第45話 「決戦の時」
『まあ今日は疲れてるだろうから、詳しい事は明日学校で』
「……」
響人からの連絡は、この文面で締められていた。
気遣いはありがたいけど、こんなもん……。
「気になって休むどころじゃねーっての……」
「私にも見せてよ〜」
姉貴は俺から携帯を受け取り、響人の連絡を確認する。
「……命」
「ああ」
「アジトが分かったって事は……命たち、攻め込むつもり?」
「多分……そうなると思う」
アジトが分かった。
だったら、もう受け身にばっか回らなくたっていい。
あれからどれくらい経った?
えーと……大体3週間位か?
なんか、もっと長い事経ってる気がしてた。
偽造はともかく、雄生、叶恵、響人、天音……。
コイツ等とも、もう随分長い付き合いみてーに思える。
知り合って1週間経ってない奴もいるのに……不思議なもんだ。
まあ色々あって、長いような短いような時間だったけど。
「ここらで終わらせねーとな」
「命……」
姉貴は心配そうな顔をしていた。
当たり前だ。
……俺だって心配なんだから。
「終わったら、絶対帰ってきてね」
「そん時は、ラーメンとか用意しといてくれよ」
「任せなさい! でもなんで?」
「なんとなく」
*
そうは言っても、やっぱり落ち着かない。
こうしてる間に、奴らがまた攻めてくるかもしれない。
明日学校でって……そんな悠長な事言ってる場合か?
「……」
そう思い立ち、響人に連絡を返した。
僅か数秒後、携帯の着信音が鳴る。
「速っ⁉︎」
喋り方はゆったり気味なのに、文字打つスピード速っ!
……まあいい。
どういう考えで明日なんだ?
『荒里曰く、向こうのボスはそういう奴らしい。アイツの事は嫌いだが、まあ信じていいと思う』
「なんだそりゃ……」
荒里ってあの眼帯だろ?
信じていいと思うって……そんな曖昧な。
けど、響人の言う事が外れた試しはない……。
先の戦いでも、信じられない真実を見事に言い当てた。
荒里とやらは信用しないが、響人は信用出来る。
お前がそう言うなら大丈夫……って事で、一応納得しておくか。
「ハァ——」
明日、か……。
*
日曜日は、あっという間に過ぎていった。
月曜の朝……なんて事ない、休日明けで誰もが倦怠感に襲われるってのを除けば、普通の朝だ。
「命、学校の準備できた〜?」
「ああ。てか姉貴は大学いいのかよ」
「ちょっと位いいんだよ〜、私は。……いってらっしゃい」
少し間が空いてからの見送りの言葉は、姉貴の心情の表れだろうか。
「いってくる」
俺はいつも通り、なんの心配もない風に返事をして家を出た。
表情を作るのは苦手ながらに、なるべく笑ってようと意識したが……上手くやれてただろうか。
「……お」
「やあ」
しばらく歩いた所で、偽造と会った。
いつもと変わらない表情を浮かべ、俺と並んで歩く。
「昨日はどうだった? お前」
「身体中ガタガタだったね。今はもう全快だけど、あの妙な筋肉痛に襲われてさ。また殆ど動けなかったよ」
「へー……」
また筋肉痛か。
夜乃戦の後は絶対なるもんなのか?
「あ、おはよう」
「よう」
「ウス」
今度は雄生と会った。
相変わらず凄い威圧感だ。
「もう傷とかいいのか?」
「ハイ。俺はブレード出してるだけで傷治るんで」
「それはそれは」
便利な能力だ。
やっぱ回復系としての汎用性はかなり高いな。
「あ……おはようございます」
「ん」
「おはよ」
「おう」
次は叶恵だ。
小柄ながら、意志の強そうな目をしている。
「お前は昨日なにやってたんだ?」
「ずっとゲームしてたけど?」
「おお、流石ゲーマー! そう言えば命君は昨日何してたの?」
「昨日はゲームしてねーな……」
一昨日姉貴をフルボッコにしたばっかりだしな。
それも約3時間程。
「あ、みんなおはよう」
「………」
「やあ2人共」
「どうもッス」
「おはようございます」
「よう」
最後は、響人と天音の2人だった。
2人で登校してたのか……。
お暑いね。
「眼鏡が変わったね」
「予備だ………持ってて良かった」
「この前吹っ飛ばされたからな」
「似合ってるよ、響人」
天音は妙に嬉しそうに言った。
いい事でもあったのだろうか。
いやまさか、これは……ひょっとすると、ひょっとするかもしれないな。
偽造まで嬉しそうなのがその証拠だ。
「……」
登校中に、全員が揃った。
何人かが揃う事はあったが、6人は初めてだ。
……近い内に始まる事の前触れだろうか。
取り留めのない話をしながら、俺はそうなんだろうと思っていた。
*
昼休みになった。
俺は教室から出て、弁当片手に真っ直ぐ屋上に向かう。
すぐ横には、焼きそばパンとパックの牛乳を持つ偽造が続いている。
「命君……なんか今日ずっと、真面目な事考えてない?」
「……かもな」
「奇遇だね、僕も」
「そうは見えねーけど?」
「だって見せてないし。今の君みたいに難しい顔、四六時中やってたら顔がつりそうになる」
「うっせーよ。……俺はお前ほど器用じゃねーからな」
つまりなんだ、ちょっと落ち着けとでも言いたいのか?
