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第18話 「VS望川巴②」

「フフフ、苦しそうですわね……なんと言っても、自分で自分の首を絞めてるんですから!」


 ヤバイ……!

 これは本気でヤバイ‼︎


 うっかりしてた……相手を軽く見てたのはこっちも一緒だった!


「こういうのは如何ですか?」

「カハッ! なん……」


 首を絞める左手が離れたかと思うと、今度は僕の顔面を思い切り殴りつけた。


「うぐ!」


 思わず叫び声が漏れ出た。

 左拳に血が着いている。

 今ので鼻血が出たらしい。


「フフフ、なんとも滑稽な絵面ですわ!」


 再び襲いかかって来る左拳。

 なんとか頭を右に傾けて躱そうとする。


 が、それは顔面を狙ったわけじゃなかった。

 拳が空を切る直前にいきなり引き戻され、そしてそのまま肘打ちが、ガラ空きの腹に打ち込まれた。


「ぐっは……‼︎」

「ああ……愉快ですわ!」


 本気の肘打ちを腹に受け、胃液がこみ上げそうになる。


 言うことを聞かない左手は、更に僕への追撃を続けようとしている。


「これ以上……勝手に動くなあ!」


 握られた自分の左腕へと、僕はブレードを振り下ろした。


「なっ……⁉︎ なにをしているのですか⁉︎」

「別に……ヤケになって切り落とそうってわけじゃないさ。要は動かなくすればいいんでしょ?」

「動かなくするですって? 一体……」


 巴ちゃんにはどういう事か分からなかったみたいだけど、すぐに異変に気付いたらしい。


「⁉︎ どういう事ですの⁉︎ 本当に動かせない! これはまるで……」

「何かが腕の動きを阻害している様だ、かな?」

「っ……!」


 さっきのは、左手を切ろうとしたんじゃない。

 狙いは制服の袖の部分だ。

 巴ちゃんのあのブレードが、人の切った部位を操る能力だとしても、その部位が動かせなければ意味がない。


 だから、制服の袖を鉄に変えた。

 重いし、無理やり動かそうとされると若干痛いけど、顔とか殴られるよりマシって事で。


「本当、得体の知れない能力ですわね。今まで会った中で2番目という所でしょうか」

「ふうん、2番か。1番って誰だろ?」

「フフフ、わたくしに勝てたら教えてあげてもよろしくてよ?」


 その辺は別に興味ないけど……多分見児君あたりと予想する。


「もう1撃も食らわないよ。つまりは斬られなきゃいいんだ」

「舐められたものですわね。気に入りませんわ」


 巴ちゃんの僕を見る目つきは、見下したものじゃなくなっていた。

 単純に、苛立ちの目だ。


「そんな睨んだって仕方ないよ! そんじゃまあ」

「勾原君? なにしてるの?」

「⁉︎」


 切りかかろうとした僕の背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。

 なんで……?

 ここにいる……⁉︎


「天音ちゃ……」

「あらあら…………フフフ……」


 不敵な笑みを浮かべた巴ちゃんは、なんの迷いもなく、標的を僕から変更した。

 さっきの様に、俊敏な動きで天音ちゃんの方へ駆け出し、僕の横を抜けていった。


「っ! させるか!」

「フフフ……引っかかりましたわね!」


 読まれた⁉︎


 振り返り様のなぎ払いをあっさり躱され、右足を攻撃された。


「しまった……!」


 切られた右足に力が入らず、地面に倒れこむ。

 右足と左腕が封じられ、立つことも出来なくなった。


「う……クッソ!」

「しばらくそこで這いつくばってなさい。そしてよく見なさい。フフフ……」


 巴ちゃんは僕にそう言い放ち、天音ちゃんの方へと向き直した。


「待て! その娘は関係ない!」

「とはいえ、見られてしまっては仕方ありません。なにが起きてるか分からないでしょうが、念のためですわ」

「え……? なにこれ⁉︎ 勾原君⁉︎」


 なんて事だ……!

 まさかこんな状況になるなんて!


