第9話 「息抜きと思惑と誤解」
あれから数日後の土曜日。
奴を倒したのまでは良かった。
だが、雄生によってボールの様に吹っ飛ばされた奴は、当然そのまま気絶。
よって、情報を聞き出す事は出来なかった。
まあ、あの後目覚めても、口が聞けたかどうかは怪しかったけど。
因みに、この事を偽造が指摘した時の雄生の平謝りっぷりときたら……それはもう見るに堪えなかった。
2人の性格がよく表れてる場面ではあったが。
その後、見児に連絡する前にもう1度鏡に入ってみたが、既に奴はそこにいなかった。
自力で動けるわけ無いだろうから、既に見児が、もしくは奴の仲間が運び出してしまったんだろう。
ようするに、俺達は再び詰んだ。
敵があと何人いるかすら分からない。
俺か偽造が、あそこまでやる前に雄生を止めとけば良かったわけで……。
つまり全員の落ち度だ。
雄生だけ悪いわけじゃない。
で、俺は今1人でゲーセンである。
あの日の翌日もその次の日も、一応見回りはしたが、特に何もなし。
仲間が1人やられれば、そりゃ簡単には出てこないわな。
というわけで、ゲーセン。
息抜きは大事って、銀髪の変な奴も言ってたし。
自慢じゃないが、この辺で俺よりゲームできる奴はいないと思ってる。
そんじょそこらのゲーマー程度、片手であしらえる自信がある。
なにしろ、普段から訓練を積んでいるんだ。
負かせるもんなら負かしてみろってもんよ。
*
圧勝。
そうとしか言いようのない位に、圧勝だ。
プレイしたのはシンプルな格ゲーだが、その分実力差が顕著に出る。
つまりそういう事だ。
まだ15ゲームしかやってないが、今日はもういいや。
午前中ずっとやっててもいいが、なんか満たされたし。
あまりの大差に呆気にとられている対戦相手に軽く会釈し、意気揚々とゲーセンを後にする。
最近は色々あってやってなかったし勝ったしで、非常に清々しい。
スゲーッ爽やかな気分だぜ。
1人で脳内ではしゃいでいると、うっかり通行人にぶつかった。
背は俺と同じ位で、癖のある茶髪で右目に眼帯をし、学生服を着た男だ。
「あ、すみません」
「別に。こっちこそ」
若干無愛想だったが、特に何があるってわけでもなく、そいつはそのまま通り過ぎて行った。
知らない制服だな。
土日なのに制服って、私立の高校か?
肩に掛けてる半開きの学生カバンから、果物らしきものが見える。
誰かの見舞いだろうか。
ん?
アイツ学校行くんじゃねえの?
まあ、俺には関係ないか。
*
駅から徒歩15分程度で、目的地である病院に着いた。
受付で病室の場所を聞き、階段で二階に上がる。
そして、「千馬楊太郎様」と書かれた、目的の病室の前まで来た。
ノックすると、ぶっきらぼうな掠れ声で返事が帰って来たので、ドアを開けて病室に入る。
「酷いザマだな」
「なんだぁ狩真……。皮肉でも言いに来たかぁ?」
そこには、全身包帯とギプスだらけの、柄の悪そうな男がベットで横になっていた。
「見舞いの品持って来たぞ」
持ってきた果物をちらつかせてそう言うと、千馬は非常に不快そうな顔をした。
「テメェ……俺が今モノ食える状態と思ってんのかぁ? やっぱ皮肉だろぉ……」
「まあ、皮肉りに来たのは当たりだ。勿体無いからこれはおれが食う」
「ここで食うなここで! 性格悪いぞぉ……!」
「お前が言うな。他人に言われるより倍は傷つく」
訝しげな表情の千馬の前で、持ってきたリンゴを齧ってみせると、更に訝しげになった。
「どうせだったら嘲笑ってみせろよぉ……。無表情だと逆に気持ち悪い」
「どうせ相手を見くびってたのが敗因だろう? だからお前は夜乃や楼木に弱いと言われるんだ」
「俺をディスれって言ったわけじゃねえだろぉ」
リアルな名前を出されて、千馬は項垂れる。
さて……。
「そろそろ本題の方を聞いとくか。相手はどんな奴だ?」
「あぁ? 1週間位前に全員集めて言わなかったかぁ……?」
「その時おれはいなかった」
「そういやぁそうだったかぁ。相手は三人いた」
「写真は?」
「そんな暇無かったけどよぉ、全員覚えてるから問題ねぇ。1人は、黒髪で緑のヘアバンドしてて、あとジャージ着てる奴で……」
「……なに?」
黒髪で、緑のヘアバンドで、ジャージ?
