第32話 「隻眼急襲」
「命が帰ってこない〜あああ暇だぁ〜」
ソファで寝転びながら今の気持ちを口に出してみても、なんの変化もありゃしない。
誰もいないから当たり前だけど。
大体、久々に会ったのに淡白過ぎるよ命は。
もっとこう、感動の再会があってもいいんじゃないかな?
とか命に言うと、「面倒だ」って一蹴されちゃいそうだな〜。
でも結局構ってくれるんだから、やっぱり優しいよね。
……一時はこんな事考えられなかったのに。
「……いやいや!」
頭をブンブンと振って、今の思考を掻き消す。
過ぎた事なんだこれは。
もう命は立ち直ってるんだから。
わだかまりは解消された、と思う。
確かに昔に比べたら大分冷めちゃったけど……。
ああ駄目だ!
マイナスに考えない!
もっと楽しい事考えよう、そうしよう。
ほら、命がゲームの大会かなんかで……
『ピンポーン』
「わあ⁉︎」
インターホンの不意打ちにビックリして、思わず声が出てしまった。
命帰ってきたのかな?
立ち上がってカメラを見てみると、やっぱり命だった。
全く……友達に呼ばれたとはいえ、私を軽く放ったらかした罪は重いよ?
出迎えようと玄関に向かった時には、既に命は靴を脱いで上がってくるところだった。
「ただいま」
「おっかえりーーー!」
さっきみたいに、私は命に抱きつこうとする。
1度や2度あしらわれた位じゃ、私はへこたれないのだよ!
さあ、命はどう来る⁉︎
「……あれ?」
あっさり抱きつけた。
おかしいな、いつもは半身で躱されたり、下に潜り込まれたりするのに……。
「予想外だ。……が、結果オーライでもある」
「え? なに命……う⁉︎」
刺すような痛みの後、いきなり体に力が入らなくなった。
たまらず抱きついたまま膝をつく。
今何があったの……?
どうしよ、視界も霞んできた。
朧げな目で顔を見上げて、ふと気付いた。
この人……命じゃない?
命は、こんな冷たい目はしない。
誰……?
あ、もう意識が薄れる……駄目だ。
*
「……というわけで、やっぱり『メイド・イン・ヘ○ンを俺は押す」
「確かにあれには実績がある………だがな、あの時いたのが承○郎じゃなく………」
響人の真剣な話は終わり、帰路に着いている途中で始まった、「時間操作系のスタ○ドで最強を敢えて挙げるとすればどれか」という義論は、尋常じゃない位白熱していた。
いやあ、こういう義論ネットでやると荒れやすいから楽しいな。
分からん人には、本当に何言ってるか分かんねーと思うけど。
その辺はまあ…々ゴメン。
誰に謝ってんだ俺。
「まあ言っちゃえば………適所適材なんだけどな」
「敢えて義論してんだからそれは言うなよ」
やっぱり結論は出そうにない。
最強議論なんてそんなもんだけどな。
色々言ったはいいけど、結局はシチュエーションで大分左右されたりする。
難しいもんだ。
議論も終わったところで、家も近くなってきた。
「響人、折角だしウチでなんか飲んでくか?」
「じゃあ頼む」
何の気なしに誘ってみたら、無表情で即答した。
コイツ結構ヒマなのか?
どうせなら——
あ、いい事思いついた。
「天音に誘われた方が嬉しかったか?」
うし、自然な感じで探り入れれたぞ!
天音みたく動揺したりはしないにしても、多分コイツはぐらかしたりしないだろ⁉︎
直接聞けって言われるとそうなんだが、なんかこっちが照れるから嫌だ。
さあ、コイツはどう返す⁉︎
「まあな………自然に誘えるくらい積極的になってくれれば嬉しいんだが………」
……お?
「ぶっちゃけ俺から言ってしまうのは簡単なんだが………と言うか、そうしたいのは山々だが………」
「いやあの……ちょっと待ってくれる?」
えーと……。
これはもう公言したって事でいいのか?
流れ的にそういう事?
……よし、もう突進してみよう。
「お前ってさ……天音の事、好きなわけ?」
「?………そうだが」
ウワアァオ!
思った以上にバッサリ来た!
そうだろうなーとは思ってたけど、流石響人、無表情かつストレート過ぎる!
「一応聞くけど……どういう意味で?」
「性的な意味だ」
「ストレートにも程がある‼︎」
お前オブラートって知ってるか⁉︎
過激なものを包んで、ソフトに表現するためにあるんだぞ!
有効活用しろ!
お前なら出来るだろ⁉︎
「……まあいいや。で、なんでお前はそれを天音に言わないんだよ?」
これが疑問だ。
オブラートを口に含んでそのまま溶かすような奴だぞ?
ずっと一緒にいながら、何も言わないなんて不自然だ。
「それは………内緒だ」
「……まあ言いたくないならいい。俺にもそういうのあるし。けどさ……」
「………?」
「……いや、やっぱなんでもねー」
なんとなくだが、俺がどうこう言う事じゃない気がする。
響人の事だし、なんか考えがあるんだろ。
「悪いな」
「気にすんな。お、もう家着いた」
一応インターホンを押し、少し警戒しながらドアを開けた。
姉貴が飛びかかってくるかもしれないからな。
しかし、数秒待っても何の音沙汰もない。
「どうやら大丈夫か……」
「そういえば………あの人お前の姉さんか?」
「まあな。ちょっと騒がしい人だから警戒したんだが……ここまで何もないのは珍しいな」
それこそ、玄関で待機しててもおかしくない。
静かすぎて、逆に不安になる。
どっかに出かけたか?
