表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/64

第60話 「ヤタガラスの巣は此処に②」

 地面を蹴り、雲村の頭に銃口を向け、3回引き金を引いた。

 ブレードによる身体強化があるとはいえ、片手で撃てる程度の威力だ。

 それでも頭に食らえば普通死ぬが、奴には効かない。

 だからこれは、ただの撹乱だった。


 全弾顔に命中し、雲村は首を仰け反らせる。

 お前がどういう存在か知らないが、ものはその目で見ている筈だ。

 今、お前の視界におれは入っていない。


 右手のブレードを奴に突き刺そうとしたが、奴は自身のブレードを持つ腕を横に薙いで防御した。

 攻撃されそうな位置を咄嗟に守ろうとした結果だろう。


 だが、それ位は予想出来る。

 ブレードを一瞬だけ消し、袖口から手錠を取り出し、奴のブレードを持つ手に掛けた。


「!」

「もう防御出来ないな」


 余った方の手から銃を捨て、再びブレードを出現させる。

 そしてそれを、今度こそ奴の左胸に突き刺した。


 人を刺したとは思えない程軽い感触が、ブレード越しに伝わってくる。

 あまりに手応えがない。


「ブレードで刺せばボクもダメージを負うと思ったかい? 残念だったね」


 雲村はそう言い、自由が利く方の手をおれの胸倉へと伸ばしてきた。


「! 避けてください!」


 背後から望川の声が響く。

 咄嗟にその手を払った。


 更に、手錠を掛けた方の手も、おれの腕に触れようとしていた。


「ッ……」


 何か分からんが、触られるとマズイのは確からしい。


 手錠の掛かった奴の手をブレードで斬り落とし、少し後ろに距離をとった。


「ふーん……」


 雲村は斬り落とされた手の断面を横目で眺め、仮面の表情をおれへと向ける。


この前(・・・)初めて見た時から何となく思ってたけど、流石にやるね」

「……なに?」


 不可解な言葉がおれの耳に届いた。

 この前、だと?


