第3話 「エンカウンター③」
「走って逃げろ‼︎ さっさとしろ‼︎」
これは、一体何事だろう。
唐突に呼び出されたと思えば、命君は、昨日事件に巻き込まれたと言った。
普通なら信じられないかもだけど、命君の様子を見た限り、少し現実味を帯びていた。
その少し後、命君の様子が変わった。
どうやってその場を切り抜けたのか聞くと、何故か言い淀み、自分に変な所はないかと聞き返してきた。
更に、突然青ざめて、僕に逃げろと言った直後、塀を飛び越え、その向こう側にいたヘルメットの男と対峙し、今に至っている。
「何が起こっている?」
この一言に尽きる。
命君はああ言っていたが、まさかあの男が事件の犯人なんだろうか。
だったら、何も無理に飛びかからなくても、警察に通報した方がよっぽど妥当な筈だ。
何故そうしなかったのだろう。
単にパニックになったのか……いや、命君はあれでも結構冷静な方だ。
パニクって致命的な失敗をしたりするタイプじゃない。
じゃあ、警察では解決出来ない様な問題があるとか。
深読みしすぎかな。
「って、そんな事よりどうすればいい?」
「うん、何が起こっているのかわからないって感じかな?」
「まあね……ん?」
流れでつい反応してしまったが、いつの間にか隣に誰かがいたらしい。
声のした方を向くと、白衣を着て眼鏡をかけた、同い年くらいの少年が立っていた。
「君には、何が起きてるか分かるのかい?」
「ふうん……今あそこで何が起きてるか、ボクが知ってると思ったかい?」
「え、だってそんな雰囲気だったし……」
「ああ、ズバリ知っているとも」
随分と思わせぶりな喋り方が気になったけど、とにかく知っているみたいだ。
「じゃあ、教えてよ。あのヘルメットは何者なんだい?」
「そうだなあ。簡単に言えば、ボクの知り合いの味方、かな」
「……じゃあ、君は何者だい?」
「ボクも彼の仲間で、彼の犯罪行為に肩入れしてると思っているのかい? 残念、ボクは仲間って訳じゃないし、直接手を貸したりもしない」
「……さっきから回りくどいよ。彼等や君は、一体何を知ってるんだ⁉︎」
相手の肩を掴み、少し凄む様に言っても、彼は少しも動しなかった。
一見爽やかな雰囲気だと思ったけど、今は何だか不気味だった。
「そんなに知りたいなら……うん。教えてあげてもいいよ?」
「……手短にお願いするよ」
「ああ、そんなに時間はかけないさ。話は後で、まずは身をもって体験してもらおうか」
そう言い、少年は小走りで公園を出ようとした。
「え、ちょっと⁉︎ どこ行くの?」
「いいからついてきて! 急がないと、あのジャージにヘアバンドの彼、やられちゃうよ?」
「……」
まだ状況が完全には飲み込めてないけど、彼の言う通り、今は迷ってる時間はない。
僕は、彼の後を走って追いかけた。
*
偽造がどうやってコレを手に入れたのか。
それは全く見当もつかないが、コイツが来なければ、俺は病院送りくらいにはされていたかもしれない。
「まあ、とりあえず助かった。サンキュー」
「お礼はいいけどさ、命君立てないの? ひょっとして攻撃された?」
そう言われ、俺はハッとした。
ヘルメット男は、能力がどうのとか言っていた。
俺も、細かい事は分からないが、それらしい事が出来た。
つまり、偽造にも何らかの能力が備わっているんじゃないか?
いや、間違いないだろう。
「なあ、お前なんか能力使えねえのか? 切った奴を痺れさせるとか、影に入ったりとか」
「いや、いきなり言われてもわかんないよ! その能力ってどうすれば使えるの⁉︎」
「他人の能力の使い方なんて知らねーよ! 俺だってまだほとんど飲み込めてねーんだから!」
「いつまでもゴチャゴチャやってんじゃねぇぞコラァ‼︎」
「うわっ! とと……危ない」
男は更に力を込めてきた。
偽造は剣を払いのけ、横に退く。
「テメェがなんでそれを使えるのか……理由は1つしか思いうかばねぇが、野郎ォなに考えてやがんだぁ⁉︎」
「さあ? 何とかして僕から聞き出してみれば? 理由を知ってるかもよ?」
誰の話をしているのか分からないが、これは言える。
偽造は嘘をついている。
あの顔は、他人をからかったり挑発したりする時の顔だ。
男の注意を、自分に向ける様に差し向けている。
「そうかよぉ……ならまずテメェから潰してやるぜぇ‼︎」
そして、男はまんまと挑発に乗った。
俺から注意をそらしてくれたのは助かったが、この後はどうする?
