第19話 「VS望川巴③」
見児の話が終わった。
3分程に要約されたその話は、正確に要点をまとめ上げらており、俺からすればとても分かり易かった。
しかし、響人も天音も、首を捻って唸っている。
理由は歴然だ。
その内容が、非常識で構成されているから。
少し間をおいて、響人が口を開いた。
「あの強盗事件………ブレードとかいう能力………鏡の世界………これら全てが繋がっている、か。突飛な話だな」
「しかもさっきの娘も事件を起こしてるって……本当にそんな事が?」
「君達の気持ちも分かる。けれどもこれは本当の事だよ」
2人共確認する様に俺に目線を送ってきたので、「本当だ」という風に頷いた。
「………よし、俺にも使えるようにしてくれ」
「ほほう。踏み込むんだ」
響人は、相変わらず表情1つ変えない。
見児の方も、いつも通り拒否せずに、むしろ歓迎するスタンスだった。
「本当にいいのか……?」
「お前は今から勾原を助けに行くんだろ? 人数は多い方がいいし、急いだ方がいい。それに………」
響人は更に何か言おうとしたが、言い淀んで目を逸らした。
「………なんでもない」
「……そうか」
「?………なんか嬉しそうだな。場違いじゃないか?」
「そんなんじゃねーよ」
お前も向こうも自覚あったのか分かんねーけど、逸らした目線の先、天音の方だったからついな。
「うん……そうだよね。急がないと! 私も力になるよ。元はと言えば、私のせいで勾原君は……。
「無理に関わる事はねーぞ? 本当に……」
「やめとけ向井。天音は意外に頑固だぞ」
「えぇ……そうかな」
「そうだ………責任感じた時の天音は絶対に引かない」
「うーん、それでも響人ほどじゃないと思うけど」
「どうだろうな」
まあ要するに、2人とも引く気はないって事だ。
「悪い。巻き込んじまって」
「別にお前のせいじゃない」
「そうだよ。私が近道であんな所通らなかったら、勾原君は負けなかったかもしれないし……」
天音も響人もいい奴だ。
俺って、案外恵まれてるのかもな。
「それじゃあ、話はまとまったかい?」
「ああ。手っ取り早く頼む」
「お願い」
「うん。すぐに『案内』しよう」
*
「「…………」」
「おう……」
響人はよく分からないが、天音はキョトンとした表情で鏡から出てきた。
「どうだった?」
「………初体験だった」
「だろうな」
既に経験済みだったら怖えよ。
どんだけ経験豊富なんだ。
こんな響人を尻目に、天音はいまだ固まったままだ。
「オイ、大丈夫か?」
「う、うん。流石にびっくりしたけど……ダイジョウブ……」
うん、これが普通の反応だ。
響人は肝が座りすぎてる。
いや、もはやそういう次元じゃない様な気もするが……。
「もう急いだ方がいいだろ。望川とやらがどんな奴か知らんが、多分ロクな奴じゃないんだろ?」
「まあな……お前等は大丈夫か?」
「なる様にはなるだろ」
「スー……ハー……うん!」
響人よ、お前も深呼吸の1つでもやっとけ。
落ち着きすぎて気持ち悪いわ。
「よし……」
右手にツクヨミを呼び出すと、天音が目を丸くした。
「うわあ……これがブレード? さっきの戦いでもこれが……」
「もうなに見ても驚かない自信あるぞ、俺は」
お前今までも驚いて……
いや、もうこれ以上はつっこまない様にしよう。
コイツが相手だと、なんか疲れ方が異常だ。
「響人、今までも驚いてなくない?」
もう天音に任せよう。
それ以外は俺が担当するから。
「じゃあ、行くぞ!」
「ああ」
「うん!」
*
俺達3人は、現在天音が見た現場にいる。
当然というかなんというか、既にそこには誰もいない。
「この辺になにか手掛かりはないか……」
「なあ向井………望川について知ってる事ないか? 何か分かるかもしれん」
「えーと……家が神社って事くらいしか」
「神社か………」
今更だけど、神社のとこの奴があんな事していいのかよ。
普通でもダメだけど。
「ねえ、向井君」
「なんか見つけたか?」
「あれ……」
天音の指差した方から、何人かの男が歩いて来ていた。
こんな所をうろついてるだけで既に怪しいが、それだけじゃない。
全員が鉄パイプを持っている。
「なあ、こいつらだと思うか?」
「こんなトコ普通の奴通らねえよ……間違いないだろ」
「じゃあ、さっさとやっちまおうぜ」
何人かがボソボソと言いあっていたかと思えば、そのうち1人がこちらに駆け出した。
「っ⁉︎ なんだお前!」
「ある人に言われたんだよ。ここをうろつく奴が現れたら、迷わず相手しといてくれってな」
アイツの差し金か⁉︎
けど鉄パイプから察するに、ブレード使いではなさそうだ。
だったら……
「お前なんか、相手じゃねーよ」
殺傷力を抑え、向かって来た奴をツクヨミで袈裟斬りにした。
ソイツはなにが起きたか分からない様子のまま、その場で失神した。
……改めて思うが、ブレードは凄い。
剣術どころかまともに喧嘩もした事ない俺が、こんなにも安々と、自分の一部の様に操れる。
更に、相手に1滴の血も流させずに行動不能に出来る。
「なんだ? 野郎今なにした?」
「ここからじゃよく見えなかったが……」
一瞬で1人がやられ、敵は怯みまくりだ。
このまま突破したい所だが、1つ問題点が。
ここ、凄く日当たりが悪い……。
夜だったり曇りだったり、とにかく影が出来なければ、俺に出来る事はかなり限られてくる。
使える状況が限られてるのが痛い……。
常に自分をライトで照らす訳にもいかねーし。
「向井君! 一斉に来た!」
「マジかよ⁉︎」
1人なら問題ないが、この場で多対一は無理だ!
