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第28話 「銀の狐と黒い蛇-邂逅-」

「へえ、ついに幽永が動き出したか!」


 雲村見児は、自身の能力で創った空間から、鏡越しに戦闘を傍観していた。

 運命が大きく動き出すぞ、と興奮気味に、彼なりの感想を漏らす。


「幽永は全く本気出してないな。これじゃ結果は見えてるね。まあ気の毒とは思わないけど」


 これも運命、とあっさり割り切る。


 そもそも彼には、誰かへ対する情なんて存在しないのかもしれない。

 理屈をこねそうな博士風の出で立ちに反し、根からの運命論者たる彼に、そんなものは必要ない。


「役者はもう粗方揃ってる。あとは運命がどう転ぶか……それが君等の命運を左右する……『命』の『運』命と書いて『命運』、だよ」


 彼は今の所は傍観者。

 ただのそれだけ。







 遊びたい。

 コイツのいう「遊び」とはなんなのか。

 それは、恐らく「戦う事」だろう。


 響人の攻撃を躱している間、奴はとても生き生きとして、楽しそうだった。

 自分に危機が迫っているというのにその状況を、心から楽しんでいた。


 意味が分からん。

 イかれてる。


「なあ、いいだろ? ずっと体力温存してたのに、これじゃまだ不完全燃焼なんだよ」

「……分かった。けど条件がある」

「向井………?」


 平静時の俺なら、こんな馬鹿げた誘いには絶対乗らない。

 だが今は平静じゃない。


「俺以外の奴には、これ以上手を出すな」

「へえ……!」

「向井、お前………」


 これでこれ以上の事が起きないなら、喜んで乗ってやるよ。

 向こうが条件を飲めば、だが……。


「カッケェ事言うなお前。俺そういう青臭いのは…………大好きだぜ!」


 奴はナイフを俺に向け、尚嬉しげに笑う。


「オーケーオーケー、その条件飲んでやるよ」


 案外すんなりと承諾された。

 ヘルメットや望川とはまた違う印象の奴だ。

 俺は偽造じゃないから、アイツの考えはよく分からんが。


 まあなんにしろ、俺にふっかけてきたのはラッキーだった。

 見た通り、奴はかなり強い。

 それこそ、あのヘルメットなんか比べ物にならないだろう。

 俺もどうなるか分からない。


 けど…………………………………………………。

 偽造と雄生と叶恵の分、最低でも3発は見舞わないと気が済まない。


「カハハ! なんか楽しくなりそうだな! 行くぜ影男!」


 奴は俺に向かって、一直線に走り出した。

 かなりのスピードだが、叶恵の方が速い……!

 それ位なら対処出来る。


 奴の進む軌道上に影をスタンバイする。

 射程に入った所で、影の拳を繰り出した。

 それだけスピードが乗っていれば、急には曲がれない筈……。


 そう思っていたが、奴は体を回転させる様にして難なく攻撃を躱した。

 その回転を利用し、偽造の時の様に裏拳をかまそうとする。


 空を切る鋭い音が徐々に近づいてくる。

 けど、不意打ちだった偽造の時とは違う。


 すかさず影で盾を作り、裏拳をガードした。

 その瞬間凄まじい音が響き、耳がジンジンする。


 なんで裏拳でこんな音鳴るんだよ……⁉︎


「やっぱり、まあまあやるじゃん!」

「そりゃどうも……!」


 攻撃を防いだ盾から更に影の拳を伸ばし、

カウンターを狙う。


「うおっ⁉︎」


 どうやら腕でガードしたようだが、それでも多少はくらった筈だ。


「とりあえず1発……」


 バランスを崩した奴に、更に影で攻撃を繰り出すも、奴は体をよじるようにうまく躱した。

 その不安定な姿勢の状態で、奴はブレードを持った方の手を振りかぶり、


「そらよッ!」

「!」


 ブレードを、俺に向かって投げつけた。

 今度のは不意を突かれた。


「くっ」


 なんとか影でガードし、ブレードを弾いた。


「カハッ! 今度のは防げるか⁉︎」


 が、その隙に奴は姿勢を立て直し、俺の近くまで接近してきていた。


「オラァ!」


 奴は俺の頭を狙い、回し蹴りを繰り出した。


 しまっ……影が間に合わな——


「くっ……!」


 咄嗟に腕で防御した。


 ただ、この瞬間思い出した。

 奴の攻撃をくらった雄生が、治癒能力を持つにも関わらず……苦悶の表情を浮かべ動けなくなった事を。


 奴の蹴りは、俺の腕に直撃した。


「いっ…………!」


 蹴りを受け止めた左腕から、ミシミシッという嫌な音が聞こえた。


「ッ……だぁ……」


 おい……。

 今のただの蹴りだろ……?

