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第29話 「あの時には戻りたくない」

 翌日、俺は通学路で誰とも会わなかった。

 いつもなら偽造が突っ立っている場所に、今日は誰もいない。

 電話してみても反応なし。


 虚無感で頭にモヤがかかったかのように、何も考えられないまま授業を受けた。

 当然何も入ってこない。

 なんだか、全てが面倒に感じてくる。


 過去、目の前にあった高い壁を超えられないと悟った事があった。

 今、まさにその時に似てる。


 またか?

 また俺は逃避するのか……?


 そうすれば楽なんだ。

 分かってる。


 あの時はとても楽だった。


 ただ、死ぬ程居心地が悪かった。


 もう、ああはなりたくねーな……。


 でもヤバい、何かがフラッシュバックしそうだ。


 俺は……アイツに勝てない……?

 勝てない……カテナイ……どうしようもない?

 じゃあ……俺が何やったって——


 なんで俺はそんな無駄な事やってんだ……?


 もう、面倒だ……。


「……ん、カムイさん」

「ハ……!」


 気づけば、叶恵が俺の体を揺すりながら呼びかけていた。

 お陰で、俺の意識は現実に引き戻される。


「なんで屋上来ないんですか?」

「え……」


 もう昼休みだったのか。

 気付かなかった。


「ああ、悪い……行くか」

「あ…………」


 弁当を持って立ち上がり、フラフラ歩き出した。

 廊下を歩いているところで、叶恵が話しかけてきた。


「あの……カムイさん?」

「なんだ?」

「えっと……やっぱりなんでもないです」

「……」


 なんだ?

 叶恵、元気なさげだな。


 ……いや、俺から伝染したか。

 あんま心配かけねーようにしないと……。


「俺は大丈夫だから……そんな心配しないでくれ」

「……はぁ……」


 叶恵は曖昧に返事して、それっきり何も言わなかった。


 そうこうしてる間に、屋上のドアのところまで来た。

 だが、その向こうに誰かがいる気配がない。


「……」


 つい、叶恵の方に目線がいった。

 ……俺を呼びに来るまで、ずっと1人で待ってたのか……?

 悪い事したな。

 今度ゲーセンでも連れてってやろう。


 ドアを開けると、閑静な屋上の風景が目に飛び込んで……


「………今日は誰も来ないと思ってた」


 来たかと思えば、頭上から聞き覚えのある声がした。

 その方向を見ると、声の主たる響人が俺を見下ろしていた。


「……何やってんだよ」

「来ても誰もいなかったから………今日はここで寝ようかと思ってたところだ」

「え、でもさっきまでいなかった……」 「入れ違いになったんだろ」


 響人は相変わらずの様子だった。

 安定の無表情である。


「………たまにはコッチ来てみろよ。そこに梯子あるし」


 響人は右を指差してそう言った。


「じゃあ、まあ……お言葉に甘えて」







「「「…………」」」


 さっきから、ずっと無言状態が続いている。

 響人は案外いつも通りな気もするが、叶恵はやっぱり目に見えて元気なさげだ。

 2人から見て、俺も多分そんな感じだろうけど。


 なんか言おうにも、何も言葉が浮かばない。

 ああ、クソ、こんな俺の何処が「中心」なんだ。

 夜乃とやらは、なんであんな事を……。


「………なんでそんなに弱腰になってる?」

「……っ」


 コイツは偽造かよ。


「逆にお前はどうもしないのかよ?」

「どうもしなくはない………お前のその様子が、ただ落ち込んだって感じじゃないなと思っただけだ」


 ズバリ当たってる。

 俺は別に落ち込んでない。


「俺は多分……怖がってんだと思う」

「怖がる………夜乃にか?」

「いや、なんつーか……昔みたいになるかもしれねーって」


 自分で口にすると、更にその事がリアルに思い浮かぶ。

 色んなものを丸投げして、逃げる様にディスプレイとにらめっこしてた自分の姿が……。


「カムイさん!」

「っ!」


 またしても、叶恵の呼びかけが俺を現実に呼び戻した。

 大して暑くないのに、嫌な汗が手に滲んでいる。


「………立ち入った事だったか。悪い」

「いや、別に……」


 また会話がなくなった。

 だが今回は、疑問に思ってる事を思い出していたので、俺から話を切り出した。


「なあ、2人とも……」

「はい?」

「なんだ………?」


 …………。


「昨日アイツが言ってたことが本当とだとして……なんで俺なんかに、一目置いてくれてんだ?」

「「…………?」」


 2人は、キョトンとした顔で俺を見る。

 その後しばらく顔を見合わせ、叶恵が先に口を開いた。


「一目置くって……尊敬するって意味ですよね?」

「まあそうだ」


 なんの話してんだ叶恵。


「そんなの……! だってカムイさんはすごいじゃないですか!」


 かと思えば、叶恵は「当たり前だ」と言わんだかりに、立ち上がって叫ぶ様に言った。


「1番最初にあいつらに立ち向かおうって決めて……! そんな事なかなか出来ないと思います! その上、自分より私たちの事気遣ってくれてて! だから……!『俺なんか』とか言わないで下さい!」

