第7話 「VSアメノサギリ②」
鏡の中では既に、二人が激闘を繰り広げていた。
やってる事はシンプルな打ち合いだが、お互いの得物がデカいので、かなりの迫力だ。
「雄生! そいつの攻撃は食らうな! 体が動かなくなるぞ!」
「了解ッス‼︎ 一発ももらいませんよ‼︎」
「ヘッ! そいつはどうだろうなぁ〜?」
何回か打ち合った後、2人は互いにバックステップする様にして距離をとった。
すごいな雄生。
「フウ。どんな奴かと思ってたら、そんなモンか? 所詮は漢らしくねえ事するしょうもねえ野郎なわけだ」
「弱え奴程そうやって吠えるもんだぜぇ? ゴタゴタ言ってねぇで、さっさと俺に切られたらどうだぁ⁉︎」
互いに啖呵を切った後、雄生は赤いパーカーの上に羽織っていたブレザーを脱ぎ捨てた。
「吠えてんのはどっちだコラ‼︎ 食らいやがれ‼︎」
「ちょっとは落ち着けって!」
雄生が再び切りかかろうとしたのを遮り、俺は奴に向かって行った。
「へぇ、次はテメエかぁ?」
奴はニヤリと笑い、俺の攻撃を防御する。
「頭に血が上ってたら、うっかり攻撃受けるかも知れないだろ⁉︎ 今の内に頭冷やせ!」
「ハア……スンマセン」
「オイ、人の心配してる場合かぁ?」
奴は防御した俺のブレードを振り払い、そのまま自分のブレードを俺に振り下ろした。
俺は半身になってそれを躱す。
その直後、奴は何かに気づいた様な顔をして笑った。
「なぁ、お前手を怪我してる様だが……それはなんだぁ?」
「べ、別になんでもねーよ」
関係無い所で転んで怪我した、とは言えない。
「これがどうかしたかよ?」
「いや、大した事じゃあねえんだがなぁ……」
不意に、右手が痺れ始めた。
まさか……⁉︎
攻撃は食らってない筈じゃ⁉︎
「何で……⁉︎」
「もう、俺のペースなんだわ」
奴はそう言い、嘲笑じみた笑みを顔に貼り付け、俺に思い切り蹴りを入れて吹っ飛ばした。
「うぐぁ!」
「なっ⁉︎」
吹き飛ばされ、体がコンクリートの壁に叩きつけられた衝撃で、全身に激痛が走った。
雄生が驚いた様子で駆け寄ってきた。
「どういう事ッスか⁉︎ 命さんは攻撃を食らってなかったんじゃ‼︎」
「待て……。今考えてる」
アイツの能力は、何らかの方法で相手の体を痺れさせる事。
それは間違いない筈だが、その方法を間違って解釈していた……?
「しょうがねえ奴等だなぁ。まだ気付かねえかぁ? この辺に霧が発生してる事によぉ」
霧……?
あたりを見渡すと、いつの間にか周囲が霧に囲まれていた。
……ああ、そうか。
分かった気がする。
「この霧がお前の能力か。いや、毒霧って言った方がいいか? これが傷口から侵入して、相手の体の自由を奪う……」
「おぉ、ようやく理解したかぁ? 因みに今回は霧の濃度を上げてるからなぁ。あの時よりも回りが早いだろぉ?」
確かに、既に立つ事もままならない。
迂闊だった。
最初に戦った時も、足に掠ったとでも思い込んでいたが、そうじゃ無かった。
その前の日に、俺は躓いて転んでいた。
その時に足を擦りむいていたから、あの時は足が痺れたのか…。
「けど、これじゃお前を倒せねぇのは分かってる。妙な事される前に、病院送り程度には怪我してもらうぜぇ?」
奴は俺を切りつけようとするが、雄生が攻撃を受け止めた。
「チィッ! ジャマすんじゃねぇ!」
「ジャマじゃねえ。ただ少し時間を稼いだだけだ」
俺はその時間を利用し、影に潜んで奴の後ろに回り込んだ。
「悪いな雄生……!」
影の中からでは攻撃出来ないので、俺は姿を現した。
だが、ロクにブレードを振る事も出来ない。
だったら、攻撃手段はもう決まってる。
影を伸ばしてのパンチの様な攻撃を、全力で奴に叩き込んだ。
直前、奴の正面にいた雄生は身を躱したので、奴の体だけがコンクリートの壁に吹き飛んだ。
「ぐおぁっ!」
さっきの俺の様に全身を打ちつけた奴は、苦しげな声を漏らした。
「ゲハッ……畜生がぁ!」
