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第41話 「廃墟のトラップタワー⑦」

 どこかの国の、見知らぬ場所。

 言語も通じぬそんな所に、子供が1人取り残された。

 突然銃を持った男たちに襲われ、たった1人生き残ってしまった。

 そのまま連れ去られ、訳の分からぬ言葉で怒鳴られ、縛られ。

 最終的に、ナイフを右目に向けて……。







 銃や爆弾なんて物を使い、俺たちを苦しめた男に向けた響人の言葉は、とてもじゃないが簡単に信じられない事だった。

 下手すりゃ死んでたんだ、普通そうは考えられない。

 なのにコイツの言葉からは、徐々に信憑性が現れ始めている。


「一見殺しにかかってる風に見えて………実際ギリギリ回避できるよう仕組まれた罠の数々。お前の行動も、周到に見えて穴が多かった………もっと簡単にやろうと思えば、なんとか出来たんじゃないか?」

「詭弁だ」

「どうかな」


 あまりに予想外な展開に、少し混乱気味だが……響人の言葉には迷いが無かった。

 自分の出した結論を疑ってない。


 コッチの勝利も確信してるみてーだが、どうする気だ?

 まさか説得でもする気なのか?

 お前はどう出るんだ、響人⁉︎


 俺が考えを巡らせていると、響人が耳打ちしてきた。


「向井………お前は隙ついて、葉隠を救出してくれ」

「?……」


 俺が言葉の意味を汲み取れないでいると、







「行くぞ………‼︎」

「⁉︎ 響人‼︎」


 響人は奴に向かって全力で走り出した。

 それも、ブレードを盾にする素振りもなく、まさに丸腰という状態でだ。


「っ! 血迷ったか⁉︎」


 当然、奴の銃口は響人を向く。


『ダァンッ!』


「………ッ」


 轟音と共に、響人は何かをぶつけられたかのように、右に仰け反った。


「オイ馬鹿! 何考えてんだお前‼︎」

「馬鹿は、アイツだ………!」


 右肩あたりを撃たれたにも関わらず、響人は走り続けた。

 速度を緩めず、まっすぐ、磁石が引き合うように進んでいる。


「ッ‼︎ イカれてるのかお前……!」


 奴の冷静な表情も、焦燥に染まっている。

 射撃したのに、足を止める気配がないのだ。

 誰でも焦るに決まってる。

 俺だって焦ってんのに!


『ダダァンッ‼︎』


「ぐ………!」


 再び響く、2連撃の轟音。

 踏み込んだ左足がガクンと崩れ、更にまた右に仰け反った。


「クオオ………ッ‼︎」

「何なんだお前……! 本当に脳を虫にでも食われたか⁉︎」


 一瞬姿勢が崩れたが、唸るような叫び声をあげながら立て直した。


「……」


 そういう事か……?

 お前はそうやって、さっきの説を実証しようってのか⁉︎


「にしたって……無茶しすぎだろ」


 最早驚きを通り越し、半分呆れた風な声が出る。


「……ッ!」


 奴のブレードを握る手に力が込められた。


「向井‼︎」

「分かってる‼︎」


 叶恵の方へ、瞬時に影を伸ばした。

 ライトを傾け、すぐにあそこまで届くように。


『ガキンッ』


 首筋を狙った奴のブレードは、俺の影に阻まれ、弾かれる。

 俺は影を変形させ、叶恵を包み込んでこちらへ引き寄せた。


「ナイス………!」

「うっせーよ馬鹿!」


 頭いい奴は馬鹿って本当だな、全く……!


「クソ……! クソ……‼︎」


『ダァンッ』


『パキン』


 4度目の銃声が鳴るのと同時に、割れた何かが宙を舞った。

 何が起きたか分からなかったが、響人はそれまでの仰け反りとは違い、首が少し左に向いている。


 ここで俺は、何が宙を舞ったのか理解した。

 柄の部分が片方壊れ、レンズにヒビが入った眼鏡が、音を立てて床に落ちる。


 つまり、顔に当たった……!


