第17話 「VS望川巴①」
「ただいまー……」
「ウース」
「ん? 早かったね。降りたとこで鉢合わせたんでしょ」
「まあな……」
なんか、さっきの早とちりが急速に恥ずかしくなってきて、台詞がしりすぼみになってしまう。
「まあ、僕も来る途中ですれ違ってたし? そんな心配する様なことないと思ったんだけどねー?」
「……さ・き・に・言・え!」
おちゃらける偽造に右拳を叩き込もうとしたが、あっさりと受け止められた。
「なに⁉︎」
「フッ……見くびってもらっちゃ困るよ命君。そう何度も同じ攻撃をッフ⁉︎」
「そうか。なら違う方法で攻撃するまでだ」
「うわああ! 目が! 目が痛い!」
モロに目潰しを食らった偽造は、その場に崩れ落ちてのたうちまわる。
「さあ、メシにしようぜ。よかったら天音達もどうだ?」
「あ、うん。それはいいんだけど……この人は大丈夫なの?」
「心配すんな。よくある事だし」
「それはそれで大丈夫なの⁉︎」
ふうん、ツッコミを受けるってこんな感じか。
普段ツッコむ側だからか、なんか新鮮だな。
「なあ」
新しい感覚に浸っていると、いつの間にか梯子を降りていた響人が、俺に話しかけてきた。
「ん、なんだよ?」
「勾原偽造って………変な名前だよな」
「……なんで今、尚且つ俺に言う?」
「まずかったか?」
「別にまずくはねーけど……」
だってタイミングがな?
さっき名乗りあった時、本人に言えよっていう。
俺が対応に困っていると、天音が苦笑いしながら「なんかその……ごめんね?」と謝った。
「いや……なんかお互い大変だな」
「そうだね。えへへ……」
*
昼休みが終わって、更に2時間の苦行を終える事で、ようやく帰宅時間が訪れた。
偽造は用があるだかでさっさと帰ってしまい、俺は1人で下足へと向かっていた所、階段をくだる響人と遭遇した。
「よう。お前も帰りか?」
「まあな………天音が先に行ったから1人だ」
「別にそこまで聞いてねーよ」
「向井も1人か?」
「俺は雄生と叶恵と帰るつもりだ」
「………」
響人はなにも言わず、俺に視線を浴びせ続ける。
なんて言うかもう……勘弁してくれ!
思考の読めない奴が目で訴えてくること程怖い事ねーぞ⁉︎
頭を抱えて、なにが言いたいのか考える。
今の会話でそれっぽい事言ってたような……。
あ、もしかしてあれか?
1人で寂しいですよアピールか……?
「……お前も一緒に帰るか?」
「ぜひ頼む」
瞬間で快諾。
どうやら当たってたらしい。
そんなわけで、現在響人と並んで歩いている。
無言でいるのもなんか気まずいので、適当に話題を振ってみた。
「お前さ、小学生のころから天音と仲良いんだよな?」
「ああ………天音に聞いたのか」
「まあな」
そういえば、響人は天音の事をどう思ってんだ?
あっちは一目瞭然だったが、こっちはよく分からん奴だからな……。
気にはなるが、直接聞くのもなあ……。
「どうかしたか?」
「あ、いや、なんでもね」
そうこうしているうちに下足が近づいてきた。
そこには既に、雄生と叶恵が2人並んで立っていたが、なにやら様子がおかしい。
「何やってんだアイツ等」
「言い争ってる様に見えるが………」
確かにここから見ると、叶恵が相手を挑発して、雄生は言い返してるっぽい。
俺はとりあえず早足で2人に駆け寄り、仲裁に入った。
「オイ、なにケンカしてんだお前等?」
「命さん⁉︎ いや、別にケンカってわけじゃ……」
「聞いてくださいカムイさん! 諏訪間があのラーメンにリベンジしたいって言い出して」
「あのラーメンって……アレか?」
十中八九、例のサイケデリックラーメンのことだろう。
「あのままじゃ引き下がれないじゃないッスか‼︎ 昨日は結局葉隠がほとんどたいらげちまったし‼︎」
「は……? ちょっと待て。アレ叶恵が処理したのか?」
「普通に美味しかったです」
どんな味覚だ!