「生まれつきか何か知らないけど、今までかなりブレードを扱ってきたみたいだし、戦い慣れてるし。キミの半生に興味あるな」

「おい待て。何を言っている」

「何って、ただの感想だよ。それがどうか……」

「『この前初めて』? 『生まれつきか何か知らない』? おれを馬鹿にしているのか?」


 雲村は笑顔を崩し、少しだけ怪訝な表情をした。

 何を言ってるのか分からない、という風な目でおれを見る。


「と、言うと?」

「数年前……お前はいきなり、おれの前に現れただろ! そして一言二言言い残して、おれにこのブレードを与えて消えただろ!」


 ブレードを突きつけ、雲村に声を張り上げる。

 当の奴は怪訝な表情を強め、腰に手を当て考える素振りを見せた。

 数秒の間を開け、やがて雲村は口を開いた。


「いや……記憶にないね」

「ッ、馬鹿な! あれは確かにお前だったぞ。容姿も服装も、あの時の男はお前と全く同じだった!」

「だから身に覚えが無いって。キミと初めて会ったのはつい最近だ。過去にキミが誰に会ったか知らないけど、それはボクじゃない」


 雲村は真面目な顔で言い切った。

 真偽は分からない。

 こいつの態度は読めない。

 謎ばかり強くなる……。


「お前……何者なんだ?」

「雲村見児。キミが知ってるのはこれだけでいい」


 雲村は仮面の笑顔を取っ払い、表情を消した。

 そしてブレードを構え、こちらに斬りかかってくる。


「終わらせようか。この話もキミの命も」


 斬撃を防御する。

 その隙をつき、雲村の顔にブレードを突き出す。

 奴は首を傾げて躱し、切断された方の腕をおれに向けた。

 形は大きく崩れているが、手が再生しかかっている。

 掴まれまいと、おれはまた少し後ろに下がった。


 ……あまり後ろに下がるのはよくないな。

 望川がいるし、壁を背に戦う事になる。


 おれは懐から銃を1丁取り出した。

 食らえばその部位が吹っ飛ぶ威力の物だ。

 普通両手で構えないと反動で肩が潰れるが……まあ今ならギリギリ大丈夫だろう。


 引き金を引いた。

 鼓膜を激しく揺さぶる銃声と、肩から先が吹き飛ぶかと思う程の反動が響く。


 銃弾は雲村の右胸に命中し、奴は後ろ向きによろけた。

 態勢を立ち直した奴の体は、弾の当たった右胸付近を、右腕諸共吹き飛ばされていた。

 だが、奴の表情に苦痛の色は一切ない。


 大分原形に近づいてきた左腕を振るい、雲村は何かをおれに投げ飛ばした。

 軌道上に望川がいない事を確認し、それを躱す。

 背後の鏡に命中し、割れて床に破片が散らばる音がした。

 同時に聞こえた落下音で、奴が投げたのは銃弾だと分かった。

 おれが撃ったのが体内に残っていたらしい。


「ねえ狩真。キミって服の下に銃火器いっぱい仕込んでるよね? それってどうやってるの?」

「はぁ? いきなり何を言い出す」


 雲村は前触れもなしにそう言ってきた。

 体が抉れた男が、そんな事気にする事じゃないという風な態度を取っている点で異常な光景だ。


「いやね。ただ仕込んでおくだけで収まる量じゃないでしょ? だから聞いてみたくなったんだ。ほら……同じ事やってる身(・・・・・・・・)としてね」

「⁉︎」


 その瞬間、足を何かに掴まれた。

 見下ろすと、床に散らばった鏡から、少しヒビの入った手が伸びていた。


「何ッ……!」


 奴の吹っ飛んだ右腕……⁉︎

 いつの間に——


 全身の痛覚が悲鳴をあげ、おれの体は血を噴き出した。


「ガハ……」


 吐血し、その場で膝をつく。


「体から離れた右腕の力じゃ、こんなものか。でも血を吐いた。そうは動けないでしょ?」


 雲村は冷たくおれを見下ろしながら、こちらに近づいてきた。

 すぐそこまで来て、おれに視線を合わせるように身を屈めた。


「ボクの能力が、ただ鏡の中を出入りするだけだと思っていたのかい? そこを誤ったのがキミの敗因さ」


 いつも通りの回りくどい言い回しを展開しつつ、雲村はおれの頭に左手を添えた。


「気になる事は少しあるけど、運命だと思って割り切ろう」

「……油断したな」

「ああ、後悔はゆっくりするといい。あの世があるかは知らないけど」

「勘違いするな。油断ってのはおれじゃない……お前に言ったんだよ」

「?」


 ただ斬ったり撃ったりしても、お前にはききやしない。

 マジに化物だよ。

 だが。


「体の内側から木っ端微塵になったら、お前はどうなる?」

「……ッ!」


 雲村は自分の体——さっきおれにブレードで突き刺された左胸に視線を向け直した。

 今は塞がっていて、一見元通りだ。

 ただし外見だけな。


 奴の気がそれた一瞬を、おれは見逃さない。

 握り拳を奴にぶつけ、揺らいだ隙に立ち上がり、体を蹴り飛ばした。


 距離が十分離れた。

 それを確認し、懐に忍ばせたスイッチを押した。

 

「伏せろ望川!」


 咄嗟にあげた声に、望川はビクリとしつつも大人しく従う。

 おれが雲村に背を向け、ハリウッド映画のようにダイブし、床に体がついたと同時に——


 おれの背後で、雲村は爆裂した。


 規模は小さめとはいえ、密室での爆発。

 熱と爆音から身を守ろうと、おれと望川は身を伏せながら耳を塞いだ。


 立ち上がり、爆発した方へ振り返る。

 壁は爆風で小さな穴が空き、周囲は黒く焦げていた。

 雲村は、跡形もなく消えていた。


 伏せた体を起こしながら、望川はおれに尋ねた。


「……何をしましたの?」

「奴の胸にブレードを突き刺した時、そこに爆弾を埋め込んでおいた。だから距離を取るよう立ち回りたかったんだが、なんとかなったらしい」


 体を払いながら、おれは望川の疑問に答える。

 そして、楼木の亡骸に視線を移した。


「…………」


 なるほど。

 鳴谷響人……あの時のお前も、こんな気分だったのか?


