第48話 「銀の狐と黒い蛇-激闘②-」
少し整理してみよう。
向こうは今の時点で、僕より身体能力が高い上にまだ100パーセントじゃない。
更にブレード能力も未知のもの。
例の謎の威圧感に関係ある可能性は高いけど、ハッキリとは分からない。
さて、どうしたものかな……。
そう考えていた時、幽永君は僕を指差した。
「ホラ、またゴチャゴチャと考えてるだろ? 悪い癖だな」
「……人それぞれに、色々と戦うスタイルがあるのさ」
さっきと同じ事を指摘され、少し動揺する。
スタイルといえば、僕と彼は文字通り真逆なんだろう。
僕がその時その時で色々考えるのに対して、幽永君は自身のセンスに全て任せてるってところかな。
僕も最近は……というか、幽永君と戦って以降、体が先に動く事も多くなってきた。
なんでだろう。
僕にはそういうセンスが眠っていて、彼との戦いでそれが起こされたのか……。
ちょっと都合よすぎるかな?
おっと、またゴチャゴチャ考えてる。
彼の言う通り、もっと目の前に集中しないと。
「カハッ! そうそうその目だ。戦いってのは、そういうもののぶつかり合いだ!」
幽永君はブレードを振り、崩れかかっていた残りの塀にぶつけた。
その衝撃で砕けた塀の破片が、僕の方へ飛んでくる。
僕はそれを横に跳んで躱した。
あの程度の物量なら、斬り捨てる必要はない。
体がそう判断してくれた。
次はこちらの番。
僕はブレードを構え、幽永君に斬りかかった。
「……」
幽永君は腑に落ちない、という様子でブレードを構えた。
そりゃ、僕と彼がまともに斬り合っても結果は見えてる。
だから当然、無理な勝負を仕掛けるつもりなんてない。
狙いはこれだ。
足元に転がる、最初に斬り捨てた瓦礫の一部をブレードでうち飛ばした。
軽くて斬りやすい、発泡スチロールと化した瓦礫は容易くうち上がり、真っ直ぐ幽永君へと進んでいく。
「そう来たかっと。……?」
幽永君は合点がいったように声を上げ、瓦礫を左手でキャッチする。
かと思えば、その瓦礫に違和感を覚えてか訝しげな表情を作った。
その大きさにしては、いくらなんでも軽すぎるからね。
なんたって発泡スチロールなんだから。
そして、僕はまたそれをブレードで触れた。
「知ってるかい? プラチナってさ、鉄なんかよりもよっぽど比重が大きいらしいよ?」
「あ? いきなり何言って……」
ウカノミタマ……。
あの瓦礫を、発泡スチロールからプラチナへ!
「! なん……⁉︎」
そこだけに重力がかかったように、幽永君の左手はガクンと下に下がった。
確かプラチナの比重は、大体鉄の3倍位だった気がする。
片手で掴めるっていっても、レンガ位の大きさなんだ。
いくら君でも、生じる隙は小さくないだろう⁉︎
「負けるわけにはいかないからね」
「お前……!」
ブレードで3回程連続で斬りつける。
そして間髪入れずに、全力の蹴りを彼の鳩尾に叩き込んだ。
「グッ……ハァ!」
幽永君は苦しげな呻き声と共に空気を吐き出し、数メートル吹き飛んで仰向けに大の字になって倒れこんだ。
「……」
あの瓦礫、躱して攻撃するよりキャッチしてそのまま攻撃に移行すべき……。
君のセンスがそう選択してくれてよかった。
躱したら躱したで、足場をどうこうするなり考えてたけど。
にしても……手と足がジンジン痺れるな。
どうすればこんなに丈夫になれるんだろう。
長引く程にとことん不利じゃないか。
「……今ので勝ててたら、どんなによかったか」
ブレード使いが気絶するなり、とにかく戦闘不能になれば、出していたブレードは砕けて消滅する。