「そいつ、さっき会ったぞ」
「ハァ⁉︎ マジかぁ⁉︎ って痛つつ……」
「他の奴は?」
「あ、あぁ……銀髪青目のデカイ奴と、赤い髪で目つきの悪い奴、全員男だ」
随分と目立つ容貌だな。
分かりやすくていいが。
「……つーかテメェ、今日は学校無えだろぉ? なんで制服きてんだぁ…?」
「普段着がこれしか無い」
「………」
「それより、そいつ等の能力は分かるか?」
「お、おぉ。ジャージの奴は、自分の影を操る能力だ。影で攻撃したり、影に潜り込んだり、何かと応用はきくようだった……。赤い髪の奴は、自分の傷を治していた。もう一人の奴は分からねえ」
「なるほど。まあ十分だ」
聞きたい事は聞いたので、正直もう用は無いんだが、なんとなく会話を続ける。
「見舞いに来たのはおれが最後か?」
「……見児を含めてお前が五人目だぁ」
「あと1人は……ああ、アイツか」
千馬は、今日1番の不快そうな顔をした。
「チッ……あの性悪女がぁ……リーダーが一番乗りだったってのに、今だなんの音沙汰無したぁどういうことだぁ!」
性悪女とは言うが、性質の悪さはお前といい勝負な気もする。
同族嫌悪というやつか。
「仮にアイツが来て、嫌味言われて10秒で帰られるよりはマシだろ。それと、『リーダー』って呼び方はやめておけ」
「へいへい、そうだったなぁ…」
話すことは話したし、あまり長居するのもなんなので、そろそろ帰ることにする。
「じゃあな。そのうちまた来る」
「次はもっとマシな見舞いの品持ってこいよぉ」
扉を開けて病室を後にし、来た道を戻って行く。
さて、さっきぶつかった奴が千馬を倒した連中の1人か。
確定したわけでは無いが、警戒しておいて損は無いだろう。
まあ、おれが何かする前に、他の奴等が事を起こすだろうが。
例えば、千馬が性悪女と称した、アイツとか。
*
あの後何気無く散歩を続けていると、駅前の公園までたどり着いた。
ごった返してる、というほどでも無いが、やっぱり人は多い。
あの中に、アイツの仲間がいたりするんだろうか……。
ブランコに座りながら、そんな事を考えていた。
「あ、そうだ」
俺は立ち上がり、右手を空にかざす。
そして、ツクヨミを呼び出した。
もしこの近くにブレード使いがいるのなら、俺が持っているコレに何らかの反応を示すはずだ。
そんな奴がいたら、十中八九奴の仲間だろう。
名案を思いついた気で、公園の入り口あたりに移動した。
が、少し冷静に考えてみる。
いくらブレードが見えたからって、そうあからさまに態度に出すだろうか?
向こうは味方が一人やられてるんだぞ?
当然俺達を少なからず警戒している筈だ。
ていうか、今更ながら、俺達の顔は向こうに割れているんじゃないか?
