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第46話 「斬って落とされた火蓋」

 放課後。

 基本的に授業から開放されたという、いわばやりきった感に溢れる時間なのだが——


 多分、こんな気持ちで放課後を迎える事は、金輪際ないだろう。


「……行くか」

「そうだね」


 正直、この心境で午後の授業が頭に入る自信がなかったのだが、寧ろここ最近で1番集中してた。

 自分でもなんでだか分からん。


 そんな不思議な気分で、俺は偽造と教室を後にした。


 下足の所まで来ると、またも俺たち以外の4人が待機している。

 なんでそんなに速いんだよ、コイツ等は。


「これで全員だな………」

「ああ。それで響人、作戦は纏まったのか?」

「まあ………ある程度は。授業抜けて下見して来たしな」

「え⁉︎ 途中からいないと思ったら……」


 天音は呆れたように苦笑いする。


「内容は途中で説明する………行こう」

「分かった」







 その場所は、学校からそう遠くない……徒歩15分程の場所にあった。

 大きな屋敷のようだが、誰かが住んでるといった雰囲気はない。

 れんが造りの外壁にはツタがビッシリと伸び、割れた窓ガラスには木の板が貼られ、一見廃屋のようだ。


「こんな所にいるのか?」

「じきに分かる………じゃあさっき言った通りに」

「おう……」


 到着と同時に、響人が道中説明した配置を頭で反芻する。


 まず、門の前に俺がスタンバイする。

 1番危ない場所だが、俺なら咄嗟に防御出来るから、だそうだ。


 その目の前の通路は、天音が糸を張り誰かの接近を感知出来るようにしている。


 屋敷の左右の道付近は、それぞれ偽造と雄生が見張る事になっている。


 後ろ側は、叶恵と響人が2人がかりで当番、という事らしい。


「じゃあみんな、終わらせようか」


 6人が円になって立つ中、偽造は拳を前に突き出した。


「……」


 今に始まった事じゃないが、コイツは周りの気負ったものを払ってくれてるんだな。

 ついこの前の時も……その前からも……。


「ああ、終わらせよう」


 俺が拳を突き出し、偽造の拳に軽くぶつけると、4人も同じように拳を突き出す。

 そして全員決意の下、各々の役目の場所に移動していった。







 5分位経過しただろうか。

 俺は塀を背に当て、感覚を研ぎ澄ませている。

 だが誰も出てくるような気配はない。


「……」


 まあ、そう簡単に出て来るわけないよな。

 ここは粘りが大事だ。

 根負けするな、俺……。

 絶対ここで終わりにするんだ。


「とは言っても……」


 あまり時間が経つとヤバイ。

 またライトを常用する羽目になるし、向こうにもそれはバレてるだろう。

 ライトが破壊されると厳しいぞ……。

 だからって、この屋敷に不用意に入るのも危険だしな……。


 今はこのままがベストか。







『……ピーッガガガガ——』


「⁉︎ なんだ?」


 突然、古びた拡声器から流れるような耳に悪いノイズが、周囲に響いた。

 音の鳴る方に目を向けると、四方にメガホンのついたポールが立っている。


『あー、あー……お、いけてるっぽいな。ったくこういうの慣れねえな』


 ノイズでよく誰かはよく分からねーが……屋敷の中から放送してるのか?

 どういうつもりでこんな事——


『えーと、いるのは分かってるぜ御一行。この屋敷で待ち伏せ作戦か? あ、俺は夜乃幽永……ってもう名前知ってるか』


 声の主は夜乃……。

 てか俺たちの事がバレてる?

 どこでバレた⁉︎


『なんでいるのが分かったかって? いや思ってないか? まあんな事大した問題じゃねえよ。ここに来たって事は……決着付けに来たんだろう? 俺たちとさあ!』


 嬉しそうに喋りやがって。

 それに見透かしたような事を……。


『けどそっちが待ちで粘るってんなら……仕様がねえな』







『こっちから、行こうじゃねえの』


「……⁉︎」


 その瞬間、さっきまでの拡声器の音など比じゃない、凄まじい轟音が鳴り響く。

 何事かと思った時には既に……俺の目には現実離れな光景が飛び込んできていた。


「塀が……吹き飛んだ……⁉︎」


 屋敷に向かって左側にある塀が、土煙を上げ粉砕されていたのだ。


 ……嘘だろ?

 鉄筋の塀だぞ⁉︎

 それを今の一瞬で粉々に吹っ飛ばしたのかよ⁉︎

 あれがもし……俺がいるこの方向だったら——


 いや……あの方向は、確か……。


「偽造がいる方向じゃねーか‼︎」


 さっきまで考えた事が、一気に俺の脳内から消える。

 俺は堪らず持ち場を離れ、塀が吹き飛んだ方へ走り出した。


「偽造!」

「ん? ああ、命君」


 角を曲がるとそこには、ブレード片手に悠然と立つ偽造がいた。

 全くの無傷で。


「お前……大丈夫、なのか?」

「まあ。びっくりはしたけど、飛んできた瓦礫は全部無力化したし」

「無力化って……いや、え?」


 足元を見ると、無数の瓦礫が散乱している。

 まさかコイツ……自分に飛んできた瓦礫、ブレードで全部斬り捨てたのか⁉︎

 そんな事が?


