第22話 「もう1つの戦い」
「また来たぜ……」
「ねえ、本当に2日連続で? 私は別にいいけど」
「今日は昨日の様にはいかねえからな」
「あと、私お金ない」
「さあ、リターンマッチだ‼︎」
「聞け!」
「痛って⁉︎ なんでいきなり蹴んだよ⁉︎」
「あんたが無視するからよ!」
命達が望川巴と戦っていたのと、ほぼ同時刻の事だ。
1人の男……もとい漢もまた、ある強敵へ挑まんとしていた。
「まあいい」
「よくないわよ!」
「かかって来い……サイケデリックラーメン‼︎」
「なんなのよもう!」
漢は敵の根城の門を開き、堂々と中へ入っていった。
1人のお供を引き連れて。
*
「また会ったな……昨日ぶりじゃねえか」
目の前に現れた敵に、彼はいきなり啖呵を吐く。
「ねえ、あんたおかしいわよ?」
「バカ言え。俺は今燃えてんだぞ」
「よく分かんないけど、今は私よりあんたの方がバカよ」
「言ってろ。所詮テメエには分からねえよ」
「うん……やっぱ分かんないけど、なんか腹立つ」
「さて、そろそろ始めるか」
「……もう勝手にして。こっちはこっちで食べとくから」
漢の闘志に押されてか、お供の戦いへの興味は、みるみる内に落ち込んでゆく。
そんな事には目もくれないで、漢は右手に武器を持ち、まず精神を落ち着かせる。
自分の勝利をイメージし、士気が高まったところで、先制攻撃を繰り出した。
「‼︎‼︎」
筈だったのだが、そう簡単にはいかない。
敵の放ったカウンターが、彼の意識を朦朧とさせる。
「こっ……これしきの事ォッ‼︎」
なんとか踏みとどまった。
危うく1撃で勝負が決まるところだったが、これは彼が弱いわけではない。
向こうが凶悪すぎるのだ。
「やっぱ手強い……だがそうでなくちゃなあ‼︎」
この強烈なカウンターは、逆に彼の闘志を燃え上がらせた。
すかさず2撃目を繰り出す。
「クッ……‼︎ どうした、その程度か⁉︎」
彼は、敵の攻撃に慣れ始めていた。
1撃目こそ危なかったが、それで先日の感覚を取り戻した彼にとって、勝てない相手ではない。
もっとも、彼のダメージもまた大きい事に変わりはないが。
この調子なら勝てる‼︎
そう確信した矢先、事件は起きた。
「替え玉ちょーだい!」
「⁉︎」
隣に座っていたお供の声。
彼女は既に、同じ相手を一蹴していたのだ。
更に、これから2人目を相手取ろうとしている。
前回の時も、生還できたのは彼女のお陰だったとはいえ、あまりといえばあまりの実力差。
だが彼は負けられない。
奴にも、お供にも。
ここで折れれば、漢としてのプライドを捨てる事に他ならない。
彼にはそう思えてならなかった。
消耗した相手を、彼は一気に片付けると言わんばかりの猛攻を繰り出す。
だが、カウンターを専売特許とする奴にとって、それはピンチと同時にチャンスでもあった。
どっちが倒れてもおかしくない壮絶な攻防。
その激闘を制したのは……。
「ブッ………ハア‼︎」
気づけば、奴は再起不能だった。
勝ったのは彼だ。
その強い意志が、見事に強敵を打ち破ったのだ。
「まだだ……」
しかし、彼には新たな敵がいたのだ。
「替え玉もう1個! あとチャーハン追加!」
そう、隣にいるお供である。
もう1個などと言っているが、彼が数え間違っていなければ、既に彼女は6人抜きしている。
それだけじゃない。
討伐と同時進行で、別の敵達も葬っている。
彼が1人倒す間に、それだけの相手を軽くあしらってしまったのだ。
こんな物を見せられて、彼の闘争心が燃え上がらないはずが無かった。
「俺も替え玉だ‼︎ あと餃子‼︎」
彼は、最早意識を保つのがやっとの状態だ。
それでも彼は逃げない。
これからの人生、敗北して逃げるという事は、彼には起こり得ないのだろう。
*
どれだけの時間が経っただろう。