「……叶恵」


 余程感情を込めたのか、最後の方は声が枯れていた。

 だからなのか、俺はその言葉に胸を打たれるような思いがした。


「カムイさんが自分の事どう思ってるか分かんないけ……! カムイさんは凄いん……!」

「もういい、声出てねーぞ。……ありがとな」


 ヤバい、ちょっと泣きそう。


「………ほとんど葉隠に言われたから、俺が言う事あんま無いけど」


 今度は響人が話しだした。


「純粋に人柄だろ………付き合いは長くないが、お前がそういう奴だってこと位なんとなく分かる………」

「そういう奴ってどういう奴だよ?」

「なんというか………ちょっとしたカリスマ性を感じる」

「カリスマ⁉︎ 俺が⁉︎」


 実感無えー……。

 まずコイツ本気で言ってんのか?


「まあそんな訳で………昔何があったか知らんが、お前はリーダーとしてドンと構えてろ。多分全員そう思ってる………」

「おう……嬉しい一方めっちゃむず痒いわ」


 こんなに誉め倒されたの初めてだよ。

 けどそうなのか……そんな風に思ってくれてたのか……。

 そう安々と「面倒だ」なんて言ってられねーな。


「なんだ………顔色よくなったじゃないか」

「え、そうか?」

「さっきまで死にかけみたいな顔だったから……元気になってよかったです!」

「死にかけ……」


 傍目には死にかけてたのか、俺。


「心配かけたみたいで、悪かった。けどもう本当に大丈夫だ」


 俺の事より、むしろ今いないメンバーの方が心配だ。


「響人、天音はどうしてる?」

「ああ………クラス委員がどうとかで、今日は屋上来ないらしい」

「あ……学校には普通に来てたんだ」

「誰も来てないとは言ってない」

「そうですね……」


 その辺は俺の取り越し苦労なのかな?


「じゃあ雄生は? 誰か知らねー?」

「あ、『今日は休むから知らせといてくれ』って言われてたの忘れてました」

「休むってなんでだ⁉︎」

「ブレードを使いこなせるように特訓するらしいです」

「特訓……?」


 暑い、暑すぎるぜ雄生……。


 けど確かに、ブレードを使いこなせるようにはしねーとな。

 夜乃には素手であのザマだったんだ。

 ブレード使われたらと思うと……。

 身体強化じゃ敵わないだろうから、能力を駆使して……。


「向井………勾原はどうなんだ? クラス委員やってるとは思えないが………」

「特訓ですか?」

「……あ!」


 そうだ。

 今の状況、アイツが1番問題だ。


「それが……今日アイツ来てねーんだ。携帯も通じねーし」

「オイ………」

「来てないって、なんでですか?」

「…………」


 昨日の偽造は、何処か普通じゃなかった。

 ノックアウトされたかと思えば、最後の最後に立ち上がり、凄まじい身体能力を見せ、夜乃を撤退させたのだが……。


 その時の雰囲気が、明らかに異常だった。


「アイツ……」

「そう落ち込むような奴には見えないが………」

「う〜ん、なんでも笑い飛ばしそうな感じだと思ってました」

「……やっぱそう見えるよな」

「………?」


 普段の偽造を見てる限りは、そう思って自然だ。

 俺も、時々忘れそうになる……と言うか忘れる。

 実際のアイツがどんな奴か。


「どういう意味だ?」

「それは俺が言う事じゃねー。機会があったら本人に聞いてくれ」

「これは勘だが………お前とも関係ある事か?」

「……いや、根本的には関係ねーけど」


 なんて言うか……。

 言葉にするのが小っ恥ずかしいが。


「今の俺と偽造があるのは……お互いのお陰って言うか」

「………」

「?」


 なんか大袈裟に聞こえるかもしれないが、これでも差し支えないと思う。


「………無理に言わなくていいぞ」

「ああ……機会があったらその内な」

「えっと、それでどうするんですか?」

「……帰りにアイツの家に寄ろう。雄生も呼び出して」







 昨日の事は、あまり覚えていない。

 ただ、這いつくばる命君を見下ろすあの男を見た瞬間、何かの歯車が狂った様に頭が怒りで埋め尽くされた。


 またすぐに意識が飛んだらしい。

 気がつくと、自分の部屋のベッドの上だった。

 そして何故か、身体中がバキバキに痛んでいた。

 起き上がるのもままならない。


 携帯が鳴ったけど、手を伸ばして出ることも出来なかった。

 多分命君かな。

 余計な心配かけちゃったかな。


 ……僕は今1人だ。

 お母さんは仕事だから。


 昨日の一件で、皆がバラバラになったらどうしよう……。

 繋がりが消える。

 皆が僕の周りからいなくなる。


 そしてこのまま1人になる。


 それは嫌だ……!

 1人になるのは嫌だ!


 あんな思いはもうしたくない……。

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