 まるで鈍器で殴られたみてーだ。


「どうする? 降参しとくか?」


 奴は少し後ろに距離をとる。

 さっき弾いた奴のブレードが、ちょうど奴の手元に落下してきた。


「はっ……馬鹿言え。まだ1発しか食らわせてねーからな……今の1発分加算してやろうか」


 くそっ……アイツ終始笑ったままだ。

 あのカウンターも殆どきいてねーのかよ?


 どうする……。


「カハハ! 中々いい目付きじゃん。ま、本当に無理ならコッチで判断してやるよ。見りゃ大体分かるし」

「うっせー、あんま舐めるなよ……」


 とは言ったものの、もう右手しか使えない。

 まだハッキリした能力も使ってないのにこの体たらくだ。

 そんな奴に、俺が片手で勝てるのか?


「向井………大丈夫か?」

「ああ、やるしかねー」

「よし、再開だ! かかって来いよ!」

「言われなくても!」


 俺は右手でブレードを構え、奴に斬りかかった。

 同時に、足元から影のアッパーを仕掛ける。


「ブレードと影のコンビネーションは確かに厄介だな。けど……」


 この2連撃を、奴は半身になりながらバックステップして躱す。


「この位じゃ、俺には当たらねえよ」

「どうかな?」


 アッパーに使った影を壁の様に変形させ、そこから影のラッシュを繰り出した。


「おお……! これで攻防一体の技ってか? 考えるもんだな」


 ご丁寧に解説しながらも、奴は全ての影を躱しているようで、手応えが一切ない。

 掠りもしない。


「お前……本当に何者なんだよ」

「別に? 今はお前の対戦相手ってとこだ」


 何発かラッシュを続けて、影の壁を解除した。


「?……どこ行った?」


 壁の向こうにいる筈だった俺の姿を見失い、奴は疑問符を浮かべた。

 が、地面に不自然な丸い影があるのにすぐ気付いたらしい。


「ああ、そういや影の中に入れるって聞いたな。なんだ、早打ち勝負でもする気か?」

「…………」


 俺は無言で、奴に注意を払う。

 ラッシュの間、咄嗟に思いついた手段だが、喧嘩素人な俺にとってタイミングがシビアだ。

 ゲームならちょろいんだけどな……。


「……どうした? 来るなら来いよ」


 1度深く深呼吸する。

 ……よし。


 奴の見る影から、俺は飛び出し、ブレードを突き刺そうとする。



「遅い!……⁉︎」


 一瞬、奴にはそう見えただろう。


「これは……影の人形か⁉︎」


 奴の目の前に現れたのは、俺を模した影だった。

 奴の突きは、影の人形に命中していたが、当然人形にダメージはない。


 俺は影の人形を操作し、両拳で1発ずつ奴を殴った。


「今ので3発」

「っ! 後ろか⁉︎」


 奴は振り返り、背後にいた俺を視界にとらえた。


「余所見すんなよ」

「あ⁉︎ コイツ……!」


 影の人形が、奴の脇から両手を回し、奴を拘束した。


「お前……さっきのラッシュの隙に影を2つに分割したのか。片方にお前が潜んで、俺の背後に回り込んだって訳だ……!」

「解説どーも」


 俺はブレードを構え、奴に斬りかかった。


「カハハ! こりゃ1本取られたな! 咄嗟にこんな事思いつくとはよ!」


 どこにそんな笑える余裕がある?

 もうこれで終わりだぞ。


「4発目……!」

「これだから戦いはいい……楽しいね」


 俺はブレードを、奴に振り下ろした。


「でも、お前じゃ俺には勝てない」

「っ……⁉︎」


 コンクリでも殴ったのかと思った。

 奴を切りつけた右手はジンジンと痛み、ブレードを握ることすら出来なくなった。

 ブレードを落とし、俺は堪らずしゃがみ込んだ。


 何が起きた……?

 攻撃したのは俺だった。

 奴は抵抗も出来ない状態だったのに。

 

「お前……何しやがった?」

「何もしてねえよ。何も」


 影の人形は今ので消えてしまったらしい。

 奴は肩を回しながら、しゃがみこむ俺を見下ろした。


「お前は大した奴だ。けど、戦いには向いてねえ」

「どういう意味だ……?」

「そのままの意味だ。俺をブレードで攻撃する時、殺傷力をかなり弱めたろ? 最早『切る』っつうか『殴る』に近い位にな」


 確かに……俺はかなり殺傷力を弱めている。

 影のラッシュなんかも、今まで最低限の威力に調節していた。


「もうちょっと殺傷力上げてりゃあ、切り傷くらい与えれたかもしれねえな。けどさ、お前結構強かったぜ? 真剣に鍛えりゃかなりのもんになるだろうな」


 くそ……。

 もうどうしようもないのか?