まさに鋼の胃袋……!
「なんであんなマズそうに食べるのか分かんないけど、無理なら私が食べてあげるって言ったのに」
「いや、無理なんかじゃねえ‼︎ 俺は漢として成し遂げてやる‼︎」
「だから〜。昨日無理だったのに、今日いきなり食べれる様になるわけないじゃない。私バカだけどそれ位分かるわよ?」
「やって見なきゃ分かんねえだろ‼︎ 男子3日会わざれば刮目して見よって言うだろ‼︎」
「?……3日も経ってないじゃない」
「そういう事を言ってんじゃねえよ俺は‼︎」
「えーと……じゃあどういう意味よ今の!」
そんな事で言い争ってたのか。
コイツ等って結構似たもの同士なのかな?
「というわけで命さん。俺今日はここで失礼します‼︎」
雄生はそう言い、走り去って行った。
「あ! ちょっと待ってよ! そもそもリベンジってどういう意味⁉︎」
叶恵も雄生の後を追って、残念な言葉を残して去って行った。
「………毎日が楽しそうだな、お前」
「褒め言葉として受け取っとくぜ」
その後俺は響人と共に、世間話をしながら帰路へつくのだった。
*
それは今朝、学校に着いたばかりの事。
その時僕は、昨日からの後遺症に悩まされながら命君と話していた。
例の集団に対して、今後どうするべきか、限定すれば、残り4人の内で唯一顔が割れている、巴ちゃんに関する事だ。
そんな矢先、彼女は現れた。
突然僕の背後に抱きついてきて、それに伴い2つの柔らかいものが背中に当たる。
それについてはありがとうと言いたい。
でも勿論、僕はそんな事を言いたいわけじゃあない。
彼女は目の保養なんて言って、命君を軽く挑発したかと思うと、あっさりと帰っていった。
なにをするでもなく……命君にはそう見えたと思う。
彼女が去ってから、自分の制服の胸ポケットにメモのようなものが入ってる事に気付いた。
多分……いや、間違いなくさっき巴ちゃんが入れたものだ。
命君がなにかを察したっぽかったので、一応「遊びでパンチラくれる? 普通」とごまかしておいたけど、逆に何かショックを与えちゃったかもね(笑)
メモの内容を要約すると、『放課後、指定された場所に1人で来い。もし誰かに知らせたり、姿を現さなければ、学校を襲撃する』といった感じだ。
モテる男は辛いね。
冗談はさておき。
もし僕がこの条件に反した時、本当に彼女が学校を標的にするのかは分からない。
もしその気があれば、昨日にでも事件は起こせたのに、何故かそうはしなかった。
かと言って、彼女が危険な思想を持っているのは明らかだ。
無視は出来ない。
命君も確実にそうするだろうし。
「この辺の筈なんだけど……」
指定場所は、命君と雄生君が最初に敵を倒した、あの路地裏だ。
命君が事件に巻き込まれた、全ての発端の場所とも言う。
人通りも少ないし、ここ程適した場所はそう無いだろう。
「フフフ、ちゃんと来てくれましたわね」
路地裏で歩を進めていると、日傘を持った巴ちゃんが待ち構えていた。
今いる場所は日陰だから、それをさしてはいないけど。
「女の子からの誘いだからね。頼まれたって誰も連れてこないさ」
「お上手ですわね……そういう所も気に入りましたわ」
なんて言ってるけど、彼女の目は相変わらず僕を見下している。
自分はあらゆる人物の上に位置している、とでも思っているんだろうか。
「で、用件は何かな? 告白でもしてくれるの?」
「フフフ。その他人を茶化すような態度……そこだけはいただけませんわ」
瞬間、巴ちゃんは日傘を手放し、代わりにブレードを両手で構えた。
矛にしては刃が長く、柄が短いそれの先端を僕に向ける。
「見ものですわ。貴方がわたくしの所有物になった時、その減らず口がどこまで続くか……」
彼女はそう言い、恍惚とした表情を浮かべた。