逆に虎視眈々と狙われてるかもしれない。
そんな状況でよく外出してきたな、俺達……。
考えれば考えるほど、不安要素が流れ出てくる。
下手にこういうことしない方がいいな……。
ブレードを戻そうとしたところで、背後から人が近づいてくる気配がした。
すぐさま振り向くと、誰かが俺に向かって飛びかかってきていた。
そしてその手には……光を放つ刃物状の物が握られていた。
「マジかよ……⁉︎」
咄嗟に防御し、そのままつばぜり合いになりかける。
なんとか攻撃を弾き、後ろに距離をとった。
結構ぞんざいな餌だったのに…ん釣り上げちゃったよオイ。
ソイツは小柄で、150センチあるか無いか位だ。
スカートを履いているので、女だろう。
パーカーを着ており、フード(なんか猫耳付き)を被っていて、素顔はよく見えない。
そして、手に持っているブレード。
刃が光を放っているのではなく、刃が光で出来ている。
ライト○イバーみたいな感じだ。
なんて言うか……すげえカッコいい。
それ欲しい。
「やっと見つけた。こんなに白昼堂々としてるとは思わなかったわ」
確かに危機感ゼロだったけど……。
痛い所をついてくるな。
「いいじゃねーか。こちとら手掛かり無しで参ってたんだ。簡単に出てきてくれてラッキーだよ」
「いや、ラッキーなのは私よ。こんな所で見つけられたんだから!」
言い終わるなり、少女は再び飛びかかって来た。
なんでいちいち飛ぶのか知らないが、ここは無難に躱しておく。
着地の瞬間を狙い、突きを繰り出したが、向こうも切り替えが早く、あっさり躱された。
俺はもう1度後ろに距離をとる。
まずは相手の能力を突き止め、本格的に攻めに転じるのはそのあとだ。
前回の様な失敗はしまい。
「今日は影が消される、なんて事は無いからな」
「? なによ?」
「別に。こっちの話だ」
次は俺の方から距離をつめ、軽く牽制に近い攻撃をいれる。
少女はなんて事ない様に、攻撃を全て躱す。
「フン! こんな程度? 大した事ないわね!」
「そいつはどうかな?」
当てようとはしていないが、向こうはかなり俊敏だ。
だが狙いは注意を俺の方へと向けておく事。
思惑通り、相手は足元の俺の影の様子に気づいていない。
体を動かしながら、影も同時に動かすのには神経を使うが、この程度ならなんとかなる。
相手の足を引っ掛ける程度なら。
「うわっ⁉︎」
かかった!
相手はバランスを崩したが、俺は追撃せずに距離をとった。
コイツはまだ能力を使ってない。
慎重すぎるかもしれないが、焦ってトドメに入って返り討ち、なんて事になったらシャレにならないからな。
さて、この後どう動く?
「ぎゃふっ! こ、このぉ!」
「……」
普通に転んで、普通に向かって来た。
しかもまた飛びかかり。
なんか……うーん。
仲間1人やられたにしては、いくらなんでも単調すぎないか?
スピードは速いけど。
「なあ、ちょっといいか?」
「うるさい! 話す事なんて無いわ!」
ああ、熱くなると周りが見えなくなるタイプの奴だ。
仕方がないので、影を伸ばしてがんじがらめにした。
「うわっ⁉︎ 何すんのよ! 離せ! 離せぇ‼︎」
「うっせー! お前ちょっと黙れ!」
少し強めに言うと、分かりやすくビクついて黙った。
戦闘の間にフードが脱げて素顔が見えているが、特に変な所の無い茶髪の普通の少女だ。
俺の口調に驚いてか、若干涙目になっているが。
「いや、あのだな……少し確認したいんだが、いいか?」
「……なに?」
「ほら、あの動けなくされて襲われるって事件あるだろ? その事について、なんか知ってる事はあるか?」
「! 知ってるもなにも、1周間くらい前、私ソイツに襲われる所だったのよ! なんか物音がした方にソイツが行ったから、ギリギリ助かったけど」
「え? ……物音って……まさか……」
1周間ほど前、忘れもしないあの日の事。
事件現場に遭遇し、警察を呼ぼうとしたが、つまずいて転び、俺は巻き込まれる羽目になった。
確かあの時、顔は見えなかったが、被害者らしき少女が倒れていたような……。
「ソイツ、私みたいにデカイ剣持ってたわ! アンタも似たような事出来るんだから、アイツの仲間なんでしょ⁉︎ アイツはどこなの⁉︎ 恨み晴らすついでに、犯行も止めてやる! アンタが仲間ならアンタも……うぐぐ⁉︎」
全貌が見えてきた……。
なんか色々面倒になり、とりあえず口を塞がせてもらう。
つまり……俺達は互いに同じ相手を探していて、互いに誤解して戦ったと。
被害者と被害者、夢の共演ってか?
うっせーよ馬鹿。
本物の性悪女は、のちに楊太郎の病室に現れ、10秒間嫌味を言った後、見舞いの品と称し根付きの植物を残して去って行きました。