でも幽永君の右手には、吹き飛んだにも関わらず大鎌が握られたまま。
つまりは……そういう事だ。
「…………ハッ。カハハハ。カハハハハハハハ‼︎」
「!」
「効いたぞ……かなりな」
幽永君は上半身のみを起こし……今まで見た中で最も嬉しそうな顔をした。
目を見開き、僕をその真っ暗な瞳の中に捕らえている。
「今、俺は少し押され気味だ。……いいのか? もういい加減。神経使って力を調整しなくても……。全てを出しきって。……俺はもう、全力で楽しんでいいよな⁉︎」
「ッ‼︎」
全身の毛穴が開く……という言葉は、今日この時この瞬間のために作られた言葉なんじゃないか。
そう本気で錯覚してしまう程の威圧感が、僕の体を駆け巡った。
遂に彼が本気になる。
多分、ブレード能力も本格的に使う。
一体……どれ程の力なんだ⁉︎
「長い間我慢させたな……。もう限界だろ? 今出してやるからな……」
「なんだ……?」
幽永君は僕から目線を外し、うわ言のように呟いた。
いや、うわ言と言うと語弊があるかもしれない。
なんというかその言葉は……僕に向けられたものではなかった。
外された目線の先は、彼自身のブレードのように見える。
「行け、暴れろ……『ヤマタノオロチ』」
「……こ……れは………」
絶句するしかなかった。
彼の呼びかけと共に、真っ暗な鱗に全身を覆われた禍々しい大蛇が目の前に現れては。
とぐろを巻くその姿は、普通の一軒家と遜色ない程の巨体だ。
目は紅く光っており、頭が揺れる度に某狩人ゲームの某モンスターの如く、その残光が空間にしばらく残っている。
蛇特有のチロチロと舌を出す不気味な動作も、あまりの巨大さにただ純粋なる恐怖にしかならなかった。
……ああそうか。
その強大さこそ天地の差があるけど、さっきの威圧感にそっくりなこの感覚。
あの時は力を抑えて、コイツを僕の後ろに回り込ませて、囮にしてたのか。
『グッッッ……ジュルルルル』
大蛇は唸り声のようなものをあげる。
ブレードがこんな化け物に変貌するなんて。
これが幽永君のブレード能力……。
僕の様子を見た幽永君は立ち上がりながら口を開いた。
「ビックリしたか? そりゃするよな。俺もコイツを初めて見た時はマジにビビったよ。他の奴とは、あまりに毛色が違う能力だったんでな」
そう語る幽永君の顔のそばに、大蛇は頭を近づけてきた。
彼はそれを手で撫でてやる。
すると大蛇は、なんとなく心地よさげにシュルシュルと鳴いてみせた。
どうする?
あれを相手に、どう立ち回ればいい⁉︎
そんな事を考える間もなく、幽永君は僕を指差して呟いた。
「行け」
その瞬間、大蛇は大口を開け僕に狙いを定め突進してきた。
『ルシャアオアァアァアアアアアアァアアアア‼︎』
悍ましい咆哮と、凄まじい物量。
防ぎようがないと判断したのは、体と頭とで同時だった。
逃げるしかない!
「クソォ!」
目の前に迫り来る脅威に思わず背を向け、僕は走った。
屋敷とは逆の方向に曲がり、後ろを確認しつつ走り続ける。
逃げつつも、屋敷の方にいる命君たちに迷惑がかからないように。
どうにか打開策を見出そうと……。
『ドゴォォ……!』
「⁉︎」
前触れなく大音量が響き、屋敷の一部が消し飛んだ。
今のは……最初に塀を吹っ飛ばしたのと同じ⁉︎
屋敷の方で何があった?
みんなは大丈夫なのか⁉︎
逸れかかった僕の思考は、再び視界に入った暗い大蛇によって引き戻される。
『グルオォォ……!』
「……ッ」
駄目だ。
向こうの事に気をとられると確実にやられる。
命君は僕を信じて屋敷の方に行ったんだ。
僕も彼らを信じろ。
勝つ事に集中しろ!
