俺を連れて戻って。コウはもう少しこのパネルを調べて見て。シンはどうしようかな?好きにしていいよ」

コウからは「取り敢えず、夏休みの間だけだな」と条件がついたが、他の者には異論はなかった。

 やがて、ヘイは“りっちゃん”の駆るパジェロエボで自宅に戻り、サクに連絡をとったが、折よくサクはつかまった。事情を話すと、丁度サクは日本に帰るところだったらしい。サクが言うには、

「おい、日本というか福島が大変なことになっているそうじゃないか。でも、そっちも面白そうだな」

 サクは、ハーバード大学を卒業してマサチューセッツ工科大学(MIT)に遊学中であり、米国の上級階級の子息令嬢と親交を持っていたため、その一人であるペンタゴンの上層部の一人を父に持つ御子息様から情報を得たようで、ついでに三沢基地に向かうC17長距離輸送機に便乗させてもらうことになったようである。

 ハッカーの巣窟として名高いMITであるが、そこでペンタゴンへハッキングに成功したサクは、一度ペンタゴンから事情聴取を受けて前出の子息の父親に揉み消して貰った経緯を持っている。「二度としません」と誓ったサクであったが「二度とへまはしない」が本音であった。そのことを知ってか知らずかその父親は、今度も便宜を図ってくれて、サクが日本に到着するのは今夜遅くになるようである。

 “ノン”のシステムがコンピュータの一種だと思っているヘイは、サクを最後の頼りとしていたが、サクはどうやらそうではないことを感じているらしい。

 シンはというと“ノン”から離れて熊と遊んでいるようだ。シンは根っからの動物好きで自然の中にいれば何も文句がないという性分であった。


 サクが三沢基地に着く頃を見計らって、ヘイは“りっちゃん”の駆るパジェロエボで迎えに行った。やがて、車中の人となったサクは「よっ」と言っただけで、日本のことを語り始めた。

「ヘイ、福島の状況はどの程度わかっているんだ」

「あの原発にN国の発射したミサイルが落ちたことは確からしい。ニュースは曖昧なことしか伝えないから、独自で情報を掴むしかない」

「あり得そうだな。日本の政府も隠蔽工作だけは国際級だからな。よく聞け、あの原発はメルトダウン起こした。もう誰にも止められない。福島を縦断する陸路も空路もシャットダウンされているはずだ。明日になれば、それもはっきりするさ」

「なんだって。どうなっちまうんだ」

「それは誰にも予測できない。日本のお偉方は沖縄に移転することになりそうだ」

「逃げるのか」

「そうだ。この東北は実質的に日本から切り離されたも同然だ」

「いい方に考えれば、自然独立か」

「そうでもない、東北の支配権を巡って日本と米が摩擦を起こしている。下手すりゃ米軍VS自衛隊になるぜ」

「日本政府も勝手なもんだ。切り離しておいて支配権の主張か」

「米が挙手したから対抗しているだけさ。米の思惑は東北で核の実験や観測を行うことらしい」

「そんな勝手をさせるか。東北は東北の人のものだ」

 サクも同感なのだろうが、如何ともし難いものを感じているのだろうため、日本の話はこれで打ち切りとなった。

「ところで、例の話を聞かせてくれ」

「よくわからんからお前を呼んだんだ。ハッカー様の出番さ」

「電話で聞いただけだと、あれはコンピュータと別物のような気がする。いずれにしろ実物をみてからだな」

ということで、この話も打ち切りとなりパジェロエボの車内に沈黙が襲った。

 現地の近くになると、例の如く“りっちゃん”に連れられてサクだけが、一足先に“ノン”のもとに辿り着き“ノン”と格闘しているコウの姿を認めた。コウはいつものように目の前のものだけに没頭しているらしく、サクの到着に気付きもしない。

「よっ」

いきなり声を掛けられたコウは、ようやく現実に戻ってきたらしい。

「あれっ、サクじゃないか。そう言えば、ヘイが迎えに行ったんだ」

「何処まで進んでる?」

「う~ん。入口というところかな。ここでこいつに話し掛けると頭の中にパネルが現われるんだ。パネルは真っ白で、どうしたいかを思うといくつかボタンが表示される。それのどれかを選択するとゲーム開始というところかな」

「じゃあ、やってみるか」

 いくらか触ってみたサクであったが「やはり、これはコンピュータなんかじゃない」と結論を出しただけだった。


「これ面白いな」と言うサクに対して、

「うん、面白い」と応えるコウであったが、果たして同じものを見て、同じように面白いと言っているのであろうか?

 これに気付いたのはサクで、

「コウ、お前は何を見てるんだ?」

「うん、面白いもの」

 これでは埒が開かなく、サクは1つのことを思い付いた。

「コウ、これから俺が“お前と同期を取りたい”と思うから、お前は“了解”の意思表示をするんだ。おそらく、俺が思うと、お前のパネルに“受否”のボタンがでるはずだ。と思う」

「おっ、出た!」

「“受”にしろよ」

「了解」

「コウ、お前こんなもの見てんのか?」

「うん、他にも見てるけど…」

「これ何か分かって見てるのか?」

「分かると言うか、最初は分かるんだけど、途中から分からなくなる。でも、何処から分からなくなるのか分からない」

「これおそらくだけど、巡回セールスマン問題の解法だぜ」

「何それ」

「いいや、説明は後だ。他に何を見た?」

「歴史とか、物質とか、精神とか…」

「分かったのか?」

「何を書いているのかは分かったけど、意味は分からない」

 京都大学大学院生もサクには型無しであるが、これは追々と分かってくるコウの天分が未だ開花していないためでもある。

「そうだ。歴史と言えば“さっちん”はどうした?」

「寝てるんじゃないのか?もう、明け方近くだよ」

「そうか、起きたら歴史は彼女に任せよう。縄文時代より面白いかもな。それより、これは書いてもいないし、読んでもいない。強いて言えば感じているってところかな」

「そうだった」

「おそらく、おそらくだけど、これは精神感応メモリみたいなものだな」

「精神感応メモリ?」

「そう、操作者の思いに応えて必要な情報を与えたり、記憶したりするものさ」

「へ~、凄いな。操作者の思いに応えて情報をくれるんだ。でもそれなら、操作者が全く知らないことは、情報として与えられないってこと?」

「そうだな。おそらくそうだ。その辺のところは、追々考えよう。今俺が考えてるのは、これを使ってプログラムを作れないかってことさ」

「よっ、ボストンのハッカー殿」

「お前はどうするんだ。コウ?」

「何かさ、これを見てるとやりたいことが見つかりそうなんだ。例えば、さっきの巡回何だっけ?」

「あれは止めた方がいい。とりつかれると死ぬぞ。あれはボストンのMITでも鬼門だ」

「でも、ここに解法が書いてあるんだろ。あっ、メモリに記憶されているんだろ」

「そうか。じゃあ、とりつかれない程度にやってみな」

 しかし、この巡回セールスマン問題がやがてコウを開花させることになる。


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