第6話 「VSアメノサギリ①」
「というわけで、こちらが昨日不運にも巻き込まれてしまった諏訪間雄生だ」
昼休み、学校の屋上にて、俺は偽造に昨日の事を簡潔に報告していた。
一通り話し終えると、偽造は「なるほど」と相槌を打ち、雄生の方に向き直した。
「いやあ、大変だったね、雄生君。かなりビックリしたでしょ?」
「そりゃあ、いきなり鏡の中に突っ込まれたら。誰でも驚くッスよ」
まあそうだわな。
俺なんて、あの状況で尚且つ危うく被害者になるとこだったしな。
よく無事でいられたよ、本当。
「それでさ、雄生君のブレードってどんなの?」
「俺も見てねーな。ちょっと見せてくれよ」
偽造の言葉に思わず便乗してしまった。
だって気になるし。
「まあ、こんなもんですかねっと」
雄生の右手に現れたブレードは、ぱっと見モン○ンのランスにノコギリの刃をつけた様な外見だ。
殆どの部分が黒で、ノコギリ部分は赤。
そして、形状の所為か、かなりでかく見える。
「へえ、結構いいんじゃねえの? それで、能力は何なんだ?」
「それなんスけど……よく分からないんスよ。どういう感覚でやればいいのか」
「ふーん……。まあ、そればっかりはしょうがねーな。なんとか自分で見つけねーと」
「それはおいおい見つけるとして……最優先事項がまだ決まってないんじゃない?」
「あ、そう言えばそうだ」
「ハイ?」
まだアレを聞いてなかった。
そもそも、まだ付いてないんじゃないのか?
それは由々しき問題だ。
「名前を……決めるぞ!」
「名前って……コレのッスか?」
「何か問題あるか?」
「いや、別にそういうんじゃ」
「そうだな。流れで日本の神から取るのは決定として、コレに合うイメージとなれば…」
「『タケミカヅチ』とか⁉︎」
「お、それいいんじゃねえか? よし、今日からお前はタケミカヅチだ」
「ハ、ハア……」
いい名前が早めに決まって良かった。
雄生も感嘆の声を漏らしている。
「そんな事より、俺達はこれからどうするんスか? 事件の犯人をどうやって止めれば……」
「ああ……確かにその辺の問題は多いんだよな」
「まあね。あれっきり事件は起きてないし、手がかりらしい手がかりも無い。僕達には顔が割れてるから、そう安々と下手な事もしないだろうしね」
「しかもだ。仮にアイツを止められたとしても、また別の奴が行動を起こすかも……」
「何となく予想はしてたッスけど、ソイツまだ仲間がいるんスか?」
「ああ。それも昨日みたいなただのチンピラじゃなく、多分ブレード使いだ。そもそも、アイツはリーダーとかじゃないだろうな」
雲村見児が、それを仄めかす様な事を言っていた気がする。
相手が同じブレード使いならハリが出るだの、自分は言われてブレード使いを増やしただけで、直接加担はしないだの。
思い返せば、アイツもかなり勝手な奴だ。
「要するに、今俺達が出来ることは、特に無いって事ッスか?」
「まあ、そういう事になるな……」
一通り状況を把握した雄生は、悔しそうな顔をした。
俺だって落ち着かない。
落ち着かないが、どうすればいいか分からない。
二人して淀んだ気分になっていると、偽造が口を開いた。
「前に命君には似た様な事何回か言ったけどさ、今焦ったって仕方ないよ。それに、出来る事が無いことは無いさ。この辺見回れば、案外見つけられるかも知れないじゃん?」
「……お前、なんでそんな余裕あるんだ?」
「余裕? そんなの無いよ。僕だってこれでも悩んだり焦ったりするさ。でも、だからってナーバスになっちゃ駄目だ。出来る事を見つけて、それを徹底的にやる。そうしていれば、何かに近づけるかも知れないじゃない? 近づけなかったとしても、出来る事はまだまだあるしね」
「……そうッスね‼︎」
「ああ、そうだな」
普段はヘラヘラしてる癖に、こういう事言うと、途端に説得力が出るから不思議だ。
なんだかんだいい奴だからな、コイツ。
「まあ、命君は身なりに関して出来る事やった方がいいけどね? 例えば制服…って痛ぁ⁉︎ ま、まさかの膝蹴り…?」
本当、いい奴だと思うよ?
いい奴だけど嫌な奴だよ?