「考えろ……!」
逃げながら必死に脳味噌を働かせる。
まず普通に考えて、あの大蛇を倒すのは無理だ。
僕もあんなの出せるっていうなら話は別だけど、流石に出来そうにない。
ならどうするか……。
あれはブレードが変化したもの。
それなら所有者の幽永君を倒せば全て解決だ。
なんて事考えるのは簡単だけど、それすら至難の技……。
今の幽永君は全力で僕を倒しにかかってくるだろう。
でも他にどうすれば。
というかヤバイ、追いつかれる……!
『ギャルルルァァァアアア‼︎』
近くに別の家が見えてきた。
他人の家だけど……まあ鏡の中だしいいか。
僕はその家に逃げ込んだ。
あの巨体なら、せまい屋内での動きは制限される筈——
『バキバキッ!』
「……だよね」
入口なんて御構いなしに、家を破壊しながら入ってくる。
そしてその様子を物陰に隠れて観察していた僕の方へ、迷わず突進してきた。
「くっ」
それを家の奥へ移動して逃れる。
今……隠れていた僕を一瞬で見つけた?
もしかして、視覚以外に僕を探知する術があるのか?
初めて会った時待ち伏せていたのも、さっき待ち伏せがバレてたのもそれが原因……?
それはどういう手段だ……?
「ホラまただ……。ゴチャゴチャ考えてるぜ?」
「え……?」
正面に向かった所にある窓を突き破り、幽永君は僕の前に現れた。
そんな馬鹿な!
大蛇の動きで僕がこの家にいるのが分かったからって……全力だからって、こんなに早く。
「ダラァァ‼︎‼︎」
「ッ‼︎ グハ……‼︎」
握り締められた右拳は、寸分の淀みもなく、僕の鳩尾に叩き込まれた。
そのまま真後ろに吹っ飛ばされた場所には……あの大蛇が。
『ゴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎』
大蛇は仰向けに宙を舞う僕の上方に回り込み……そのまま僕に向かい、頭から突っ込んできた。
「う…………ゴフッ……」
体験した事のない衝撃が全身を襲い、腹から何か熱いものが込み上げ、口を通じて吐き出された。
これって……血を吐いたのか………僕。
呼吸が……。
本気でヤバイ……死ぬ……。
「立てそう……には見えねえな、もう」
「ッ! ま……待ってよ。僕は………ゲホッ」
また喉元が熱くなった。
下手に喋れもしない……。
「無理すんなよ。俺はお前を殺したくはない……」
「…………」
「お前のさらなる成長を見れないのは、結構な心残りだが……仕方ねえ。勝負アリだ」
負け……?
駄目だ!
約束したんだ……!
後でまたって……‼︎
僕は…………負けるわけには!
「ガハッ!」
「ちょっと待ってろ……今救急車呼んでやるから」
クッソ……‼︎
動けよ僕!
動いて勝てよ!
ねえ、ウカノミタマ……。
僕に力を貸してくれよ……!
親友との約束も守れないような奴に……僕はなりたくないんだよ‼︎
「……!」
携帯を取り出した幽永君は、驚いた様子で僕に目線を戻した。
数秒表情が固まった後、ワクワクした笑みに変化していく。
「お前……ブレード」
「…………?」
促されるままに、僕は自分のブレードを見た。
そして、右手に握られたウカノミタマが……著しく変形しているのが目に入る。
意味が分からない。
重傷なのもあって、理解が追いつかない。
「何が…………起こってる?」
コール音が止んだのに気付いたのか、幽永君は携帯を耳に当てた。
「ああ、もしもし? 波丘市の*丁目*番地の近くに救急車お願い出来ます?……そうそう怪我人。台数は……2台で」