その上2人を庇いながらとなると……
「「どわぁ!?」」
突如、謎の物体が発射され、連中は見事に吹き飛ばされた。
……なんだ今の?
背後から飛んで来たそれは、枠組みだけの平らな半円に3枚の刃が着いている。
変わった形のこの物体は、そのまま空中に漂っている。
「ふうん………凄いな。手足の様に動かせる」
そう言う響人の方を振り向くと、左手にそれと同型の物を握っていた。
「お前のブレード、二刀流……? ていうか今なにした?」
「片方を飛ばした………俺の思い通りに動かせるらしい」
「……順応速っ‼︎」
思わず突っ込んでしまった。
もうやめとこうと思ってたのに。
「そうか………? こんなもんだろ」
「お前何者だよ。俺なんて初めて使える様になった日は一睡も出来なかったぞ…」
「なんだそれ位………俺なんか基本的にいつも寝不足だ」
「それはフォロー? 皮肉? はたまた自虐?」
「………全部だ」
「全部⁉︎」
……まあ、響人が只者じゃないというのが再確認できた。
「1人起きた!」
「なに⁉︎」
気付いた時には、その1人は、天音の方へ掴みかかろうとしていた。
「天音! 避けろ!」
「え? ど、どうすれば…」
響人と違って、天音は至って普通の少女だ。
普通の奴は、そんな迅速に対応出来ない。
かと言って、ここからじゃ……!
その時、向こうで浮いていた響人のブレードが、切っ先をその男に向けて突進した。
背後に攻撃をくらったその男は、今度こそぶっ倒れた。
「大丈夫か?」
「うん……ありがと響人」
「お前……本当は俺よりブレード使い歴長いんじゃねーの?」
素でそう思えてくる適応力だ。
「ごめん。私何も出来なかった……」
「いや、そう言うなよ。お前が謝る事ないぞ」
「そうだ。これは俺が凄いだけだ」
「悪い、お前ちょっと黙ってて」
なんか、響人が口を開く度、シリアスがコミカルに変わってる気がする。
全然そんな余裕ないんだが。
「ねえ、その……ブレードってどうやったら出せるの? コツみたいなのってある?」
「コツか。なんつーかこう……『出ろ!』って念じるというか、『アイツを倒す!』って強く思うのが分かりやすいか?」
「……うん、私頑張るよ」
天音は笑ってそう言うが、俺や他の奴等よりも余裕がないと思う。
偽造のように軽く流せないだろうし、雄生のように強いメンタルを持ってないだろうし、叶恵のように常に非現実が隣にいたわけでもない。
つまるところ、天音は俺達の中で最も普通だ。
響人と似たような事言うと、周りが凄いだけだ。
「天音………また責任感じてないか?」
唐突に響人がそう言った。
天音は少しビクッとして、少し俯いた。
「ううん、そんな事」
「嘘だな………見え見えだ」
「……だって」
「今は無理でも最後には出来る。………だから責任なんか感じるな」
「なんでそんな事言い切れるの?」
「いつもそうだからだ………昔から」
「…………」
天音はしばらく黙ってたかと思うと、両頬を手でパチンと叩いて、「よし!」と言って顔をあげた。
「ごめん、もう大丈夫!」
「次落ち込んだら、俺と向井になんか奢りな」
「分かった……って向井君も⁉︎」
「悪いな……そん時はよろしく」
「えぇー……」
幼馴染で、相手の事をよく知ってるから、あんな事が言えるんだろう。
なんだかんだ、やっぱり響人もいい奴だ。
「ところで向井、ちょっといいか?」
「なんだ?」
「望川の家は神社って言ったな。それで試しに、この近くにある神社を調べてみたんだが………」
「……どうだった?」
「この辺に神社は1つしかない………そしてその場所は、ここを真っ直ぐ突っ切ったところだ」
「‼︎」
それってつまり……。
「そこにソイツがいると決まったわけじゃないが………他にアテもない。まずここを目指すべきだと思うが、お前はどう思う?」
「賛成だ」
多分間違いないだろう。
そうでなければ、わざわざあんな連中を、こんな場所に差し向けてくる筈がない。
いくら見られたといっても、放っておけば手掛かりは残らないだろう。
大方、他にも伏兵がいて、消耗したところを楽に倒そうとしてんのか……。
てか、この辺に神社あったんですね。
全然知りませんでした。
「じゃあ目的地はその神社だ」
「またあんな奴等が出たらどうする?」
「気絶させる程度に倒す。怪我させるのは駄目だ」
「まあそうだろうな………了解だ」
響人は真剣な雰囲気だ。
天音もあれから顔つきが変わった。
ブレード使えるようになるまでは、俺と響人でフォローしあって進んでいくか。
「急ぐぞ!」
「分かってる」
「うん!」
3人同時に、神社へと走り出した。