「響人ーー‼︎」

「……ッ」


 奴の方も、眉間にしわを寄せ、苦渋の策だという表情を浮かべている。

 流石にもうどうしようもない……俺も、多分奴もそう思っただろう。







「………ほらな」

「‼︎」


 だが響人は、それでも止まらなかった。

 何度も倒れかけながらも、遂には奴の目の前まで到達した。


「お前は理解しろと言ったな………。それ、そのまま返す」

「——!」


 響人は左拳に力を入れながら、奴に言葉を投げかけている。


「自分と向き合ってない奴に………そんな事言われる筋合いはない!」


 力篭った左拳が、奴の顔面に叩き込まれた。


「ガハッ……‼︎」


 『バギィ』という風な効果音が聞こえるような迫力で振り抜かれた拳に、奴は殴り飛ばされうつ伏せに倒れた。


「や……やった……?」

「……」


 殴られた衝撃で床に落ちた奴のブレードは、刃が真っ二つに割れている。


 消滅はしてねーが……。


「響人の勝ちだ」


 フラフラの満身創痍ながら、響人はそこに立っている。

 奴は倒れ伏し、ブレードを破壊された。

 これを勝利と言わずして何と言う。

 俺は叶恵を抱きかかえ、響人の方に駆け寄った。


「響人!」

「ああ………なんとかなった」


 振り返った響人の目の横辺りに、何かが掠ったような傷があった。

 更に左足を引きずり、右腕も力なく垂れ下がっている。


「お前なー……! あんな事言った癖に、それこそ他にやりようがあっただろ!」

「かもな………。けど俺の考え通り、奴は俺を殺さなかった(・・・・・・)。心臓でも脳天でも………撃ち抜こうと思えば出来たのに」

「確かにそうだけどよ……」


 それでも銃持った奴相手に正面突破なんて、胆力がどうこうなんてレベルじゃねーよ!


「まあ……生きてたから、よかったじゃないですか……」

「叶恵、お前も大丈夫か⁉︎」

「まあ待て………多分奴が解毒剤でも………」


 奴に目線を向けた時、俺は自分が青ざめるのを感じた。


「ハァー……ッ」

「アイツッ!」


 奴が、立ち上がろうとしていた。

 と言っても、以前までの余裕も何もなく、響人同様に満身創痍といった様子だ。


「………」

「理解しろだと……? 自分と向き合ってないだと……?」

「………」

「理解してるさ……おれは、悪人のなり損ないだって事くらい!」


 溜め込んでいたものが、耐え切れず流れ出たような奴の吐露からは、激しい自己嫌悪が感じ取れた。

 ……俺にも覚えがある感覚だ。


「土でも雑草でも……腹に入る物は何でも食ってきた。……嫌いだ。自分の事しか考えられない腐った奴らが。嫌いだ。どうしても、あと1つの線を越えられない臆病なおれが。でも今更普通になんてなれやしない。だからおれは……非情になるために、奴らに加担した」