悟られるとは……やっぱ表情作るの苦手だな。
コイツ相手じゃしょうがないとも言えるが。
ドアを開けると、既に俺たち以外の4人が集まっていた。
「遅かったな………」
「お前ら速すぎ」
俺たちだって、授業終わってすぐ直行して来たってのに……。
俺が遅いわけじゃねーだろこれ。
「ま………実際はそこまで遅くないけどな」
「なんなんだよ」
そう言いつつ、輪に加わり偽造と腰を下ろす。
「……」
さてと……。
そろそろ例の話を聞こうじゃねーか。
……俺の方から切り出した方がいいか?
「言いたい事は分かってる………アジトの事だろ」
悩んでいると、響人が会話を切り出した。
「……そうだ。あと、お前は今後をどう考えてるのか、だな」
「そうだな………じゃあちゃっちゃと説明するか」
響人は立ち上がり、俺たち5人を見下ろす姿勢になった。
「アジトの場所は分かる………これは確実だ。だがホイホイとそこに行くのは危険だ。居場所がバレれば………向こうも当然警戒するからな」
「まあ、そうだろうね」
「けど響人さん、このまま何もしないわけには‼︎」
「ああ………だが奴らも、ずっとそこにいるわけじゃない。逆に奇襲を喰らう可能性もある」
「確かに……そうッスけど」
「そこで向井………ちょっと初心に戻らないか?」
「初心……?」
つまり、俺がブレード絡みに関わりだした頃の事か?
あの時してた事って言えば……。
「パトロール……?」
「そうだ。しかもその時と違い………見張る場所も限定出来てる」
「つまり、そのアジト付近を見張って、怪しい相手を見つけ次第叩くって事だね?」
「まあそんなとこだ」
そういや、最近はそういう事やってなかったな。
毒霧野郎を倒した時位からか?
いや、見張る場所に心当たりがほぼなかったってのがデカイが。
「で、いつこれをやるかだが………」
「……今日………」
「?」
叶恵がポツリと、小さな声で呟いた。
だがハッキリ、今日と聞こえた。
「作戦があるなら……私は今日がいいです」
「………なんでだ?」
「私たちがいるこの場所で……あんな奴らを放ったらかすのは、もう嫌なんです!」
おお……!
やっぱり叶恵は、時にグサリと刺さる事を言う。
叶恵なりの強い意志が垣間見える瞬間だ。
俺も、数回その言葉に引っ張られた事がある。
「へッ……いい事言うじゃねえか葉隠‼︎」
「え、なに?」
「初めて会った時は弱っちい奴と思ってたがよお、そりゃ間違いだった。お前は漢らしい奴だぜ‼︎」
「私女よ! あの時も同じ事言ったじゃないバカ! バカ諏訪間!」
……要するに、雄生は叶恵に賛成って事だ。
この2人も仲良いよな。
1年同士で互いに取っ付きやすいんだろう。
「後輩たちは纏まったし、僕らも意見を出し合おうか」
「時間はかけすぎない方がいい………という点で、葉隠には賛成できる。細かい事は俺が考えれば………」
「出来るの? 響人」
「放課後までに………考えてみせる」
「早くしないと、命君がライトに頼らざるを得なくなるしね」
「う……」
偽造は悪びれもせず俺を見る。
痛い所をつきやがって……。
自分が万能だからって偉そうに。
「えーと、つまり全員……今日で終わらせる気でいるんだな?」
俺は5人を見渡した。
別に偽造の話をきったわけじゃなく……その意志が本当か確認するために。
「…………」
無言。
誰もなにも言わなかったが、その強い表情で、しっかり、痛いほどに伝わってきた。
ここにいる全員、既に覚悟を決めたという事が。
「満場一致……いいんじゃない? 決着付けに行こうよ、命君」
「へっ……俺もそう思ってた所だっての!」
ようやく……いや、もう来たって言うべきか?
とにかく来た。
残る敵は2人……。
1人は夜乃幽永。
チートもいいとこなあの男と、あと1人。
恐らく、連中のリーダーがいる。
だがここにいる6人に、後戻りという選択肢はない。
決戦の時が、来た。