「心配いりませんわ。すぐに済みますから」

「待ちなよ……まだ右手は動かせる!」


 必死にブレードを持ち上げ、巴ちゃんの足元に振り下ろす。

 巴ちゃんはそれに反応して、ヒラリと足場を移した。


「また足場を狙おうなんて。本当に舐められてますわね」

「いやいや……舐めちゃいないし、狙い通りさ。これでいい」


 もしこれが、触れた場所をピンポイントで変化させる能力なら、打つ手なしだったかも知れない。

 でも今の感覚だと……大丈夫そうかな。

 取り敢えず、天音ちゃんだけ(・・)は逃がせる。


「ねえ天音ちゃん……まずはここから離れて、命君か雄生君か叶恵ちゃんか……誰でもいいから、呼んできてくれるかな?」

「え……」

「なにを言ってますの? 逃がすとお思いで? それに狙い通りって……」


 巴ちゃんがそう言いかけた時、彼女の周辺の足場にかけた能力が発動した。


「うっ⁉︎」


 足を滑らせた巴ちゃんは、思わず壁に手をかけ体を支える。

 今、彼女が立っている一面は氷だ。普通に立つことも難しいし、素早く動いて天音ちゃんを追うなんて出来るわけない。


「さあ、早く行って」


 天音ちゃんは怯えた表情のまま、少し後ずさりした後、その場を走って後にした。

 笑いかけたつもりだったけど……やっぱ怖がらせちゃったな。


「貴方は……どこまでわたくしを馬鹿にするのですか⁉︎」

「馬鹿にしてないよ。僕の方が少し上手なだけさ」


 おぼつかない足取りながら僕の方を向いた巴ちゃんは、ブレードを振り上げた。







「ハア……ハア……!」


 私は死に物狂いで走った。

 途中で人とぶつかったかもしれないけど、その事に思考を巡らす余裕すら無かった。


 どういう事……?

 あの時、勾原君に何が起こってたの……?


「どうしよう、どうしよう……!」


 理解出来ない状況に、焦燥感が溢れてくる。

 とにかく、勾原君が危機に陥っているのは確か。


 足を止めて、膝に手をつき肩で息をしながら、なんとか考えを整理してみる。


 まず警察とかに連絡した方がいいかな?

 いや、でもさっき勾原君は、向井君達を読んでくれって……。

 なんでだろう……なにかそういう事情があるの?

 よく分からないけど、向井君を呼ぼうにも携帯の番号知らないし……。


 ……とりあえず、響人に見かけなかったか聞いてみよう。







「なるほど……つまりお前は、銃弾を日本刀で切ることが出来ても、結局銃を使ってる方が勝つと?」

「だってそうだろう………現実で発射された銃弾を完全に見切って躱したり切ったりするのは難しい筈だ」

「いや、決めつけは良くねーぞ。こういう風に考えたら……」


 下校中、俺と響人の『銃と日本刀がリアルに戦ったらどっちが勝つか』という議論は、これでもかという位に白熱していた。

 響人は銃を推しているが、曲がりなりにも日本刀使いでもある俺は、そこで引き下がるわけにはいかない。


「……という事になるんじゃねえか?」

「まあなくはないかもしれないが………」


 なおも白熱する議論の最中、突如この場に不釣り合いな不協和音が流れ出した。


「……オイ、お前の鞄からなんかなってるぞ」

「悪い、天音から電話だ」

「なんつー着メロだよ!」


 俺のツッコミに目もくれず、響人は無表情のまま電話に出た。


「もしもし………ん? 何を慌ててる?………見かけるもなにも、向井なら俺の横にいるが………」


 俺に用があるのか?

 別に心当たりは無いんだが……。


「お前に用があるらしい。変わるぞ」

「おう……」


 差し出された携帯を受け取り、耳に当てると、息を切らした天音の声が聞こえてきた。


「もしもし? 俺に用ってなんだ?」

『む……向井君……! 勾原君が……! えっと……』

「偽造? アイツがどうかした…」

『髪が白い娘となにかあったみたいで……! 私には何がなんだか……! 警察呼ぼうかとも思ったけど、勾原君が向井君達の誰かを呼んで欲しいって……!』

「え……?」


 髪が白い娘?