本調子じゃない所為か、まだ慣れない所為か、ダメージは少ない。
奴はすぐに立ち上がり、俺の方に……ではなく、ジャンプして、俺の後ろにある背の低い電灯に向かってブレードを振り上げた。
「! しまっ……」
「もう遅ぇ!」
奴の考えを察した時には、既に電灯は破壊されてしまった。
「前回とさっきので、テメェの能力は完璧に理解した。ここは陽の光が当たりにくいしよぉ、近くに光が無えと、影も出来ねえよなぁ?」
近くにあった光源が無くなり、俺の能力の感覚が消えた。
まずい……。
今の俺は身動き一つ出来ない。
攻撃されても、防御も反撃も出来ない。
「コッチ向けやあ‼︎」
「うおぉ⁉︎」
雄叫びと共に雄生がブレードで奴に切りつけた、と言うより、叩きつけた。
奴は咄嗟にブレードでガードするが、少しよろめいた。
「命さん、後は俺に任せてください。コイツには色々と聞きたいこともあるんで」
「さっきからトドメって時に邪魔しやがってぇ……この辺には鬱陶しい奴しかいねぇのかぁ⁉︎」
2人はそう言い、再び打ち合いを始めた。
後は任せろって……。
俺特に役立ってねーんだけど。
「まず1つ聞く。さっきのチンピラ共、テメエの仲間だろ? なんで殴ってた?」
「あぁ? 決まってんだろぉ。役に立たねえからだよ。聞けばテメェら、アイツらと昨日揉めたらしいじゃねえかぁ? そん時にビビッちまったんじゃなぁ」
「ハア……?」
「テメェもテレビが映んなくなったら、叩いて直そうとしたりすんだろぉ? つまりはそう言うこったよ」
奴の話を聞くうちに、だんだんと胸糞悪くなってきた。
コイツは本当に外道だと思った。
だが雄生の方は俺以上に穏やかでは無いらしい。
顔色が憤怒一色に塗り潰されている。
「しっかし、アイツらホント情けねえなぁ。1発殴ってやっただけで全員慌てて逃げ出しやがってぇ。ありゃ小せえわ。何やったって成功しねぇクズなんだろうなぁ。同情すら出来ねぇ」
「うるせえぞ‼︎ テメエの様なクズに誰かを見下す権利は無え‼︎」
雄生はブレードを真上に上げ、奴に叩きつけようとする。
しかし、あれでは隙だらけだ。
完全に冷静さを失ってる。
「馬鹿かぁテメェ! ガラ空きなんだよぉ‼︎」
奴は雄生の胸辺りに、ブレードをかすらせる様にして軽い傷をつけた。
「雄生!」
「残念だなぁ! テメェらはもう負けたぁ! その小さなかすり傷でも、俺のアメノサギリの毒霧には十分だぁ! 間も無くテメェも身動き1つ取れなく……っ⁉︎」
勝ち誇った様子で雄生の攻撃を軽々躱した奴は、続く雄生の追撃をモロにくらい、コンクリート壁に強く打ち付けられた。
「そ……んな馬鹿なぁ? 何故毒霧が……」
「……まあなんだ、他人を見下し過ぎたテメエの落ち度だ」
雄生は切られた箇所を確認し、吐き捨てる様に言い放った。
「ありえねぇ。確かに傷はつけた……! この三下がぁ……! 見下してんじゃねぇ!」
奴が苦しそうに立ち上がって振り上げたブレードは、雄生の頬を掠めた。
「今度こそだ! 傷はつけたぞ…⁉︎」
「なんだ? もう傷が……?」
確かに今、奴は傷をつけていた。
だが、既に雄生の顔からは傷が消えていた。
恐らく、さっきの胸の傷も消えているんだろう。
毒霧が侵入して来る前に、傷口が塞がってしまっている。
「治癒能力……!」
今まで能力が分からなかった訳だ。
怪我してなけりゃ、発動のしようもない。
「馬鹿な……こんな事が」
「さて……万策尽きたか? この三下があ‼︎」
雄生が繰り出した左拳は、奴の顔面にクリーンヒットした。
「ぶがおぉ‼︎」
「オイ……2メートルくらい飛んでねえか? どんなパワーだよ」
「もうちょっと待っててください。始末つけてきますんで」
奴が吹っ飛んだ方へ、雄生はゆっくり歩み寄る。
十分な距離まで近づき、奴の胸倉をつかんで持ち上げた。
「ま……待てよ! もう戦う意思は無え! 今ので反省したって! だから…その手を離ッブグォ⁉︎」
言いかけた奴に、雄生は膝蹴りをいれた。
