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第43話 「向井姉弟②」

 突如現れた白衣の少年を怪しみつつも、凛はマイク越しに話しかける。


「はい……どちら様?」

「そうだね、雲村見児といえば分かるかな?」

「……!」


 ついさっき、自身の弟に聞かされた話に出てきた名前だった。


 何もかもが謎の、不気味な少年。

 ……ブレード使いを生み出した元凶。


 凛からすれば、いい印象を持てるはずがない。


「何しに来たの? 命に何か用?」


 柄にもないが、少し高圧的な口調で返した凛。

 だが見児は自分のペースを崩さない。


「ボクがここに来たのは、命に用があるからと思ったのかい? 違うね。あなたに会いに来たのさ」

「私……?」

「ああそう、ブレードに関わったあなたにだ……」


 この瞬間、見児の浮かべるカメラ越しの薄ら笑みが、凛にはとてつもなく気味悪く感じた。


(命の言ってた意味がよく分かるよ……優しげなのに、得体が知れない)


 だがそれを悟られまいと、平常心を意識する。


「へえ、そうなんだ……何かな」

「大した事じゃないさ。ただ、キッカケを拾いに来ただけだよ」


 見児はそう言うなり、カメラを手で覆い隠した。


「……?」


 何事かと小首を傾げた凛だが、暗く覆われた画面が開放された時、彼女は本日何度目かの驚愕を露にする。


「⁉︎ いなくなった……?」


 さっきまでそこにいたのに、カメラを手で覆っていたのに……。

 次の瞬間、見児はそこにいなかった。


「帰ったわけない……どこに——」


『ガチャリ……』


「勝手ながら、お邪魔させてもらうよ」

「え……⁉︎」


 かと思えば……リビングのドアを開け、悠々と中へ入ってきた。


 凛は直感的に、今のはブレードによるものだと理解した。


「驚いた? まあ当たり前か」

「……不法侵入」


 凛はあくまで平静を装い、正論を投げかけた。

 内心、不安と疑心でいっぱいいっぱいでありながら。


「ご勘弁願おう。話が終わればすぐに出ていくからさ」

「…………」

「やれやれその目……信用ないなあ」


 そのブレない態度が、妙な不安感を更に募らせてくる。

 凛の手は、緊張により強く握られた。


「用ってなに?……早く言ってよ」

「……あなたは、弟の事どう思ってる?」


 見児はソファまで歩み寄り、背もたれの部分に手を添えながら言った。


「大切? かわいい? カッコイイ? あるいはそう……守ってあげたい?」

「何の話? 話が見えてこないよ」

「そう? ホントはちょっと勘付いてるんじゃないかな? ボクって存在の事、今はグッスリな命から聞いたんならさ」


 見児は、ソファで眠る命に視線を降ろした。

 全く目を覚ます気配のない弟と、タイミングよく現れた目の前の少年。

 この事から、見児は自分と2人きりで対面する機会を伺っていたんだと、凛は察していた。


「……つまり私に、ブレード使いになれって言いたいの?」

「へえ……ボクがあなたに、ブレード使いになる事を強要しに来たと思ったのかい? いいや、なれとは言わない。言ったろ? キッカケを拾いに来たって……」


 ソファから離れ、ゆっくり凛の目の前まで歩く見児。

 凛は思わず後ずさりし、背中に壁がぶつかった。


「キッカケは拾っても、なにも起きない事もある。それはキッカケを生んだ人次第……ひいては運命次第なのさ。チャンスを棒に振るう者……上手く利用する者……色々といるけどさ」


 壁で退路を阻まれた凛に、白衣の少年はジリジリと迫り、伸ばした手で肩を掴んだ。


「あなたはどっちだい……? 命のお姉さん。弟の力になりたくはないかい? あなたの手で助けてあげたくはないかい? それとも、ただ見守るだけの立場でいたいかい? もし弟やその友達が大怪我……最悪、死んでしまったとしても……あなたは後悔しないかい?」

「……っ」


 ついさっき、自分で想像した最悪のパターン。

 他人の口から言われ、凛の頭には鮮明にその光景が映し出された。

 無意識に足が震え始める。


「この先何が起ころうと……ここでの選択は正しかったと、そう胸を張って言える答えを……あなた自身で考えて欲しい」


 肩から手を離し、見児は数歩後ろに下がった。

 さっきまで触れられていた所を押さえ、壁にもたれたまま動けない凛。

 なんとか声を絞り出す。


「……5分……いや、3分待って。それまでに答えを出すから。後悔しないような答えを……」

「どうぞどうぞ。大事な問題だからね。なんならもっと時間をかけて構わない」

「…………」


 凛の頭を、色んな物事が駆け巡る。


 弟との、幼い頃の思い出。

 昔は「お姉ちゃんお姉ちゃん」とかわいく慕ってくれた事や、ある出来事以降、半引きこもり状態にまで陥ってしまった事。

 その後……大きな転機があり、現在に至る。


 あの時の事を考えると、凛はとても嫌な気分になった。

 命にしても同様である。

 もうあんな事にはなってはいけない。

 後悔してはいけない……。


「決めた」

「へえ……キッカリ3分」

「当たり前だよ。私の体内時計を舐めてもらっちゃー困る」


 見児は掛け時計を見て、感嘆の声を漏らした。


「じゃあ聞こうか。後悔の残らない答えを」

「……私は、今まで生きてきて1回だけ……とんでもなく、それこそ心が真っ黒になる程後悔した。なんでこうしてあげられなかったんだろうって……苦しくて、悲しくて、自分が嫌になった。……あんな思い、もう2度としたくない。私は……命の力になりたい……!」