いや、けど鍵開いてるし……。
「向井………その紙切れなんだ?」
「え?」
響人は靴箱の上を指差して言った。
そこに、字の書かれた置き手紙のようなものが、丁寧におもしの下に置いてあった。
おもしをどかして紙を手に取り、黙読してみる。
『夜中0時 駅から南東にある廃ビル』
なんだこれ?
姉貴のイタズラか……?
続きに目をやる。
『人数は問わない 来ないならそれでもいい 家族を見捨てるなら好きにすればいい』
は……?
『おれはブレード使い お前達の敵』
ブレード使い……⁉︎
俺の家に来たのか⁉︎
つーか、オイ……まさか。
「オイ! 姉貴⁉︎」
「向井………?」
手紙を持ったまま、家の中に駆け上がった。
リビングには、誰もいない。
1階の全ての部屋を見たが、誰もいない。
2階に向かった。
最初に俺の部屋のドアを開けたが、誰もいない。
全ての部屋を見たが、誰もいない……。
「ハァ……ハァ……」
俺の様子を見かねてか、響人が階段を上がってきた。
「どうしたんだ向井………大丈夫か?」
「大丈夫……じゃねー……!」
「………その手紙、なんて書いてあった?」
俺は何も言わず、手紙を響人に差し出した。
受け取った響人は、黙って目を通している。
なんなんだよ。
姉貴は関係ないだろ?
ふざけんなよ……!
「………なるほどな」
「クッソ……」
思わず壁にもたれ掛かって項垂れる。
最悪だ……。
アイツ等、俺たちのためにここまですんのかよ!
「で、向井………行くのか?」
「当たり前だろ。こんな事あってたまるか」
あんな事に、姉貴が巻き込まれて言い訳ない。
アイツ等絶対許さねー……!
「ほぼ確実に罠だぞ」
「だろうな」
「相手がどんな奴かも分からない」
「今に始まった事じゃねーよ」
「向こうは俺達の事を知っているぞ」
「分かってる……けど」
響人の言い分も分かる。
これは、俺達の方が圧倒的に不利だ。
人質、情報、罠、不安要素は山ほどある。
「じゃあさ……もし天音が人質に取られたら、お前ならどうする?」
「誤解するなよ………俺はお前に全面協力するつもりだ」
「?」
「ただ………結構ヘビーな状況という事をな」
そう言いながら、響人は携帯を取り出した。
「この手紙の主………多分かなり厄介だ。まず全員ここに呼ぶぞ」
「ああ……!」
俺も部屋から携帯をとり、偽造に連絡した。
*
程なくして、6人全員が俺の部屋に集まった。
円になる様に、全員向かい合って座っている。
「命君、緊急事態って何があったの?」
偽造が疑問を投げかけた。
集めてから話そうと思っていたので、電話ではまだ詳しく言っていない。
「とりあえず、これを」
「ん?」
俺は、例の手紙を偽造に渡した。
最初は疑問符を浮かべていた偽造だが、すぐに険しい表情になる。
「これって……」
「何が書いてあるんスか?」
雄生が手紙を受け取り、読むや否や、顔色が一変した。
「なんだコリャ‼︎ ふざけやがって‼︎」
雄生はそう叫び、手紙を「バン!」と床に叩きつけた。
その様に、女性陣は軽くビビる。
「ちょっと、ビックリするからやめてよ……」
「一体どうしたの?」
2人も手紙を覗き込み、黙読し終える頃には顔色が曇っていた。
「これが、向井君の家に?」
「ああ……」
「俺と向井が外で話している間に………この手紙を残し、向井の姉がいなくなった」
「!……凛さんが?」
偽造は、姉貴と面識があった。
因みに、会って即効打ち解けていた記憶がある。
「野郎共……漢らしくねえ事しやがって‼︎」
「これってつまり、カムイさんのお姉さんが捕まったって事よね⁉︎ ど、どうするの?」
「行くしかねえだろ‼︎ 俺はこういう陰湿な奴が1番許せねえんだ‼︎」
かなり立腹な雄生は、今すぐ突撃しようと言わんばかりの勢いだ。
正直、俺も手紙の主を、今すぐぶん殴ってその後ブった斬ってやりたい。
けど、こういう時こそ落ち着かねーと。
「今回、完全に俺達が不利だ。どうなるか分からねー」
全員分かってるとは思うが、現状かなりヤバイという事を伝えておく。
こんな手に出る奴は初めてだから、本当に予想ができない。
「だから……」
「ひょっとして、無理に来なくていいって言いたいわけ?」
「ん……まあ」
珍しく、偽造が不機嫌そうな顔をしていた。
「全く心外だなあ。そんなの今更じゃん」
「そうッスよ。こんな奴、俺等でぶっ倒してやりましょう‼︎」
「私も……役に立ちたいです!」
「サポートなら、私にも出来るかも……!」
全員が付いてきてくれる。
俺が驚いていると、響人は無言で肩を叩いた。
思わず笑みがこぼれた。
「お前等……ありがとな。頼む」
「よし、そんじゃやりますか」
偽造はそう言い、手を前に突き出した。
それに対して、雄生、天音、叶恵、響人の順に、手を上に重ねていく。
俺も1番最後に手を重ねて、叫ぶように言った。
「奴等を止める……俺達は勝つぞ‼︎」
「「「「「おお‼︎」」」」」