「でもお前は、非情にはなれなかった………。どうする気だ?」

「言ったろ。もうおれは戻れない……」


 立ち上がった奴は、銃口をこちらに向けた。


「だからここで殺されろ!」

「………ッ」


 奴が引き金を引こうとした時、背後から何かが迫ってきた。

 響人のブレードだ。

 それらは一直線に、奴にぶつけられる。


「グ……」

「もうやめろよ………万に1つも、お前に勝ち目はない」


 攻撃を喰らいよろめいたが、奴は踏みとどまっている。


「速くなっているだと……? お前のブレード」

「まあな………」

「……」


 奴の言うように、響人のブレードが、さっきまでより速くなっていた。

 さっき刃を1枚飛ばした方のが、もう片方より速く奴を捉えていたように見えたが……。


「刃を飛ばすのは、実際見かけ倒しだ………。刃の枚数を減らせば、射程が短くなる代わりに………スピードが上昇する」


 そう言い終わると、響人のブレードの刃が、それぞれ1枚だけ残して外れてしまった。

 『カランカラン』と音を立て、分離した刃が床に落ちる。


「自分が引き金を引く方が速いと思ってたかもしれんが………残念だな。真の奥の手ってのはこういう物だ」

「……」


 奴は、自分の敗北を悟ったように目を閉じ、ため息を吐き出した。

 そして目を開き、響人と目を合わせた。


「正真正銘最後だ。構えろ」

「………」

「「……」」


 静寂が場を支配する。

 これが破られる時、この廃ビルの戦いが終わる。

 全員が完全に理解していた。


「ッ」


 奴が銃を構えた。

 瞬間、響人のブレード2連撃が、奴を中心にクロスを描いていた。


「ガ…………」

「………」


 奴はそのまま仰向けに倒れ、一言呟いた。


「……立つ気力ももうない……おれの負けだ」







 暗い。

 何も見えない真っ暗闇で、誰かが私の名前を呼んでる気がする。


 私はどうなったんだっけ……?

 記憶がこんがらがって、よく思い出せない。


『………………!』


「う……?」


 声が大きくなってくるにつれて、暗闇に光が射してきた。

 徐々に開けてくる視界に、ぼんやりした輪郭が映し出されている。


 ……ああ、これは私のよく知ってる人だ。


「大丈夫か………?」

「うん……響人」


 私は寝転がった姿勢で、響人を見上げていた。

 叶恵ちゃんと諏訪間君も、心配そうに私を覗き込んでいる。

 これってつまり……。


「勝ったんだね、響人」

「まあな………」

「向井君と勾原君は?」

「向井の姉さんを探しに行った」

「そっか」


 私に心配がなさそうと判断したのか、叶恵ちゃんと諏訪間君はホッとしたように笑いあった。


 でも、まだちょっと体がだるいかな。

 寝心地いいし、もうちょっとこのまま……。


「……ん?」


 ちょっと待った。

 寝心地いい……?

 ここってあの廃ビルだよね?

 なら寝心地なんていいはずが……。


「あ……」

「どうした?」


 気付いてしまった。

 今、私は響人に膝枕をされているという事に。

 それに化学反応するように、さっき私が言った爆弾発言を思い出してしまった……。


「あああ〜……!」

「………」


 無理無理無理!

 どうしよう直視出来ない!


 私は思わず、両手で顔を隠した。


「どうしたんスか?」

「先輩?」


 2人が声をかけてくれるけど、正直そっとしておいて欲しい。


「天音」

「ハイ⁉︎」

「………ゴメンな。でもお前も………もうあんなの無しにしてくれ」

「……」


 指の隙間から、なんとか響人の顔を見た。

 申し訳なさそうにしている。

 あんなのっていうのは……私が自分を犠牲にした事だとすぐ分かった。


「うん……ゴメンね」

「あともう1つ………そっちに言わせて悪い」

「あ……あ〜、うん。響人なりの考えだったんでしょ? でもまあ、そっちに言って欲しかったって言えば……そうなる、かな? うん」


 たまらず、また指を閉じた。

 しどろもどろに何言ってるんだろう、私。


「ああ………今後ともよろしく」

「……うん。えへへ……」


 それってつまり……そういう事って捉えていいんだよね?


 なにか、心が満たされた気がした。

ブレード名:ニニギ

所有者:鳴谷響人

身体強化:バランス型

形状:くり抜いた半円形の柄に、3枚の刃がついている。2刀流。

能力:遠隔操作。射程は半径10メートル程。

・実は刃は取り外し可能。刃を減らすと射程が狭くなる代わりにスピードが上がる。全部外すとすごい速いが、それ最早ブレードじゃない。

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