*
「命さん、ちょっといいッスか?」
下校時間になり、俺が下駄箱で靴を履き替えていると、雄生に声をかけられた。
用件はなんとなく分かる。
「何だ?」
「この後何か予定あるんスか?」
「そうだな……ちょっと見回りでも行ってくるか」
「俺も行っていいッスか⁉︎」
やっぱそうだよな。
まだ会って一日ちょっとしか経ってないが、コイツならそう言う気がしてた。
「ああ、俺もお前か偽造と行こうと思ってたんだ。一人だともしもの時ヤバイからな。逆に頼むぜ」
「ウス‼︎ なんで偽造さんは呼ばないんスか?」
「アイツは居残りだとよ。昨日の小テストの点数ヤバかったらしい」
「そうなんスか……」
雄生の中では、偽造は一体どう写ってんだか。
少なくとも、昼休みから現在までの間に右肩下がりになってる事は確実だろう。
アイツ、絡めば絡む程に残念っぷりが露呈していくからな。
「それで、命さん。どの辺行けばいいんスか?」
「分からん。虱潰しに詮索するしか無えな」
「了解ッス。絶対何とかしましょう」
「当たり前だ。じゃあ、行くか」
学校を出て最初に向かったのは、一週間前、俺と偽造が奴と対峙した駅前の公園付近だ。
駅が近いだけあって、人通りはそれなりに多い。
あの時は登校時間のピークが過ぎてた事もあり、殆ど人は通って無かったが。
「まあ望み薄だが……心当たりのある場所が少ないしな」
「こんだけ人がいる所に来るんスか?」
「人を隠すなら人の中って言うじゃねーか」
「なるほど」
そう言っても、やはりここは駄目な気がする。
候補はもう一つあるし、そっちも当たるか。
「もう少ししたら、場所変えるぞ」
「ウス」
そう思って気が緩んだのも束の間、見覚えのある男が視界に入った。
あの時と寸分違わぬ格好で、アイツは俺達の前を通っていた。
「マジかよ……」
「命さん?」
「いた。まさかこのタイミングでとは思ったけど」
それを聞き、雄生は緊張した面持ちになる。
多分、俺も似たような顔をしてると思う。
「どいつッスか?」
「金髪で顔に刺青してるつなぎの奴だ」
「アイツが……‼︎」
「落ち着け! こんな所で騒ぎ起こしたら、関係無い奴が巻き添えになる。後をつけるぞ」
「……了解ッス」
今はそれが最善だろう。
うまくいけば、アイツの仲間の事も分かるかも知れない。
奴をつけて行くと、昨日の一件があった場所まで来た。
アイツはそこで、はたまた見覚えのある誰かと話していた。
「アイツら昨日のチンピラじゃねーか?」
「やっぱりアイツら仲間だったんスね」
「ああ。けど、なんか揉めてねーか?」
遠目からなので良く見えないが、アイツはチンピラ達に怒鳴ってる様に見える。
そして、終いには一人の顔を殴りつけ、チンピラ達は逃げる様に去って行った。
「なっ⁉︎ 一体何なんだあの野郎‼︎ アイツら仲間なんじゃねえのか⁉︎」
「分かんねーけど……やっぱロクでも無い奴ってのは確かだ」
アイツはあの時言っていた。
自分より弱い奴を一方的に虐げるのは快感だと。
それを聞くだけで、まともな神経はしてないと分かる。
その後奴は、路地裏の方に入って行った。
「命さん」
「ああ」
俺達もその路地裏の方に行く。
あの鏡のある、そもそもの発端がある場所だ。
けど、今更あんな所へ行って何をする気だ?
顔を隠す様な物は無かったし、この時間に事件を起こせば、誰かに目撃される確率は高くなる筈だ。
そんな俺の疑問は、すぐさま吹き飛んだ。
「うぐっ⁉︎」
「なにっ⁉︎ 命さん‼︎」
路地裏を入って角を曲がった所で、アイツは待ち伏せていた。
そして、先に角を曲がった俺の鳩尾めがけ突きをくらわせた。
たまらず、地面に膝をつく。
「ケッ。やっぱつけてたのはテメエかぁ。もう一人の奴は知らねえがよぉ……見児の野郎また教えやがったのかぁ」
「この野郎‼︎」
雄生は瞬時にタケミカヅチを出し、奴に切りかかった。
奴も自分のブレードを出し、すかさず雄生の攻撃を防御する。
だが、受け止めた奴は少し後ろに仰け反った。
「くっ! パワーは対したもんじゃねえかぁ」
「そりゃどうもな‼︎ すぐ直に食らわせてやるから楽しみにしてろ‼︎」
雄生は啖呵をきり、ブレードを振り回す。
単純な攻撃だが、奴は防戦一方で苦戦している。
「チィッ! 鬱陶しいなぁ!」
「うっ‼︎」
奴が苦し紛れに出した蹴りが、雄生の腹に直撃した。
その隙に、奴は奥へと走って行った。
あの鏡がある方向だ。
「雄生、大丈夫か⁉︎」
「ハイ、あんま痛く無いッス‼︎ 命さんこそ大丈夫スか⁉︎」
「平気だ。それより早くアイツを追うぞ!」
「ウス‼︎」
立ち上がり、奴が逃げた方へ走る。
奴は丁度鏡の前にいた。
「ククク。続きを始めようぜぇ? テメエ等もその気なんだろぉ?」
奴はそう言って、鏡の中に入って行った。
「上等だコラ‼︎ 行くッスよ命さん‼︎」
「待て待てっ……たく」
俺の声も聞こえない様子で、雄生は鏡に突っ込んで行った。
俺は、まず偽造にこの事を連絡しようと携帯を取り出した。
『もしもし、命君? どうかした?』
「奴を見つけた。今雄生が追いかけてる」
『⁉︎ ……いま何処?』
「あいつらあの鏡の中に入って行った。お前も居残り終わったんなら早く来い!」
電話をきり、俺も鏡の中に行こうとした時、何かに躓き、反射的に手を出して、手をガラス片で切ってしまった。
「いって! 何だよクソ……」
足元には、小さなクレーターの様なくぼみがあった。
やっぱここは足場悪いな。
ていうか何で俺はこんなにも何かに躓くんだよ。
学習しろ。
「こんなんで大丈夫か、俺」
若干不安になるも、俺はツクヨミを出し、鏡へ足を伸ばした。
ブレード名:ウカノミタマ
所有者:勾原偽造
身体強化:バランス型
形状:やや長めの刀身を持ち、剣先が鉤爪の様に湾曲している。
能力:ブレードで触れた物や切った物を、別の物に変える。
・爆弾や機械の様に複雑な構造の物には変えられない。
・液体を個体に、個体を液体には変えられず、気体には効果はない。
・偽造曰く、「使いこなせる様になったら、もっと凄い事が出来そう」との事。