 ソイツと偽造との間になにかがあった……?

 警察じゃなく、俺や雄生達を呼べ……?


「どこでだ……? それどこで見たんだ⁉︎」

『えっと……路地裏の所で……』


 路地裏っていうと……あそこしか無えな。

 本当に、なんであそこじゃロクな事が起きねえんだ!


「クッソ‼︎」


 切った電話を響人に返し、急いでその路地裏へ向かった。

 どういういきさつか分からんが、天音に助けを求める程に追い詰められた状況らしい。


 アイツ、俺が行く前にやられてねえだろうな⁉︎


 路地裏の前まで来たが、騒ぎが起きている様子は無い。

 もっと奥の入り組んだ場所で戦っているのか、もしくは鏡の中か……。


 どっちにしても、行くしかないか。

 進もうとすると、響人に声をかけられた。


「おい………いきなりどうしたんだ。なにかあったのか?」

「ああ……? ついて来てたのか。悪りー、聞かねーでくれ」

「いや………聞く。さっき天音になにを言われた?………何故そんなに焦ってる?」

「それは……」

「………天音の身になにかあったんじゃ無いだろうな?」


 俺が言い淀んでるのを見て、響人は真剣な口調で言う。


「いや、そうじゃねーんだ」

「だったらなにが………」

「本当に、そうじゃない?」


 路地裏の方から、足音と共に聞き覚えのある声がした。

 前会った時から1週間も経っていない筈が、今までに色々ありすぎたせいか、随分久し振りに聞いた気がする。


 神出鬼没で、いわば大元の原因とも言えるその男……雲村見児が、俺と響人の前に現れた。


「……よう、久し振りだな」

「いや、実際そんなにも経ってなっ!」


 見児が最後まで言い終わるのを聞かず、俺は奴の頭に拳骨を見舞った。


「なにするんだいきなり!」

「うっせー馬鹿! 次会ったら殴るって決めてたんだよ!」


 頭を押さえながら訴える見児をバッサリ切り捨てた後、今度は響人が口を開いた。


「………さっきのはどういう意味だ?」

「ん? ああ、あれね」


 見児は頭を押さえるのをやめ、響人に向き直すり


「いやさ、あの娘はここで起きた事を見ちゃったわけだよ。それでも安全と言い切れるのかな〜って」

「………ようするに、天音は見てはいけないものを見て、その口封じになにかされる可能性がある、ということか?」

「いやあ、ご名答だよ! 理解が速いなあ!」


 見児は相変わらずな雰囲気だが、響人の方はそうじゃ無かった。

 明らかにオーラが変わっていた。


「………それは許さない」

「オ、オイ響人?」

「向井………もう一度聞くぞ。天音はなにを見たんだ?………お前は何に関わってる?」

「……」


 響人のこの雰囲気には、どこか見覚えがある。

 なんというか、雄生のそれによく似ていた。

 ソイツを絶対に許さない、という堅い意思が感じられる。


 多分、もう何言っても無駄だ。

 コイツは意地でも、この事に関わってくる。


「向井君……響人も? それと……誰?」

「天音⁉︎ 戻って来たのか?」

「うん……どうしても頭から離れなくて。それで結局、勾原君は⁉︎ 向井君は、さっきここでなにがあったか思い当たる事があるの⁉︎」

「まあまあ、皆一旦落ち着いて。詳しい事は……ボクが話そうか」


 見児は、雄生の時と同様、2人を巻き込む気満々の様子だった。


「俺は詳しく聞くが………天音もか?」

「ボクは別にどっちでもいいんだけど、君達はどう思う?」

「俺は……あんまり関わってほしくはねーけど、言っても聞かないだろ、お前」

「ああ………それとやっぱり、天音も聞いた方がいい。さっきのが本当なら、もう関わったも同然って事だ。なにも知らずに危機に晒されるより………知って対策を建てるべきだ」

「……うん、私も聞く」


 結局、2人とも巻き込む形になってしまった。


 「さて、それでは2人とも、ご静聴願おうかな」

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