「ふむ……それで結論は?」


 凛は一呼吸置いて、強い眼差しを見児に向ける。

 そして、自分の出した答えを宣言した。







「でもやめとく、ブレード使いになるのは」


 凛は右手を前に突き出し、手のひらを見児に突きつけた。


「……!」


 意表を突かれた、という表情の見児に、凛はその結論に至った経緯を説明する。


「凄い迷ったよ? いや、ホントに。……でもさ、私の思う事はとってもシンプルなんだ。命を苦しめたくない」

「……助けたいんじゃなかったの?」

「助けたいよ。でもそのために命が苦しんでたんじゃ、元も子もないから。友達が巻き込まれた時の事話してる時……命、凄く苦しそうだった。私だってもう巻き込まれちゃったけど、更にこのままブレード使いになったら……きっと命は、もっと苦しむ。私がなに言っても、絶対自分を責めちゃう。……命はそういう子だから」


 後悔しない。

 そう言い切れるかは分からない。

 だがこれが、凛にとっての最善の答えだった。


「オーケー。そういう事なら、ボクは用済みだね。勝手に入って来て申し訳ない。それじゃ」

「え? 普通に帰るの?」


 凛は拍子抜けしたような反応をした。

 断ったら、何かこう……強行手段に出てでも自分を誘い込もうとするかも位に思っていたので、当然とも言えるが。


「ボクがブレードを拒否したあなたを、無理にでも引きずり込もうとすると思ったのかい? 言ったじゃないか。キッカケを生んだ人次第だってね」

「…………」

「運命は決定された。あなたはブレード使いにはならないと」


 見児は開けっ放しだったドアから外に出る。

 凛が玄関の方を確認した時、既にその姿はなかった。


「ハァ〜……」


 見児がいなくなった途端、体の力が抜けて床にへたり込んだ凛。


(気味が悪いって思ったけど……自分の信念? には忠実なのかな)


 ブレード使いを生み出しながら、直接的には我関せず。

 全ては運命の赴くままに。


 奇妙な男の、勝手なモットー。

 雲村見児の真意は、誰にも分からない——







「お〜い、命〜! 朝だよ! 朝の9時だよ〜!」

「ん……う……」


 姉貴の元気いい声で、俺の眠りは途切れてしまった。

 あんな事があったばっかなのに……よくもまー。


 体を起こそうとして、自分がソファで寝ていた事に気付く。


「あれ……俺あのまま寝たのか」

「うん、いい寝顔だったな〜」

「早急に忘れてくれ」

「嫌だ。早く顔洗ってきなよ」


 促されるままに、俺は洗面所に向かった。


 しかし、姉貴は本当に通常運転だな。

 誘拐された翌日なんて、俺なら多分寝付けない。

 事実、ブレード使いになっちまったあの日は全く眠れなかったし。

 なんだかんだでやっぱスゲーよ、姉貴は。


 顔を洗ってリビングに戻ってきた時、異常な程豪勢な食卓が目に飛び込んできた。

 さっきは気付かなかったが……え?


「姉貴?」

「お姉ちゃん頑張っちゃいました!」

「いやいやこの量……」


 サラダ、ベーコンエッグ、なんかオシャレそうなパンを使った品、家にそんなのがあった記憶がない高げなジャム、食後のデザートと思われるフルーツ……その他諸々。


「ちょっとしたパーティみてーになってんだけど」

「またまた〜。これ位普通だよ?」

「俺とは普通の定義が違うっぽいな」

「そんな事言ってられるのも今のうち! 一口食べた瞬間、虜になる事間違いなし! それからはきっと、この朝食じゃないと落ち着かなくなって、遂にはダメと分かってながら、大金叩いてまで食べたくなって……」

「その言い回しだと危ない薬だぞ⁉︎」

「ナイスツッコミ! さすが命!」

「なんなんだよ!」


 両手で親指を立て、賞賛の言葉を贈る姉貴。

 いかんいかん、朝から体力の消費が激しいぞ。


「冗談はこの位にして、早く食べなきゃ冷めちゃうよ」

「へいへい」


 俺が席につくと、姉貴はその正面に座り、俺の方をジッと見つめてきた。


「? なんだよ、顔なら洗ってきたぞ?」

「そうじゃないよ。……命、私に出来る事があったら言ってね」

「……どうしたんだよ急に。出来る事って……」

「私はブレード使いじゃないけど、力になれる事だってあるかもしれないから。ね?」

「……サンキュー」


 姉貴はブレード使いじゃない……。

 出来ればなって欲しくねーから、今の言葉は少し安心できた。


 そう思いながら、豪勢な朝食を口に運ぶ。


 ……ウマッ。

 昼はラーメンでも作ってもらおうか。

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