俺の体は満足に動かせず、手を貸す事もままならない。
だからこそ、偽造は自分に注意を向けてくれたのだろう。
だが、俺はこのまま逃げる事は出来ないし、そんなつもりも全くない。
元は俺が原因みたいなもんだってのに、そんな事が出来る筈が無い。
何とか偽造に加勢しねえと……!
偽造は、俺の方を見ると、笑いながら口の前に人差し指を立てた。
「今はこっちで時間稼ぐから、後で何とか加勢してくれ」とでも言うように。
「そんじゃまあ、何とかしますか!」
「カッコつけてんじゃねぇぞぉ! ムカつくぜぇテメェ‼︎」
男が切りかかってきたのを、偽造はしゃがんでかわし、そのまま足を切りつけようとする。
が、男も小さくジャンプしてその攻撃を躱した。
そのまま顔面に膝蹴りを見舞おうとしたのを、偽造はすんでの所でガードしたが、反動で尻餅をついてしまった。
「っ‼︎」
「やっば!」
その隙に、男は偽造に剣を振り下ろした。
偽造はそれを、転がる様に横にかわして立ち上がり、後ろに距離をとった。
「おい! 大丈夫か⁉︎」
「まあなんとか……。不思議といつもより体がよく動いてる気がするし。火事場の馬鹿力ってやつなのかな?」
偽造は相変わらず飄々と返すが、ぶっちゃけそんな余裕は殆どない筈だ。
何しろ、1回でも擦れば、それで負けが決まる。
そうならない様に、俺のこの状況を何とかしねーと……。
そう言えば、足の方は殆ど動かせないが、手はそこまで痺れは無いし、ある程度動かせる。
奴の能力が全身に及ぶまでには、時間がかかるのだろうか。
そうは言っても、ここから動けなくては、あいつに攻撃出来ないし、仮説が正しければ、時間がたつほどやばくなる。
なら、なんとかして動くことが出来れば、俺は偽造に加勢することが出来るわけだ。
どうやって移動する?
ひょっとして、能力を使えばなんとかなるか?
もうそれに頼るしか無い。
俺は、昨日の事をイメージする。
昨日の夜、あいつから逃れる時にやった様に、自分の影に入り込む事が出来れば……!
すると、体が沈んでいく様な感覚があった。
気付けばあたりは真っ暗だが、上を見上げると、ヘルメットと偽造が睨み合っているのが見えた。
どうやら上手くいったらしい。
問題はこの後だ。
俺の体は動かせないが、この影はどうなんだ?
さっきの様にイメージする。
俺が入っている影を動かすことが出来れば、奴に近付いて攻撃出来る。
イメージしろ……!
動け‼︎
どんどん距離が縮まって行くのが見えた。
そしてついに、ヘルメットの足下くらいの所まで近づけた。
いけるぞ……これならいける‼︎
俺は影から姿を現し、剣を奴に向かって振り上げた。
「くらいやがれ‼︎」
「‼︎?」
俺の叫びに反応して、男はこちらに振り向いた。
男は相当面食らった様で、防御せずにのけぞる様に攻撃をかわそうとする。
かなりギリギリの所で、男は俺の攻撃を躱した。
だが、今ので奴の体はバランスを崩した。
その状態じゃ、次の攻撃は絶対に防げない!