初対面の時から思ってたけど、この娘こっちのベクトルでもかなり危ないかも。
やられたらなにされるんだろ、僕……。
「つまり、僕を倒すために呼び出したって事でいいんだよね?」
巴ちゃんは返事をしなかった。
僕も彼女も、数秒間ピクリとも動かず、ただお互いを見つめ合う。
でもその静寂は、すぐに消え去った。
巴ちゃんが僕に向かって、ブレードを突き刺そうと駆け出す事で。
それに呼応する様に、僕は自分のブレード、ウカノミタマを右手に出現させる。
「そんな単純な攻撃が当たるとでも?」
相手もブレードによって身体能力が上がっているとしても、避けられない攻撃じゃない。
その突きを右側に回り込んで躱し、すかさずカウンターを打ち込む。
「フフフ。貴方こそ、いささか単純ではなくて?」
胴への横切りは、柄を用いて難なく防御された。
けどそれ位は想定内。
防御され、受け止められたままのブレードを、僕は引き戻す。
僕のブレードは、先端が鉤爪上になっている。
つまりその状態でブレードを引けば、鉤爪を利用しての奇襲が……
「っ!」
「惜しい……」
決まらなかった。
僕の意図に気付いたらしく、彼女はギリギリのところで身をよじる様にして躱した。
巴ちゃんはむいている方から後ずさりし、互いにさっきと逆の立ち位置になった。
「そんじゃ、次は僕から行こうか!」
攻めに転じる。
向かって右側から袈裟斬りを繰り出すが、今度はバックステップで躱された。
鉤爪を警戒しての行動だろう。
「おっとと……」
空振った攻撃は地面に当たり、僕はバランスを崩してしまった、かのように見せかける。
普通なら、ここですかさず攻撃してくるものだけど……。
「貰いましたわ!」
予想通り、巴ちゃんは僕に突きを繰り出して来ていた。
見下してくれてるおかげで、なんともまあやりやすいよ。
僕は素早く石を拾い上げた。
片手で持てるが、頭に直撃しようものならただじゃ済まない大きさだ。
それを、巴ちゃんめがけて投げつけた。
「なっ⁉︎」
その状態からでは、防御は間に合わない。
動揺して僕に攻撃は届かず、逆に投げられた石が巴ちゃんの頭に命中した。
が、巴ちゃんは怪我を負う事は無かった。
命中はした。
けれど、それは『パスン』という軽い音を立てただけ。
それもそのはず、あれはもう、石であって石じゃない。
「貰ったのはこっちだよ!」
今のは確実に攻撃を通すための陽動みたいなものさ。
そのかいあって、隙だらけだ。
「うっく……!」
さっきと同じモーションの袈裟斬りは、見事に命中した。
だが、戦闘不能には至らず、苦悶の表情でこちらを睨みつけて来た。
まだ殺傷力の匙加減がうまくいかないな。
「昨日といい、今の石といい……貴方の能力は一体……?」
「教えてあげると思う?」
皮肉たっぷりにそう言うと、彼女は更に憎らしげに睨みつける。
僕の能力は、ブレードで『触れた物』を、『別の物』に変えること。
さっきのは、空振ったと見せかけた斬撃を石に当て、発砲スチロールに変えただけだ。
あの姿勢であの大きさの石を投げるのは流石に無理だし、そもそもそんな重傷を与える気もない。
その点、発砲スチロールは軽いし、見た目は普通の石と変わらないから、隙をつくるには十分さ。
「フフフ……なんて屈辱でしょう……わたくしが2度もしてやられるなんて!」
彼女の僕を見る目が、憎悪一色に染まっていた。
咄嗟に身構えるも、彼女は一瞬で身の前まで迫って来た。
「しまっ……」
左手に食らった。
少し油断したかな……。
そう思うや否や、切られた左手が勝手に動き、僕の首を締め出した。
「がっ……⁉︎ これは……!」
体の自由を奪い、そして支配して操る…々。
彼女の術中に落ちてしまった。




