第4話 「ブレード」
俺達は今、ラーメン屋にいる。
まだ時間も時間なので、客は俺達以外には誰もいない。
そして偽造の奢りで黙々とラーメンを啜っていると、右横から偽造が話しかけてきた。
「命君、さっきはああ言ってたけどさ、実際の所はどうなの? 何か考えでもあるの?」
「いや、んなもんねーけど……ほっとけねーだろ。乗りかかった船だ。……乗りたくなかったけど」
そうなんだよ……。
なんでこんな船に乗ることになっちまったんだ。
俺はただ晩飯食おうとしただけだったのに……。
「何かある度に面倒だとか言って消極的な癖に、一旦関わったらとことんまでやる。……なんて言うか、ご愁傷様」
「うっせーよ……。好きでそうな訳じゃねえんだって……」
「いやいや、そう悲観しなくても。そういうの、ボクは立派だと思うよ?」
「…………つーかさあ……」
何気ない顔で俺の左隣にいる白衣の人物に向かって、俺は盛大にツッコミをいれた。
「なんで当たり前の様に俺の隣でラーメン啜ってんだお前‼︎‼︎」
「フッ。ボクがあのまま立ち去っていったと思ったかい? 残念、ボクもお腹が空いたのさ‼︎」
「いや知らねーよ‼︎ どっか別のとこで食えばいいだろ‼︎」
「だって奢ってくれるんだろ? 偽造が」
「何それ聞いてない!」
「……なんかもう、面倒だ」
白衣は悪びれる様子も無く、話を続ける。
「まあそう言わずにさ、聞きたい事もまだまだあるんじゃないの?」
「……お前って、結局どいつの味方なんだよ?」
「どっちでもないさ。ボクはボクの目的を果たすだけだよ」
「で、その目的って?」
「それは言えない」
「そうですかいっと」
コイツは、本当にわからない。
俺達に敵意は無いらしいが、なんか掴めないと言うか、意図が読めないというか、その辺りが若干不気味だった。
「ボクの事よりも、ブレードについては何か質問は無い? 言える限りで答えてあげるよ」
「……そう言われても、何から聞いたもんか」
「じゃあさ、僕から聞いてもいい?」
俺が悩んでいると、偽造が少し手を上げて質問した。
「ん、何かな?」
「そのブレードってのが身についた理由が、あの鏡にあるんだろうけどさ……」
鏡って……。
予想はしてたが、偽造もあの鏡経由で身につけてたのか。
「あの鏡に入れる条件とかってあるの? もし無条件だったら、ブレードが量産されちゃうんじゃないの?」
「確かにそうだな。何かの拍子に入っちまったなんて事になったら…」
「まあ、あるにはあるよ、条件。でも明確になんなのかはボクにも分からないし、そもそもあれは一体なんなのかってのもあるね」
「因みに、お前もブレード持ってんだよな?」
「まあね。どんなものかは見せられないけど」
「それはなんで?」
「フフフ……見たい? ここら一帯大混乱に陥る可能性が大いにあるけど、それでもよければ」
「……じゃあいいっす」
ここら一帯大混乱って…。
一体どんだけヤバイ能力備えてんだよ。
あ、そう言えば。
「能力と言えば、お前の能力ってなんなんだ?」
俺は偽造の方に向き直して、なんとなく尋ねてみる。
すると、偽造は考える様に唸った。
「さあ……何なんだろう? 命君はどうやって能力に気付いたの?」
「あん時は必死だったからな。気がついたら出来てた、みたいな」
「それに関しては、自分で気付くしかないかな。自分の能力は、自分にしか分からないよ」
「まあ、そういうものか」
偽造は考え込む様にそう言った。
「あと気になったんだけどよ、お前、相手の頭に向かって思いっきり斬りつけてたよな。ヘルメット越しだったとはいえ、ほぼ無傷に見えたけど……」
「あれね。攻撃する途中でさ、コレってこのままいったら殺しちゃうんじゃない? それはまずいな。でもやらなきゃやられるし? みたいな葛藤が一瞬あったけど……」
「楊太郎があれで無事だったのは、それが関係してるね」