 コイツの能力も分からず、このまま負けるのか?

 いや……!


「せめて……お前の能力だけでも解明してやるよ」


 両手とも碌に使えない癖に、俺はなんとか立ち上がりそう言った。

 それさえ分かれば、あとは響人に託せるかもしれない。

 まだ希望は潰えたわけじゃ——


「ん〜……。まあいいや、言っちゃおう」

「……?」







「これはただのバタフライナイフ。俺、まだブレード使ってねえんだけど」







「……は?」


 ブレードを使ってない……?

 コイツは1人で、俺たちブレード使いを相手取って、楽々と蹂躙した。

 殆ど圧勝と言っていいだろう。

 殺傷力を弱めたとはいえ、ブレード使いの攻撃を食らって平然としていた。

 逆に、攻撃した俺の腕が、反動で麻痺した……。


 こんな化け物じみた所業を、全部生身でこなしたと、コイツはそう言ったのか……?


 ……駄目だ。

 どうしようもない。

 俺がどうにかできる奴じゃない。

 コイツは本当に、俺と同じ人間なのか?


「…………」


 俺はまた膝から崩れ落ちた。

 希望が潰えた。


「ハア……ギブアップだな」

「…………」


 奴はそのバタフライナイフを真っ2つに折り、適当に投げ捨てた。


 俺は何も言えなかった。


「このまま続けるのは俺の主義に反するし……帰るわ。じゃあな」


 奴は残念そうな表情を浮かべ、その場を後にしようとした。


 ……ふと、誰かが走る音が聞こえた。

 こちらに近づいてきている。


 ……誰だ⁉︎

 俺は顔を上げた。


 奴も足音に気付いたのか、音のする方向を見ていた。


「ッ⁉︎ グァ!」


 その時には、走ってきた人物の拳が奴の顔面に命中していた。


 殴られた奴は吹き飛び、仰向けに倒れた。

 何が起きたか分からない。


 そして、奴を殴り飛ばした人物を見て、俺は更に混乱した。


「偽造……?」

「…………」


 偽造は何も言わず、ただ倒れた奴を睨むように見ていた。

 その目つきは、明らかにいつもの偽造とは違う。

 青い色で塗り潰したかのような……言ってしまえば、奴の目と同じに見えた。


「なんだ……? お前巴にやられた奴じゃ……」


 吹き飛びはしても、奴はピンピンした様子で立ち上がった。


「口切った……カハッ! 痛いってのが久々だな」

「…………」


 偽造は依然何も言わない。


「おい偽造……?」

「…………」


 偽造は息を大きく吸い込み、叫ぶように言った。


「僕の友達に何をした‼︎‼︎ お前ェッ‼︎‼︎」


 偽造はブレードを出し、迷いなく奴に振り下ろした。

 奴は転がって攻撃を躱す。


「うおっ!」

「許さないぞ……‼︎」


 更に、奴に蹴りをいれる。


「ガッ!」


 蹴り飛ばされながらも、奴は立ち上がる。


「カハハハハハハハ! やるねえお前! とても巴に負けたとは思えねえよ!」

「うるさい……」

「このまま続行したいのは山々なんだけどよ……今からフルスロットルはちょいと厳しい。悪いが帰らせてもらうぜ」

「帰すと……思うかい?」

「そう言うなよ。……なあ、お前なんて名前だ?」

「……君から名乗りなよ」

「ああ、そりゃそうだな」







「夜乃幽永だ」

「……勾原偽造」


 あまりの緊張感に、息が止まりそうになる。


「そうか……今回のは背中ついたし、俺の負けでいいや。じゃあな偽造。またいつか、ちゃんと遊ぼうぜ?」


 そう言い、夜乃幽永と名乗った奴は、何かを偽造の目の前に投げた。


「待て……!」


 瞬間、奴が投げた物が激しい光を放った。


「なっ⁉︎」

「閃光弾……⁉︎」


 なんでそんな物を⁉︎

 光で視界を奪われ、なす術もなくなった。







 ようやく目が慣れ始めた頃には、奴の姿はなく、偽造はその場に倒れていた。


「おい、偽造……痛っ!」

「向井君、大丈夫⁉︎」

「いや、あんまり……」

「命さん……すぐに治します」

「……悪い、何も出来なかった」


 奴は、どうしようもない怪物だった。

 ブレードを使ってないというのが、未だ信じられない。


 アイツの他に、あと2人いる……。

 俺なんかに、どうにか出来るのか?

 正直……できる気がしなかった。

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