命乞いしながらだまし討ちを狙ったのか、奴の手からはナイフが落ちた。
「反省だ? ポケットからナイフ取り出しながら言うセリフじゃ無えな。第一、今更そんな事言って逃れられると思ってんのか? 今の蹴りだけじゃまだ足りねえぞ‼︎ 歯ぁ食いしばれ‼︎」
雄生はブレードから手を離し、空いた手で奴の顔面を思い切り殴った。
同時に、奴の歯が二本程へし折れて、何処かへ飛ばされたのが見えた。
続いて、地面に奴を叩きつけ、思い切り蹴飛ばした。
「え……」
「‼︎ ヤベッ‼︎」
あろう事か、奴は俺がへたり込んでる方へ飛んできた。
雄生の「しまった」と言う風な表情が見える。
当然奴は、俺の首元にブレードを突きつける。
「ハァ……ハァ……そこから動くなぁ! 少しでも変な事してみろぉ。どうなるかは分かるよなぁ……?」
「クッソ‼︎ 命さん‼︎」
「さあ……お前はそこに落ちてる俺のナイフで自分を刺せぇ。そうすりゃコイツは見逃してやる」
「……ッ」
「へへ……雄生、拾わなくていいぞ」
ナイフを拾おうとしていた雄生は、俺の制止に驚いてこちらを見た。
「命さん……?」
「別に拾う必要なんて無い。もうコイツに勝ち目は無えんだから……クハハ」
「な、なんだテメェ……? 何がおかしい⁉︎」
「へへへ……何がって……これが笑わずにいられるか?」
言い終わったのとほぼ同時に、俺はライトの様な光で照らされた。
雄生の背後から、いつの間にか携帯のライト機能でこちらを照らす、悪趣味な笑みを浮かべた銀髪の男が歩いてきていた。
「こんな薄暗い所でなにやってんの? やっぱり明るい方がいいよね、命君?」
「ああ、そうだな。明るければ影もできるしな!」
「ま、待てテメェ! 妙な事を……ブゴェ!」
奴が言い終わるのを聞かず、俺は無数の影の連打を奴にぶち込んだ。
奴は雄生と偽造がいる方まで吹っ飛ばされる。
「さあて、もう結構酷い目にあってるっぽいけど、彼をどうする?」
「ヒィっ! 待ってくれぇ! もう再起不能なんだぁ! 見逃してくれぇ!」
まだ命乞いをすんのか。
とことん小者だな。
そんな奴に、雄生も怒りを露わにしている。
「本当に……テメェは……漢の風上にも置けねえなあ‼︎」
雄生は倒れていた奴を乱暴に掴み上げ、さながら野球のバットの様に、奴目掛けてブレードをフルスイングした。
「うがおあああぁぁぁぁ‼︎」
奴は10メートル程ぶっ飛び、地面に落ちて数回バウンドしたのち、そのまま意識を失った。
そして、奴のブレードは砕けるように消滅し、俺の体から痺れが取れた。
……アイツ死んでねえよな?
*
「僕は最後だけだけど、一件落着かな?」
「ったく……まだ胸糞悪いッスよ。あそこまでの奴だとは」
戦闘を終え、2人は話し合っていたが、俺にそんな元気は無いし、1つ疑問があった。
「なあ偽造、聞きたい事あんだけど……」
「あ、そう言えば命君。また能力食らってずっと座り込んでだよね? もしかしてずっとあのままだった? そして最後にいいとこ取り……」
「う、うっせーな! あれには訳が……ってそうじゃねー!」
早くも脱線したので、すぐに軌道修正する。
「お前、どっからここに入ってきた?」
「どこって、普通に鏡からだけど」
「いや、お前が入って来るとこ見てねえぞ」
「そりゃ、鏡は向こうでしょ? ここから見えるわけ……」
「向こう……?」
偽造は、俺達が入った鏡とは別の方向を指差して言った。
「何言ってんスか偽造さん? 鏡はここじゃ……」
混乱した様子の雄生が指差した方には、俺達が入ってきた鏡と、白衣の男が立っていた。
「あ〜らら。そりゃそうだよね、うん」
見児は、いつもと変わらず、余裕がある表情でそこに立っていた。
ブレード名:アメノサギリ
所有者:千場楊太郎
身体強化:パワー型
形状:全体が灰色の大剣で、七支刀の様な枝が四本伸びている。
能力:所有者の周囲に毒霧を発生させる。
・毒霧は相手の傷口から侵入し、体を痺れさせて動きを封じる。