白衣は再び、解説する様に話し始めた。
「ブレードはね、所有者の意思で殺傷力を調節出来るんだよ」
「マジか⁉︎」
「マジだよ。普通の刃物みたいに切ることも出来るし、調節すれば、深く切りつけても軽傷で済ませれたり出来る」
「へえ。いろいろとすごいね」
偽造が感心した様にそう言った後、白衣は更に話し始めた。
「ついでにもうひとつ。ブレードを使ってる間は、身体能力が向上するんだ」
「へえ……」
「それでか。いつもより動ける様な気がしたのは」
聞けば聞く程、突拍子の無い代物だ。
だが、俺達にそれを疑う余地は無かった。
全て身をもって知ったことでもあったからな。
「さてと……ボクはそろそろ行こうかな」
いつの間にかラーメンを完食していた白衣は、そう言って立ち上がり、軽く伸びをしてから店を後にしようとする。
出口の前で思い出した様に振り返り、「ちゃんと自己紹介してなかったね。雲村見児。よろしくね」と言い残し、店を出て行った。
「あれ? 本当に僕が全員分奢る感じ……?」
「悪いな。太っ腹だね」
俺は、いつも偽造が俺に向けてくる様な笑顔でそう言った。
*
「僕達が今最初にやるべき事って、何だと思う?」
二人共ラーメンを食い終わった頃に、偽造は問いかけてきた。
「さあ、相手の事を調べようにも、手がかりはねえし……さっき見児に聞いとくべきだったな。答えてくれるかは怪しいけど」
アイツは、俺達の敵では無いが味方でも無いと言っていた。
多分、向こう側の奴等にも同じスタンスをとっているだろうし、どちらかが有利になる様な事はしない的な事も言っていた。
まあ、これも本当かは確かめようが無いけどな。
「うん、確かにそれもかなり重要だよ。でもね……僕は思うんだよ」
「思うって何を?」
「まずは、自分のブレードに名前をつける所から始めるべきなんじゃ無いかってさ」
「…………」
「どう思う? 命君」
「…………確かに」
「でしょ⁉︎」
もし誰かが今の会話の一部始終を聞いていれば、人は恐らく俺等を中二病と呼び、小馬鹿にしながら笑いを堪えるだろう。
だが、だからと言って俺は恥とは思わない。
自分のものに名前をつけるなんて、別段おかしい事じゃ無いと俺は思う。
名前ってのは重要だ。
逆につけない方がどうかしてる。
そもそもだな……ってそれはまあいいや。
「因みにお前、何か候補とかあんのか?」
「よく聞いてくれたね。実は少し考えてるんだ」
「言ってみろ」
「さっきのヘルメット……彼は自分のブレードを、『アメノサギリ』と呼んでいたんだ」
「アメノサギリって……日本の神様かなんかじゃなかったか?」
「そう。だから僕達も、日本の神様から引用したらどうだろう?」
「…………いいな」
「でしょ⁉︎」
多少無難な気もするが、無難という事は、それだけこういう事に適しているという事だ。
ていうか、アイツもつけてんだな、名前。
「どういうのがいいんだろう。とりあえず浮かんだのからいいのを選ぼうか……」
「……『ツクヨミ』は?」
「え?」
「いや、なんとなく真っ先に浮かんでさ。どう思うよ?」
「まあ、自分でいいと思うんならいいんじゃないかな?」
というわけで、俺のブレードは『ツクヨミ』と名付けられた。
あっさりしすぎだが、あまり気にしない。
「お前はどうすんの? なんなら俺がつけてやろうか?」
「いや、自分でつけるけど……うーん」
いまいち浮かばないらしいので、少しアドバイしてやる事にする。
「そんな難しく考えんなよ。案外パッと浮かんだやつでいいんだよ、こういうのは」
「……『星の○金』」
「どっからとってきてんだ!」
「いやいや、冗談だって! そうだなあ……じゃあ『ウカノミタマ』は?」
「……それっていわゆるお稲荷さんの事だったか? まあ、いいんじゃねえの?」
「よし! じゃあ決定で」
そんなこんなで、お互いのブレードの名前が決まった所で、偽造が立ち上がった。