 おれの思った事を察したのか、望川は黙り込む。

 歪んだ傲慢さの塊だと思っていたが、それはあくまで外殻に過ぎなかったようだ。

 おれの知る望川とは、雰囲気が大きく違う。


「……さっさとここを離れよう。じきに人だかりができるし、奴はまだ死んでないかもしれない」

「⁉︎ そんな、あれでも倒しきれないんですの⁉︎」

「もしもの話だ」


 いや、むしろその確率の方が高いかもしれない。

 あいつには謎が多すぎる。

 爆弾で殺せたという確信が持てない。


 楼木を背負い、ややふらつきながら部屋を出た。

 望川も浮かない顔でおれに続く。


「あの……狩真さん」

「なんだ」

「本当に……もう碇さんも、楊太郎さんも、環さんも……」


 赤い瞳から、ポロポロと涙が流れた。

 ……本当にあれは外面だけだったのか。

 ちゃんと仲間のために泣けるんだな、お前は。


「ああ」

「…………」

「だが夜乃は生きてる筈だ。重傷だが」

「!……そうですか」


 望川は、少しだけ安心したような表情を浮かべたが、悲しむ涙は流れ続けていた。


 おれは泣けない。

 意地でもなんでもなく、泣き方が分からない。

 あれだけ自己嫌悪に陥って、死にたくなる思いもして来て……気づけばおれは、涙が流せなくなっていた。


 だから、泣けるという事が少し羨ましかった。


「夜乃の事だ。少し寝ればすぐ動けるようになるだろう」

「確かに……そうですわね。狩真さんの怪我は大丈夫ですの?」

「これ位自分で手当て出来る」


 言葉を交わしながら、俺たちは歩いて行った。







 無人になったマンションの一室。

 狩真たちは気づかなかったが、そこに仄かな光を放つビー球のような物が、1つ転がっていた。


 それは、核だ。

 雲村見児を形作る心臓部と言える物体だった。


 その物体には傷一つない。

 そしてそんな状態になりながら、雲村見児の思考はハッキリしていた。


 狩真の勘は、当たっていたのだ。


(参ったな……。まさかここまでやられるなんて。これじゃ完全に再生するまで数日はかかりそうだ)


 雲村見児は思案する。

 今後どのように行動するかを。


(狩真はまだボクの事を用心している。再生した頃には、幽永もある程度回復しているだろう。そして恐らく、何処かへと行方をくらませてしまう。かと言って、幽永が回復する前……不完全な状態でも、狩真と巴2人に勝てるかどうか。行方をくらませた彼等を見つける事は……出来なくはないけど、そうまでして執着する理由はない、と……)


 彼等に関わるのはここまで。

 そう結論付けられた。


(動けるようになれば、一旦戻ろう……。ゴメンよ『アンシ』。今回は少し少なくなった……)


 思いを馳せながら、見児は再生を待った。

ブレード名:???

所有者:雲村見児

身体強化:バランス型

形状:ドーナツの様な円盤型で、中心の穴に十字の持ち手がある。

能力:鏡に関する能力を持つが、謎が多い。

・鏡の世界を作り出し、干渉した相手はブレード能力を得る。

・鏡の世界は、現実世界が元になっているようだ。

・干渉する相手は見児が選べる。

・他にも何らかの技を持つらしいが、詳細不明。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