これまで意地で突き進んできた彼にも、流石に限界が訪れようとしていた。
あれから、例の敵を5人抜きし、更に別の相手をも撃破した。
しかし……。
「そろそろ終わりにしよっと。ごちそうさま!」
奴を30人抜きし、ついでに大量の軍隊を壊滅させ満足げにそう言った彼女には、遠く及ばなかった。
あの小さな体の何処に、あんな量を詰め込めるのか。
逆に、あれだけ入って何故あんなに小柄なのか。
あんなゲテモノを、何故美味しそうにペロリと平らげるのか。
謎が謎を呼ぶが、ただ1つ彼は確信した。
負けたのは自分なんだ、と。
全力を出し切り、それでも負けた。
だが彼に悔いはない。
全力でも足りなければ、己を磨き、乗り超えてやればいい。
次なる挑戦への意気込みを抱いたその瞬間、彼は意識を失い、テーブルに突っ伏した。
*
「偽造の事はいいとして」
「いいんだ……」
「響人お前、怪我してんじゃねーか。大丈夫かよ」
響人の両腕には、刃物を突き刺されたような傷があった。
見た感じかなり深いし、血も結構出ている。
「まあ………応急処置くらいは出来る」
「えっと……ゴメンね」
「別に天音が謝らなくていい………自分の落ち度だし」
「でも……あ、じゃあ私の能力で応急処置出来ないかな? 傷口を縫い合わせて」
「………頼む」
天音は、響人の制服の袖を捲った。
「オイお前それ……貫通してねえ⁉︎ マジで大丈夫か⁉︎」
「まあ、空気に触れただけでかなり痛いし………動かすと捥げるんじゃないかって程度の痛みだ」
「真顔で恐ろしい事言うな! それ大丈夫じゃねーよな⁉︎ 能力で応急処置っつってたけど、天音の能力って……」
その天音は、右手の人差し指のアーマーリングを傷口に近づけていた。
すると、そのアーマーリングから、うっすらと光るピンクの糸状のものが伸び、見る見るうちに傷口を縫い合わせていく。
「………糸の方は全く痛くないな」
「へえ……すげー」
「よし、左手も見せて」
左手の方も、滞りなく縫い合わされた。
あっという間に応急処置完了。
「攻撃には使えなさそうだが………色々と応用が効きそうだな」
「……ねえ、自分で言っておいてなんだけど……縫い合わせただけで応急処置になるのかな?」
「………大丈夫だろ」
「「適当……」」
いいのかそれで。
本当に大丈夫なのか?
「とにかく、さっさと雄生に頼んだ方がいいな」
「………なんで最初から呼ばなかった?」
「スマン、考える余裕無かった……」
言い訳しながら、雄生の携帯に繋ぐ。
だが、電話に出たのは、なにやらテンパった様子の女の子だった。
『え、えーっと……こちら諏訪間の携帯で、あの……」
「……その声は叶恵か。雄生はどうした?」
『?……あ、カムイさん⁉︎ 大変です! 諏訪間が気絶しました!」
「ハア⁉︎」
なんすかその超展開⁉︎
「落ち着け! 何があったか説明しろ!」
『えーっと、リベンジするって言ってまた昨日の……』
「……うん、理解した」
『え?』
そういやそんな事言ってたな……。
で、無理して食って、昨日の俺よろしくぶっ倒れたわけか。
「俺等そっち行くから、ちょっと待っててくれ」
そう言って電話を切ると、天音が心配そうな顔をしていた。
「諏訪間君たち、なにかあったの?」
「いや、心配しなくていい。とりあえず付いて来てくれ」
「? うん」
「向井………そのまま勾原を引きずっていくのはまずくないか?」
「! そうだよ!」
あ、本当だ。
「ブレード使い以外が見たら………変な見世物になるぞ」
「そうだな。しゃーねえから起こすか」
「そっち⁉︎」
そんなこんなで、今回もなんとか全員無事で乗り切る事が出来た。
無事じゃなかったのは、偽造と雄生と、俺たちの財布事情くらいだった。
……アイツ等が平らげた分、殆ど俺たちが払いましたとさ。




