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こんな夢を観た

こんな夢を観た「過去の住むマンモス団地」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/06/07

 ある晩、友人の桑田孝夫とマンモス団地へ出かけた。


 敷地はぐるりと高い塀が取り囲んでいる。あまりにも高くて、外からは中の様子がまるでわからない。

「守衛はあそこだな」と桑田が言った。塀の一部を穿ったような、小さな門があり、その内側から黄ばんだ光がこぼれている。

「行きますか」わたしたちは門へと向かった。


「今晩は」桑田は固く閉ざされた門の鉄格子越しから呼びかけた。

 詰め所に座る制服姿の老人が顔をあげる。

「入るのかね?」

 わたしと桑田は黙ってうなずいた。門が面倒くさそうに、ゆっくりと開く。

「中は広いんでな。道に迷わんようにしておくれ」老人は注意した。


 まるで高層ビルのような団地が、整然と並んでいる。

「何階まであるんだ、ここは」桑田が見上げる。わたしはざっと目で追ってみたが、30階ばかり数えたところであきらめた。というのも、それより上は暗い上に、ねっとりとまとわりつくような霧が立ち込めていたからである。

「案外、大気圏まで続いていたりしてね」わたしは言った。あながち、間違いではないような気がした。


 どの棟もたいそう古かった。外壁は風雨に浸食され、窓という窓のガラスはすっかり曇っている。電灯の光さえ、ほとんど外に漏れ出してこない。

「この団地、絶対、1億年以上経ってると思うな」わたしがつぶやくと、

「築1億年、最寄りの駅から徒歩30時間……といったところかね」そう、桑田がおどけてみせる。「早く探そうぜ。夜が明ける前にな」

 

 わたし達は「過去の自分」に会うため、ここへやって来たのだった。この途方もなく古くて巨大な団地には、全ての人の過去が住んでいる。

 桑田とわたしは、どうしても聞きたいことがあった。


「あの比較的新しい建物じゃない?」わたしは指差した。色褪せたベージュの棟だった。

「行ってみよう」桑田がうなずく。

 エントランスを抜けた先にエレベーターがあった。ボタンを押すと、ものの数秒としないうちに降りてくる。

「なんせ、古いからな。途中でワイヤーがぶった切れちまうかもな」桑田が冗談めかして脅す。

「そうなったら、過去の自分たちに花でも手向けてもらうとしようよ」


 エレベーターに乗り込むと、わたしは当てずっぽうに階のボタンを押す。

「なあ、むぅにぃ。お前、今『37』を押したろ? それって、見当を付けてのことか」桑田が聞いてきた。

「ぜんぜん。ていうか、何階に行けばいいのかわからないしね」

「まあ、そうだな。いいや、別に。37階からまず探してみよう。直感が当たるってこともあるかもしれないしな」


 37階で降りる。廊下はどこまでも続いていて、目を細めても突き当たりが見えない。

 2人で、表札を1つ1つ見て歩いた。

「ビンゴっ!」桑田が叫んだ。「あったぞ、ここだ」

 表札には「桑田孝夫の過去」と書かれている。

「おー、おめでとう。やったね」わたしは桑田の背中を叩いて祝福をした。


 桑田がチャイムを鳴らすと、奥のほうから「はーい」と声がした。

 ロックを外す音がし、ドアが開く。玄関から顔を出したのは、小学生くらいの桑田だった。

「あのー、どちら様ですか?」過去の桑田は、あどけない顔を向けて尋ねる。

「あ、おれ、いや、ぼくは『現在』の君なんだけど、ちょっと聞きたいことがあってさ」桑田は腰をかがめて、過去の自分に話しかけた。いつになく真剣な表情だった。

「聞きたいこと? なあに?」過去の桑田は小首を傾げて見つめ返す。


 こほん、と軽く咳払いをすると、勇気を振る絞るようにして、桑田は言った。

「大人になったら、なりたいものがあったよね。それって、何だっけ。歌手だったかな、レーサーだったっけ。それとも、映画監督だった?」

 小学生の桑田は「ううん」と首を振り、桑田の耳に両手を当てて、ひそひそと答えた。

 ふんふん、とうなずきながら聞いていたが、次第に驚きを含んだ、明るい表情へと変わっていく。


「そうか、そうだった。うんうん、そうだよっ。おれ、今までなんで、そのことを忘れてしまってたんだろうっ!」


 わたしはその場を後にした。

 さあ、今度はわたしの「過去」を探しに行かなくては。聞きたいことは山ほどもあるのだ。

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