「今だ! いけ偽造‼︎」
「ハラショー‼︎」
景気良く叫んだ偽造は、男の頭に向かって剣を振り抜いた。
「うがっ!」
剣は見事に命中し、被っていたヘルメットが吹き飛んだ。
素顔を晒した男は、偽造の方を睨みつけた。
左側をコーンロウの様にしたアシンメトリーの金髪で、顔には刺青、口元にはピアスという、なんて言うか、いかにもって感じの顔だ。
まあ、口には出さないけど。
「ふうん……。いかにもって感じだね」
そう思ってたら、口に出す奴が目の前にいた。
恐れ入るよ、ホント。
「へえ、初めてにしてはすごいじゃないか」
突然塀の方から声が聞こえた。
振り向くと、白衣を着て眼鏡をかけた男が、塀にもたれて立っていた。
「あ……さっきの」
「へ? お前知り合い?」
「いや、知り合いって言うか」
「おい、見児テメェ‼︎ これはどういう事だぁ⁉︎ アァン⁉︎」
ヘルメットだった男は、突然声を荒げて白衣の男にズカズカと歩み寄り、胸ぐらを掴んだ。
「どうも何も、ボクは言われた様にしただけさ。相手が同じブレード使いなら、一層ハリが出るんだって」
胸ぐらを掴まれても、白衣の男は全く動じていない様子で、淡々と言った。
ていうか、今の口ぶりだと……。
「他にもお前らみたいな奴がいるのか⁉︎」
「おやおや、君は彼には他に仲間がいて、その仲間もこのブレードを持っていると思ったのかい? ああ、その通りだ」
「テメェ、何勝手にベラベラと……!」
「まあ落ち着いて考えなよ、楊太郎。この状況は君にとって不利じゃないか?」
「んな事知るかぁ! こんな奴ら、俺の『アメノサギリ』で……!」
「ジャージの彼には、そのアメノサギリの力の穴を抜けられた。それに、銀髪の彼に関しては、能力も分からない。このまま続ければ、これは君の好きな弱い者いじめじゃなくなるかもしれないよ?」
「……チッ」
楊太郎と呼ばれた男は、舌打ちをして、もう1人の見児だとか呼ばれた白衣の男から手を離した。
そして、掴んでた方と別の手からは、いつの間にかあの剣が消えていた。
「仕方ねぇから今はひく。けどなぁ、次は絶対にぶちのめす。覚悟しとけぇ……!」
そう言い残すと、少しだけ砕けたヘルメットを被り直し、乗ってきたであろうバイクに跨ってその場を後にした。
その場に残った見児とかいう奴は、俺の方に向かい直した。
「ねえ、ジャージの君。楊太郎はさっき能力を解除していたから、もう普通に立てると思うよ?」
「え? あ、ホントだ……」
そう言われれば、さっきから続いてた痺れが消えている。
けど、今はそんな事どうでもいい。
聞きたい事が山積みだ。
「……お前等は一体何なんだ? さっきのアレ、ブレードって言ってたな。なんか知ってんだろ? お前」
「もちろん、よく知っているとも。でも、あれはなんだと言われても、超能力としか言えないかな。それと、お前等というのは正確じゃない。ボクは別に彼等だけに肩入れするつもりはないさ。全ては運命の赴くままに……ってね」
運命とか……何言ってんだコイツ?
よく分かんねーな。
「それで? 僕達はどうすればいいわけ? この事件を止めればいいのかい?」
「さあ。何をしたって君等の自由さ。このまま家に帰ろうと、学校に行こうと。ただし、彼等は止まらない。警察には止められない。楊太郎以外も、その内何かをやらかすかも知れない。もちろんボクに止める気はない」
「なんだそりゃ、意味分かんねーぞ! お前は結局俺等にどうして欲しいんだよ‼︎」
「言ったじゃないか。君達の自由だって」
……コイツは、本気でそう思ってるらしい。
誘導とかでなく、本気で好きにすればいいと思っている。
……俺はどうしたいんだ?
面倒な事には関わりたくない。
けど、どうやら嫌って程深く関わってしまったらしい。
だったら……残念ながら答えは決まってる。
「……自信はねーけど、とめてやるよ。これ以上勝手にはさせない」
そう言った所で、異常な倦怠感に襲われた。
「偽造、なんか飯奢ってくれ……」
「ええ⁉︎ このタイミングで⁉︎」
そう言えば、昨日の夜から何も食べてなかった。