「ほら、これ証拠」

「うおあ⁉︎」


 俺が呆気に取られていると、偽造は瓦礫をいくつか拾い上げ、俺に投げつけてきた。

 咄嗟に両手で防御の姿勢をとるも、見事に全て命中する。


「何すんだお前! アレ、全然痛くねー……てか軽い?」


 ぶつけられた瓦礫の威力に驚き、それを拾い上げて更に疑問符が浮かぶ。

 とんでもなく軽い。

 しかもよく見ると、鋭利な刃物で斬られた

かのように平らな断面が……。


 本当にぜんぶ斬ったのかよ⁉︎


「お前……」

「とにかく僕は大丈夫。なんでか分からないけど、僕らがこの辺りで待ち伏せしてたのがバレてた。もうそんな悠長な場合じゃない。命君はみんなと屋敷の中へ」

「偽造は?」

「そりゃあ……」


 偽造は、さっきまで塀があった方を見据えた。

 俺もつられてそちらを見る。


 土煙でよく見えないその空間に、何が……いや、誰が現れるか。

 奴らの中で、偽造と因縁のある相手……。

 想像に難くなかった。


 薄っすらと浮かんだ人影が、徐々に鮮明になって行く。

 そして現れたその男……夜乃幽永は、偽造の正面に対峙した。


「僕にはやる事があるからね」

「……」


 大丈夫かと聞こうとして、俺は言葉を飲み込む。


 違う。

 俺がかけるべきはこの言葉じゃねー。

 大丈夫かどうかなんて、そんな事聞かなくてもいい。


「偽造」

「なんだい?」

「……あとでな」

「うん、ウヴィーヂムシャ(またあとで)


 偽造は穏やかに笑った。

 あの時の荒々しさは微塵もなく、ただ静かに……いつもの偽造とも少し違った様子で。


「さあ、早く行って」

「分かった。絶対、あとでな」


 俺は屋敷の裏に周ろうと、偽造の横を通り過ぎて走った。

 すると角の手前辺りで、叶恵と響人の2人に鉢合わせる。


「カ、カムイさん! 今のなんですか⁉︎ あの、勾原先輩は……」

「アイツは大丈夫だ……正直ビックリしたけど」

「………バレていたな」


 響人は無表情だが、心なしか悔しげだ。


「けどなんでバレた? 屋敷から覗いてたのか?」

「いや………窓には板が隙間なく貼られてる。他に覗けそうな場所もない………」

「だったら尚更なんで」

「考えられるとすれば………外から別の奴が見張ってた」

「でも誰かが見張ってたら、私たちにもその人見つけられるんじゃないですか?」

「でないとすれば………ブレード能力か」


 俺たちを探知するブレード能力……。

 確かにそんな奴がいてもおかしくない。


「けどどっちにしろ、もう待ち伏せなんて意味ねーぞ」

「ああ………屋敷に突入するぞ」

「……やっぱ、それしかねーよな」

「いよいよですね……!」


 緊張感が走る中、俺たちは裏を周り門の方へと到着、そこには既に雄生と天音がいた。


「命さん……このあとどうするんスか?」

「突入するぞ。それしかない」


 全員に改めて緊張感が走る。


「でも、このまま門から入るの?」

「いや………向こうも俺たちが来るのを見越してるだろう。迂闊に動くな」

「……ねえ、アレ」

「葉隠……? ⁉︎」


 叶恵に促され門の奥を見た雄生は、顔色を変えて絶句した。


「……崎和さん。さっきまで確かに、ドアは閉まってたッスよね?」

「え?……! うん、さっきまでは……」

「どうしたんだ?」

「……ドアが、開いてるんスよ」

「⁉︎」


 俺もさっきまで、ここで見張りをしてた。

 その時も確認したが、ドアは確実に閉まっていた筈だ。

 間違いようがない。


 だが……今見ている屋敷の入口のドアは、どう見ても開いている。


「なんで……」

「入って来いとでも言いてえのかよ」

「………」


 ひとまず門をくぐり入口の前まで移動する。


「不用意に中に入るなよ………」

「分かってる。確認するだけだ……」


 壁に背を当て、屋敷の中を覗き込んだ。


「……」


 一見、特におかしい所はない……外観から想像できるような、古びた内装だ。


「大丈夫そうだ」

「よし………入るぞ」

「……私が先に行ってみます」


 叶恵が唐突に、切り込み隊長を申し出た。


「どうした葉隠?」

「だってほら……カムイさんが屋敷に入ったら、結局ライト使っちゃうし。私は多分、この中で1番速く動けるし」

「う……」


 ご最も。

 失礼だけど、お前そんなに賢かったっけ?


「………頼めるか?」

「はい。行ってきます」


 叶恵はそう言い用心深く屋敷に入っていったが、雄生は落ち着かない様子だ。


「大丈夫かアイツ……」

「今は叶恵を信用しろ。あんな風だけど、アイツは大した奴なんだから」

「そうッスけど……いや、やっぱ俺も行った方が……ッグオ⁉︎」

「え⁉︎」


 雄生が屋敷に入ろうとした時、叶恵が突進するかのように飛び出してきた。

 それが鳩尾に入り、雄生は少し踞る。


「アレ……?」

「は……早かったな、葉隠……」

「どうだった?………軽く見た感じ」

「いや、ちょっと待ってください……」


 叶恵は混乱したように、俺たちと入口を見比べている。

 様子がおかしい。







「そんな……私階段を上ったと思ったのに……なんで? なんで戻ってきてるの……?」

「……え?」


 この中で、何があった?







「やあ、昨日ぶり……でいいのかな?」

「ああ。傷の方はもう良さそうだな」


 2人の少年は、互いに笑顔を貼り付けて対面していた。


 1人はいつもと違う面持ちで。

 1人はいつも通り、楽しげに。

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