「じゃあさ、命君。ちょっと手合わせしてみない? 訓練がてらさ」
「は? いきなりなんだよ」
「だってさ、まだ分からないことも多いじゃん。僕の能力とか。命君も自分の能力を完全に理解したわけじゃないんでしょ? 殺傷力が調整出来るなら、大怪我の心配も無いだろうしさ」
「いや、そうは言ってもな……」
確かに、偽造の言う事も最もだ。
だが分からない事が多いからこそ、少し不安だ。
手違いでどっちかが病院送り、何てことになったらシャレにならない。
「僕は勘定してるからさ、先に外に出ててよ」
「……面倒だ」
「まあそう言わずにさ」
偽造に促され、俺は渋々外に出た。
*
「じゃあ命君、準備いい?」
「一応言っとくけど、本気でやんなよ? あくまで訓練だからな?」
「分かってるって!」
訓練の場所は、電車の通る橋の下だ。
ベタベタだが、ここ程人目につかず、誰かに迷惑がかからない場所は無い。
「ハア……眠い。さっさとやるぞ。そんで帰って寝る」
「はいはいっと。そんじゃあ……」
偽造はこちらに走ってきて、切りかかる様な姿勢で飛びかかってきた。
「ってちょっと待っ……」
「ウカノミタマァ‼︎」
いきなりだな。
攻撃も名前呼ぶのも。
俺も右手にツクヨミを出し、攻撃をガードした。
ガードされた偽造は、すぐに攻撃を打ち切り、後ろに少し距離をとる。
「一回やってみたかったんだよね!」
「いや、分かるけど急なんだよ。お前は早く能力見つけろ」
「……?」
偽造は急に視点を下ろして、頭に疑問符を浮かべた。
「なんだ、どうかしたか?」
「……ねえ、命君。これはどうなってんの?」
「は?」
どうなってると言われても、特に変わった様子は無い様に見えるが。
「どうって何が?」
「ほら、僕の足元の所」
言われて足元を見ると、偽造の立っている部分が少し沈んでいた。
「なんだコリャ……?」
俺も足でその部分を押してみると、ゴムの様な弾力性があった。
「お前、ここに何した?」
「いや、特に何も。地面にブレード突き立てた位かな」
「絶対それだろ! 他にはどうにかなんねえのか? まさか地面を柔らかくしただけで終わりか?」
「ちょっと待ってよ、もう1回やってみるから」
偽造は、ブレードを振り上げて地面に突き立ててみせる。
「どうなった……ってうおぁ⁉︎」
「命君⁉︎」
もう一度地面を踏んで確認しようとすると、何故か氷の上でも歩いたかの様に、思い切り転んだ。
え?
なんだこの能力?
「ふうん……。なるほどなるほど」
「な、何だ。分かったのか?」
「多分だけど、僕はコレで触れた物を別の物に変えられる能力、かな……?」
そう言って、偽造はまたブレードを地面に突き立てた。
「命君、ちょっとここ踏んでみてよ」
「ええ……やな予感しかしねえよ。どれどれ」
恐る恐るその部分を踏むと、泥沼に足を突っ込んだかの様に、ズブズブと足が沈んだ。
「うわああああ⁉︎」
「ハハハハハハ‼︎ ヤッバ、お腹痛い……! クハハハ……!」
「お前なあ‼︎」
偽造に対して軽い殺意を覚えた瞬間、俺の影が拳の様に偽造の方に伸びた。
「痛っ! 何これ⁉︎」
「何って……俺の影?」
一瞬よく分からなかったが、どうやら俺の能力は影の中に潜むだけじゃないらしい。
「こういう事も出来るわけか」
「痛い痛い痛い! 悪かったって! 頭潰れる潰れる……‼︎」
俺が念じた通りに、影は偽造の頭を締め付けていた。
まあ、俺も二回程びっくりさせられたんで、これでおあいこって事で。
ブレード名:ツクヨミ
所有者:向井命
身体強化:パワー型
形状:真っ黒な刀身の日本刀。
能力:所有者自身の影を操る。
・影を使った物理攻撃が可能。射程は光の当たり方などの要因で変動する。
・影の中に潜み隠れ、そのまま移動出来るが、その状態だと影による攻撃は出来ない。
・当然ながら、自分に影ができてないと操れない。




